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『ネットスキル大戦』  作者: ネコロビン


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第9話 決着

第9話 決着


神崎レンが走る。


デイビッド・ウォーカーも走る。


互いに真正面。


距離。


三十メートル。


二十五。


二十。


十五。


先に撃ったのはデイビッド。


一発。


レンが右へ。


二発目。


左。


三発目。


しゃがむ。


弾丸が頭上を抜ける。


レンも撃つ。


一発。


デイビッドの肩。


掠める。


二発目。


外れる。


三発目。


デイビッドが身体を捻る。


二人とも止まらない。


近づく。


十メートル。


五。


レンが銃を横へ振る。


デイビッドが受ける。


銃身がぶつかる。


金属音。


レン。


膝。


デイビッド。


避ける。


拳。


レンの頬。


「っ!」


レンが一歩下がる。


デイビッドが追う。


銃口。


胸。


レンが手首を掴む。


上へ。


発砲。


空。


そのまま身体を入れ替える。


デイビッドの背中を押す。


転ばない。


振り返る。


蹴る。


レンの腹。


二人が離れる。


世界中が。


息を止めて見ていた。


*


実況席。


『近い! 近すぎます!』


『両者、もう完全に相手の癖を知っていますね』


『撃っても避ける! 近づいても決まらない!』


『二年前まで何度も戦った相手ですからね』


画面。


レン。


デイビッド。


両者の残存耐久値。


《REN:41%》


《DAVID:46%》


ほぼ同じ。


『本当に互角です!』


*


レンは呼吸を整えた。


「……四十一か」


表示を確認する。


デイビッドも自分の数値を見ている。


「四十六?」


レンが聞く。


「教えると思うか?」


「顔に出てる」


「嘘つけ」


「四十六だろ」


デイビッドが少し笑う。


「お前は四十一」


レンが顔をしかめる。


「見えてんの?」


「顔に出てる」


「真似すんなよ」


二人が笑う。


そして。


同時に真顔へ戻る。


レンの視界。


《REWIND:READY》


デイビッドの右手。


ほんの少し動く。


レンは見逃さない。


《ZERO》。


来る。


「使う?」


レンが言った。


「使ってほしいのか?」


「どっちでも」


「なら」


デイビッドが手を上げる。


「使わない」


レンの眉が動く。


「……へえ」


デイビッドが走る。


銃。


レンも。


銃声。


右。


左。


柱。


都庁の広場。


二人は遮蔽物を使いながら距離を変える。


デイビッド。


撃つ。


レン。


柱の裏。


一発。


二発。


三発。


止まる。


レンは出ない。


デイビッドも待つ。


数秒。


静寂。


レンが下を見る。


影。


デイビッドの影が。


柱の反対側から伸びている。


「そこか」


レンが飛び出す。


撃つ。


だが。


いない。


「?」


影だけ。


次の瞬間。


上。


「レン!」


声。


レンが見上げる。


デイビッド。


柱を蹴って。


上から。


落ちてくる。


「うわっ!」


発砲。


レン。


肩。


《DAMAGE:13%》


レンも撃つ。


デイビッド。


腹。


《DAMAGE:17%》


二人が転がる。


起きる。


《REN:28%》


《DAVID:29%》


レンが笑った。


「揃ったな」


デイビッドも。


「気持ち悪いくらいな」


一発。


当たり方次第では。


終わる。


*


現実。


日本代表の四人。


田所。


アヤ。


三枝。


ナナ。


誰も喋っていない。


巨大モニターを見る。


ナナが手を握っている。


「レンさん……」


田所が言う。


「大丈夫だ」


アヤが見る。


「根拠は?」


「ない」


「じゃあ言わないで」


三枝が画面を見る。


「でも」


三人が見る。


「神崎さん、楽しそうです」


確かに。


レンは笑っている。


ナナが呆れる。


「国家戦だよ?」


田所が笑う。


「だからだろ」


*


レン。


デイビッド。


距離。


十五メートル。


レンが言う。


「聞いていい?」


「何だ」


「《ZERO》」


デイビッドが黙る。


「クールタイム、どのくらい?」


「教えると思うか?」


