第13話 三対一
『ネットスキル大戦』
第2部 スペインVSカナダ
第3話 三対一
銃声。
一発。
マテオは動かなかった。
弾丸が頬を掠める。
《HP 91%》
背後。
エヴァン。
前方。
基地上部にはソフィー。
そして右。
採掘機の陰からノアが出てくる。
三人。
「三対一か」
マテオはライフルを構えたまま呟いた。
エヴァンが答える。
「悪いな」
「戦争だからな」
「理解が早くて助かる」
マテオは笑った。
「年を取るとな」
視線はソフィーから外さない。
「若い奴みたいに、卑怯だなんだと言わなくなる」
ソフィーの銃口が僅かに動いた。
マテオも動かす。
「それに――」
発砲。
同時。
ソフィーも撃つ。
マテオの弾丸が基地上部へ。
ソフィーが身体を伏せる。
ソフィーの弾丸は。
マテオの胸。
《HP 68%》
「っ……!」
それでも。
マテオは倒れない。
「一人に三人使ってくれるなら」
ライフルを捨てた。
腰の銃を抜く。
エヴァンへ向ける。
「悪くない」
発砲。
エヴァンが横へ。
「ノア!」
「了解!」
ノアが飛び出した。
月面を蹴る。
速い。
だが、高くは跳ばない。
マテオが撃つ。
一発。
二発。
ノアは止まらない。
《BOOST》
表示。
ノアの速度が一気に上がった。
「なるほど」
マテオが呟く。
単純な身体強化。
だからこそ。
速い。
マテオが三発目を撃つ。
ノアが身体を沈めた。
弾丸が頭上を抜ける。
距離。
十メートル。
八。
六。
「捕まえた!」
ノアが踏み込む。
マテオ。
避けない。
「――そうだな」
ノアの拳。
マテオの腹部。
《HP 41%》
身体が浮く。
低重力。
吹き飛ぶ。
ノアが追う。
だが。
「ノア」
エヴァンの声。
「何?」
「離れろ」
「え?」
マテオの手。
ノアの腕を掴んでいた。
「捕まえたのは」
マテオが笑う。
「俺だ」
《ANCHOR》
瞬間。
マテオの身体が。
止まった。
空中で。
完全に。
ノアの身体まで引かれる。
「なっ――」
マテオが銃口をノアの腹へ押しつけた。
発砲。
《CANADA / NOAH》
《HP 63%》
もう一発。
《HP 31%》
「くっ!」
ノアが腕を振りほどく。
三発目。
その前に。
エヴァン。
発砲。
マテオの肩。
《HP 19%》
ノアが離れる。
マテオの《ANCHOR》が解除。
身体がゆっくり月面へ落ちる。
エヴァンが言った。
「自分の位置固定か」
マテオが着地する。
「見れば分かるだろ」
「クールタイムは?」
「教えると思うか?」
「思ってない」
エヴァンが銃を向ける。
マテオも向ける。
HP19%。
ノア31%。
「悪くない交換だ」
マテオ。
「そうだな」
エヴァンの指が引き金へ。
その瞬間。
通信。
『マテオ!』
ルシア。
エヴァンが僅かに視線を動かした。
マテオは動かない。
「来るな」
『でも!』
「来るな」
短い。
強い声だった。
『三人そっちにいる!』
「だからだ」
沈黙。
マテオが笑う。
「三人、ここにいる」
*
ルシアが止まった。
遠く。
採掘施設。
マテオの位置。
戻れば助けられるかもしれない。
だが。
マテオを囲んでいる三人も。
そこへ釘付けになる。
カルラが横へ来る。
「行かない」
「でも!」
「マテオの判断よ」
「HP十九だよ!」
「見えてる」
ルシアが歯を食いしばる。
テオが二人を見る。
「助けないんですか……?」
イネスが答える。
「助ける」
「じゃあ!」
「マテオのところへ行くことだけが、助けることじゃない」
テオには分からない。
ルシアには。
分かった。
カナダは五人。
そのうち三人がマテオにいる。
なら。
残りは。
二人。
ルシアが顔を上げる。
「探す」
カルラが頷く。
「イネス」
「もうやってる」
イネスが巨大な月面基地を見る。
視界。
外周。
採掘機。
アンテナ。
輸送路。
見えない。
「少し待って」
《SCAN》
薄い円がイネスを中心に広がる。
月面を。
施設を。
壁を。
一瞬で通過。
反応。
一つ。
そして。
もう一つ。
イネスが目を開く。
「いた」
「どこ?」
「基地内部。一人」
カルラ。
「もう一人は?」
「SCAN圏外」
「内部の一人をやる」
テオが驚く。
「四人で一人を?」
カルラが銃を確認する。
「向こうが先にやった」
ルシアが笑った。
「戦争だからね」
四人が走る。
*
月面基地内部。
白い通路。
外とは違う。
天井が低い。
狭い。
隠れる場所が多い。
カナダ代表。
オリバー・グラント。
一人。
輸送路脇にしゃがんでいる。
通信。
『オリバー』
エヴァン。
「何?」
『スペインがそっちへ向かう可能性がある』
オリバーが立ち上がる。
「何人?」
『最大四』
「最大四?」
少し笑う。
「人気者だな」
『逃げろ』
「珍しいな」
『何が?』
「お前が逃げろって言うの」
エヴァンは答えない。
オリバーは通路を見る。
「了解」
走り出す。
その瞬間。
前方。
角から。
何かが飛び出した。
ルシア。
「見つけた!」
「早っ!」
オリバーが撃つ。
ルシアが壁を蹴る。
低重力。
天井近くへ。
銃弾が下を通る。
オリバーが逆方向へ走る。
「一人!」
ルシア。
