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61 暗黒(ミカゲ視点)

ミカゲ視点なので今までの話と比べると少々暗いです。



 ――気が付いた時、私は闇の中にいた。


 微かな光すらない暗黒の世界。

 完全な暗闇の中だというのに何故か自分の体と、私の体に絡みついている闇と同じ色をした蔦のようなものだけが漆黒の中に浮かび上がるように見えている。


 体中に巻きつく闇の蔦に囚われて身動きは取れない。まるで枯れてしまったかのように声すら発することもできず、動かせるのは顔と手先ぐらいのものだった。

 己の持つ属性と同じだからか、どれだけ深い闇の中でも恐怖を感じることはないがこの状態が異常であるということはわかる。そしてこれが私にとって好ましくない状況であることも。



 気がついてからどれぐらい経った時のことだろうか。

 突然目の前の闇がぽっかりと開け、そこに見知らぬ二人の男の姿が浮かび上がった。


「娘の様子はどうだ?」

「は、順調です。計画を実行に移してもよい頃合かと」

「そうか。おい、娘」


 偉そうにこちらを振り返り呼んでいるような男は、豪華な衣装に身を包み暴食が原因だろうというでっぷりとしたお腹をした、いかにも王といった風貌。

 もう一人の男は白衣に身を包みモノクルをつけた線の細い研究者といった風貌だがその目は鋭く異様な光を放っている。

 その二人の視線が私へと向けられる――ように見えるだけで実際は他の誰かを見ているのかもしれないが。


「何でしょうか、我が王」

「お前に働いてもらうときがきた」

「我が王の仰せのままに」


 返事をしたその声に感情は感じられないが、それは間違いなく私の声。

 もちろん私は返事なんてしていない。


「こっちだ」

「はい」


 王らしい男はどこかへ去り、それを見送った後研究者のような男は先ほど王らしい男が出て行った出口とは違う方向に私を促した。

 歩いている感覚などないけれど、背を向けて歩き出した男と共に場所を移動しているらしい。


 薄暗かった研究施設のような場所からどう移動したのか、景色は薄暗い森の中から人の気配の感じられない街道、そして崖を抜けて柔らかな光の差し込む森へと変化した。

 私が住んでいたはずのキャメロットの国境付近に崖がある場所があり、恐らくそこを通過して隣国へと入ったのだろうと推察できる。


 途中、男に命じられるままに私の体は魔力を振るう。

 そのたびに私を拘束する蔦が太く強固なものになっているような気がした。



 私の意識とは別の何かが私の体を支配しているは間違いない。

 何故こんなことになっているのかはわからないが、この蔦に自由を奪われていることは確かだ。

 こういった状況の場合、意識は精神の奥の深い場所に沈んでいるのが定番のはずなのだが……この光のない暗黒の世界が私の精神の奥底だというのか。


 確かに私には両親はいないが暖かい居場所があった、はず。

 記憶が希薄になってはっきりとは思い出せないけれど、大切なものがあったはずだった。忘れるはずのない大切なものが。


 このままここにいれば、私の意識は記憶と共に完全に消えてしまうだろう。

 わかっていてもどうすることもできず、 それどころか私の体は男に言われるがままに魔力を振るっていた。

 限界まで搾り出した魔力によって黒く大きなドーム状の結界が展開される。


「……っ」

「よし、私はもう戻るがお前はそのままこの結界を維持させるように。

 結界に侵入したり邪魔するような者は排除しろ」

「はい」

「もう会うことはないだろうが……哀れなものだな」

「……」


 限界以上の魔力を使い膝をつく私の体に振り返ることなく、男はそう言い残しその場から姿を消すとその後再びこの場に現れることはなかった。


 いつまで、と伝えられなかった命令。

 結界によってほとんどの光が遮断される暗い森の中私の意思とは裏腹に体は結界を維持し続ける。

 命令の期間は私の、この体の命が尽きるときまでなのだとぼんやりと感じていた。



 黒い結界の向こう側にぼんやりと映る月が昇るのを何度見ただろうか。

 常に全開で魔力を放出している私の体はすでに限界のようだ。

 私の意識は途切れることが多くなっていて、いつ自分が消えてしまうのかと不安に襲われるが、同時にこの状態からやっと開放されるのだとほっとしている自分もいた。


 結界の中は魔物を生み出すための環境が整っているらしく、多くの魔物で溢れていた。

 けれど私が結界の中心だとわかっているから魔物に襲われることはない。

 それはまるで――


「君が魔王?」


 私の心を代弁したのはこの場にそぐわない明るい調子の声。

 私の体がゆっくりと声のした方向に振り返り、私の前に映し出される景色もぐるりと動いていく。

 そこにいたのは太陽のように明るい金の髪の青年だった。


「魔王? 違う、私は我が王の忠実な僕」

「ふぅん、なるほど。そういうことか」


 青年は腕を組んで少し考えるような素振りを見せるだけで、腰に下げた剣を抜いてはいない。

 けれど私の体は未だ忠実にあの男の言いつけを守ろうとしていた。


 ――結界に侵入したり邪魔するような者は排除しろ――


 私の手には魔力が集められている……青年の命を奪うための魔力が。


「大丈夫だよ」


 青年は私の意思が伝わっているかのように安心させるような笑みを浮かべる。

 ――まるで深い闇に差し込んだ一筋の光。……もう光を忘れかけているというのに。

 けれど次の瞬間、その一筋の光を闇で覆いつくすように私の魔力は青年に向かって放たれた。

もう少しミカゲ視点が続きます。

どうぞお付き合いくださいませ。


7/5 誤字と一部の言い回しを修正しました。

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