第19話 速いだけ
『ネットスキル大戦』
第3部 日本VSオーストラリア
第2話 速いだけ
開戦当日。
東京。
駅前の巨大モニターには、朝から同じ数字が表示されていた。
《INTERNATIONAL PROXY WAR》
《JAPAN VS AUSTRALIA》
《STAKE》
《国際砂漠太陽光発電区・年間電力購入優先枠》
そして。
《ODDS》
《JAPAN 1.91》
《AUSTRALIA 2.04》
ほぼ互角。
スマートフォンを見ながら歩く男が言った。
「日本かな」
隣の女。
「十二歳に国益賭けるの?」
「選考一位だぞ」
「十二歳でしょ?」
「だからオッズ上がってんじゃん」
「じゃあオーストラリア」
「いくら?」
「三千」
「少なっ」
信号が変わる。
二人は歩き出した。
巨大モニター。
試合開始まで。
《00:08:41》
*
日本代表施設。
五台のダイブ装置。
レンが横を見る。
田所。
アヤ。
三枝。
そして。
一番端。
相沢ハル。
装置が。
少し大きく見える。
「なあ」
レン。
「はい?」
「学校は?」
「休みました」
「いいの?」
「公欠です」
「代理戦争って公欠になるんだ……」
田所。
「そこ今気になる?」
「気になるだろ」
ハルが装置へ入る。
「宿題は持ってきました」
「もっと気になる情報増えた」
アヤが笑う。
「帰ってからやるの?」
「勝ったら」
レン。
「負けたら?」
「やります」
「勝ってもやれよ」
《DIVE SYSTEM READY》
音声。
会話が止まる。
五人。
横になる。
レンは目を閉じた。
暗転。
一瞬。
身体の感覚が。
消える。
そして。
戻る。
*
熱くない。
乾いてもいない。
それでも。
目を開けた瞬間。
砂漠だと思った。
青い空。
白い太陽。
どこまでも続く砂。
巨大な砂丘。
黒い岩。
遠く。
地面に刻まれた塹壕。
さらに奥。
大地そのものを裂いたような。
巨大な峡谷。
風。
砂が流れる。
レンが自分の手を見る。
「……嫌いじゃない」
田所。
「お前、月面も好きって言ってなかった?」
「好き」
「都市も好きだろ」
「好き」
「何が嫌いなんだよ」
レンが少し考える。
「水中」
「あるのか?」
「知らない」
三枝が銃を確認する。
「敵位置は当然非表示」
アヤ。
「初期配置も離れてる」
ハルは。
砂を踏んでいた。
一歩。
もう一歩。
「走りにくい」
レンが見る。
「影響ある?」
「少し」
「SPEEDにも?」
「使ってみないと分かりません」
田所。
「本番で?」
「本番で」
「十二歳怖えな」
ハルが笑った。
表示。
《JAPAN》
《5 PLAYERS》
《AUSTRALIA》
《5 PLAYERS》
そして。
《START》
*
「散るぞ」
三枝の声。
五人が動く。
田所とアヤ。
中央。
三枝。
高い岩場。
レンとハル。
右側。
最初から五人で固まらない。
砂丘を越える。
レンが前を見る。
何もいない。
遮蔽物。
少ない。
「ハル」
「はい」
「勝手にSPEED使うなよ」
「どうして?」
「一人で敵陣まで行くから」
「行けますよ」
「行けるかどうかじゃない」
「じゃあどこまで?」
「俺が見える範囲」
ハルがレンを見る。
「遅くないですか?」
「お前に合わせたら全員遅いんだよ」
通信。
『接敵』
三枝。
全員が止まる。
『中央。二人』
レン。
「誰?」
『リアム・クーパー。クロエ・ウィルソン』
田所。
『こっちでも見えた』
アヤ。
『撃つ?』
『まだ』
三枝。
その瞬間。
銃声。
砂。
三枝の顔の横で弾けた。
『――見つかってる!』
全員。
動く。
二発目。
三枝が岩から滑り降りる。
《SAEGUSA HP 88%》
レン。
「エミリーか」
遠距離。
狙撃手。
姿は見えない。
通信。
田所。
『中央二人、動いた!』
銃声。
始まる。
*
リアムが塹壕へ飛び込む。
クロエも続く。
田所が撃つ。
砂。
塹壕の縁が削れる。
「入った!」
アヤ。
「追う?」
田所が塹壕を見る。
「いや。上から――」
人影。
リアム。
塹壕から顔を出す。
田所。
発砲。
《SHIELD》
弾丸。
リアムの正面。
光。
ダメージ。
小さい。
「硬っ!」
リアムが笑う。
「正面ならな!」
撃ち返す。
田所。
岩陰。
アヤも伏せる。
クロエ。
塹壕の中。
動く。
「右から回る」
リアム。
「了解!」
*
レンは。
遠くの銃声を聞いていた。
ハルが横にいる。
「行かなくていいんですか?」
