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62 絶望(ミカゲ視点)

 放たれたのは青年の命を奪うために凝縮された純粋な闇色の魔力。

 無属性はもちろん、火・水・風・土どの属性をもってしても打ち消すことの出来ない圧倒的な力。

 自分の命を奪い去ろうとする漆黒が迫っているというのに青年は微笑みを浮かべたまま避ける様子はない。

 私を魔王と呼ぶのだからこの力について多少は知っているはずなのに。

 微かに感じた光がまさに今、自分の手で、自分の力で消し去られようとしていた。


 結界の内側に溢れる魔物にも倒れず私と対峙した数少ない人間も、なす術もなく倒れていったこの魔力。

 進入した者や邪魔する者以外は倒せという命は受けていないので、外に向かって逃げる者を『私』は追うことはしなかった。

 だからその人間が無事結界の外に出られていたのなら、外の人間に私という存在と不可解な魔力のことは知られているはず。だからこそ私を魔王と呼ぶのだろう。


 逃げた人間もいたがそのまま力尽きた人間もいた。……そう、私はすでに人の命を奪っているのだ。

 その度発することの出来ない声を上げ、もう指先すら動かすことが出来なくなった体を震わせて涙した。

 早くこの時間に終わりが来ることだけを切に望んで。


「俺は大丈夫だから泣かないで。……けれど君は限界みたいだね」


 漆黒は青年へ届くその瞬間キラキラと輝く漆黒の光の粒となって溶けるように消えていく。

 青年の言葉通り私の目からは涙が零れ落ちていたが私の体が涙を流すことはない。

 まさか本当の私の存在がわかるのだろうか。深層心理の奥深くでいつ消えてもおかしくないような私が。


 混乱しつつもあまり働かなくなっている頭をフル回転させている間に青年はゆっくりとこちらに歩み寄り、私の前へと立つ。

 その間も私の体は命令を遂行するため再び魔力をその手に集めていた。


「……もっと別の手段で助けてあげたかったけど時間がないみたいだから手っ取り早い方法を取らせてもらうね」


 笑顔を消し真剣そうな表情となった青年が私の耳元で呟くと、暗い闇の中でも光を放つように輝く柔らかそうな金の髪と、彼の閉じられた瞳だけが映し出された。

 それと同時に暖かいものが流れ込み、私の回りには柔らかな小さな光がぽつぽつと浮かび上がる。

 その光が私を拘束している蔦に触れると、驚くほどあっさりと蔦は消滅し拘束と同時に支えを失った私はその場に崩れ落ちた。

 なんとか視線を上げれば映し出されているのは間近で微笑む青年の顔。私の周りに浮かぶ光は増え続け、そしてその光もしだいに強くなっていく。


「帰っておいで」


 青年の優しげな声が聞こえ、私の視界は光で埋め尽くされた。



「う……」


 ゆっくりと目を開くと、先ほどを同じように金の髪と同色の長い睫が目前にあった。

 腰には腕が回され私の頭を反対の手で押さえるように支えている。そして唇に感じる暖かな感触。

 ――キス……されている?

 その突然のありえない状況にまどろみの中にあった意識が一気に覚醒する。


「なっ、何すんのよーッ!」


 私の叫び声が辺りに響き渡る。

 思わず振り上げていた手は青年につかまれ振り下ろすことはできなかった。

 逆に青年が腰に回した腕にちょっと力を入れただけで私の体は仰け反りバランスを崩す。それでも回した腕に支えられていて倒れこむようなことはなかったが、極上の笑みを浮かべた青年はちゅっと音を立て、再び触れるだけのキスをした。


「おかえり」


 真っ赤になる私に青年はやはり笑顔を浮かべたままそう言うと、腰に回した腕をずらしてひょいと私を抱き上げる。

 そこでやっと気が付いた。この黒に覆われた場所に光が差し込んでいることに。

 久しぶりに目にする太陽の光はとても眩しくて思わず目を細める。

 そしてその光にゆっくりと自分の手を翳した。


 何故かはわからない。けれどあの呪縛から開放されたのは間違いなかった。

 倦怠感は強いけれど自分の意思で体が動かせる。伝えたい言葉も声としてちゃんと発することができる。

 それだけのことなのに、とてもとても嬉しくて涙が零れた。


「ごめん、そんなに嫌だった?」


 すこし焦った様子で青年が私を覗き込む。

 私は首を左右に振って、けれど間近で見た彼の顔を、そしてキスを思い出して顔に熱が集まるのを感じて俯いた。

 魔力不足からなのか呪縛から開放された反動からか。

 そこで私の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。今までいたような得体の知れない闇ではなく、癒されるような心地よい闇に。





