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『ネットスキル大戦』  作者: ネコロビン


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第4話 最初の脱落者

第4話 最初の脱落者


「向こうも、やる気みたいだし」


神崎レンがそう言った直後だった。


「田所!」


橘アヤが叫ぶ。


「おう!」


田所慎吾が右手を前へ突き出した。


「《障壁》!」


空間が歪む。


次の瞬間。


透明な壁が、日本代表五人を覆うように出現した。


直後。


銃声。


一発。


二発。


三発。


四発。


透明な障壁に弾丸が激突する。


光が弾けた。


「右!」


三枝ユウキが叫ぶ。


ビルの二階。


割れた窓。


アメリカ代表の一人が銃を構えている。


アヤが飛び出した。


「《加速》!」


姿が消えた。


――ように見えた。


一瞬後。


アヤは十メートル以上先にいた。


道路を蹴る。


車のボンネット。


さらに蹴る。


二階の窓へ。


「速っ!」


白石ナナが叫ぶ。


アヤが窓から建物へ飛び込んだ。


銃声。


室内。


アメリカ代表が後退する。


アヤが追う。


だが。


「待て、アヤ!」


レンの声。


遅かった。


床が――消えた。


「え?」


アヤの身体が落ちる。


一階へ。


いや。


違う。


床は消えていない。


見えなくなっただけだ。


アヤが下階へ落下。


着地。


すぐに銃を構える。


「……何?」


二階にいたアメリカ代表が笑った。


男。


黒人。


長身。


《MICHAEL REED》


世界中の視聴者の画面に名前が表示される。


そして。


《SKILL:MIRAGE》


――幻影。


*


『出ました! マイケル・リードの《幻影》!』


実況席が沸く。


『これはどういう能力でしょうか!?』


『一定範囲の視覚情報を書き換えるスキルです! 今の床は実際には存在していました。しかし橘選手には、床が消えたように見えた!』


『では、存在しないものを存在するように見せることも?』


『可能です!』


*


「面倒くさい能力!」


アヤが吐き捨てる。


マイケルが二階から飛び降りた。


アヤへ銃口を向ける。


発砲。


アヤが横へ飛ぶ。


壁へ。


「《加速》!」


一瞬。


マイケルの視界からアヤが消える。


背後。


アヤが銃を構えた。


「遅い!」


撃つ。


だが。


弾丸はマイケルをすり抜けた。


「なっ――」


幻。


本物は。


「アヤ! 上!」


レンの声。


天井。


マイケルが階段の踊り場から撃つ。


アヤが転がる。


肩を弾丸が掠める。


《DAMAGE:12%》


「ちっ!」


*


外。


田所の障壁に銃弾が集中していた。


「あと何秒!?」


ナナが叫ぶ。


「八!」


「短い!」


「文句言うな!」


田所の額に汗が浮かぶ。


障壁は無敵ではない。


攻撃を受けるたびに表面へ亀裂のような光が走る。


レンは障壁の向こうを見る。


屋上。


窓。


路地。


三方向。


「三枝」


「はい!」


「人数は?」


「分かりません!」


「《残響》は?」


「再使用まで二十秒!」


「じゃあ目で探すしかないな」


「簡単に言いますね!」


銃声。


障壁。


さらに亀裂。


田所が叫ぶ。


「あと五秒!」


ナナがスマートフォンを操作するような仕草をした。


実際には何も持っていない。


「じゃあ私の番」


レンが見る。


「何体?」


「三つ」


「いける?」


「たぶん」


「たぶん?」


ナナが笑った。


「国家戦で使うの初めてだから」


「おい」


「《複製》!」


ナナの身体が揺らいだ。


一人。


二人。


三人。


そして本物。


四人の白石ナナが並ぶ。


全員同じ服。


同じ銃。


同じ表情。


田所が笑った。


「何度見ても気持ち悪いな」


四人のナナが同時に言う。


「失礼な」


「声まで出るのか」


レンが一体を見る。


「どれが本物?」


「教えるわけないでしょ」


「味方だぞ」


「レンさん、口軽そう」


「ひどいな」


田所が叫ぶ。


「消えるぞ!」


障壁が砕けた。


「散れ!」


四人のナナが別々の方向へ走った。


同時。


敵の銃撃。


一体目。


撃たれる。


身体に穴が開く。


しかし血は出ない。


ノイズとなって消える。


「ハズレ!」


別方向。


二体目。


敵が照準を移す。


その瞬間。


本物のナナが建物の陰から発砲。


「見っけ!」


屋上の敵が身を隠した。


レンも走る。