「行くよ」
「SPEED使っていい?」
「まだ」
「いつ?」
「俺が言ったら」
「はい」
レンが砂丘の上へ。
少し。
顔を出す。
何も――
視界。
ズレた。
レンの目に。
一瞬。
別の景色。
銃弾。
自分の頬。
砂。
「!」
頭を下げる。
直後。
銃声。
弾丸が。
さっきまで顔のあった場所を通過した。
ハル。
「……今の?」
レン。
息を吐く。
「成功」
「新派生?」
「うん」
「0.5秒?」
「うん」
「短いですね」
「お前それ二回目だからな」
ハルが砂丘の向こうを見る。
「狙撃手?」
「たぶん」
レンは考える。
今の角度。
遠い。
エミリー。
こちらまで見ている。
なら。
「ハル」
「はい」
「使っていい」
「どこまで?」
レンが前方を指す。
黒い岩。
さらに先。
塹壕。
「最初の岩まで」
「近い」
「命令」
「はい」
ハルが構える。
《SPEED》
消えた。
砂。
爆発。
「うわっ!」
レンが顔を覆う。
一直線。
砂煙が走る。
そして。
黒い岩。
ハル。
到着。
「……速」
通信。
『着きました』
「見えてる」
『次は?』
「待て」
『はい』
レンが走る。
普通に。
「これ俺いる?」
*
オーストラリア。
ジャックが遠くを見る。
砂。
一本の線。
「SPEED」
クロエ。
『見えた?』
「いや」
『じゃあどうして?』
「砂」
高速で巻き上がった砂煙。
その終点。
黒い岩。
ジャックが銃を上げる。
《MARK》
一瞬。
岩陰からハルの身体が見えた。
《TARGET》
《AIZAWA HARU》
表示。
消える。
だが。
ジャックの視界。
マーカーだけが残った。
「捕まえた」
*
ハル。
岩陰。
「レンさん」
『何?』
「なんか付いた」
レンが走りながら答える。
「何が?」
「マークみたいなの」
レン。
止まる。
「……ジャック」
『たぶん』
「位置バレてるぞ」
『どうします?』
「動くな」
『でも位置バレてるんですよね?』
「だから動くな」
ハル。
少し考える。
『分かりました』
レンは砂丘へ伏せる。
敵がハルの位置を知っている。
なら。
撃ってくる。
どこから。
レン。
視界。
0.5秒。
未来。
岩。
弾丸。
右。
「ハル! 左!」
ハル。
《SPEED》
一瞬。
左。
銃声。
岩に着弾。
「そこ!」
レンが銃を向ける。
遠く。
発砲地点。
撃つ。
当たらない。
だが。
人影が動いた。
ジャック。
「見つけた」
ハル。
『行きます?』
「待てって」
『でも見えてるんですよね?』
「距離ある!」
『すぐです』
「ハル!」
《SPEED》
消えた。
「おい!」
*
ジャック。
「来る」
エミリー。
遠方から照準。
「追えない」
ジャック。
「追うな」
「じゃあ?」
「到着地点」
ハルのマーカー。
異常な速度で動く。
砂丘。
岩。
塹壕。
その先。
ジャック。
「こっちへ来る」
エミリー。
照準を置く。
だが。
ハル。
方向変更。
速い。
照準。
間に合わない。
ジャックが後退する。
「ノア」
通信。
『見えてる』
「任せる」
*
ノア・ベネット。
砂丘の向こう。
銃を構えている。
遠く。
砂煙。
一直線に。
こちらへ来る。
速い。
笑う。
「本当に速いな」
視界。
照準。
一つ。
砂煙の先端。
設定。
もう一つ。
少し先。
黒い岩。
ハルが。
次に遮蔽物として使う場所。
設定。
《DOUBLE》
ノアは。
待つ。
砂煙。
近づく。
一つ目。
発砲。
ハルには見えた。
銃口。
弾丸。
《SPEED》
横。
一発目。
通過。
「遅い」
そのまま。
黒い岩へ。
次の瞬間。
銃声。
もう一発。
ほとんど。
間がない。
「え?」
ハル。
到着。
そこへ。
二発目。
命中。
《AIZAWA HARU》
《HP 76%》
ハルの身体が。
砂の上を転がった。
「っ……!」
止まる。
表示。
76。
ハルは。
それを見た。
初被弾。
「……当たった」
ノア。
遠く。
銃を下ろす。
「速いだけなら」
二つの照準が。
消える。
「撃つ場所を先に決めればいい」
*
レン。
ようやく。
追いつく。
倒れたハル。
その先。
ノア。
レンが銃を構える。
ノアも。
レンを見る。
一瞬。
二人の視線。
重なる。
ノア。
二つの照準。
レンの視界。
0.5秒先。
一発。
そして。
もう一発。
レンの顔から。
笑みが消えた。
「……二発?」
《DOUBLE》
銃声。
二つ。
レンは。
砂へ飛び込んだ。




