虹色仮面・表
巻き込まれ型の主人公って、現実では不幸だと思います。
数年前から世間に、怪物や怪人が現れるようになった。
ネットでは、その時期に派遣されていた南極探険隊が山脈を見つけ、そこにあった遺跡の封印を解いたからだとか、セイシンとか言う星の並びがそろったからだとか言われていたけど、そこを究明したところで怪物達がいなくなる訳じゃないから、詳しく調べてもいないし覚えてもいない。
重要なのは、今現在、世間には怪物や怪人が蔓延っており、今まさに、自分が追われていることだ。
「モノローグなんて、考えてる暇ねえし!」
ぎぎぎぎぎぎぎいぃいいぃぃぃいいぃぃいぃ!
後ろから迫る怪物が、ガラスを引っ掻きまわすような鳴き声を上げながら迫ってくる。
怪物の体躯は象ほどの大きさで、羽が生えていて空も飛べる使用だ。逃げ切れる道理がない。
さっきのモノローグは走馬灯の代わりか…逃げ切れないことが解っているのか、どこか冷静な頭がいらん意見を訴えてくる。
だが、万に一つにかけ、前に進み続ける。
ぎぎぎいぃいいいぃぃぃぃいぃいぃ!
奴の声が、まさに頭上から響き、頭の中が絶望に染まる。
生きようと抵抗を続けていた体も、もはや諦めたようで、僕の体はその場にへたりこみ、動けなくなってしまった。
ただ、その瞬間だけは正解だったらしい。少し前まで、僕の右腕があった空間でガチンッ!と堅いものを打ち鳴らす音が響いたからだ。
驚き、そちらを見ると、馬のような頭についた無機質な目と目が合う。
僕の直ぐ側を通り過ぎた巨体は、まだ僕を諦めていないらしく、数メートル離れた位置に降りると、視線をこちらに動かし、悠然と僕に向かって歩いてくる。
ぎぎぎいぃぃいぃいいぃぃ…
奴は僕をなぶるように一歩ずつ距離を縮めてく
る。
僕の頭は生きることを諦めず、打開策を考えるが、体は言うことを効かずピクリともしない。いっそ、頭も生きることを諦めて、気絶でもできれば楽なのに。
奴の頭が僕に向かって降りてくる…。
もう駄目かと目を瞑ると、柔らかく重いものを殴り付ける音、そんなものがあると想像もしなかった奴の苦悶の声、少し離れた場所でどうっと重いものが倒れる音が連続して響いた。
恐る恐る目を開けると、僕を守るように立つ人影が目に入った。
―その人影は、緑の煌めくスーツを着ている
―反射により、虹色に見える装甲とメット
―どこからともなく現れ、怪物に襲われる人々を助けてまわる
―ヒーローのような働きとその見た目から人呼んで…
「虹色仮面!」
昭和臭がするのは気のせいに違いない。
昭和ヒーローでも、平成ヒーローでも、来てくれたからにはもう安心だ。
僕をさっきまで追い詰めていた怪物は、虹色仮面が手にした剣で少しずつ傷を増やしていく。
虹色仮面がこのまま勝つものと安心してぼんやりと見ていると、周りの角から汚い色をした煙が立ち上がり、煙の中から四つ足の怪物が現れる。
じゅるらぁぁぁぁ!
現れた四つ足は一匹や二匹ではない。
そいつらが次々と、鋭い舌を伸ばし、その牙で襲いかかり、毒を持つ鈍い爪で切りかかる。
虹色仮面は手にした剣で切り落とし、蹴り飛ばして凌いでいくが、現れては数を増やしていく四つ足の前では多勢に無勢。そこに、傷を負いながらも動き出した初めの怪物も加わっては、いかにヒーローと言えど、限界だ。
四つ足に噛みつかれ、馬のような頭に弾き飛ばされ、僕の目の前まで転がってきた。
その場から逃げることもできていなかった僕の耳に虹色仮面の声らしき、くぐもった声が届く。
「もうやだ…もうや『ザッ!戦闘モード維持。ザザッ!現状デハ敗北ノ可能性濃厚。』ヒッ!ヤメッ『ザッ!モードチェンジ貪食形態・グラフォーム』」
その体に二つの意思があるような言葉。一瞬だが僕には、虹色仮面の向こうに居る怪物達と虹色仮面が同じ存在に感じられた。
「ぁぁぁぁああああああああ!!!」
虹色仮面が叫び声をあげると、今まで一風変わったライダースーツ位の地味な見た目が、一度溶けるようにして変わっていく。
『…リ…リ…テケリ・リ、テケリ・リ…』
起動音なのだろうか、妙な音がなり、形が安定していく。
ヘルメットの上には、何本もの10㎝前後の触手のような細い突起…と言うか、触手だ。微妙に伸縮してるし、うねうね動いている。
胴体には大きな変化は無いが、眼のような構造体が発生しては消えていく。背中側も同様だ。
肩も含めた腕間接からは、ヘルメットと同じような触手が規則性なく生えている。
極めつけは足だ。膝から下が広がっており、足先は三本の大きな指の様な構造になっていて、地面を掴むようにグネグネと蠢いている。
怪物の様になってしまったヒーローは、力強く立ち上がると、怪物たちに向き直り、一気に駆け出す。
先程までヒーローを苦しめていた針のような舌を触手で受け止め、噛みつこうと飛び掛かってきた四つ足を切り伏せ、毒の爪で切りかかる奴は足で掴み引き倒し踏み潰す。
馬のような頭を持つ象のサイズの怪物は、手から放った粘液の様な波動で、その半身を消し飛ばした。
まさに、一騎当千。まさに、無双。
その姿は、ヒーローというよりは怪物に近いが、空想の世界のライダーたちも初めの頃は怪人と同じ出身だったはずだ。怪物と間違えるのも仕方ないことなのかもしれない。
つらつらと現実逃避していたところ、事態は収束したらしい。
怪物たちの残骸は溶け始め、玉虫色の粘液に変わっていく。その中心で動きを止めていた虹色仮面がこちらを振り返り、変身も解かずに僕に向かってくる。
『…リ…』
謎のヒーローと触れあえてしまうのだろうか。
『…テケ…リ…』
正体とか解ってしまうのだろうか。ワクワクする。
『…テケリ…現…たい…2…は…』
虹色仮面が未だに腰を抜かしている僕と目線を合わせるように跪く。
『テケリ・リ・現行個体番号26番ハ、90%以上ガ我々トナッタ。』
「へ?」
『テケリ・リ・早急ニ新規ノ個体ニ乗リ換エル必要有。』
『目前ノ個体ヲ利用シ引キきキ活動ヲ行ウ。』
『設定完了。以降、同個体ヲ個体番号27番ト呼称。』
虹色仮面のスーツが玉虫色の粘液状に溶け、僕の鼻と口から入り込んでくる。
薄れ行く意識の中、虹色仮面だった粘液がいた場所に何も残っていないことに気付いてしまった。
裏に続きます。