「聞くだけタダ」


「九十秒」


レンが少し驚く。


「教えるんだ」


「もう戻ってる」


「……なるほど」


デイビッドが笑う。


「つまり」


右手。


「いつでも消せる」


レンの視界。


《REWIND:READY》


使えば。


《ZERO》。


封じられる。


使わなければ。


撃たれる。


レンが小さく笑う。


「嫌なスキルだな」


「お前に言われたくない」


デイビッドが走る。


レンも。


発砲。


レン。


避ける。


デイビッド。


さらに撃つ。


レン。


柱へ。


だが。


柱の直前。


デイビッドが撃つ方向を変えた。


柱ではない。


地面。


レンの足元。


弾丸。


レンが反射的に飛ぶ。


その先。


デイビッドがいる。


「読んだ!」


銃口。


レンの胸。


発砲。


《DAMAGE:CRITICAL》


「っ!」


レンの身体が後ろへ。


《REN:4%》


四パーセント。


あと一発。


いや。


拳でも終わるかもしれない。


デイビッドが走る。


「終わりだ!」


レンの視界。


《REWIND:READY》


「そう簡単に!」


「《巻き戻し》!」


世界。


三秒。


跳ねる。


レンは柱へ飛ぶ直前へ戻る。


体力。


《28%》


デイビッドが言う。


「待ってた!」


右手。


「《ZERO》!」


表示。


消える。


レンが笑った。


「それも待ってた!」


「何?」


レンは柱へ飛ばない。


さっきと違う。


真正面。


デイビッドへ。


「未来変えた!」


拳。


デイビッドが受ける。


レンが銃を上げる。


発砲。


デイビッド。


横へ。


弾丸。


肩。


「ぐっ!」


表示はない。


でも当たった。


デイビッドが撃つ。


レン。


避ける。


《ZERO》。


補助なし。


巻き戻しなし。


通信なし。


二人。


もう一度。


ただの人間になる。


だが。


レンは分かっていた。


《ZERO》の持続時間。


前回。


およそ三十秒。


「三十秒!」


「数えたか!」


「数えるだろ!」


デイビッドが笑う。


「なら!」


突っ込む。


二人。


殴る。


避ける。


蹴る。


撃つ。


銃弾。


壁。


柱。


床。


残弾表示もない。


レンは頭の中で数える。


一。


二。


三。


銃声。


四。


五。


デイビッドが距離を詰める。


六。


拳。


レンの顔。


七。


レンの膝。


デイビッドの腹。


八。


九。


離れる。


十。


デイビッドが撃つ。


レンが柱。


十一。


十二。


十三。


レンが出る。


デイビッド。


十四。


銃口。


十五。


発砲。


レンの腕。


痛み。


十六。


まだ。


十七。


デイビッドが叫ぶ。


「集中しろ!」


「してる!」


十八。


レンが撃つ。


十九。


外れる。


二十。


残り。


約十秒。


デイビッドも分かっている。


「レン!」


「何!」


「今回は!」


二十一。


「終わらせる!」


二十二。


デイビッドが走る。


速い。


二十三。


レンも。


二十四。


距離。


三メートル。


二十五。


デイビッド。


拳銃。


レン。


銃。


二十六。


互いに。


銃口。


二十七。


撃つ。


レンの銃。


カチッ。


弾切れ。


「最悪!」


二十八。


デイビッドが笑う。


「俺は数えてた!」


「またそれかよ!」


二十九。


デイビッド。


引き金。


レンは。


前へ出た。


後ろではない。


前。


銃口の内側。


デイビッドの腕を掴む。


弾丸。


レンの耳の横。


三十。


《ZERO:END》


表示。


戻る。


《REN:19%》


《DAVID:12%》


レンの視界。


《REWIND:COOLDOWN 30》


まだ使えない。


デイビッド。


十二パーセント。


「見えた!」


レンが叫ぶ。


デイビッドが腕を振りほどく。


レン。


銃は弾切れ。


デイビッド。


まだ残弾あり。


距離。


二メートル。


デイビッドが撃つ。


レン。


横。


弾丸。


肩。


《REN:8%》


「くっ!」


レンが倒れかける。


デイビッドがもう一発。


レン。


デイビッドの腕へ飛びつく。


銃口。


上。


発砲。


残弾。


あと?


