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クトゥルフ短編集  作者: 異次元からの猫
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画家

今回は長めです。

 私の名前は鶴田嘴男と言う。

 職業は画家。と言っても、自分の意思で絵を描いているわけではない。幼い頃から、体が勝手に動き、絵を描きあげてしまうのだ。

 それが、偶然にも売れただけの男だ。


 しかし、幼い頃はごく簡単な物しか描けなかった。体が勝手に動くことは変わりないのだが、描いたものは真円や一メートルぴったりの直線などだった。

 無論、短い時間で描いたため、自分の意思で描いたと考えていたし、小学校の図工の時間だったため、特に違和感を覚えていなかった。


 おかしいと感じ始めたのは高校の頃からだ。

 それまでも、定期試験の解答用紙に絵を描くことはあったが、解答も終わり、時間が余ったときに限られていた。

 しかしある時、裏面で配られた解答用紙に試験開始前から絵を描き始め、試験時間が終わっても描き続けていたことがあった。自分では、止めようと考えているにも関わらず、体の自由が効かなかったのだ。

 幸い…と言って良いのか解らないが、先生に声をかけられる頃には絵を描き終え、友人たちに気味悪がられることはなかった。


 高校を卒業してからは、大学には行かず家にこもった。…行かずと言うよりは、行けずだ。

 その頃には、描くものは大きく、精密になり、描き始めると何時間もかかるものばかりだった。しかも、時と場所を選ばず、急に描き始めてしまうのだ。なので、外出出来なくなってしまったのだ。

 これまた、幸いと言って良いのか解らないが、画材に関しては悩む必要がなかった。私の葛藤など知らない両親が、画材を買ってきてくれたからだ。それを拒否しようとすると、胸が苦しくなり、心臓の鼓動もままならなくなる。…拒否はできないのだ。


 それでも良かった。

 絵を描くことは好きだったし、絵を評価してくれる人も、少なからず居たからだ。ならば、自分の体に任せて絵を描く人生も、楽で良いか。などと、呑気に考えていたのだ。

 最近までは。


 二十歳に近付くにつれ、自分の描く絵に禍々しい気配を感じるようになった。色の配置、線の走り方などから、絵全体の構成、何か解らないモチーフまで。その全てが、私達の住む世界全てを嘲り、冒涜し、汚している。そんな気配を感じるのだ。


 しかし、体が勝手に絵を描いてしまう。止めることはできない。

 絵を描かないために、自殺までする勇気もない。


 出来上がる絵は、日に日に禍々しさを増していく。さらに精密に、さらに巨大に、さらに冒涜的に。


 ふと気づく。見覚えのある絵が、今描き終わった絵に入っているのだ。

 それは、高校の試験の解答用紙裏に描いた絵だった。それに気づくと、今まで描いた他の絵も見つけることが出来た。


 恐ろしい妄想が浮かんでしまう。


 私は幼い頃から、本当に操られていたのだ。

 そして、私を操る相手は、その精度を上げるために、私が小さな頃から少しずつ練習していたのだ。目的とする絵を描かせるために。

 そして、昔の絵を辿っていくと、絵が完成に近づいてきていることが解る。


 私はこの絵を完成させないために、自殺するべきだろうか…。

 今では絵を描いている時に、腐臭さえ漂う…


(鶴田氏にインタビューをした記者のレコーダーより)

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