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43 配慮

 寮長ディアンはニコニコと、シオンはオロオロと二人を眺めていた。

 ユージンは部屋の扉にもたれ掛かり腕を組み瞳を閉じて何かを考えている様子で、ランスは困ったように空を仰いでいた。


「何故お前が俺の隣の部屋なんだ! ほかにも空き部屋はあるはずだろう」

「知りませんわ。別に私がクリストフ様の隣にとお願いしたわけではありません」

「……信用ならない」


 それはヴィオラの部屋がクリスの隣に割り振られたことについてだった。

 通路の一番奥にある二つ並んだ角部屋。その片方がクリスとユージンの部屋であり、その隣は空き部屋となっていてそこにヴィオラが入ることとなったのだ。

 確かにシオンたち一回生が入っている階にはほかにも空いている部屋は数箇所あった。その為クリスはヴィオラが手を回したものと思っているようだった。


「クリス君、その部屋割りは学園長が決めたものだけどちゃんと理由があってのことだよ。ここは部屋はこの寮では一番安全とも言える場所のひとつなんだ」

「うん、確かににそうだね」


 ディアンの言葉にシオンがうんうんと頷くとクリスは訝しげな表情でシオンを振り返り、そんなクリスの様子にシオンは肩をすくめて苦笑する。


「ほら、ここが通路の一番奥の部屋ってことは一番人通りが少ない場所ってことだし」


 クリスはシオンの言葉の続きを無言でじっと待っていた。どうやら話を聞く気はあるらしい。

 シオンは言葉を続ける。


「つまり他の生徒がこの部屋の前に来るということはほぼないし、この直線の通路だから来れば人目につく。つまりそれだけで防犯の意味があるってことなんだよ。隣はクリスとユージンの部屋だから尚更だね。クリスがこの奥の角部屋なのもそういうことでしょ?」

「……その通りだ」

「それにヴィオラは王族でもあるけれどそれ以前に女の子なんだから、安心できる場所がいいと思う」


 シオンがぴっと指を立て満足そうに意見を言えば、クリスとヴィオラは驚いたような表情でシオンを凝視していた。

 シオンは何か変なことでも言ってしまったのかと心配になり無意識でじりじりと後ずさったのだが、ディオンに肩を叩かれてはっとディアンを振り返った。


「うん、その通りだよ。どちらにせよ学園長が決定したことだから覆ることはないのだし。他にに何か問題があるようなら言ってくれれば対処するからね」

「……はい。ありがとうございます」


 ディアンはそう言うとその場を後にした。何でも騎士クラスの新入生に知り合いがいるので顔を出しに行くのだそうだ。


「ヴィオラ、俺の部屋も君の隣なんだよ。何かあったらいつでも来てくれていいからね。ついでにその反対隣がランスの部屋」

「ランス……さんですね。私はヴィオラ=バルタークと申します。よろしくお願いしますわ」

「ああ、こちらこそよろしく」


 ランスはやはり笑顔で手を差し出し、ヴィオラは少し戸惑うようにしてその手を握った。

 クリスは納得がいかないような表情だったがそれ以上何か言うこともなく、ユージンはそんなクリスを見てくすりと笑みをこぼしていた。


「あー、もう夕食の時間だけれど……食堂に行くと大変なことになりそうだな」

「そうだな。食堂は騎士クラスとの共通の場だからな」


 思い出したように呟いたランスの言葉にユージンが同意する。

 確かにあの場に女生徒であるヴィオラが行けば大騒ぎになることは間違いないことはシオンでも容易に想像できた。

 しかし食事の為には食堂に行かなくてはならない。ならば早めに食堂に向かおうと五人が寮を出ると、そこには普段は食堂で合流していたクラスの違う友人の姿があった。


「あ、皆さんーお待ちしてました! 貴方がヴィオラ様ですね。はじめまして、エミリオと申します」

「よろしくお願いしますわ」


 外へ出た五人の元にパタパタとエミリオが駆け寄り、ヴィオラの前で腰を折り名前を名乗った。その姿は可愛い外見ではあれどさすが騎士クラスの生徒、様になっている。

 エミリオはヴィオラの言葉に顔を上げにっこりと微笑み言葉を続けた。


「学園長がさすがにあの脳筋どもの中で食事をするのは女生徒であるヴィオラさんには大変だろうって専用の席を用意してくれたんですよ。それを伝えに来たんです」

「そうなんだ。よかったね、ヴィオラ」

「あ、はい」

「皆さんも一緒に座れるように広い席が用意されてますから、問題なければご一緒にとのことです」


 恐らくヴィオラは何が大変なのかをわかっていないのだろう、返事をしつつも首を傾げていた。しかし一緒にご飯を食べるということに異存はないようで、シオンの「みんなで一緒に食事できるね」という言葉に嬉しそうにに頷いていた。




 シオンたちが食堂へ一歩足を踏み入れると、食堂にいた全員じゃないかというほどの視線が一斉に向けられる。

 思わずビクリとして隣を見れば、多くの視線に晒されることに慣れているであろうヴィオラも思わず怯んでいたようだ。

 そんなシオンとヴィオラの前にすっと影ができ、シオンが視線を向ければ前に立っていたのはクリスとユージンの二人。


 好奇の視線から庇う様に二人はヴィオラの前を進み、両隣にはシオンとエミリオ後ろからはランスという形で後に続く。


「まぁすぐに慣れるだろうから気にすることはないさ」

「うん。頼りないかもしれないけど俺やクリスたちがいるから大丈夫」

「そうですよー。しつこいようならちゃんと僕が教育的指導をしておきますから」


 ランスの言葉にシオンが同意し、エミリオが笑いながら腕をぐるぐると回していた。

 その瞬間あれほど向けられていた視線が一気に反らされ、シオンはエミリオがわざと大きな声でそう言ったのだと気づく。


 用意されていたのは他の席より少し高い場所にある窓際の席で、いわゆる特等席といえる場所だった。


「ここなら他の席からも見えづらいですから他の人をあまり気にせずに過ごせますよ」

「ありがたいのですが、こんな特別扱いでいいのですか?」

「問題ありません。これは差別ではなくて男女という区別ですから。それに脳筋とはいえ一応騎士の卵ともいえる集団なのでレディーファーストの精神は持ち合わせているはずです」


 特別扱いは受けたくないというヴィオラにエミリオは可愛らしい笑顔で特別ではないと答える。

 最後にぼそっと小さな声で呟かれた「文句を言うようなバカは潰します」という言葉をシオンは聞かなかったことにした。

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