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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第 3 章 黒き檻

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❨ Act. ⅩⅥ





 ジリ。ジリ。とウィルとの距離を詰める。

 そんなゼフィールの呼吸は乱れ、足がフラついていた。



 …………もう身体が、限界なんだ



 何度も攻撃を喰らい、ゼフィールとて不死身ではない。



 ────終わりが近いはず、なのに……




 眼前へと辿り着いた。

 ギラついた隻眼は、ウィルをしっかりと捉えた。



 息を呑んだ。

 指先が小刻みに震え出す。



 地天煌斧ジオリュクスを持つ腕に筋が浮き上がる。

 天へと見せつけるかのように掲げられた。

 妖しく光る刃毀れした刃先。



 耳へと抜けるホムラの声。

 ゆっくりと、振り落ちる。



 深紫の瞳に映ったその顔は、彼の面影が消え去っていた。歪んだ笑みをたたえ、戦闘に悦を感じる姿は、まさに─────




「───狂戦士バーサーカー、だな」



「……えっ、」



 闇の衣が視界を覆った。



 ガシッ────ンッッッ!



 轟音とともに空が震動する。



 突如として現れたフードを深く被った黒衣。

 その者は音も無く登場し、ゼフィールの一撃を受け止めた。


 ふたつの刃が蒼白い光を灯す。


「……大したことないじゃないか」


 僅かに見える口端を上げ、軽々しくそう言い放った。



 ゼフィールの腕が隆々と盛り上がる。

 開いていた口が塞がり、奥歯をギリギリとすり減らす。


「馬鹿の、一つ覚えか」


 凍てつく声音。

 黒衣の片方の足先が地を離れると、再度踏み込む。




 唇が微かに動く。

 静かな囁き。

 衣が風を受け、波立つ。

 紡がれた言葉に誘われた風が黒衣の前に集まった。



「………Envole(アンヴォル)






 次の瞬間、



 ────ゼフィールの身体は宙を跳んでいた。



「な、なにが……」



 ウィルの目が見開かれていく。

 信じられるわけもなく、瞳孔が揺れた。




 ガキィ────ンンッ。



 手を離れた地天煌斧が地へと落下し、そこからすぐ傍にゼフィールは落ち葉のように背中に土をつけた。


 あんなにもホムラが手こずったゼフィールが、いとも簡単に倒れた。



 黒衣は双剣を手にしたまま、足を運ぶ。



 荒い呼吸音。

 何かを掴もうと彷徨う指先。



「呆気ない。月神に選ばれたのだろうが、もう少し気概を見せてくれ」



 ここまでされても隻眼の瞳から闘気は消えず、燻り続けた。


 ゼフィールの喉元が上下に揺れる。

 細い冷え切った切先を容赦なく這わせた。



 そこから滲む紅きもの。



「ムーンライトの血も、紅いのだな」



 細剣へと力を込める。



「……待てやッ!」



 ホムラが吠え上げた。

 苦痛で眉間の皺が深い。


 黒衣はゼフィールへと向けている手首を緩めた。



 回復が遅れている身体を熾劫火刀イグニファラムで、支えながら躙り寄る。



「こっちにも、居たのか?────だが、」



 鋭利につり上がる口角。

 もう片方の細剣を肩に掛ける。



「────すでに、虫の息ではないか」



 今にも高笑いしそうな声を噛み殺し、黒衣は告げた。



「そんなん、殺り合ってみな、……分からへんやろ?」


 熾劫火刀の柄に絡めた指先に力を込める。

 小刻みに振動する刃。


「ここで、会ったが百年目や、で」


 立ち上がったホムラへと黒衣は身体を向けた。


「我が主サン。そして、ムーンライトの宿敵。


 ────()()さん、よ」


「ハッ、良く吠えるな」


「……それ、……褒め言葉、として、受け取ってやるわ」


 ホムラは痛みなど忘れ、

 殺気に満ちた鋭い瞳を黒衣へと注ぐ。


「あんな気持ち悪い、ネチョネチョビースト。……良く創るわ」


 地に刺していた熾劫火刀を引き抜き、ホムラは黒衣へと差し向ける。



「……命日?ちゃうな。あぁ、処刑日や。覚悟しろや?」


「何を、戯けたことを」



 ──ガサッ。



「ゼ、ゼフィールさん?!」


 ウィルはゼフィールのもとへ駆け寄り、膝を地に付けた。

 身体全体を見渡し、最後に顔を覗き込む。



 ……良かった。これなら、大丈夫。



 聖衣のお陰か、呼吸は落ち着きを取り戻していた。


 無事を確かめたウィルは両手を広げ、細剣とゼフィールの間に立った。



「……剣を、納めて下さい」


 小さきながらも、感情を抑え声を発した。ウィルの瞳は強く迷いなく黒衣を凝視する。



「月神に《《選ばれた》》ワケでもない者が、我に牙を剥く、か。……フッ、アハ、アハハハ」


「な、なにがそんなに……」



「───ゼフィール?!」


 ホムラの声が爆ぜた。


 ウィルはその声に勢い良く振り返る。


 だが、ウィルはすぐに感じ取った。



 彼が、まだ、


 ─────正気ではない、ことを。



 眉が跳ね、声が引き攣る。



「……ゼ、ゼフィール、さん」



 その呼び名に呼応するように、ゼフィールの口が大きく開いた。


 声にもならない音が、耳にこびり付く。

 もはや、それは───人が発するモノでは、なかった。









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