第24話 二発を使わせた
『ネットスキル大戦』
第3部 日本VSオーストラリア
第7話 二発を使わせた
《WINNER》
《JAPAN》
その表示は。
世界中で。
同時に映っていた。
東京。
駅前。
巨大モニター。
歓声。
「勝った!」
「十二歳だぞ!」
「最後一人で倒した!」
「いや、あれ神崎だろ!」
「神崎はやられたじゃん!」
「わざとだって!」
「わざとなの!?」
誰もが。
好き勝手に言っていた。
*
中継スタジオ。
大型モニター。
最後の場面が。
もう一度。
再生される。
ノア。
《DOUBLE》
一発目。
レン。
回避。
二発目。
レン。
被弾。
《HP 0%》
映像。
停止。
解説者が言った。
「ここですね」
アナウンサー。
「神崎選手は二発目を避けませんでした」
「はい」
「避けられなかった、ではなく?」
解説者。
「少なくとも私は、避けなかったと見ています」
映像。
少し戻る。
一発目。
レンが左へ。
二発目。
その左へ。
ノアが照準を設定。
「神崎選手には0.5秒先が見えていた」
「つまり二発目も?」
「見えていた可能性が高い」
「では、なぜ?」
解説者が。
画面の端を指す。
ハル。
「相沢選手です」
映像。
再生。
レン。
HP0%。
その瞬間。
ハル。
《SPEED》
ノアへ。
「ノア・ベネット選手の《DOUBLE》は非常に強力です。ただし、二発を撃った直後にもう一度《DOUBLE》は使えない」
「神崎選手は――」
「二発とも、自分に使わせた」
映像。
ノアが振り向く。
ハル。
接近。
「相沢選手を止めるための《DOUBLE》を残させなかった」
アナウンサー。
「自分が脱落することを前提に?」
「そう考えるのが自然でしょう」
「国家代表戦で、自分を捨て駒にした?」
解説者。
少し笑った。
「捨て駒ではありません」
「では?」
「勝つために、自分のHPを使ったんです」
画面。
《JAPAN WIN》
*
オーストラリア代表。
記者会見。
五人。
ノアは。
中央に座っていた。
記者。
「ベネット選手」
「はい」
「最後の《DOUBLE》ですが、神崎選手に読まれていたと思いますか?」
ノア。
少し考える。
「違う」
「違う?」
「読まれたんじゃない」
顔を上げる。
「使わせられた」
会場。
静かになる。
「一発目を避けて、二発目の位置まで誘導された?」
「そこまでは分からない」
「では、何を?」
ノア。
「俺に二発撃たせれば、十二歳の方が動ける」
「相沢選手ですか」
「そう」
ノアは椅子にもたれる。
「分かってたんだろ。神崎は」
「自分が脱落することも?」
「たぶんな」
別の記者。
「後悔は?」
「何の?」
「最後の《DOUBLE》です」
ノア。
首を横に振る。
「同じ状況なら撃つ」
「では、どうすれば?」
「次は――」
少し笑う。
「あの状況にされないようにする」
*
ジャックにも質問が飛ぶ。
「今回、日本代表の新加入選手、相沢ハル選手については?」
「速かった」
「それだけ?」
「十分だろ」
笑い。
ジャックも笑う。
「ただ」
少し考える。
「最初は本当に、速いだけだった」
「途中から?」
「変わった」
ノアが横から言う。
「一回撃たれたからな」
ジャック。
「十二歳は成長が早いらしい」
「一試合の途中ですよ?」
「だから困るんだよ」
*
日本。
記者会見。
五人。
中央には。
レン。
その隣。
ハル。
ハルの前だけ。
マイクの位置が少し低い。
レンがそれを見ている。
ハル。
「何ですか?」
「いや」
「?」
「ちゃんと十二歳なんだなって」
「十二歳ですよ」
田所。
「試合中忘れてたのかよ」
会場。
笑い。
記者。
「神崎選手」
レン。
「はい」
