26 召喚
夏季休暇は三日後に迫っていた。
帰宅するために纏めた荷物は小降りの鞄一つだけに納まり、シオンは他には特にすることもなく相変わらず水晶に魔力を込める日々を送っていた。
以前よりはずっと制御が出来るようになったとはいえまだまだ不安定であり、暴走ストッパーの都合上実家では鍛錬が出来ないので、帰るまでにより制御出来る様にと努力しているのだ。
「え、俺も行っていいのか?」
「無論構わない」
嬉しそうなランスの声色にシオンが鍛錬の手を止め振り返ると、尻尾があったならば振り切れんばかりに振っているであろうと思わせるほどその表情を輝かせたランスとその勢いに少々押され気味なクリスの姿が目に入る。
「どうかしたの?」
「クリスが夏季休暇の間にマルツェッラの知り合いに会いに行くから俺とユージンも一緒にどうかってさ!寮で寂しく過ごすことになるところだったからありがたい」
「ふーん、マルツェッラねぇ……ええ!?あっ、いやなんでもないよ?」
大声を上げたことを慌てて誤魔化すシオンだが、それが嘘なのは誰が見ても明らかなほどの不自然さだった。
「シオンも一緒に来るか?」
「あー……ゴメン、遠慮しておく。なんか国王に謁見しないといけないとかで……クリスのペアだから一度会ってみたいだとかで」
「それは……俺のせいで手間をかけさせて悪かった」
「父が聞いたところだと、王としてじゃなくてクリスの父親として会ってみたいらしいだけだから気にしないでいいよ。ただ立場が立場だから謁見ということにはなるけどね」
それは誤魔化すための言い訳ではなく真実であり王命だった。例え王子のクリスにとっても絶対であり、断ることは許されない。
親が子供を心配するのは当たり前で、しかもその子供が自分だけでなく国にとっても大切な人間であればペアの相手が気になるのは仕方がないことだとシオンも納得している。そして何よりシオンは王に感謝しており、一度会ったあの日以来お礼すら言えていない事が気にかかっていたのだ。
シオンにとってもこれは願ってもいない事だった。
そして特に何事もなくシオンたちは夏季休暇を迎えた。
「くれぐれも魔力を暴走させるんじゃないぞ」
「ではまた休み明けに」
「シオン、腹出して寝るんじゃないぞ!」
そんな言葉と共に友人たちに見送られながら、シオンは夏季休暇を過ごすため実家へと向かう。
多少の寂しさを感じつつも家路に着いたシオンだったが、この数日後すぐに友人たちと再会することになるなどとはカケラも思いはしなかった。
シオンが戻ると玄関で優しい母に出迎えられ、ぎゅっと抱きあい久方振りの再会を喜んだ。
荷物を部屋に置き、制服から普段着へと着替え庭で待つ母の元へと向かう。
お茶の準備を整えた母が待つそこに父アロルドと兄リオルの姿はなく、どうしたのかと母に尋ねようと口を開いた時だった。
「シオン戻っているか!?」
慌てた様子のアロルドは庭に妻とシオンの姿を見つけると大股で歩み寄り、がっしりとシオンの肩を掴んだ。
「あらあなたお帰りなさい」
「お帰りなさい、父様」
「少々まずいことになった。今すぐ城へ行くぞ」
「え……?王との面会は明日のはずじゃ?」
何故父がこんなに焦っているのか、何故兄がいないのか。わけがわからずぽかんとした様子のシオンをアロルドはそのまま肩を押して乗ってきた馬車に押し込める。
「あら、せっかくお茶を用意したのに……」
「すまんな、イェシカ。シオンの代わりにティカとお茶を楽しんでくれ」
そう言ってアロルドがイェシカの前に押し出したのはファーカシスに仕える執事のティカだった。
優秀な執事であるティカは『ぼん、きゅ、ぼん』と評されるに相応しいスタイルの美人であるが、男物の執事服を着こなす麗しの麗人である。それはシオンのように男装というわけではなくその職業上、仕事着が執事服であるというだけだ。そのためその『ぼん』の部分はしっかりと強調された形となっている。
「それじゃあシオン、戻ってきたら学園のこととか教えてね?」
「はい、母様」
ひらひらと手を振り見送る母に馬車の窓から顔をだして手を振りかえすとシオンを乗せた馬車は慌しく出発した。
落ち着かない様子で窓枠を指でトントンと叩く父を見つめ、シオンは今は声をかけるべきでないと悟り小さく息をつく。窓の外の景色が流れる速度がいつも以上に速かった。
シオンが帰宅して再び家を出るまでの時間は二十分といったところだろうか。
そしてそれからさほど時間はかからずに馬車は城へと到着し、すでに来ることがわかっていたらしく手続きもほとんどないままに王宮へと通された。
通されたのはシオンが幼い頃にアロルドと共に王と面会した部屋。
当時と違っていたのはすでに王が席に着きシオンたちを待っていたというところだった。




