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72 亡国

 キャメロットは小国ながらも優れた技術を持つ国だった。

 特に優れていたのは魔道具を生み出したり新たな魔法を生み出す技術で、魔道具によって国の財政は潤っていたのだそうだ。

 魔道具は作られた時に込められた魔力を使い切れば効果を失うという使い捨てで、その需要が途切れることはなくキャメロットの安定した財源となっていた。


 しかしいつからか、表ではそれまでと変わらず実用的なものを開発しつつ、その裏でキャメロットは軍事力利用のための研究を続け軍事力を増強していった。それまでも自衛のために開発された技術もあったが、それとは違う攻めるための技術が開発されていたのだ。

 同じ技術でも利用するものによってそれは毒にも薬にも変わる。そして技術を毒として扱おうとしていた筆頭が、キャメロット王その人だった。



「キャメロットが軍事開発を……」

「確かその頃は国同士の小競り合いが頻繁に起こっていたんだっけ?」

「ああ。だがキャメロットは争いを好まず、高い自衛能力もあってそういった争いには関わらなかったがな」


 クリスは顔の前で手を組んで考え込む。

 シオンの言葉にユージンが頷き、補足を加えた。ランスは知っていたのか特に驚いた様子もない。

 セルジオ王は四人を見回し、再び言葉を続ける。



 行き過ぎた研究は、禁忌とされる領域へと踏み込んでいた。

 その結果生み出されたのは魔道兵と呼ばれる人間。自我を奪われれ、一切の感情を見せることのない戦闘兵器へと作り変えられた存在。強化され魔力から強大な魔法を扱い、そのために命を削ることもいとわない。

 彼らは恐怖も痛みも感じず、命令があれば魔力を暴走させ躊躇なく自爆すらする。そんな魔道兵の中には幼い子供の姿もあった。



「国が将来のためといって魔力の高い子供を集めていた。魔道兵にされるなんて思いもせず、魔道兵の存在すら知らなかったからな」

「そんな……」

「さすがバートン、消し去られた歴史をも知るか」


 セルジオ王はすっと目を細めランスを見つめ、ランスはその視線に困ったように肩をすくめた。


「バートンの祖先はキャメロットの出身で、多少の記録が残っているというだけです」

「なるほど。では魔王については?」

「ある程度であれば」

「そうか。ではこちらにない情報がある時はその都度補足してもらえるか?」

「もちろんです」


 ある程度というランスの言葉を、セルジオ王はかなり知っていると受け取ったようだ。

 情報源が違うのであれば新たな情報が得られるかもしれない、それがセルジオ王とランスの共通の考えだろう。お互いに小さく笑みを浮かべると、セルジオ王は再び話を続ける。

 それはシオンの一番知りたいことである、魔王についての事だった。



 ある時、闇の魔力を持つ少女が見つかった。

 存在することは知られていたが、実際その力を持つ者が確認されたのは初めての事。他の魔道兵のように自我を奪い操ることはできたが、その力を制御することはできなかった。

 魔道兵は攻撃力のみが重要視されていたために自身で力を制御することはなく、命じられるままにその力を振るう。加減なく振るわれる闇の力は脅威だった。

 キャメロットにその力に唯一対抗できる光の魔力を持つ者はおらず、暴走した少女の魔力を抑えることはできない。

 その力を持て余したキャメロットがとった手段が、少女を魔王とすることだった。


 キャメロット王の命令のみを聞くように作られている魔道兵と同じく、少女も不安定ながらキャメロット王の命令には従う。

 本来の計画は多くの魔道兵を生み出し、その力を持って隣国アヴァロンに攻め込みを支配することだった。しかし少女の力を使い、アヴァロンを内側から崩すという手段を選んだのだ。


 少女が命じられたのは、その場に巨大な結界を張り続けること。

 結界内には瘴気が充満し、瘴気はその空間に揺らぎを作り魔物を呼び寄せる。キャメロット王の狙いはその集まった魔物が少女の命が尽き結界が消えた時、解放された魔物が一斉にアヴァロンへ溢れ出ること。

 闇の力を持つ人間が負の感情のままに魔力を放出すればそれが瘴気へと変化することが研究でわかっていた。そして少女の自我は奪われていたが消えたわけではなく心の奥底で負の感情を抱いていたことも。

 そしてもう一つ命じられたのは、結界に侵入した人間を殺すこと。その命令の例外はキャメロット王と少女をその場に連れてきた研究者だけだった。



「では、突如アヴァロンに現れた魔王というのは――」

「その少女だ。後に勇者に救われアヴァロンに亡命した。その際魔王ということは伏せ、共に魔王を倒した勇者の従者であったということにしたのだ。そしてその少女の名はミカゲ」