「最後の場面について伺います」
「はい」
「二発目は見えていましたか?」
「見えてました」
即答。
少し。
ざわめく。
「では、避けることも?」
「できたと思います」
「なぜ避けなかったのでしょう?」
レン。
「《DOUBLE》だったから」
「と言いますと?」
「二発しか撃てない」
レンは。
指を二本立てる。
「一発目も俺」
一本。
「二発目も俺」
もう一本。
「これで二発なくなる」
記者。
「その後を相沢選手に?」
「ハルなら行けると思ったから」
ハルが。
レンを見る。
記者。
「相沢選手とは事前に打ち合わせを?」
レン。
「してないです」
「え?」
ハル。
「聞いてません」
記者。
「では相沢選手は、神崎選手がわざと二発目を受けることを知らなかった?」
「はい」
「それで、すぐ動けた?」
ハル。
少し考える。
「レンさんが0%になったから」
「はい」
「僕が行くしかないと思って」
レン。
「ちゃんと行っただろ?」
「行きました」
「だから言わなくてもいいかなって」
田所。
「雑すぎるだろ」
また。
笑い。
*
別の記者。
「相沢選手」
「はい」
「十二歳での国家代表戦初出場。そして勝利です」
「はい」
「緊張は?」
「最初は」
「途中からは?」
ハル。
考える。
「忘れてました」
「試合に集中して?」
「ノアさんに撃たれて」
会場。
少し笑う。
ハルは真面目な顔。
「悔しかったので」
レンが横を見る。
ハル。
続ける。
「速ければ当たらないと思ってました」
「しかし実際には?」
「当てられました」
「最後は逆に、途中で止まりましたね」
「はい」
「なぜ?」
ハル。
「一回やられたから」
オーストラリアの会見と。
同じ言葉だった。
「同じことをやったら、また当てられると思ったので」
記者。
「わずか一試合で戦い方を変えた?」
ハル。
「変えないと負けるので」
レンが。
小さく笑った。
*
今度はレンへ。
「神崎選手」
「はい」
「新しいスキルについても聞かせてください」
「0.5秒の?」
「はい」
「練習しました」
「今回のマップを見てから?」
「そうです」
「かなり役立ったのでは?」
レン。
「役立ちました」
「今後さらに先まで見えるようになる可能性は?」
レン。
「分かりません」
「一秒、二秒と?」
「できたら強いでしょうね」
「目指しますか?」
レンは。
少し考える。
「必要になったら」
記者。
「必要になったら?」
「次の相手が決まってから考えます」
*
会見終了。
選手たちが立つ。
ハルも。
椅子から降りる。
記者の一人が最後に声をかけた。
「相沢選手!」
ハル。
振り返る。
「今日はこのあと何を?」
「帰ります」
「ご家族とお祝いですか?」
ハル。
「その前に」
一瞬。
嫌そうな顔。
「宿題やります」
会場。
笑い。
レン。
「まだやってなかったの?」
「試合あったので」
「昨日やっとけよ」
「レンさんも子供の頃、先にやってました?」
「……」
レン。
黙る。
ハル。
「やってなかったんですね」
「帰るぞ」
「はい」
五人が。
会見場を出ていく。
*
大型モニター。
試合結果。
《INTERNATIONAL PROXY WAR》
《JAPAN VS AUSTRALIA》
《WINNER:JAPAN》
その下。
今回の権益移転が表示されている。
街を歩く人々は。
それを見上げ。
数秒後には。
また歩き始める。
次の代理戦争が。
いつ。
どことどこの国で行われるのか。
まだ誰も知らない。
ただ。
今日。
一人の十二歳が。
世界最大級の国家間ゲームに。
名前を残した。
そして。
その十二歳は今。
勝利の余韻より先に。
明日提出する宿題のことを考えていた。
⸻
第3部 完




