63 誕辰
時折イェシオン(ミカゲ)は体調不良を理由に授業を休む。
心配するヴィオラが声をかけると、ゆっくり眠れば大丈夫と弱弱しく微笑んで戻っていくのだ。
クリスとランスがゆっくり休むよう言ってイェシオンを送り出すのを、ユージンが普段通りではあるが、鋭い視線で見送るのが恒例となっている。
そして今日もイェシオンはお昼前に体調が優れないといって部屋へと戻っていた。
食堂のいつもの席で五人が昼食を終えそろそろいつもの中庭に移動しようとした頃、ロナルドがゆったりとシオンたちのもとへとやって来ると、ヴィオラの前で足を止める。そして微笑みを浮かべたまま、やはりゆったりとした調子で用件を伝えた。
「バルタークさん、使者の方が見えていますので学園長室まで来ていただけますか?
今なら次の授業まで時間がありますから」
「はい、わかりました。それじゃあみんなまた後でね」
「うん」
ヴィオラは立ち上がるとロナルドに付き添われて食堂を後にする。
ヴィオラの姿が見えなくなると、残った四人も徐に立ち上がりいつもの場所へと向かった。
中庭に着くと、シオンとランスは一際大きな木の根元に腰を下ろす。
ゆるやかだが四季のあるアヴァロンではまだ日差しは強く、木陰でないとじんわりと汗が滲むほどだ。
「そういえば、最近エミリオはどうしてるの?
休み明けからずっと朝も昼も一緒に食べたりしていないよね」
「ああ、少々事情があって残念だが一緒に食事を摂る時間がないだけだ。
ところでシオン、お前そろそろ誕生日なんじゃないのか?」
「え? ……あぁ、もう過ぎてるよ。夏季休暇の間だったから」
シオンの言葉に珍しくユージンがその表情を驚きで染める。
紫苑であったときの誕生日が秋だったのでユージンはシオンも同じであると勘違いしたのかもしれない。
(……もしかしてユージンは臣と誕生日が同じなのかな。だとすれば納得……)
冴えている、とばかりにシオンは自然と口元を緩めていた。
「何でマルツェッラで会った時に言わなかったんだよ」
ランスは水臭い、といわんばかりにシオンの肩を寄せてぐりぐりと拳をシオンの頭に押し付けた。
「別に大したことでもないしっ……イタタ!」
「ふむ、ということは双子なんだからイェシオンもだな。
せっかくだからささやかなお祝いでもするか」
「ならランスの部屋あたりが丁度いいだろう」
「何で俺の部屋!?」
何故か自分の部屋を使うと宣言されたランスが異論の声を上げる。
未だシオンの肩を抱いたままのランスにクリスとユージンは刺すような視線を向け、言葉を続ける。
「まさかイェシオンたちの部屋を使うわけにもいかないだろう?」
「それに俺たちの部屋より一人部屋であるランスの部屋のほうが都合がいい」
「一人部屋ならシオンだって……」
「何を言っているんだ?
シオンはお……ごほん、主役なんだから呼ばれる側の立場だろ」
「――それもそうだな。それに祝いの席の後は何かと片付けが必要になるからな」
クリスとユージンはさも当然だろうといわんばかりの表情。
ランスはそんな二人の様子にため息をついて肩を落とし、空を仰いだ。
「はぁ……わかったよ」
「片付けなら俺も手伝うからね、ランス」
「――シオン、やっぱりお前っていいやつだよな!」
感極まってシオンに抱きついたランスだったが、次の瞬間クリスとユージンの拳がその頭に振り下ろされランスが地面に沈む。
シオンはそんな三人のやり取りを少しうらやましく感じていた。
最近以前に比べてクリスとユージンの――ユージンは元々そう多いわけではなかったが――いわゆるスキンシップというものが明らかに減っているのだ。
「それじゃあお祝いは次の休日ということでいいか?」
クリスの言葉に全員が頷く。
その後合流したヴィオラも「プレゼント用意しなくてはいけませんわね」と乗り気な様子で、その日結局戻ることのなかったイェシオンにはヴィオラがその旨を伝えることとなった。
――そして休日。
ランスの部屋には男四人と女二人の六人が集まっていた。
狭くはないが広いわけでもない部屋に六人が集まるとやはり少々手狭だ。
「よし、このチェストだとかは今は必要ないのだから、一旦俺たちの部屋にでも移動させておくか」
