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『ネットスキル大戦』  作者: ネコロビン


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12/28

第12話 月面を走る

第2部 スペインVSカナダ


第2話 月面を走る


銃声。


二つの弾丸が交差した。


ルシアは跳ぶ。


月面の砂が、小さく舞った。


身体が浮く。


高い。


地球なら、あり得ない高さ。


エヴァンの銃口が追ってくる。


「新人扱いしないでよ!」


発砲。


エヴァンが横へ跳ぶ。


その身体もまた、月面を滑るように飛んだ。


「誰が新人扱いした?」


「さっき!」


「初参戦とは言った」


「同じでしょ!」


「違う」


エヴァンが着地。


すぐに撃つ。


ルシアは空中。


避ける場所がない。


「ルシア!」


カルラの声。


弾丸。


来る。


ルシアが身体を捻った。


一発。


横を抜ける。


二発目。


肩。


《DAMAGE:8%》


「っ!」


身体が回る。


低重力。


一度崩した姿勢が戻らない。


エヴァンが狙う。


三発目。


「もらった」


発砲。


その瞬間。


ルシアの身体が――


横へ動いた。


「……!」


落下中。


足場はない。


それなのに。


軌道が変わった。


弾丸が外れる。


ルシアは月面基地の外壁へ向かって飛んでいく。


エヴァンが目で追う。


「ORBIT……」


ルシアが壁へ足をついた。


そのまま蹴る。


また飛ぶ。


「知ってるじゃん!」


「映像は全部見た」


「ファン?」


「敵だ」


「残念」


ルシアが撃つ。


エヴァン。


砂丘の裏へ。


ルシアは空中から追う。


「深追いしない!」


カルラ。


「分かってる!」


「分かってない動きしてる!」


ルシアが笑う。


そして。


追うのをやめた。


着地。


「ほんとに止まった」


テオが驚く。


「私だって命令くらい聞く」


イネスが言う。


「意外」


「みんな私を何だと思ってるの?」


マテオの声。


「うるさい奴」


「マテオまで!?」


銃声。


ルシアのすぐ横。


砂が跳ねる。


「喋ってる場合じゃない!」


全員。


散る。


*


月面基地。


外周採掘区域。


巨大な採掘機械が並んでいる。


動いてはいない。


それでも。


建物。


資材。


月面車。


巨大アンテナ。


遮蔽物は多い。


だが。


問題が一つ。


低重力。


普通の感覚で飛び出せば。


身体が想像以上に浮く。


一度飛べば。


簡単には戻れない。


テオが月面車の陰へ滑り込む。


「これ……!」


銃声。


頭上。


「怖すぎる!」


「頭出さない!」


イネスが叫ぶ。


「出してない!」


「飛んだら全部出る!」


「じゃあどう動けばいいんですか!」


「考えて!」


「今!?」


「今!」


テオが月面車に背中をつける。


呼吸。


視界。


仲間の位置。


カルラ。


右。


イネス。


後方。


マテオ。


不明。


ルシア。


上。


「……上?」


テオが見上げる。


ルシアが。


巨大アンテナの側面に立っていた。


「どうやって!?」


「跳んだ!」


「それは見れば分かります!」


ルシアが遠くを見る。


カナダ代表。


一人。


二人。


そして。


エヴァン。


「三人見える」


イネスが答える。


「残り二人がいない」


「裏?」


「分からない」


カルラ。


「ルシア、降りて」


「もうちょっと」


「狙撃される」


「ここからなら――」


ルシアの視界。


遠く。


何かが光った。


「……あ」


発砲。


「ルシア!」


マテオ。


ほぼ同時。


銃声。


二発。


ルシアのいたアンテナ。


弾丸が直撃。


ルシアは。


すでに飛んでいた。


ゆっくりと。


月面へ。


「狙撃手!」


マテオの声。


「見えた」


「どこ?」


「基地上部」


マテオ。


遠く離れた採掘施設。


ライフル。


照準。


白い月面基地。


その上。


小さな人影。


ソフィー・ベル。


カナダ代表狙撃手。


ソフィーも。


マテオを見ていた。


「見つけた」


同時。


発砲。


二つの弾丸。


月面基地を横切る。


ソフィー。


身体を横へ。


マテオ。


動かない。


弾丸。


マテオのすぐ横。


マテオの弾丸。


ソフィーの足元。


「外した」


マテオが呟く。


ソフィー。


笑う。


「惜しい」


再び。


照準。


狙撃手同士。


互いに。


動かない。


先に撃った方が。


位置を晒す。