道路を横断。


弾丸。


車。


壁。


路地。


すべてを使う。


普通の人間なら身体を隠しながら走る。


レンは違う。


敵が撃つ瞬間だけ身体をずらす。


銃口を見る。


向き。


指。


肩。


「そこ!」


レンが撃つ。


ビル三階。


窓際の敵が引っ込む。


「田所!」


「おう!」


田所が走ってくる。


「次の障壁まで?」


「三十五秒!」


「長いな」


「だから文句言うな!」


三枝の声。


「《残響》、戻りました!」


「使って!」


三枝が目を閉じる。


「《残響》!」


世界から色が薄れる。


三枝にだけ見える。


過去。


数秒前。


この場所を移動した者たちの痕跡。


青。


味方。


赤。


敵。


「……一人、上!」


「どこ?」


「レンさんの真上!」


レンが空を見る。


遅い。


人影が降ってきた。


「うおっ!」


アメリカ代表。


女。


短い茶髪。


《SARAH MILLER》


サラが落下しながらレンへ銃を向ける。


レンも向ける。


ほぼ同時。


発砲。


レンの腹に一発。


サラの脚に一発。


二人が地面を転がる。


《DAMAGE:REN 31%》


《DAMAGE:SARAH 22%》


「痛ってえ!」


レンが起きる。


サラも起きる。


互いに銃。


近い。


五メートル。


撃つ。


レンが横へ。


サラも。


銃弾。


車の窓が砕ける。


レンが車のボンネットへ飛び乗る。


サラが追う。


レンが蹴る。


サラが腕で防ぐ。


「銃撃戦じゃないのかよ!」


田所が遠くから叫ぶ。


「近いんだよ!」


レンがサラの銃を掴む。


銃口を逸らす。


発砲。


レンの耳元を弾丸が抜ける。


サラが膝蹴り。


レンの腹。


「ぐっ!」


後退。


サラが銃を向ける。


その瞬間。


レンの視界に表示。


《REWIND:READY》


「やっとか」


サラが撃つ。


レンの胸。


命中。


《DAMAGE:CRITICAL》


「《巻き戻し》!」


三秒。


世界が跳ねる。


レンはサラの銃を掴んでいた瞬間へ戻った。


未来を知っている。


サラが膝を上げる。


来る。


レンは先に身体をずらした。


膝蹴りが空振り。


サラの目が見開かれる。


「Sorry」


レンが足を払う。


サラが倒れる。


銃口。


頭。


引き金――。


その瞬間。


レンの視界が真っ白になった。


「!?」


何も見えない。


マイケル。


《幻影》。


「くそっ!」


レンは撃たずに後ろへ飛ぶ。


直後。


さっきまで頭があった場所を弾丸が通過。


「神崎!」


アヤの声。


建物から飛び出してくる。


肩から血。


その後ろ。


マイケル。


「こいつ、うざい!」


「見れば分かる!」


「見えてるものが本物とは限らない!」


「それも分かった!」


サラが起きる。


マイケルと合流。


二人。


日本側。


レン。


アヤ。


少し離れて田所、三枝、ナナ。


五対二。


だが。


「……おかしい」


三枝が呟いた。


レンが振り向く。


「何が?」


「アメリカ、あと三人いる」


デイビッド。


狙撃手エミリー。


そしてもう一人。


「どこ?」


三枝が《残響》を見る。


赤い痕跡。


「…………」


顔色が変わる。


「田所さん!」


「ん?」


「後ろ!」


田所が振り返る。


誰もいない。


「何も――」


突然。


空間が歪んだ。


男が現れた。


アメリカ代表。


大柄。


迷彩服。


《JACK COOPER》


田所との距離。


一メートル。


「は?」


ジャックが笑った。


右手。


拳銃。


田所の胸へ。


発砲。


一発。


二発。


三発。


「田所!!」


《DAMAGE:CRITICAL》


田所がよろめく。


反射的に手を出す。


「《障壁》!」


透明な壁。


ジャックとの間。


しかし。


ジャックは笑った。


その身体が――。


障壁を通り抜けた。


田所の目が見開かれる。


「なんだ……それ」


ジャックのスキル。


《PHASE》


――透過。


身体そのものを、短時間だけ物体との衝突判定から外す。


壁。


扉。


そして。


障壁。


すべてを抜ける。


ジャックが田所の背後へ。


「慎吾!」


レンが走る。


遠い。


間に合わない。


アヤが《加速》を使おうとする。


《COOLDOWN》


まだ使えない。


ナナが撃つ。


弾丸。


ジャックは再び透過。


抜ける。


三枝が叫ぶ。


「スキル終了まで二秒!」


二秒。


