第2部 最終話 勝ったあと
『ネットスキル大戦』
第2部 スペインVSカナダ
最終話 勝ったあと
戦争が終わって。
十二分後。
世界ではもう、解説が始まっていた。
大型モニター。
テレビ。
スマートフォン。
何度も。
同じ映像が流れる。
月面。
クレーター。
ルシア・アルバレスが跳ぶ。
一度。
軌道変更。
二度。
三度。
そして。
エヴァン・クロフォードの弾丸を受けながら着地。
《HP 3%》
映像が止まった。
『ここですね』
解説者が画面を指す。
『今回、最も注目されたのはルシア選手が初披露した《ORBITAL》の新派生でした』
画面。
三本の線。
ルシアの軌道が表示される。
『空中で進行方向を最大三回変更できる。従来の《ORBIT》より急激な方向転換が可能になっています』
司会者が聞く。
『エヴァン選手も途中で三回という制限に気づいていました』
『ええ』
『では、なぜ最後に負けたのでしょう?』
解説者は少し笑った。
『簡単です』
映像。
再開。
三回。
使い切る。
エヴァンが撃つ。
ルシア。
被弾。
着地。
そして。
もう一度。
跳ぶ。
今度は。
軌道を変えない。
ただ。
低重力を使って。
エヴァンへ飛び込んでいく。
『ルシア選手は、スキルを使わなくても月面戦が上手かった』
司会者が黙る。
『三回使わせれば、特殊な空中機動は封じられる。エヴァン選手の判断は正しいです』
『でも――』
『飛ぶことそのものは封じていない』
画面。
二人がクレーターへ落ちる。
銃を失う。
最後は。
殴り合い。
『スキルを攻略した』
解説者が言う。
『それでも、選手本人を攻略したことにはならなかった』
*
日本。
テレビに。
ルシアの空中戦が流れている。
ソファ。
一人の男が寝転がったまま見ていた。
神崎レン。
「……うまいな」
近くにいた男が言う。
「お前も月面好きだったよな」
「好きだよ」
「得意だったか?」
レンはテレビを見る。
「……」
「レン?」
「好きだよ」
「得意だったかって聞いてんだよ」
少し。
沈黙。
「……苦手」
男が笑った。
レンは不満そうに画面を見る。
ルシアが。
月面を飛んでいる。
「でも好きなんだよ」
「誰もそこは否定してない」
*
解説は続いていた。
画面。
マテオ・ロハス。
三人に囲まれている。
『もう一つ』
『はい』
『この試合をルシア選手一人の勝利として見るのは、かなり違います』
映像。
ノアがマテオへ突っ込む。
《BOOST》
マテオ。
《ANCHOR》
ノアを掴む。
至近距離。
二発。
《NOAH HP 31%》
『マテオ選手はここで退場しています』
『三対一でした』
『ですがノア選手を31%まで削った』
映像。
変わる。
テオ。
ノア。
接近戦。
最後の一発。
《NOAH KING HP 0%》
『その31%を、テオ選手が引き継いだ』
次。
HP2%。
クレーターから出るテオ。
ソフィーの照準。
走る。
逃げない。
『そして終盤』
司会者。
『これはかなり危険な役割でしたね』
『HP2%ですからね』
『ほぼ一発です』
『ほぼ、ではありません』
『え?』
『一発で終わりです』
司会者が苦笑する。
『その状態で前へ出た』
映像。
ソフィーの照準がテオを追う。
エヴァンも。
一瞬。
テオを見る。
その間。
ルシア。
上空。
『HP2%でも』
解説者が言う。
『一人の代表です』
画面。
ルシアがソフィーへ飛び込む。
『敵は無視できない』
ソフィー。
消失。
直後。
テオも消える。
『マテオが削ったHPをテオが使った』
『テオが作った一瞬をルシアが使った』
『そうです』
画面。
カルラ。
イネス。
そして。
最後のルシア。
『一人ずつ、次へ渡している』
解説者は言った。
『五人で取った一勝でしょう』
*
数時間後。
スペイン。
記者会見場。
フラッシュ。
フラッシュ。
フラッシュ。
中央に。
五人。
カルラ。
マテオ。
イネス。
テオ。
そして。
ルシア。
テオが小声で言った。
「戦ってる時より緊張するんですけど」
マテオ。
「トイレ行くか?」
「もう行きません!」
ルシアが吹き出す。
カルラ。
「始まるから静かに」
「はい」
記者が立つ。
「ルシア・アルバレス選手へ」
「はい」
「最後はHP1%でした」
「そうみたいですね」
「怖くありませんでしたか?」
ルシアが少し考える。
「怖かったですよ」
記者席が少しざわつく。
「そうは見えませんでした」
「見せないようにしてたので」
「最後、エヴァン選手へ突っ込んだ時も?」
「めちゃくちゃ怖かったです」
「迷いは?」
「ありました」
「それでも行った?」
「待ってても勝てなさそうだったので」
短い答え。
記者が頷く。
別の記者。
「新派生について質問です」
ルシア。
「来た」
