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『ネットスキル大戦』  作者: ネコロビン


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11/28

第11話 スペインVSカナダ

第2部 スペインVSカナダ


第1話 初参戦


《INTERNATIONAL PROXY WAR》


《SPAIN VS CANADA》


《LUNAR BASE》


《開戦まで――00:51:32》


マドリード。


巨大な街頭モニターに、二つの国旗が並んでいた。


スペイン。


カナダ。


その下では数字が動き続けている。


《LIVE ODDS》


《SPAIN 3.21》


《CANADA 1.62》


「まだカナダか」


男がスマートフォンを見ながら呟いた。


隣を歩いていた友人が画面を覗き込む。


「当たり前だろ。スペインは初参戦だぞ」


「だから美味いんじゃん」


「お前、スペインに入れたの?」


「二万」


「マジ?」


「ルシアがいる」


「公式戦ゼロだぞ」


「新派生あるって噂」


「それ昨日からずっと言われてるだろ」


「火のないところに煙は立たない」


「それ、賭けで一番信じちゃダメなやつだろ」


二人は笑った。


その横を。


何百人もの人間が通り過ぎていく。


誰も足を止めない。


巨大モニターでは、スペイン代表五人の顔写真が映し出されていた。


その中央。


ルシア・アルバレス。


二十四歳。


スペイン代表。


コアスキル――


《ORBITAL》


その下。


《CURRENT DERIVATION:UNDISCLOSED》


使用派生。


非公開。


オッズが動く。


《SPAIN 3.18》


誰かが。


スペインへ賭けた。


*


「三・一八?」


ルシア・アルバレスはモニターを見上げた。


「ずいぶん舐められてる」


「昨日は三・四だった」


カルラ・ベガが答えた。


スペイン代表施設。


ダイブ室。


五台の専用チェアが並んでいる。


壁の向こうには、数十人の技術スタッフ。


さらに別室には政府関係者。


ルシアが笑う。


「人気出てきたじゃん」


「噂のおかげでね」


「噂?」


「あなたが新しい派生を完成させたって」


ルシアの顔から笑みが消える。


一秒。


カルラを見る。


「どこから漏れたの?」


「さあ」


「カルラ?」


「私じゃない」


「ほんと?」


「本当」


ルシアが周囲を見る。


マテオ・ロハス。


四十一歳。


すでにチェアへ座って目を閉じている。


イネス・モレノ。


二十八歳。


タブレットで最後のデータ確認。


テオ・サンス。


十九歳。


落ち着かない。


座る。


立つ。


水を飲む。


また座る。


ルシアがテオを見る。


「何回トイレ行った?」


「三回」


「四回だろ」


「……四回」


「まだ五十分あるよ」


「言わないでください」


「漏らすなよ」


「ルシア」


カルラが睨む。


「余計緊張するでしょう」


「緊張しなくなるかなと思って」


「逆です!」


テオが叫んだ。


マテオが目を閉じたまま言う。


「若いな」


ルシアが振り返る。


「マテオは緊張しないの?」


「する」


「見えない」


「見せてない」


「カッコいい」


「四十一だからな」


「関係ある?」


「たぶんない」


イネスがタブレットから顔を上げた。


「くだらない話してる場合じゃない」


「あと五十分ある」


「もう五十分しかない」


ルシアとイネス。


目が合う。


「相変わらず真面目」


「あなたが軽すぎるの」


「初めての代理戦争なんだから楽しまないと」


イネスの表情が変わった。


「代理戦争よ」


ルシアも黙る。


「ゲーム大会じゃない」


壁面モニター。


《争点》


《月面南極域・国際採掘基地》


《年間優先利用枠》


《CANADA:18.0%》


《SPAIN:3.5%》


勝てば。


数字が動く。


負けても。


数字が動く。


ルシアはそれを見た。


「……分かってる」


軽かった声が。


少しだけ変わった。


カルラが二人の間に入る。


「だからこそ、いつも通りやる」


「いつも通りって」


テオが言った。


「俺たち、代理戦争初めてですよね」


「訓練と同じよ」


「世界中が見てます」


「見せておけばいい」


「国の権益が――」


「テオ」


カルラが言った。


「あなたが今から考えるのは国じゃない」


テオがカルラを見る。


「私たち四人だけ見て」


「……はい」


「国のことは、国が考える」


マテオが目を開ける。


「そのために俺たちへ金を払ってる」


ルシアが笑った。


「勝ったら一生払ってくれるけどね」


テオが少し笑う。


「ほんとに住宅も?」


「出る」


イネスが答えた。


「生涯年金も」


「勝ったら?」


「勝ったら」


テオが深呼吸する。


「絶対勝ちます」


ルシアが肩を叩いた。


「急にやる気出した」


「一生ですよ!?」


「そこ?」


カルラが呆れた。


*


同時刻。


カナダ代表施設。


「三・一八」


エヴァン・クロフォードが数字を見る。


「ずいぶん縮まったな」


ソフィー・ベルが隣で答える。


「新派生の噂」


「知ってる」


「ルシア・アルバレス」


「ああ」


画面。


ルシアの過去映像。


公式の代理戦争ではない。


競技ダイブ。


低重力フィールド。


ルシアが跳ぶ。


壁へ。


方向転換。


アンテナへ。


再び跳ぶ。


エヴァンが見る。


「ORBITAL」


「コアは公開情報」


「派生は?」


「確認できているのは《ORBIT》だけ」


