第16話 残りニパーセント
『ネットスキル大戦』
第2部 スペインVSカナダ
第6話 残り二パーセント
月面を。
二人が走る。
ルシア。
テオ。
遠く。
エヴァン。
ソフィー。
遮るものはほとんどない。
《SPAIN 2》
《CANADA 2》
ルシアが言った。
「テオ」
「はい」
「私より前に出ないで」
「分かってます」
「絶対だよ」
「分かってますって!」
銃声。
テオが反射的に伏せた。
弾丸が頭上を抜ける。
「うわっ!」
ルシアが撃ち返す。
遠い。
当たらない。
ソフィーはもう次を狙っている。
ルシアが横へ走る。
テオも続く。
「クレーターまで!」
「はい!」
月面を蹴る。
跳びすぎない。
高く飛べば。
ソフィーの的になる。
短く。
低く。
走る。
また銃声。
月面の砂が跳ねた。
テオのすぐ横。
「狙われてる!」
「そりゃ狙うよ!」
「二パーセントしかないんですよ!」
「だから狙われてるの!」
「ですよね!」
二人。
クレーターの陰へ滑り込んだ。
*
ソフィーが照準から目を離す。
「惜しい」
エヴァン。
「テオ?」
「あと少し」
「無理に狙わなくていい」
ソフィーが横を見る。
「一発だよ?」
「だからだ」
エヴァンはクレーターを見る。
「スペインも分かってる」
「囮?」
「使うならな」
「十九歳を?」
「代表だ」
それだけ。
ソフィーはもう一度ライフルを構えた。
「冷たいね」
「国益がかかってる」
「そうだった」
「忘れるなよ」
「忘れてない」
少し間。
「たぶん」
エヴァンが笑った。
*
クレーター。
ルシアが銃の残弾を見る。
少ない。
テオも確認する。
「どうします?」
「近づく」
「ソフィーに?」
「うん」
「無理では?」
「無理だね」
「じゃあなんで!?」
ルシアはクレーターの縁から少しだけ顔を出した。
銃声。
すぐ引っ込める。
「ほら」
「ほら、じゃないですよ!」
ルシアが笑う。
でも。
すぐ真顔になる。
「ソフィーがいる限り、ここから出られない」
テオも分かっていた。
エヴァンだけなら。
まだ戦える。
だが。
遠距離からソフィー。
近づけばエヴァン。
二人の距離がいい。
カナダは。
崩す必要がない。
待てばいい。
「……こっちから崩すしかない?」
「そういうこと」
「どうやって?」
ルシアが少し考えた。
テオを見る。
《HP 2%》
「……」
「なんですか」
「二パーセントか」
「何回確認するんですか!」
「いや」
ルシアが笑った。
「まだ二パーセントあるなって」
テオの顔が変わる。
「それ」
「うん」
「嫌な言い方ですね」
「代表なんでしょ?」
テオ。
黙る。
少し前。
自分で言った。
マテオの残りを。
自分が取ると。
ノアを倒した。
ここまで残った。
テオは息を吐いた。
「……何すればいいです?」
*
世界中の画面。
二人が。
クレーターから出た。
同時。
歓声。
ソフィー。
照準。
「来た」
エヴァン。
「ルシア?」
「違う」
照準の中央。
テオ。
真っ直ぐ。
こちらへ走ってくる。
「テオ」
エヴァンの表情が変わった。
「やっぱり使ってきたか」
「撃つ?」
「撃て」
ソフィー。
引き金。
テオ。
走る。
銃声。
一発。
テオは。
右へ。
弾丸。
外れる。
また走る。
ソフィーが次弾。
テオの呼吸。
荒い。
「怖い怖い怖い……!」
それでも。
止まらない。
二発目。
テオ。
跳ぶ。
低い。
弾丸。
足元。
「うわあ!」
着地。
走る。
ソフィー。
「次は当てる」
照準。
テオの胸。
エヴァンは。
別の場所を見る。
「ルシアは?」
ソフィー。
一瞬。
照準を動かさない。
「……見えない」
エヴァンがクレーターを見る。
いない。
「ソフィー!」
その瞬間。
上。
「遅い!」
ルシア。
高く。
飛んでいた。
クレーターの斜面。
死角から。
大きく跳んだ。
《ORBITAL》
一回。
軌道変更。
ソフィーが照準を上げる。
二回。
横。
追いつかない。
三回。
一気に。
ソフィーへ。
「くっ!」
ソフィーがライフルを捨てる。
サブウェポン。
発砲。
ルシア。
もう方向を変えられない。