「そうだな、それだけでぐっと部屋が広くなる」
「ちょ、お前ら――」
クリスとユージンは部屋の主であるランスの意見を聞くことなく、二人で軽々とチェストを持ち上げるとあっという間に部屋の外へと運び出してしまった。
「まぢか……」
「あら、チェストの裏も綺麗に掃除されてますわね。さすがランス」
「うわっ、ほんとだ! ランスいいお嫁さんになれるね~」
「いや、嫁は無理だ」
チェストの運びだされた後の場所をみたヴィオラは感心を隠さず、シオンも自分には無理だとランスを褒め称える。そしてイェシオンはにこにこと微笑みながら、それに同意の意を示し数回頷く。
ランスはシオンのお嫁さん発言に即否定しつつもその頬を赤く染めており、照れているようだ。
――照れる要素は皆無なのだが。
すぐに自分たちの部屋にランスのチェストを移動させたクリスとユージンが戻り、ささやかなシオンとイェシオンの誕生日パーティーが始まった。
やはりエミリオは忙しいらしくこの場にはおらず、シオンは少し寂しく感じつつも、すでに過ぎたことであるのにわざわざお祝いをしてくれる友人たちに心から感謝していた。
――……あなたが生まれたこの良き日に感謝と祝福を――
ランスが事務で借りてきたというローテーブルをみんなで囲み、この世界での定番のバースデーソングをヴィオラがメインとなり歌い上げる。
そして歌が終わると同時にこの世界でもお約束のバースデーケーキのろうそくをシオンとイェシオンが一緒に吹き消した。
「おめでとう、シオン、イェシオン」
「ありがとう、みんな」
「ありがとうございます」
口々にお祝いの言葉を述べながら、パチパチ、と拍手する友人たちを見回しシオンとイェシオンは照れたように、そっくりな笑顔を浮かべる。
「さあ、パーティーの始まりだ!」
その声に全員が振り返れば、エプロンをつけ両手に料理が盛り付けられたお皿を持ったランスが、それはそれはイイ笑顔で立っていた。
料理からは美味しそうに湯気が立ち上り、その香りが鼻孔をくすぐる。
その香りはランスの部屋に入った時から漂っていたのでランスが前もって調理していたのだとわかる。
「おいしそう! ランス、本当にいいお嫁さんに……」
「……しかたないだろ、あの人に家事全般は仕込まれたんだから」
シオンの言葉にランスは諦めたように明後日の方向を見つめながら呟いた。
その背中に哀愁が漂っているのを感じ、シオンはそれ以上の言葉を飲み込む。
それはランスにあの人の話題を出すのはよくないと身をもって知っているからでもある。
そこでランスがふと、思い出したかのように口を開いた。
「シオンとイェシオンも十五歳で……確かクリスはひとつ上の十六だよな?」
「俺は冬生まれだからまだ十五だな」
「じゃあしばらくは同い年だね!」
「……半年程度だけだがな」
全員自分と同い年だと思っていたシオンは、クリスが一年とはいえ年上だったことに驚きつつも、数ヶ月間とはいえ年齢が追いついたと得意げに胸を張る。
クリスはちらりとシオンに視線を向け、否定こそしなかったが小さく溜息をついた。
「俺は春生まれだからもう十五だし、ユージンは?」
「俺も春だ」
「ヴィオラは?」
「私は秋生まれですけど――クリストフ様と同い年ですから……」
「くっ……年上だったか……」
ランスががっくりとその場に膝をつく。
シオンも四人の中では一番背の低いシオンより更に十センチ近く身長が低く、少し幼い顔つきであったこともあってヴィオラを入学基準の最低ランクである十四歳か、特例ということでもっと下ではないかとすら思っていた。
ちなみにエミリオはヴィオラと同じぐらいの身長である。
「……なんですか、その顔は」
「ん、ヴィオラは可愛いなって思っただけだよ」
シオンが、年下に見えて、という部分を飲み込んで答えるとヴィオラの頬が赤く染まる。
(……言われ慣れてるわけじゃないのかな?)
もぐもぐとランスの手料理を味わいながら、シオンが「うん、やっぱり可愛いー」などと言ったものだから、ますますヴィオラが赤くなり、その様子を友人たちは生暖かい眼差しで眺めていた。




