❨ 終幕 【 感情のない月 】
蒼白き月を、ただ眺めていた。
冷たいその天体。
この国の神の住まう場所、だった。
「……だ、とか」
天から落ちる声が、耳に入る。
「息を……い」
「……だけを」
そこにひとつの音が重なり合う。
耳を背けることなど出来ない絶対的なもの。
本能なのか、人としての性、なのか。
『───なんと、
憐れで哀しきことなのでしょうか』
温度のなどない。
感情もない。
ただ一定な声音。
その方が、私の仕える……
────月神。
きっと、あの方は涙など流さない。
そこに存在し我らの戯れ言に耳を傾け、宣うだけ。
寄り添うということはない。
私と月神様は違う。
神と人は一緒ではない。
混同してはいけないのだから。
「可哀想な子……。月神様に乞われたせいで、壊れてしまった、なんて」
誰かと、一緒じゃない。
長い髪が風に攫われる。
私もその者を哀れに思ったのか、無意識に指を重ね合わせた。
月に願うのではない。
その者へと祈るのだ。
もう、この世に誕生してはならぬ、と。
月光に照らされた髪がキラキラと輝く中で、天へと浮かぶ月を見つめる瞳は深い深い闇を潜ませていた。
「……ルナ様」
どこからか現れた顔を布で隠した聖徒。細めた目は、その者へと移る。
「ええ、わかりました」
短く答えた私は月を今一度、仰ぐ。
感情のない月を。
そして、静かに背を向け、
言われるがままに、足先をそこへ向けた。
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