「……」


「……」


数秒。


ソフィーが僅かに銃口を動かした。


マテオ。


同じ。


だが。


二人とも撃たない。


*


「ソフィーが捕まった」


エヴァンが言う。


ノア・キングが答える。


「援護する?」


「いらない」


「冷たいな」


「本人が怒る」


通信。


『聞こえてる』


ソフィー。


「ほら」


『余計なことしないで』


ノアが笑う。


「了解」


エヴァンは月面基地の向こうを見る。


ルシア。


また飛んでいる。


「……本当に飛ぶな」


「ORBITだろ?」


「そうだな」


「何か気になる?」


エヴァンが少し黙る。


「いや」


ノアを見る。


「行こう」


「どこ?」


「スペインの後ろ」


ノアが笑った。


「了解」


二人。


月面を蹴る。


だが。


エヴァンは大きく跳ばない。


低い。


短い。


最低限。


ノアも同じ。


スペイン代表とは明らかに違う。


「跳ばないんだ」


ノア。


「跳ぶ必要がない」


「月面なのに?」


「だからだ」


エヴァンが前を見る。


「空中じゃ、方向を変えられない」


*


ルシアが着地。


カルラの隣。


「カナダ、あんまり跳ばないね」


「経験の差」


「面白くない」


「合理的なの」


カルラが基地内部への入口を見る。


「外周は危険」


「中に入る?」


「その方が――」


イネス。


「待って」


全員が止まる。


「どうした?」


イネスが地面を見る。


月面。


足跡。


一つ。


二つ。


三つ。


スペイン代表のものではない。


「来てる」


「どこから?」


イネスが振り返る。


「後ろ」


銃声。


「伏せて!」


ノア。


飛び出す。


発砲。


カルラ。


遮蔽物へ。


イネス。


反対側。


テオ。


遅れた。


「テオ!」


ノアの銃口。


テオ。


目を見開く。


撃たれる。


その直前。


ルシアがテオへ体当たり。


二人。


月面を転がる。


弾丸。


外れる。


「痛っ!」


「ゲーム!」


「痛覚あるでしょう!」


「あとで文句言って!」


ノアが追う。


「二人!」


カルラが撃つ。


ノア。


砂丘へ。


だが。


別方向。


エヴァン。


「挟まれた!」


イネス。


「分かってる!」


エヴァンが撃つ。


カルラ。


月面車の陰。


ノア。


反対側。


スペイン代表。


中央。


完全に。


挟まれた。


テオが銃を握る。


「どうするんですか!」


カルラが答える。


「突破する」


「どっちへ!?」


「ルシア」


「はい?」


「選んで」


ルシアが右を見る。


エヴァン。


左。


ノア。


正面。


基地。


後ろ。


何もない月面。


ルシアが笑った。


「じゃあ」


後ろを指差す。


「何もない方」


テオが目を丸くする。


「遮蔽物ないですよ!?」


「だから」


「だから!?」


「向こうも追いたくない」


カルラが一瞬考える。


「……行く」


テオ。


「本気!?」


イネス。


「カルラが決めた」


マテオの声。


『援護する』


ルシア。


「じゃあ!」


月面を蹴る。


全員。


続く。


遮蔽物のない。


灰色の大地へ。


エヴァンがそれを見る。


「そっちか」


ノア。


「追う?」


「当然」


二人。


走る。


*


スペイン。


五人。


いや。


マテオを除く四人。


月面を走る。


低重力。


跳びすぎないように。


だが。


速く。


背後。


カナダ。


エヴァン。


ノア。


追ってくる。


銃声。


砂。


弾ける。


テオが叫ぶ。


「全然安全じゃない!」


ルシア。


「安全なんて言ってない!」


「じゃあ何でこっち!?」


「面白そうだったから!」


「ルシア!」


カルラが怒鳴る。


「冗談!」


「今言う!?」


前方。


巨大なクレーター。


カルラが気づく。


「ルシア!」


「見えてる!」


「止まって!」


「止まらない!」


「え?」


ルシア。


加速。


クレーター。


巨大。


深い。


底まで。


かなりある。


テオが叫ぶ。


「落ちる!」


ルシアは。


そのまま。


飛んだ。


「また!?」


身体が。


クレーター上空へ。


エヴァンが遠くから見る。


「……やっぱり飛ぶか」


ノア。


「撃ち落とす?」


「待て」


ルシア。


空中。


逃げ場なし。


エヴァンが銃を構える。


照準。


「今度は逃がさない」


ルシアが。


こちらを見る。


距離。


遠い。


それでも。


笑っているのが分かった。


「……?」