デイビッドがレンを蹴る。


レンが転がる。


距離。


五メートル。


デイビッド。


銃。


レン。


武器なし。


《REN:8%》


《DAVID:12%》


デイビッドが銃を向ける。


「今度こそ」


レンが笑った。


「どうかな」


「巻き戻しはまだだ」


「知ってる」


「銃もない」


「うん」


「終わりだ」


デイビッドが引き金を引く。


カチッ。


静寂。


デイビッドの目が見開かれる。


レンも。


一瞬。


二人。


銃を見る。


「……お前も数えてないじゃん」


デイビッドが笑った。


「……マジか」


レンが立ち上がる。


デイビッド。


銃を捨てる。


「じゃあ」


拳。


「これで決めるか」


レンも拳を構える。


「いいね」


*


世界中。


誰も喋らない。


実況者さえ。


声が小さくなる。


『両者、残弾なし』


『スキルもすぐには使えません』


『最後は……』


『肉弾戦です』


*


レン。


デイビッド。


走る。


拳。


デイビッド。


レンの頬。


《DAMAGE》


レン。


残り。


《5%》


レンの拳。


デイビッドの腹。


《DAVID:7%》


デイビッド。


膝。


レン。


受ける。


《REN:3%》


レン。


肘。


デイビッド。


顔。


《DAVID:4%》


あと。


一撃。


どちらも。


二人。


離れる。


息をする。


現実の身体ではない。


それでも。


疲れている。


痛い。


怖い。


それでも。


笑っている。


デイビッドが言う。


「二年前」


「うん」


「お前が引退した時」


「うん」


「腹立った」


レンが笑う。


「ごめん」


「謝るな」


「じゃあ言うなよ」


「勝ち逃げされた気がした」


「勝ってないだろ」


「だからだよ」


レンが少し黙る。


「今日は逃げない」


「ああ」


デイビッドが構える。


レンも。


「決めよう」


「決めよう」


二人。


走る。


デイビッド。


右拳。


レン。


見える。


避ける。


だが。


フェイント。


左。


来る。


レン。


読んでいた。


さらに身体を沈める。


デイビッドの拳。


頭上。


レン。


懐へ。


拳。


腹。


だが。


デイビッドもレンの肩を掴む。


膝。


レンの腹へ。


ほぼ同時。


衝撃。


二人の身体が止まる。


《DAMAGE》


表示。


一瞬。


動かない。


レン。


《HP:1%》


デイビッド。


《HP:1%》


「……」


二人。


顔を見る。


同時に笑う。


「まだ?」


「まだ」


デイビッドが拳を上げる。


レンも。


最後。


本当に。


一発。


デイビッドが先に踏み込んだ。


レンも。


拳。


交差。


その瞬間。


レンは。


デイビッドの肩を見る。


ほんの少し。


右が上がった。


昔から。


デイビッドが本気で右を振る時の癖。


二年前から。


変わっていない。


「そこ!」


レンが半歩。


内側へ。


デイビッドの拳。


頬を掠める。


レンの拳。


デイビッドの胸。


命中。


《DAMAGE:1%》


デイビッドの身体が止まった。


目を見開く。


そして。


笑った。


「……覚えてたか」


レンも笑う。


「忘れるわけないだろ」


デイビッドの身体が光に包まれる。


《PLAYER DOWN》


《UNITED STATES:DAVID WALKER》


静寂。


一秒。


二秒。


そして。


空いっぱいに。


巨大な文字。


《WAR END》


《WINNER》


《JAPAN》


レンは。


その場に座り込んだ。


「……疲れた」


*


世界が。


爆発した。


日本。


歓声。


駅。


街。


居酒屋。


家庭。


路上。


巨大スクリーンの前。


「勝ったぁぁぁぁ!」


「日本!」


「神崎ぁぁぁ!」


抱き合う人。


泣く人。


跳ねる人。


そして。


「四・三倍の時に入れた俺、勝ち組!」


「俺アメリカに十万!」


「うわぁぁぁぁ!」


笑う人。


崩れ落ちる人。


海外。


アメリカ。


悔しがる人。


拍手する人。


デイビッドの名前を叫ぶ人。


そして。


オッズ画面。


《SETTLEMENT PROCESSING》


巨額の金が。


世界中で動き始める。


*


現実。


日本代表施設。


レンの目が開いた。


「っ――」


息を吸う。


天井。


白い。


現実。


頭部装置がゆっくり外れる。


「神崎!」


アヤの声。


レンが顔を向ける。


田所。


三枝。


ナナ。


全員いる。


ナナが真っ先に走ってくる。


「勝った!」


「見てた?」


「見てた!」


「俺、すごかった?」


「最後ダサかった!」


「なんで!」


「殴り合いじゃん!」


田所が笑う。


「でも勝った」


三枝が言う。


「残り一パーセントでした」


アヤが腕を組む。


「ほんとギリギリ」


レンが身体を起こす。


現実の身体。


傷はない。


それでも。


頬を触る。


痛みの記憶。


残っている。


「デイビッドは?」


黒崎が入ってくる。


「アメリカ側施設で正常覚醒を確認しています」


「そっか」


「なお」


黒崎がレンを見る。


「今回の日米代理戦争は、日本の勝利として正式に確定しました」


モニター。


《国際代理戦争協定に基づく勝敗確定》


《JAPAN WIN》


そして。


《北太平洋海底資源区域・第七鉱区》


《採掘比率》


《JAPAN 60%》


《USA 40%》


レンはそれを見る。


「本当に動くんだな」


黒崎が答える。


「そのための戦争です」


「俺たち五人で?」


「あなた方五人で」


七千万円。


歓声。


賭け。


ゲーム。


銃。


スキル。


それらの向こうで。


現実の国益が動く。


レンは改めて画面を見た。


そして。


思い出した。


「あ」


全員が見る。


「何?」


ナナが聞く。


レンが笑った。


「俺の十万円」


アヤの顔が引きつる。


黒崎が無表情になる。


「神崎選手」


「はい」


「その件については」


「やっぱダメ?」


「当然です」


田所が爆笑した。


レンも笑う。


戦争は終わった。


日本は勝った。


権益も手に入れた。


そして。


世界は。


何事もなかったように。


次の日を迎えようとしていた。

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