「今回もそれで来る?」


「分からない」


「じゃあいい」


ソフィーが見る。


「いい?」


「分からないものを考えても仕方ない」


「ずいぶん余裕ね」


エヴァンは自分のダイブチェアへ座った。


「出てきたら潰す」


「初見で?」


「初見だから面白い」


ソフィーがため息をつく。


「そういうところ、嫌い」


「ありがとう」


「褒めてない」


カナダ代表。


五人。


全員がすでに代理戦争経験者。


そして。


全員が生還している。


今回。


初参戦国スペイン。


世間の評価は。


カナダ優勢。


それでもエヴァンは。


スペイン代表の映像を消さなかった。


ルシア。


低重力。


跳ぶ。


曲がる。


着地。


「……面白い」


エヴァンが小さく呟いた。


*


《開戦まで――00:10:00》


世界中。


テレビ。


スマートフォン。


巨大スクリーン。


バー。


家庭。


駅。


空港。


職場。


学校。


数字が動く。


《SPAIN 2.94》


《CANADA 1.74》


スペインのオッズが下がってきた。


「来てるぞ」


「スペイン?」


「二・九四」


「誰か大口入れた?」


「ルシアの派生情報じゃね?」


「確定した?」


「してない」


「じゃあカナダ」


「俺スペイン」


「初参戦だぞ?」


「だから面白いんだろ」


タップ。


タップ。


タップ。


世界中で。


金が動く。


*


《開戦まで――00:03:00》


ルシアはチェアへ横になった。


頭部へダイブ装置。


右。


カルラ。


左。


テオ。


その向こう。


イネス。


マテオ。


スタッフの声。


「神経同期開始」


視界。


数字。


《97%》


《98%》


《99%》


《100%》


《NEURAL LINK:STABLE》


「スペイン代表、全員正常」


ルシアが目を閉じる。


暗闇。


そこに。


表示。


《CORE SKILL》


《ORBITAL》


続いて。


《DERIVATION》


一瞬。


表示される。


ルシアは笑った。


「間に合ったんだから」


誰にも聞こえない声。


《開戦まで――00:00:10》


十。


九。


八。


スペイン。


カナダ。


世界中。


七。


六。


五。


ルシアが息を吐く。


四。


三。


二。


一。


《DIVE》


*


音が消えた。


次に。


光。


ルシアが目を開く。


黒。


どこまでも続く。


真っ黒な空。


星。


そして。


青い地球。


「……」


目の前。


灰色の大地。


クレーター。


遠く。


巨大な月面基地。


白い居住棟。


採掘施設。


アンテナ群。


輸送レール。


月面車。


そして。


地平線。


ルシアの足が。


月の砂を踏んだ。


《LUNAR BASE》


《GRAVITY:0.16G》


《JAP――》


一瞬。


別言語表示。


すぐに消える。


ルシアの視界へ。


スペイン語として再構築される。


彼女には。


それが普通だった。


「全員いる?」


カルラ。


「いる」


マテオ。


「問題なし」


イネス。


「接続正常」


テオ。


「……軽っ!」


テオが少し跳ぶ。


身体が。


想像以上に浮いた。


「うわっ!?」


「テオ!」


「大丈夫! 大丈夫です!」


ゆっくり。


着地。


ルシアが笑う。


「初めてじゃないでしょ」


「本番だと違うんですよ!」


ルシアも。


軽く跳んだ。


身体が浮く。


月面。


黒い空。


地球。


ルシアは空中で身体を捻った。


そして。


着地。


「やっぱり」


カルラが見る。


「何?」


ルシアが月面基地を見た。


笑う。


「ここ、好き」


その瞬間。


銃声。


「伏せて!」


カルラ。


全員。


動く。


弾丸。


ルシアがいた場所。


月面の砂が弾ける。


「早っ!」


テオが叫ぶ。


イネス。


即座に視界を走らせる。


「方向――北東!」


マテオ。


ライフル。


構える。


遠く。


基地外壁。


人影。


一人。


カナダ。


そして。


ルシアの視界。


自動翻訳。


『初参戦にしては、のんびりしてるな』


男の声。


ルシアが笑う。


「エヴァン・クロフォード」


遠く。


エヴァンもこちらを見ている。


照準越し。


二人の視線が重なる。


ルシアが言った。


「うちじゃね」


《TRANSLATION》


《該当する慣用表現なし》


エヴァン。


沈黙。


『……何?』


ルシア自身のHUDにも、小さく警告。


《IDIOM TRANSLATION FAILED》


「え?」


カルラが吹き出す。


「こんな時に何言ってるの」


「いや、普通の言葉じゃん!」


『何て言った?』


エヴァンの声。


ルシアが銃を構える。


「知らなくていい」


『それは翻訳された』


「なら十分」


エヴァンが笑った。


ルシアも笑う。


銃口。


互いに向く。


エヴァンが言った。


『歓迎するよ、スペイン』


「どうも」


ルシアの指。


引き金。


「でも――」


発砲。


同時。


エヴァンも撃つ。


二つの弾丸が。


月面を走った。


「初参加だからって」


ルシアが跳ぶ。


低重力。


高く。


高く。


エヴァンの銃口が。


上を向く。


「新人扱いしないでよ!」


《WAR START》


スペイン。


初めての代理戦争が。

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