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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第 3 章 黒き檻

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❨ Act. ⅩⅧ 【 焦げた香の先 】





 光を通さない地下の階段を一段一段降りていく。降りるにつれて増してくるカビと鉄錆の匂い。ホムラはひとりその先を目指した。



 ────コツ。



 最後の一段へと足をつけると、靴音が空間に響き渡った。淡い光が映し出したのはこの教会の闇そのものだった。


「主サンの足下にこんなん作んなや、


 ────教会の面汚しが」


 ホムラの前にあるのは牢獄。鉄格子は脂で鈍い光を放っている。壁から垂れている鎖にも同様に。


 鎮まり返ったこの空間が、やけに気持ち悪く思えた。


「虫唾が走るわ。……ホンマに」


 ホムラは唇を噛んだ。

 底知れぬ苛立ちが、ホムラを突き動かす。

 地を踏む靴音が荒々しくなる。


 背後へと流れた髪と聖衣。

 ホムラはここから見える扉へと足を動かした。



 ────ギィィ。



 ホムラは重い扉を左手で押した。右の指先は、熾劫火刀を握り締めている。開いた扉の隙間へと熾劫火刀を差し込む。刃に映る景色はホムラが思っているようなものではなかった。


「───は?」


 ホムラは扉を蹴破った。

 部屋に足を踏み入れると、ホムラは思わず鼻を鳴らした。


「……ざけんなや、こんなモン見に来たわけないで」


 熾劫火刀から指を離し、髪を掻き上げる。細めた瞳が色を変えた。


 ホムラが見たものは──



「証拠隠滅とか、舐めた真似してくれたやないの」


 ホムラの口角が上を向いた。

 部屋にあるもの全てが粉々に粉砕され、原型を留めてあるものは無に等しい。


 そして、天井にまで噴き上がった赤黒い液体。


 ────ポチャン。


 天井についた液体が雫となって、ホムラの頬を掠めた。生温い雫にホムラは嫌悪感を抱いた。


「……なんやねん、これ」


 付いた雫を引き剥がすように、ホムラは指の腹で払う。それでも、気持ち悪さは拭えない。着いた指先を弾き飛ばそうと手首を振った。


「逃げ勝ちなんて許さへんぞ。絶対捕まえて、主サンに詫び入れて貰うからな」





「ムーンライト様!」


 金属音と共に足音が扉の向こうから響いてくる。ホムラは何も言わず、その部屋にいた。


「こちらにおられると、聞きましたが……」


 扉から、申し訳なさそうに顔を突き出す。ホムラはその顔に見覚えがあった。


「なんや、フェイバリットやん」

「ホムラ様。ご無沙汰しております」


 フェイバリットは姿勢を改めると、ホムラに手本のような堅苦しい礼を取る。腰に差した剣が音を鳴らした。


「聖騎士が来たってことは、クローゼンも来たんか?」


 ホムラは腕を組みながら、フェイバリットに向き直る。


「いえ。総団長は月神様のもとにおられます。私がこの任を託されました」

「ああ。そうか。フェイバリットは第1やったけ?」

「はい。白銀です」

「そりゃ、そうか。アイツを護送となるとそう、なるか……」


 フェイバリットは眉を上げ、ホムラの顔を覗き込む。


「ホムラ様?何か」

「いや、気にすんなや」


 ホムラは飄々とした顔を浮かべると、また忙しない足とがこちらへと近寄ってくる。


「なんや、偉い騒がしいやないの」


「団長!!早く戻られてください!」


 ホムラの声に反応した騎士が、顔を見せずに声を上げた。その様子にホムラもつい、顔に力が入る。


「何があった?」


 フェイバリットはそう返事を返すが、騎士はそれ以上 近寄っては来なかった。


「とりあえず、向かいながらお話させて下さい!」


 そう告げると騎士は来た道を戻る気配がした。その尋常ではない行動にホムラもフェイバリットも顔を見合わせその場を後にした。





 騎士と合流したホムラとフェイバリットは、そのまま外に出た。外には騎士と下級聖者がある一点を眺めている。その先に何があるのか確かめようとホムラは群れを分け入った。視線の先の地平線の向こうに火の手が上がっている。


 その先を知っているホムラは息を呑む。


 火の手が上がっているのは、ホムラが知っている場所だった。


「オグナ村……の方やんけ」


 ホムラの瞳が揺れる。

 瞬きも忘れ、その火の先の無事を知りたくてホムラは近くで馬の手綱を持っていた騎士から、引ったくった。


「ムーンライト様、なにを?!」

「すまん、これ借りるで!」

「いや、困りますっ!!聖都に戻らねば───」


 ホムラは馬の背に跨ると、そのまま、脇目も振らず、馬の腹を蹴った。


 騎士の声は宙に浮いたまま、差し出した手は何も掴めず、目を丸くしてその背を見送るのみ。その肩にフェイバリットが手をボンと置く。


「……団長」

「ムーンライト様の意志は月神様の意志でもある。我らは我らの仕事を、完遂させよ!」


 淀む雲の下に威厳がある声が深く響いた。

 その瞳には揺るがぬ意志が見える。


「「「 ハッ! 」」」


 フェイバリットはマントを翻し、白き馬車へと足先を向ける。




 ──────コツ。


 ───コツ。



 キィーッ。





「それでは、ゼフィール様。出立致します」


 フェイバリットは目を伏せ、ゼフィールに頭を軽く下げた。キャビンに腰を掛けているゼフィールは小さく頷くだけ。豪快で豪傑な面影はない。肩を縮こまらせ、眉根を寄せ苦難の表情を浮かべている。


「……フェイバリット」


 微かに動いたゼフィールの唇。フェイバリットの睫毛が揺れた。


「……ウィル、は?」


 やっと紡ぎ出された声にフェイバリットは何も応えない。


「お前も……教えては、くれないんだな」


 口端を軽く上げたゼフィールは頭を抱える。そんなゼフィールをフェイバリットは静かに眺め、そっと扉を閉ざした。



「出立する」



 短く発した声に騎士が剣を掲げる。それを合図とし、隊列が組まれた。


 風が吹き白銀騎士団の旗が舞う。

 その風から匂う焦げた香と共に騎士団は行進を開始しさせた。




お読み頂きありがとうございます。

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次回もお楽しみに☆

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