表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/81

77 初日

 交流のための交換一日目。

 騎士クラスは魔法クラスに比べ実習や基礎体力作りの時間が多く、その日も午前の授業は基礎訓練となっていた。


「なあ、エミリオが一緒にいる生徒は……」


 エミリオに案内されつつやってきたシオンたちに気づいた騎士クラスの生徒たちからざわめきが起きる。


 エミリオの隣をあるくユージンの後ろでシオンは物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回す。クリスに小突かれシオンは慌てて視線を戻し、他の三人は周りの様子など気にすることなく堂々とした様子で教官の元へと向かっていた。


「魔法クラスとの交流とかで実験的に数名魔法クラスの生徒と入れ替えをするとかいってたな」

「魔法クラスって十人程度だろ。四人も生徒を交換したらほぼ半数が騎士クラスの生徒にならないか?」

「まぁ二週間程度らしいからいいんじゃないか? それより魔法科に行ったのはそれなりに魔法の素質がある生徒だから、帰ってきたら大化けしているかもしれないぞ」

「俺も魔法科から来ている生徒と手合せしておいた方がよさそうだな」

「おいおい。お前たちは庶民の出だから知らないのかもしれないが、あの金髪は王子。濃い茶髪はあの鬼神が仕える家、つまりジオ将軍の息子だ。手合せするならせめてあっちの黒髪か赤髪のほうにしておいたほうがいいぞ」

「いや。俺の兄は騎士だが、ジオ将軍が以前魔法クラスの生徒と手合せした際あっさりやられたと言っていた。相手は黒髪だったと言っていたからもしかしたら……」

「なぁ、そう言えば前フィリア様が来た時に言っていたよな。『魔法クラスにいる愚弟と会うことがあったらよろしく』とか……あの赤髪、なんとなく似てないか……?」


 みるみる顔色が悪くなっていく生徒たちの様子にシオンが首を傾げると、後ろを歩いていたランスが面白そうにシオンに耳打ちした。


「俺たちって思っていたより有名だったみたいだな。まぁ俺があの人と似ているというのは同意できないけれど」

「あー、確かに俺の家って一応公爵家だからそれなりに有名なのかな。名誉称号みたいなとこがあるから、父が宮廷魔術師を引退したら降格するんじゃないかなーとか思ってるけどね」

「それはない」

「そうだな。お前には優秀な兄がいるじゃないか。あの人なら問題なく宮廷魔術師か騎士になって家を継げるだろ」


 大したことないと言った様子でとんでもない発言をするシオンを呆れた様子のクリスが半眼のまま再び小突き、ランスもクリスに同意して嫌味のない笑みを浮かべた。


「リオル兄さんか。騎士はともかく宮廷魔術師には問題なくなれそうだなぁ」

「あの人で無理なら、上級生も含めて今の魔法クラスから宮廷魔術師になれるような人間はいないんじゃないか?」

「確かに兄さんは優秀だけど、それは言い過ぎだよ。相性があるとはいえ、父さんは海を割れる。兄さんは多少地面を割れるかもしれないけれど、父さんには魔術師としてまだまだだって言われてる。俺もがんばらなきゃ……!」


 シオンは父の姿を思い浮かべ、決意を新たにするように拳を握りしめる。


「……アロルド殿はジオ殿に鬼だの悪魔だのと呼ばれてるこの国の魔術師のトップだぞ……というかリオルも割るのか……」

「そもそもファーカシス家はこの国の魔術師のトップに君臨してるだろ。感覚が特殊なのは仕方がないさ。うちだって――」

「フィリア殿か。お前も大変だな……」

「はは……」


 隣のシオンに気づかれることなくこぼれ落ちたクリスの呟きを捉えたランスが慰めるようにクリスの肩に手を置く。そして遠い目をして空を見上げた。

 クリスはシオン同様に特殊な家族を持つ人間であるランスの言わんとしていることを悟り目を伏せる。ランスは乾いた笑いを浮かべ、そして肩を落とした。


「よく来たな!」


 豪快な笑い声と共に今回の担当教官がシオンたちを出迎える。その見知った顔にシオンは目を輝かせた。


「ハワード先生!」

「シオン、こっちではハワード教官と呼んでくれるか?」

「そうでした。よろしくお願いします、ハワード教官!」

「おうおう。お前たちもがんばれよ」


 駆け寄ったシオンにハワードは騎士クラスの生徒に暑苦しいと評判の笑顔で迎え、バシバシとその肩を叩いた。シオンはその力強さにたじろぎつつも笑顔を絶やすことなく頭を下げる。その様子に頷きつつ、他の魔法クラスの生徒たちであるユージンたちをみてにやにやと意味ありげな笑みを浮かべた。