「分かってる!」
カルラの声。
反対側。
オリバーが止まる。
前。
カルラ。
後ろ。
ルシア。
右側の通路。
イネス。
左。
テオ。
オリバーが周囲を見る。
「……四人、本当に来たのか」
カルラ。
「悪いわね」
オリバーが笑う。
「戦争だから?」
ルシア。
「それ、今日三回目」
オリバーが銃を捨てた。
両手を軽く広げる。
テオが戸惑う。
「降参?」
「このゲームに降参なんてない」
オリバー。
《GUARD》
身体の表面に薄い光。
ルシアが撃つ。
命中。
《HP 96%》
「硬っ!」
カルラも撃つ。
《HP 93%》
イネス。
《HP 90%》
テオ。
「全然減らない!」
オリバーが走り出した。
真正面。
テオへ。
「え、俺!?」
「テオ、下がって!」
オリバーが突っ込む。
テオが撃つ。
《HP 87%》
《HP 84%》
《HP 81%》
止まらない。
「うわああ!」
テオが跳ぶ。
オリバーも跳ぶ。
低重力。
二人の身体が浮く。
オリバーの拳。
テオが腕で受ける。
《HP 79%》
壁へ。
衝突。
「痛っ!」
オリバーが追う。
ルシア。
「テオから離れて!」
発砲。
《HP 77%》
効かない。
カルラが言う。
「撃つのやめて」
ルシア。
「え?」
「全員、撃つのやめて!」
銃声が止まった。
オリバーが僅かに振り返る。
「……?」
カルラが見る。
薄い光。
まだある。
《GUARD》
「待つ」
ルシアが理解する。
「あ」
イネスも。
「時間制」
オリバーの表情が変わった。
テオだけ分からない。
「何がですか!?」
カルラ。
「防御が切れるまで撃たない」
「でも!」
「逃がさないだけでいい」
四人。
銃を構える。
撃たない。
オリバー。
前。
カルラ。
後ろ。
ルシア。
左右。
イネス。
テオ。
「……なるほど」
オリバーが走る。
ルシア側。
ルシアは撃たない。
横へ。
通さない。
逆。
イネス。
同じ。
オリバーがテオを見る。
テオ。
「俺ばっかり!」
突っ込んでくる。
「でも!」
テオが銃を構えた。
撃たない。
後退。
通路を塞ぐ。
「今度は逃げません!」
オリバーが止まった。
身体の光。
弱くなる。
カルラ。
「まだ」
消える。
「まだ」
オリバーが跳ぶ。
「今!」
四方向。
銃声。
《HP 64%》
《HP 48%》
《HP 29%》
オリバーが着地。
走る。
ルシア。
追う。
「逃がさない!」
《ORBITAL》
壁へ。
軌道を変える。
オリバーより先に。
出口。
着地。
「こんにちは」
「……さっき会った」
オリバーが拳を振る。
ルシアが身体を引く。
避ける。
腹へ銃口。
「じゃあ」
発砲。
《HP 11%》
「さようなら」
もう一発。
《CANADA / OLIVER GRANT》
《HP 0%》
身体が光へ変わる。
消える。
一瞬。
静寂。
そして。
世界中の画面。
《CANADA》
《4 PLAYERS REMAINING》
歓声。
スペイン。
初撃破。
テオが画面を見る。
「……勝った?」
カルラ。
「一人ね」
ルシアが拳を握る。
「よし!」
イネス。
「まだ喜ばない」
「ちょっとくらいいいじゃん!」
その瞬間。
表示。
《SPAIN》
《4 PLAYERS REMAINING》
ルシアの笑顔が。
止まった。
「……え?」
通信。
ノイズ。
そして。
消失。
《MATEO ROJAS》
《HP 0%》
テオ。
何も言わない。
カルラも。
イネスも。
ルシアが。
ゆっくりと目を閉じた。
数秒。
「……マテオ」
*
採掘施設。
マテオがいた場所。
ライフルだけが。
消えていく。
ノア。
《HP 31%》
肩で息をしている。
ソフィーが基地上部から降りてくる。
エヴァンは。
スペイン側の表示を見る。
四人。
カナダも。
四人。
「交換された」
ノアが言う。
「マテオ一人に、俺たち三人」
ソフィー。
「その間にオリバーを取られた」
ノアが顔をしかめる。
「損した?」
エヴァンは少し考える。
「いや」
「なら得?」
「それも違う」
銃を確認する。
「四対四になっただけだ」
ソフィーが聞く。
「次は?」
エヴァン。
遠く。
月面基地を見る。
その中に。
ルシアがいる。
「ルシア・アルバレス」
ノア。
「新派生を調べるんじゃなかった?」
「ああ」
「まだやる?」
エヴァンが歩き出す。
「もちろん」
ソフィーがついていく。
ノアも。
その少し後ろ。
基地外周。
誰もいない場所。
一人の女が立っていた。
カナダ代表。
ミア・チェン。
通信を聞いている。
『四対四』
ミアが呟く。
「違うよ」
誰にも聞こえない。
スペイン代表の位置。
カルラ。
イネス。
テオ。
そして。
ルシア。
すべて見えていた。
「もう囲んでる」
《GHOST》
表示が消える。
ミア自身の反応も。
スペイン側の索敵画面から。
消えた。
月面基地内部。
ルシアが突然振り返る。
「……どうした?」
カルラ。
「いや」
誰もいない通路。
「なんか今――」
静かすぎた。
ルシアが銃を握り直す。
四対四。
数字だけなら。
互角。
だが。
そのすぐ近くにいる一人を。
スペインはまだ――
知らない。