会場に小さな笑い。
「最大三回の方向転換という分析は正しいのでしょうか?」
「秘密です」
「すでに映像で――」
「秘密です」
「三回ですよね?」
「さあ?」
横。
イネスが小声。
「もうバレてるよ」
「言わなきゃ秘密」
「そういうもの?」
「たぶん」
カルラ。
「マイク入ってる」
二人。
黙る。
会場。
笑い。
次。
「マテオ選手」
「はい」
「三人に囲まれた場面について」
「はい」
「味方へ救援を求めなかったのは、三人を引きつけるためですか?」
「いや」
記者が止まる。
「違う?」
「三人来たから」
「はい」
「三人と戦った」
「……それだけですか?」
「それだけ」
「怖くは?」
マテオは少し考える。
「五人来なくて良かった」
記者席から笑い。
テオも笑った。
次。
「イネス選手」
「はい」
「最後にルシア選手を庇ったように見えました」
「庇ったというか」
「自己犠牲だった?」
イネスは首を振った。
「違います」
「では?」
「あのままだと二人とも落とされる可能性があったので」
「自分が残るより、ルシア選手を残した方が勝率が高いと?」
「はい」
即答。
記者が少し驚く。
「随分、冷静ですね」
「代理戦争なので」
ルシアが横から言う。
「でも助かったよ」
「知ってる」
「ありがとう」
「あとでジュース奢って」
「安っ」
また。
笑い。
そして。
「テオ・サンス選手」
テオ。
背筋を伸ばす。
「はい!」
「初めての国際代理戦争でした」
「はい」
「HP2%で前へ出た場面について――」
「あの」
「はい?」
テオが真顔になる。
「その前に一つ聞いていいですか?」
記者が困る。
「……どうぞ」
「住宅って」
カルラが。
目を閉じた。
「いつもらえるんですか?」
一瞬。
静かになる。
そして。
会場が笑いに包まれた。
ルシア。
机に突っ伏している。
イネス。
顔を手で覆う。
マテオだけ。
普通に頷いた。
「大事だな」
「ですよね!?」
カルラ。
「マテオまで乗らないで」
記者が笑いながら聞く。
「住宅と生涯年金ですね?」
「はい!」
「国の月面権益より気になりますか?」
テオは。
少し考えた。
「……俺の人生の権益なので」
ルシアが吹き出した。
「それ私が聞いたやつ!」
会見場。
また笑い。
*
アメリカ。
テレビ画面。
スペイン代表の会見。
その横。
小さな画面では。
試合映像が繰り返されていた。
エヴァン。
ルシア。
最後の一対一。
デイビッド・ウォーカーが見ている。
近くにいた男が聞いた。
「エヴァン、惜しかったな」
「ああ」
「三回って見抜いたんだろ?」
「ああ」
「じゃあ何で負けた?」
デイビッドは画面を見る。
三回。
ルシアが軌道を変える。
その後。
普通に跳ぶ。
「見抜いただけじゃ勝てない」
「厳しいな」
「褒めてる」
「どこが?」
デイビッドは少し笑った。
「三回使わせたところまでは完璧だった」
「そのあと?」
画面。
ルシアがエヴァンへ飛び込む。
「そこからは」
デイビッドが言った。
「ルシアの方が上だった」
男が黙る。
デイビッドは。
そのまま画面を見ていた。
*
会見。
最後の質問。
「ルシア選手」
「はい」
「スペインは今回が初参戦でした」
「はい」
「初戦で勝利しました」
ルシアが頷く。
「次の代理戦争でも、代表として戦いたいですか?」
「え?」
ルシア。
少し考える。
カルラを見る。
イネスを見る。
マテオ。
テオ。
そして。
記者を見る。
「マップによります」
「マップ?」
「はい」
「例えば?」
ルシアは即答した。
「月面なら絶対出ます」
笑い。
記者。
「地上戦なら?」
「……」
ルシアが考える。
長い。
「ルシア選手?」
「考えます」
「苦手なんですか?」
「いや」
さらに考える。
「好きと得意は別なので」
どこか。
日本で。
テレビを見ていたレンが。
「……」
起き上がった。
「今の俺のことじゃないよな?」
隣の男。
「知らねえよ」
*
会見終了。
五人が立ち上がる。
テオはまだ係員に何か聞いている。
「住宅って場所選べるんですか?」
「テオ!」
カルラが呼ぶ。
「今行きます!」
ルシアたちは。
会見場を出ていく。
テレビ中継。
終了。
そして。
数秒後。
画面は切り替わった。
次の代理戦争。
まだ。
国名は表示されていない。
マップも。
表示されていない。
ただ。
《NEXT INTERNATIONAL PROXY WAR》
その文字だけ。
世界中。
すでに。
次はどこだ。
誰が出る。
どの国が戦う。
何を賭ける。
予想が始まっている。
オッズが出る前から。
賭けようとする者までいる。
スペインの初勝利は。
もう。
過去になり始めていた。
そして。
世界はまた。
次の戦争を待っている。
――第2部 完