一発。
《LUCIA HP 29%》
それでも。
止まらない。
「ソフィー!」
エヴァンが撃つ。
ルシア。
肩。
《HP 17%》
落ちる。
だが。
ソフィーの目の前。
着地。
「捕まえた!」
ソフィーが撃つ。
ルシア。
身体を沈める。
弾丸。
頭上。
ルシア。
発砲。
《SOPHIE HP 61%》
二発。
《HP 34%》
ソフィーも撃つ。
《LUCIA HP 8%》
「ルシア!」
テオが叫ぶ。
エヴァン。
ルシアへ銃口。
「終わりだ」
テオが。
エヴァンを見る。
距離。
まだある。
でも。
走る。
「こっちだ!」
発砲。
弾丸。
エヴァンの横。
外れる。
エヴァンが振り返る。
テオ。
HP2%。
こちらへ来る。
エヴァンの銃口が。
動く。
ほんの一瞬。
ルシアから。
テオへ。
ルシアは。
それを見た。
「――ありがとう」
エヴァン。
「!」
ルシアがソフィーへ突っ込む。
ソフィーが撃つ。
外れる。
ルシア。
至近距離。
一発。
《SOPHIE HP 17%》
二発。
《CANADA / SOPHIE BELL》
《HP 0%》
ソフィー。
光になる。
「……やられた」
ルシアが笑う。
「やった」
ソフィーも。
少し笑った。
「おめでとうは、まだ早いよ」
消失。
《CANADA》
《1 PLAYER REMAINING》
エヴァン。
一人。
*
銃声。
テオの身体が。
止まった。
《SPAIN / TEO SANZ》
《HP 0%》
ルシアが振り返る。
テオ。
光になっている。
「テオ!」
テオは。
自分の表示を見る。
ゼロ。
「あー……」
少し悔しそうに。
それから。
笑った。
「二パーセント、使い切りました」
ルシア。
何も言えない。
「ルシア!」
テオが叫ぶ。
「勝ってください!」
身体が消える。
《SPAIN》
《1 PLAYER REMAINING》
表示。
変わる。
《SPAIN 1》
《CANADA 1》
月面。
最後の二人。
ルシア・アルバレス。
《HP 8%》
エヴァン・クロフォード。
二人。
離れて立つ。
*
マドリード。
誰も座っていなかった。
バー。
全員。
立っている。
大型画面。
《1 VS 1》
オッズ。
数字が高速で変わる。
もう。
誰も見ていない。
「ルシア……」
誰かが呟く。
*
月面。
ルシアが弾倉を見る。
残り。
少ない。
エヴァンも。
銃を確認する。
ルシアが言った。
「一対一だね」
「ああ」
「初参戦なんだけど」
「知ってる」
「優しくしてよ」
「嫌だ」
「ケチ」
エヴァンが笑う。
ルシアも。
笑う。
でも。
二人とも。
銃口は下げない。
エヴァンが言った。
「新派生」
「うん」
「三回までだろ」
ルシア。
少し黙る。
「どうかな」
「三回だ」
「自信あるんだ」
「見たからな」
「じゃあ」
ルシアが月面を蹴る。
「試してみる?」
エヴァン。
発砲。
ルシア。
一回。
軌道変更。
弾丸。
外れる。
二回。
右。
エヴァンの照準。
追う。
三回。
左。
エヴァンは。
撃たなかった。
ルシアが気づく。
「……」
三回。
使った。
もう。
変えられない。
エヴァン。
照準。
「捕まえた」
発砲。
ルシア。
空中。
避けられない。
だから。
避けなかった。
身体を。
丸める。
弾丸。
腕。
《HP 3%》
残る。
「っ!」
着地。
転がる。
エヴァンが走る。
「終わりだ!」
ルシア。
立つ。
撃つ。
エヴァン。
避ける。
一発。
二発。
弾切れ。
《EMPTY》
「最悪」
エヴァン。
銃口。
ルシア。
HP3%。
一発。
それで終わる。
エヴァンが撃つ。
ルシアは。
前へ跳んだ。
「なに!?」
低重力。
エヴァンの弾丸が。
ルシアの足元を抜ける。
ルシア。
そのまま。
エヴァンへ。
「四回目は使えない」
エヴァンが銃を向け直す。
「知ってる!」
「でも!」
ルシアが。
エヴァンの腕を掴んだ。
二人。
月面から浮く。
「飛ぶだけなら!」
エヴァンの身体ごと。
回る。
「何回でもできる!」
「っ!」
低重力。
二人。
もつれたまま。
クレーターへ。