田所が振り返る。


「だったら――」


血まみれの身体で笑った。


「二秒稼げばいいんだろ!」


田所がジャックへ突っ込んだ。


「慎吾!?」


ジャックを掴もうとする。


腕が身体を抜ける。


一秒。


ジャックが銃を向ける。


ゼロ。


透過解除。


その瞬間。


田所がジャックを抱きしめた。


「捕まえた」


ジャックの表情が変わる。


「ナナ!」


「え!?」


「撃て!」


「でも!」


「撃て!!」


ナナが一瞬止まる。


田所とジャック。


完全に重なっている。


「早くしろ!」


田所が叫んだ。


ナナが歯を食いしばる。


銃を構える。


「ごめん!」


連射。


田所の背中。


弾丸が入る。


貫通。


ジャックにも。


《DAMAGE》


《DAMAGE》


《DAMAGE》


田所が笑う。


「それでいい」


ジャックが田所を突き飛ばす。


しかし遅い。


身体に複数の弾丸。


ジャックが膝をつく。


田所も。


二人の視界に表示される。


《FATAL DAMAGE》


レンが走る。


「慎吾!」


田所がレンを見る。


「勝てよ」


「お前――」


「七千万」


田所が笑った。


「俺の分もくれ」


「それは嫌だ」


「ケチ」


田所の身体が光に包まれる。


同時。


ジャックも。


《PLAYER DOWN》


《JAPAN:SHINGO TADOKORO》


《UNITED STATES:JACK COOPER》


二人の身体がノイズとなって消えた。


戦場から。


完全に。


*


世界中の画面が沸騰した。


『出たぁぁぁぁぁ!!』


『両国、最初の脱落者です!!』


《JAPAN 4》


《USA 4》


『田所慎吾、ジャック・クーパーを道連れにしました!』


『日本代表、防御の要を失いました!』


『しかしアメリカも《透過》という極めて危険なスキルを持つ選手を失っています!』


オッズが激しく動く。


《USA 1.76》


《JAPAN 3.62》


《USA 1.91》


《JAPAN 3.29》


賭け金が流れ込む。


歓声。


悲鳴。


怒号。


スマートフォンを握り締める人々。


「田所ぉぉぉ!」


「よくやった!」


「日本いけるぞ!」


「俺、田所生存に賭けてたんだけど!」


「ジャック何やってんだよ!」


世界中が盛り上がっていた。


*


だが。


東京には歓声など聞こえない。


レンは田所が消えた場所を見ていた。


何も残っていない。


血も。


死体も。


銃も。


すべて消えた。


ナナが自分の銃を見る。


「……私」


声が震えていた。


「田所さん、撃った」


アヤが言う。


「田所が撃てって言った」


「でも」


「それで敵を一人落とした」


ナナは黙る。


レンが歩いてくる。


「ナナ」


「……何?」


「あとで本人に文句言えばいい」


「え?」


「今頃、現実で起きてるよ」


ナナが顔を上げる。


レンは笑った。


「死んでない」


「…………」


「だから戦争できるんだろ」


ナナが少しだけ笑った。


「……そうだった」


「忘れるなよ」


その瞬間。


遠くで銃声。


レンの顔が変わる。


「伏せろ!」


四人が散る。


狙撃弾。


地面。


エミリー。


まだいる。


そして。


レンは高層ビルの上を見る。


人影。


デイビッド。


こちらを見下ろしている。


レンには分かった。


距離があっても。


あいつだ。


デイビッドは撃たない。


ただ。


こちらを見ている。


そして踵を返した。


「待て!」


レンが走ろうとする。


アヤが腕を掴む。


「神崎!」


「分かってる!」


レンは止まった。


まただ。


追えば。


誘われる。


三枝が周囲を見る。


「四対四です」


アヤが言う。


「田所がいなくなった。もう障壁はない」


ナナの複製。


三枝の残響。


アヤの加速。


レンの巻き戻し。


残った四つのスキル。


対するアメリカ。


デイビッド。


エミリー。


マイケル。


サラ。


そして。


まだ誰も知らない。


デイビッドとエミリーとサラ。


三人のスキルは――。


まだ一度も公開されていない。


レンが銃の弾倉を交換する。


「面白くなってきたな」


アヤが睨む。


「一人落ちたのよ」


「だからだよ」


レンは高層ビルを見上げる。


もうデイビッドはいない。


「ここからは、一回のミスで終わる」


《JAPAN 4》


《USA 4》


戦争はまだ。


始まったばかりだった。

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