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57 間近

 シオンとリオルはプルプルと細かく振動する土の粒に囲まれながら、その狭い中でお互い肩を寄せて顔を近づけ、極力小さな声で会話をしていた。


「シオン、いつの間に分裂したんだい?」

「分裂した覚えなんてないけど」

「はは、わかってるよ。外見はシオンだけれどあれはシオンじゃなかった。そんなことはすぐにわかるよ。だからあの外見は完璧な自称イェシオンがどうして現れたのかが聞きたいんだ。シオンは知っているんだろう?」


 微笑みながら尋ねるリオルのその目は全く笑っていない。

 シオンは自分が追い詰められた獲物にでもなったかのような気分だった。


「あの人の本当の名前はミカゲ。昔勇者様の仲間だったっていう俺と同じ闇属性の人らしい。同じ闇属性の人間に魔法について教える為に本に遺されたミカゲの記憶だって本人は言ってた」

「その本というのは王宮で保存されていたやつかい?」

「うん。ユージンがクリスの名前で借りてきたって」

「ふむ……」


 リオルがじっと考え込むその横顔をシオンはちらちらと伺う。時間にすれば数分のことで、待っていた時間は短いはずであるのに、その数分がシオンには途方も無く長く感じられた。

 そして考えがまとまったのか、やっとリオルが顔を上げてシオンへと視線を合わせた。


「非公開の情報だけれど、確かに勇者の仲間とされている闇属性を持つ魔術師はミカゲという名前だった。シオンがその事を知っているはずがないし、嘘をついているとも思わない。本から出てきたというのならまず間違いなく本物だろうね」

「非公開なのに何で兄さんは知ってるの?」

「秘密。それよりミカゲの目的は何? 闇属性の魔法をシオンに教えるだけならば出てきてイェシオンになる必要はないはずだし」


 重大な事であるはずなのに、可愛らしく立てた一指し指を唇に添えてウインクするリオルにシオンは苦笑いを浮かべる。そしてリオルは恐らくどんなにシオンが頼み込んでも教えてくれる気はないのだと理解していた。


「ミカゲの目的は……」


 答えようとしてシオンはその目的をきちんと理解していなかったことを思い出した。

 確かにリオルの言うようにミカゲはシオンに魔法を教えてくれるらしい。それならば教える時だけ本から出てくるか、知識だけ与えるならいっそ夢の中でも問題ないはずだ。

ではあの時ミカゲは何と言っていたか。


「えっと……現代の情報を集める、だったかな」

「現代の情報?」

「昔は闇の属性を持っていると人に利用されるとか魔王にされるとか?」

「何故疑問系なの」

「何かよくわからなかった。確かキャメ……なんとかがどうとかとも言ってた」

「利用、魔王、キャメ……キャメ…………」


 ブツブツと呟きながら再び思考にふけるリオルに、シオンは当時混乱気味だったとはいえ申し訳い気持ちでいっぱいだった。この問題の中心に間違いなく自分がいることは間違いなく、家族まで巻き込んでいるというのに。それなのに何故こんな事になったのかという説明すら満足に出来ない自分が不甲斐なかった。

 そんなシオンの様子に気づいたのかリオルはシオンの頭をぽんぽんと軽く叩いてシオンの顔を覗き込んだ。


「ちょっと調べたい事ができたから、俺はこのまま外出許可を取ってちょっと出かけてくる。シオンは遅れないようにちゃんと授業を受けてくるんだよ」

「わかった。けど兄さんは授業でなくて大丈夫なの? たしか今って秋入学の生徒が春入学の生徒に追いつくために色々と忙しいって聞いたけど」

「大丈夫、今日の午後は頭を使うほうの講義だからね。知識だけなら詰め込んであるから」


 その理由は言わないが、それは幼少時代に体が弱くてあまり外に出られなかったが故だということはシオンにもよくわかっているので曖昧に微笑む。

 自嘲気味な笑みを浮かべたリオルが手をかざすと、ドームの天井部分から溶けていくかのようにしてシオンたちを囲んでいた壁は地面へと戻っていった。


 土のドームを解除してシオンの友人たちに簡単に挨拶をするとリオルは足早にその場を後にし、シオンは自分を待っている友人たちのもとへと戻った。

 友人たちはリオルとの会話の内容については触れることなく、普段と変わらない態度でシオンに接する。シオンにはそれがありがたく、隠し事をしている事が心苦しくもあった。


 午後の授業の時間が迫り教室へと戻る途中、シオンは最後尾で友人たちの背中を見つめながら最後尾を歩いていた。シオンはふうっと息をつくとその背中に声をかける。


「あのさ、イェシオンの事なんだけど。入学してくるのは間違いないみたい。こういった場所に慣れてないから変な事言ったり変な行動したりするかもしれないけど……」


 せめてすでにリオルから知らされた情報ではあるが、話せる事は自分の口から言っておこうと思ったのだ。そして外見だけで中身はイェシオンでないのだから変な事があっても気にしないで欲しいという言い訳と同じの願い。


「私は嬉しいわ。わかっていたことだけれど女生徒が自分以外いないというのは寂しいもの。イェシオンと会ってみたいと思っていたし、お友達になりたいわ」


 と、ヴィオラがふふっと微笑む。


「そうだな、いくら俺たちが友人として一緒にいても男相手には話しづらい事とかもあるだろうし。そういえば聞いてないけどイェシオンの属性って……」

「俺と同じ」

「レアすぎるだろ、お前たち双子」


 さすがのランスはヴィオラに対してもしっかりと気遣いをしているようだが、属性に関しては多少は予想していたのかもしれないが実際聞いてかなり驚いているようだ。しかし闇属性が最後に確認されたのが二百年前だというのだから仕方がないのだろう。


「もちろんイェシオンを歓迎するが、訓練の時に二人同時に相手をするのは無理だな」

「イェシオンは俺と違って問題ない、はずだよ。ペアが誰でも問題ないはず」

「そうか、それはそれで残念だな」


 何が、と思わず出かかった言葉を飲み込んでシオンはジト目でクリスを見る。クリスはわざとらしく咳き込んでシオンから視線を逸らした。そしてその逸らした先でユージンと目があったらしい。


「バカ王子が暴走した時は俺が全力で仕留めるから心配ない」

「仕留めちゃダメな気がするから止める程度で」

「問題ないが、わかった」


 了解の意を伝えながらも、ユージンは鋭い視線をクリスに向けたままだ。

 そんな様子をシオンは不思議に思いながらも、二人は幼馴染なのだから自分には分からない何かがあるのだろうと勝手に解釈し、その疑問を頭から追いやった。


 教室へと戻るまでの間、先頭を歩くクリスとユージンはお互いに鋭い視線を送りあっていた。すれ違う生徒が怯えたような表情をして壁に張り付くように道を譲る。そんな二人をランスは諦めたように苦笑を浮かべ眺めていた。

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