「確かにミカゲは自分は魔王にされたって言ってた……」


 シオンの呟きにランスが眉をひそめる。


「その会話から察するに、あのイェシオンだったミカゲと魔王にされたミカゲは……」

「同一人物――正しくはイェシオンであったのは魔王であったミカゲの本に遺されていた記憶だ」

「本ってあの本か。そこから出て動くどころか魔法まで使う記憶とか、とんでもない存在だな」


 ランスの言葉に答えたのはユージンだ。

 イェシオンであったミカゲの正体を知ったランスは驚きを隠せないでいる。ミカゲだどれだけ規格外の事をしているのか、シオンたちの中で一番正確に理解しているのがランスだからだ。

 シオンたちの戸惑いをよそに、セルジオ王は言葉を続ける。



 突如国内に現れた黒い結界にアヴァロンの民は恐れを抱いた。

 何人もの腕に覚えのある者が調査に向かったが、結界に入ってすぐ出た者以外に帰ってきたものはいない。戻った者によると結界の中に瘴気が充満し魔物が溢れていたことから、次第に結界の中心には魔王がいるのだと噂されるようになり、それと時を同じくして国内では魔道兵による被害が確認されていた。


 結界が現れてからなすすべもなく一か月が経過した頃、金の髪を持つ青年がアヴァロンの王の前にふらりと現れた。そして青年は自分が結界の中の様子を見に行くから無駄に犠牲を出すことをやめるように言ったという。

 厳重な警備が敷かれていた城にあっさりと入り込んだその青年を王は警戒したが、青年の力を見た王は青年に頼ることを選んだ。

 素性のわからない城に侵入した不審者である青年を、国がその身元を証明していると同意である勇者の称号を与え送り出すほど当時のアヴァロンは追い詰められていた。


 程なくして王の元へと戻ってきた青年の傍らには一人の少女の姿があり、青年の希望でその少女を自分の従者として魔王討伐に向かった仲間であるということになった。

 結界は消え魔物の大半は青年が対処していたので残った僅かな瘴気が消えるまでの間はアヴァロンの騎士や魔術師がその対処にあたることで魔王の騒動は終息へと向かった。

 国内が落ち着いた頃、やっと青年から少女の身元を聞き出した王が頭を抱えたのは仕方がないだろう。



「よくそんな不審者を勇者としましたね」

「魔王と魔道兵という未曾有の問題の中、光属性の力はまさに一筋の光だったのだろうな」


 ジト目を向けるクリスに、セルジオ王は苦笑しつつ答えた。当時の王が求めたのは、何よりも希望だったのだろう、と。



 人々が希望を失い、生きる気力までも失う。兵力と共に気力を削ぐ、それこそがキャメロットが望んだ結果だったのだろう。しかしその目論見はあと一歩というところで突如現れた勇者によって破られた。

 しかし、あと少しで大国であるアヴァロンを手中に収めることができるという甘い夢を見たキャメロット王は、勇者さえいなければ次はうまくいくなどと安易な考え抱いたのだった。


 もちろんすべての人間が王の考えに賛同したわけではない。計画を知った人間は王の考えに反対する者が大多数であった。

 しかしその反対の声を上げた人間はすべて捕らえられ、処刑された。もともと魔道兵の事を知っている人間はごく僅かで、そのほとんどが捕らえられたため表立って反対の声をあげる者はいなくなっていった。捕らえられた人間の中には王の実の息子である王子も含まれていたという。王は表向きは王子は流行り病で亡くなったと発表し、真実を知る者は王を狂王と恐れた。


 しかし反旗は翻される。

 どこからか他国で現れた魔道兵はこの国が開発したのだという噂が広がり、徐々にその噂は王が城で抱えている研究者が開発したのだと変化した。

 慌てて噂をもみ消そうとした王は、噂を流した者を捕らえ、人々がそのことを話さぬよう圧力をかける。同時期に王が税を上げたこともあってその反発は大きくなっていった。


 そして生まれたのは反乱軍と呼ばれる王に反発する集団。

 その中心に立っていたのは処刑されたはずの王子とアヴァロンの勇者だった。



 淡々と説明するセルジオ王に対し、クリスは顔をしかめる。


「魔王の脅威がなくなった直後のアヴァロンとキャメロットの争いがあったと言っていたユージンの言葉は真実――」

「ああ、彼はフィッツジェラルド家の者だからな。知っていても不思議ではない」


 クリスが王家のみに伝えられている史実として教えられていた歴史は偽りで、代々騎士の家系ではあるがそれはユージンが真実を知っていた理由はならない。

 クリスは納得がいかないといった表情で父であるセルジオ王を見つめた。


「フィッツジェラルド家は我々とは違うキャメロットについての情報源があるのだよ。その我々と違う情報源から話を聞いているのだろう? ジオの息子よ」

「その通りです」

「そもそも王家にのみ伝わるというのに、その情報源というのはどこからその史実を知ったというんだ?」

「まあ落ち着け、クリストフ。バートンのようにフィッツジェラルドにもキャメロットの者がいたというだけだ。バートンよりも詳しく真実を知っていた者がな」


 やはり納得のいっていないクリスを宥め、セルジオ王は口元を釣り上げて視線をユージンへと移す。

 向けられた視線に、ユージンは目を伏せ小さく頭を下げた。

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