落ちる。
エヴァンがルシアを蹴る。
離れる。
ルシア。
壁面。
足をつく。
エヴァンも。
反対側。
二人。
クレーターの斜面。
銃。
ルシアは弾切れ。
エヴァン。
残り。
一発。
「今度こそ」
エヴァンが構える。
ルシアは。
走った。
横ではない。
エヴァンへ。
真っ直ぐ。
「それしかないよな」
引き金。
銃声。
ルシアが。
身体を沈める。
弾丸。
髪の上。
外れる。
「――!」
ルシア。
目の前。
拳。
エヴァンが受ける。
ルシア。
蹴る。
エヴァン。
腕。
二人。
転がる。
月面の砂。
舞う。
スキル。
関係ない。
銃。
もうない。
殴る。
蹴る。
掴む。
エヴァンがルシアを押さえる。
ルシア。
膝。
エヴァンの腹。
離れる。
HP。
ルシア。
《2%》
エヴァン。
《6%》
「……しぶといな」
エヴァンが息を吐く。
ルシア。
「そっちこそ」
二人。
立つ。
エヴァン。
右拳。
ルシア。
見る。
一歩。
エヴァンが踏み込む。
ルシアも。
踏み込む。
拳。
交差。
一発。
《LUCIA HP 1%》
「っ!」
ルシア。
残った。
エヴァンの目が。
僅かに開く。
その一瞬。
ルシア。
拳。
エヴァンの胸。
《EVAN HP 2%》
もう一発。
エヴァンも。
振る。
ルシア。
避けない。
いや。
避けられない。
なら。
先に。
ルシアの拳が。
届いた。
《CANADA / EVAN CRAWFORD》
《HP 0%》
静止。
エヴァンが。
自分のHPを見る。
ゼロ。
ルシア。
《HP 1%》
「……マジか」
エヴァンが笑った。
ルシアは。
その場に座り込んだ。
「つっかれた……」
「初参戦だろ?」
「うん」
「嘘つけ」
「ほんとだって」
エヴァンの身体が光になる。
「次は勝つ」
ルシアが手を振った。
「またね」
エヴァン。
消失。
一瞬。
月面から。
すべての銃声が消えた。
そして。
表示。
《INTERNATIONAL PROXY WAR》
《WINNER》
《SPAIN》
ルシアは。
それを見上げた。
「……勝った?」
数秒。
理解する。
「勝った」
通信。
もう戦場にはいない仲間たちから。
一斉に。
声。
『ルシア!!』
『勝った!』
『やった!!』
『お前ほんとにやったな!』
うるさい。
誰が誰だか分からない。
ルシアは笑った。
「うるさい!」
もっと。
声が増えた。
*
マドリード。
爆発した。
歓声。
グラス。
椅子。
知らない者同士が抱き合う。
巨大画面。
《SPAIN WIN》
《LUNAR SOUTH POLE INTERNATIONAL MINING BASE》
《PRIORITY USAGE RIGHTS:UPDATED》
数字が。
書き換わっていく。
男が叫ぶ。
「勝ったああああ!!」
隣の男。
スマートフォンを見る。
「賭けも勝ったあああ!!」
「そっちかよ!」
街中。
同じ歓声。
スペイン。
初参戦。
初勝利。
*
ダイブ解除。
ルシアが目を開ける。
天井。
現実。
身体を起こす。
横。
カルラ。
イネス。
マテオ。
そして。
テオ。
全員。
いる。
テオが自分の身体を触っていた。
「……HP二パーセントじゃない」
マテオ。
「当たり前だ」
「分かってますよ!」
カルラがルシアを見る。
「お疲れさま」
「疲れた」
イネス。
「最後、ひどかったね」
「何が?」
「殴り合い」
「弾なかったから」
マテオが笑う。
「勝てばいい」
ルシア。
「そうそう」
テオが。
突然。
「あ」
全員が見る。
「何?」
テオ。
目を輝かせる。
「家」
沈黙。
「……家?」
「勝ったら住宅と生涯年金!」
ルシアが吹き出した。
イネスも。
カルラも。
最後にマテオまで笑った。
テオだけ真剣だった。
「いや大事でしょう!」
ルシアが笑いながら言う。
「国の権益より?」
「俺の人生の権益です!」
また。
全員が笑った。
壁面モニター。
次の代理戦争の告知が。
すでに流れている。
誰も。
まだ見ていない。
世界は。
もう次の戦争へ向かっていた。
ルシアたちは。
まだ笑っていた。