エヴァンの指。


引き金。


その直前。


ルシアが呟く。


「同じだと思ってる」


表示。


《DERIVATION》


エヴァンの目が動く。


ルシアの身体が。


落ちない。


いや。


違う。


落下方向が――


変わった。


クレーターの底ではない。


横。


何もない空中で。


鋭角に。


「なに?」


ルシアが。


クレーターの縁に沿うように飛んでいく。


《ORBIT》とは違う。


滑らかな軌道ではない。


一度。


二度。


三度。


空中で。


進行方向が切り替わる。


エヴァンの照準が。


追いつかない。


「……新派生」


ルシア。


遥か向こう。


クレーターの反対側へ。


着地。


振り返る。


遠く離れたエヴァンへ。


銃を向けた。


「正解」


発砲。


エヴァン。


避ける。


弾丸が肩を掠める。


《DAMAGE:5%》


エヴァンが。


笑った。


「そう来たか」


*


世界中。


一瞬。


歓声。


大型モニター。


スマートフォン。


ルシアの空中移動が。


何度も再生される。


《UNKNOWN DERIVATION》


《ORBITAL CORE》


実況者の声。


『新派生です!』


『ルシア・アルバレス――公式戦初披露!!』


マドリード。


バー。


「ほら!」


男が立ち上がる。


「言っただろ!」


友人がスマートフォンを見る。


オッズ。


動いている。


《SPAIN 2.61》


《CANADA 1.91》


「まだカナダ有利」


「今の見ただろ!」


「見た」


「じゃあ!」


「だから今、スペインにも入れた」


「お前!」


*


月面。


エヴァンは肩を回した。


ダメージ。


五パーセント。


たいしたことはない。


問題は。


そこではない。


遠く。


クレーターの反対側。


ルシア。


カルラたちも別ルートで移動している。


ノアがエヴァンへ追いつく。


「今の何?」


「知らない」


「ORBITじゃない?」


「違う」


「対策は?」


エヴァンがルシアを見る。


「今から考える」


「初見で潰すんじゃなかった?」


「そのつもりだ」


「できそう?」


エヴァンが笑った。


「だから面白い」


通信。


ソフィー。


『遊んでる場合?』


「遊んでない」


『楽しそうだけど』


「代理戦争だ」


『分かってるならいい』


通信が切れる。


ノアが笑う。


「怒られた」


「いつものことだ」


エヴァン。


もう一度。


クレーターを見る。


ルシアが使った。


未知の派生。


三度。


空中で方向を変えた。


いや。


本当に三度か?


距離は?


クールタイムは?


条件は?


何か必要なのか?


エヴァンの表情から。


笑みが消える。


「……ノア」


「何?」


「一回、あいつに使わせる」


「何を?」


「今のスキル」


「どうやって?」


「追い込む」


エヴァンが銃を構える。


「もう一度見れば分かる」


*


反対側。


ルシアが。


小さく息を吐いた。


カルラたちが追いつく。


テオ。


「何ですか今の!」


「新しいやつ」


「それは分かります!」


イネス。


「完成してたの?」


ルシア。


「一応」


カルラが見る。


「一応?」


「本番で三回連続は初めて」


三人。


止まる。


「……は?」


ルシアが笑った。


「成功したからいいじゃん」


カルラが頭を抱えた。


「あなた……!」


マテオの声。


『話はあとだ』


全員。


表情が変わる。


『カナダが動いた』


ルシア。


クレーターの向こうを見る。


エヴァン。


ノア。


もう。


いない。


「どこ?」


イネス。


周囲を見る。


足跡。


地形。


基地。


クレーター。


「……まずい」


「何?」


「追ってきてない」


ルシアの笑顔が。


消えた。


カルラが言う。


「じゃあ、どこへ?」


イネスが。


月面基地を見る。


「マテオ」


一瞬。


沈黙。


遠く。


狙撃銃。


一発。


そして。


もう一発。


マテオの声。


『……来たか』


ルシアが走り出す。


「マテオ!」


その頃。


採掘施設。


マテオはライフルを構えたまま。


動かなかった。


前方。


ソフィー。


そして。


背後。


月面の砂を踏む音。


一人。


マテオが呟く。


「三人で来るとはな」


背後から。


エヴァンの声。


『悪いな』


マテオが笑った。


「戦争だからな」


銃声。


月面に。


響いた。

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