 私が自分の体を取り戻してから一年の月日が経過していた。


 私を助けてくれた青年はアルヴォという名で、この世界で唯一光属性を持つ彼を世間は勇者様と呼ぶ。

 なんでも突然現れた黒い結界から魔物が溢れ出し国が混乱していったのでその調査と解決のために勇者と名高いアルヴォが赴いたのだとか。


 当の本人はそんなことはどうでもよいらしく、病的なほどに私に構う。

 そして今も夢でうなされる私のために、再び不審な動きを見せ始めた諸悪の根源であるキャメロット王家に『お仕置き』に向かうというのだ。


「ねぇアルヴォ、本当に行くの?」

「うん、元凶を叩かないとね。またミカゲを利用しようとしているあいつらをそのままにしておいてあげるほど俺は優しくないから」


 私の祖国でもあるキャメロットは小さな国だった。

 裕福ではないが暮らしていくには十分な恵みもある。けれど隣の芝は青いといったところで、キャメロットは隣国である自然に恵まれたアヴァロンを妬み、欲した。

 そしてそのための布石として目を付けられたのが未知の魔力を持つ私。


 私の住んでいたのは旅人も立ち寄らないような小さな村で、どの属性にも属さない魔力を持つ私は村でも少しだけ目立つ存在だった。

 偶然村の人間が行き倒れの旅人を見つけて助け、その旅人に私の存在を知られたのがすべての始まり。

 別に隠しているわけではなかったのだが、そして悲劇が幕を開けた。


 赤い炎が夜空を照らす。

 村中を包み込む炎は村のすべての家と人を飲み込み嫌な臭いが立ち込める。

 そう多くない村の人間は私以外はすべて私を捕らえている兵士たちの剣によりその命を奪われ、村に火が放たれたのだ。


「すべてはお前のせいだ」


 そう言った兵士の言葉が私の心に深く突き刺さる。

 そこからは良く覚えておらず、気が付いたらあの闇の中だった。


 あの時の兵士の鎧は間違いなくキャメロットの兵士のもの。

 そして助け出されてから確認した姿絵であの王のような人物が本当にキャメロット王だということを知った。

 そしてアルヴォが持っているアヴァロン側の情報もすべてがキャメロット王が黒幕であると物語っていた。

 しかしキャメロットは自国の宰相の暴走として無理やり事件を終結させたのだ。


 もちろんアヴァロンも黙っていたわけではないが、宰相を断罪したと同時に証拠となる物や場所などもキャメロットは綺麗に片付けてしまっていた。

 私とアルヴォはアヴァロン王家からの依頼によりキャメロットの不正を暴くための証拠やその同行を調べている。

 そして今、キャメロットが再び動きだしたのだ。


 本当ならば私も同行するつもりだった。

 しかし今、私の腕の中には安心しきった様子で眠る小さな命がある。

 だから私は嫌な予感はしていたが、アルヴォを一人でキャメロットへと行かせてしまった。

 いくらそれをアルヴォが望んでいたとはいえ、一人で行かせるべきではなかったのに。



 一ヶ月経ってもアルヴォは帰ってこなかった。

 そしてキャメロットは『王に害をなそうとしたアヴァロンの勇者を捕らえ断罪した』と発表したのだ。


 私はアヴァロン王に大切な息子を預け、そして本を遺した。

 もし自分が戻らなかった場合に息子やその子孫に私と同じ闇の属性を持つものが現れた時の為に。

 同じ属性の魔力を持つもの以外には読むことができないようにして。


 そして私はアルヴォを追ってキャメロットへと足を踏み入れた。

本当ならアルヴォの奇行やミカゲとのやりとりを入れてあげたかったのですが長くなるのでは思い切って削りました。

後半部分もそのうち手直ししたいところです。うまくまとまらないorz


ミカゲとアルヴォのことは本編が落ち着いたら別に書いてみようかと思います。



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