「よし、今日はまずこいつら魔法クラスの生徒にお前ら騎士クラスの実力を見せてやれ!」


 ハワードが叫ぶと騎士クラスの生徒たちが一斉に声を上げる。


「手始めにこの用意しておいた丸太を素手で折って見せろ! ……なんだ、自分がやるというやつはいないのか?」

「では、まず僕からやりましょう」

「む、そうだな。全く、騎士を目指そうと言うものが情けないやつらばかりだな」


 続けて叫ぶハワードの言葉に、騎士クラスの生徒たちからどよめきが起きる。

 エミリオが前に出ると、ハワードは苦虫をかみつぶしたような顔で他の騎士クラスの生徒たちを見回した。

 用意されていたのは小柄だとはいえ、エミリオよりも太く大きな丸太だった。確かに素手で折れと言われればいくら騎士を目指す生徒たちとはいえ、躊躇しても仕方がないといえる太さだ。


「ではいきます。えい!」


 可愛らしい掛け声と共にエミリオが拳を振るう。


『めしゃっ』


 そうとしか形容しがたい音を立て、丸太が哀れな姿を晒す。

 エミリオが放った拳はしっかりと地面に建てられた丸太を吹っ飛ばし、飛ばされた丸太は数人の騎士クラスを巻き込んだ。

 折るだけでいいはずの丸太は一部砕け、巻き込まれた生徒は他の生徒に担がれどこか――まず間違いなくヨルのいる医務室へと連れて行かれたのだった。


「では次は――まったく、情けない奴らだな。仕方ない。ユージン、お前やってみるか?」


 ハワードはお互い顔を見合わせるだけで自分がやると名乗り出ない騎士クラスの生徒に溜息をつき、ユージンを名指しする。

 試すような視線を受け、ユージンは表情を変えることなく前に歩み出た。


「手以外を使っても?」

「構わんぞ。なんなら魔法クラスらしく魔法を使っても構わん」

「わかりました」


 先ほどエミリオが飛ばした丸太と同じ場所に新たしい丸太が設置される。

 ユージンは丸太の前に立つと、軽く腰を落とし息を細く吐き出す。そして軽い動作でふわりと丸太の上まで跳躍した。

 振り下ろされたユージンの足が乾いた音を立てて丸太を真っ二つに割る。割れた丸太は左右に飛ばされたが、地面から渦を巻いて生み出された風が細かく切り刻んだ。

 結果としてエミリオのような被害を出すことなく丸太は木屑へとその姿を変えた。


「さすがだな」

「いえ」

「お前たちも騎士を目指すならこれぐらいできるようにならないとな」

「教官、今のは魔法ですから同じようにしろと言われても……」


 ぺこりと頭を下げユージンがシオンたちの元へと戻る。

 これぐらいやって見せろというハワードの言葉に生徒の一人がおずおずといった様子で意見した。その言葉にハワードは思い切り眉を寄せ大きく溜息をつく。


「馬鹿か。魔法は割った後の風だけだ。丸太を割るのに魔法は使っていない」

「ユージン様は僕の使える主ですから。今回は被害を出さないように魔法を使われただけですよ。侮辱するような発言は控えてくださいね?」


 エミリオの笑顔に多くの生徒たちが震え上がり、エミリオが鬼神と恐れられていることなど知らないシオンは再び首を傾げた。


「せっかくなので他の魔法クラスの生徒の実力を見せていただけませんか?」

「俺はお前らの実力を見せろと言ったんだが……しかたがない。お前たち、それでいいか?」


 沈黙を破り、生徒の一人がハワードに尋ねる。

 ハワードは口元を引き攣らせつつ、シオンたちに確認を取った。クリスもランスも構わないと頷き、シオンも魔法を使ってもいいということなので大丈夫だろうと判断して頷いた。


「あぁ、シオン、お前はいい」

「何でですかっ!?」

「ヨルやお前の兄から被害が大きくなるのでお前に魔法を使わせるのは極力控えて欲しいと頼まれている」

「うぐっ……」


 ハワードに制服の首元を掴んで止められシオンは息を詰まらせる。

 実際自分が丸太を折るところが想像できずに項垂れたシオンがエミリオに宥められる一方、クリスとランスはそれぞれ用意された丸太の前に立っていた。


「よし、やれ!」


 ハワードの声にまずクリスが動く。

 クリスは右手に魔力を集中させせうと剣で丸太を切りつけるようにその手を振り払った。次の瞬間、ごとり、という音を立てて丸太の上部が地面に落ちる。

 その断面は鋭利な刃物で切られたように滑らかで、クリスはそれを一瞥すると小さく頭を下げシオンたちの元へと戻った。


「んじゃ次は俺の番だな!」


 ぐるぐると腕を回し、俄然やる気を出した様子のランスはクリス同様に右手に魔力を集め、大きく拳を振りかぶった。


「ばーにん!!」


 妙な叫びと共にランスの拳が炎に包まれる。

 ランスが拳を丸太に打ち込むと、丸太は大きな炎を上げて燃え上がった。



「俺は折れと言ったはずだが?」

「――申し訳ありません」


 手にした模造剣をトントンと肩に当て弄びながら、ハワードは口元を引き攣らせた。すっかり炭化して崩れ落ちた丸太の残骸を横に、ランスは地面に膝と手をつけ深々と頭を下げている。

 こうしてシオンたち魔法クラスの生徒は最初から色々な意味で目立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