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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第 3 章 黒き檻

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❨ Act. ⅩⅤ






 その掛け声と共に、熾劫火刀イグニファラムの刀身からどこからともなく炎が巻き起こった。


 揺らめく炎がゼフィールの瞳に映る。


「アギャアアアッ────!」


 その力を前にしてゼフィールは恐れるどころか、鼻息を荒くし、咆哮が天を穿つ。この状況に興奮しているようだった。


「兄サン。この貸し、高くつくからな」


 ホムラの目が細くなる。狙いを定め、熾劫火刀を構える。


 歯をカチカチと鳴らし、その時を待つゼフィール。



 バサバサッ。

 白い鳥が、飛び立った。



 地を蹴る音。



 ─────次の瞬間、



 ガキィ─────ンッッ!!


 バチッ、と火花が上がる。

 熾劫火刀と地天煌斧ジオリュクスの刀身がぶつかり合った。


「ウィルッ!」


 ホムラの張り上げた声が反響する。


 その声にウィルはハッとした。

 瞬きも、呼吸も忘れ、目の前で起きている出来事に魅入っていた。

 足が、この場を離れようとはしない。


「────な、何してるん!?」


 ホムラの急かす声で、魔法が解けたようにやっと足が動いた。

 とはいえ、安全な場所とはどこか。ウィルには判断がつかなかった。


 ウィルは近く離れず、礼拝堂の壁跡へと走った。



 その様子を熾劫火刀の刀身で確認したホムラは、視線をゼフィールへと戻した。


 未だに正気ではないゼフィールの顔は、いつもとは比べ物にならないほど禍々しい。眼は剥き出し、血管が血走る。鋭角に吊り上がった口端。そこから垂れ落ちる涎。


「……手加減せなアカン、オレの身になって欲しいわ。ホンマに」


 ジリジリと音を立てながら、猛威を地天煌斧に乗せ奮ってくる。


 ────流石に、腕が限界ってもんやで。


 ゼフィールが距離を詰めようと、一歩前に足を出す。


 押してくるゼフィールの力量を逆手に取り、熾劫火刀の刀身を滑らせた。地天煌斧が地へと振り落とされる。


 ドゴ──ンッ。


 振り落とした先にあった瓦礫が粉塵と化した。


 身軽に後ろへと下がり、距離を取るホムラ。


 息を細く吐く。

 片手で柄を持ち、肩まで上げる。

 切先をゼフィールに向け、言葉を紡ぐ。



「……劫火よ、宿れ。


 ───劫火纏衣イグニレガリアッ!」



 熾劫火刀にメラメラと炎がまとわりつく。


 地天煌斧が地から離れた。


 ホムラの片眉がピクリ跳ね上がる。

 ゼフィール目掛け、一気に詰め込む。

 熾劫火刀が唸りを上げた。


 一太刀、二太刀、三太刀……


 ───続く連撃。


 ホムラが与える一撃をゼフィールは地天煌斧で防ぐ。

 散る火花がゼフィールへと降り掛かる。


 浴びせる度に速く、炎が大きくなっていく。



 地天煌斧でホムラの攻撃を受けるゼフィールの足が否応なしに後ろへとずり下がる。


 激しい剣戟にゼフィールの守りも崩れ始めた。


 ホムラの目が見開いた。


「これで、終いやッ!


 ────爆上がれ、断罪熾火イグディクトッ!!」



 散った火花から爆炎が上がった。

 爆炎と共に舞う砂塵。



 ホムラは熾劫火刀を一振りし、砂塵の向こう側へと視線を送る。



 場が、鎮まった。



 地天煌斧を杖にし、膝まづくゼフィール。

 微動だにしない。

 純白の聖衣が、点々と焦げついていた。


「ゼ、ゼフィールさん?!」


 ウィルが駆けてくる。

 スッとホムラが腕を軽く上げ、行く手を咎めた。



 ──ビクッ。


 ゼフィールの肩口から礫が落ちた。



 ゆっくりと、立ち上がる。

 暫しの制止。



 戸惑い戻る手、迷うウィルの指先。

 ホムラの顔を見上げる。


 ……カチャリ。


 視線はゼフィールから離さない。

 ホムラの指はまだ熾劫火刀を堅く握ったままだった。



 視線の先から聞こえる荒い、呼吸音。

 上下に身体が動く。


 地に着いた地天煌斧が浮き上がった。


 ゼフィールと目が合った。

 濁った瞳に妖光がギラつく。


 歯を見せながら、


 ──────嗤う。



 地天煌斧を持ち替え、獣の如く突っ込んで来た。



「───クソがっ!」


 言葉を吐き捨て、ホムラはウィルを押し退け、駆けた。



 激しい斬撃が空間を支配する。


 鳴り止まない剣戟。

 鼓膜にこびり付く金属音。


 互いに一歩も引かない。


 だが、徐々にホムラの剣撃の精度が落ちてきた。


 苦しそうに歪む表情。

 明らかに押され始めた。



 ザッ────ツ。



「ハァ、ハァ……」


 ホムラが地に膝を付け、肩で息をする。

 地へと刺した熾劫火刀で身体を支えながら、流れる汗を手の甲で拭う。


 足を擦り付け、差し迫るゼフィールの顔は疲労も、痛みも、何も感じる様子はない。


「……本気で、巫山戯てるわ…」


 立ち上がるが、足がふらつくホムラ。


 そのホムラを支えようと、成り行きを見守っていたウィルが身動ぐ。


「そこ、動くな。……動いたら、


 ────殺すで」



 殺気のこもった眼光に射抜かれる。


 息が吸えない。


 ウィルは縫い止められたかのように、そこから一歩も動けなくなった。



 その脇をホムラが通り過ぎる。





「こっちの聖衣の回復が、間に合っとらんちゅうに……兄サン、ホンマにバケモンや、な」


 迫り来るゼフィールに対し、軽口を叩きながら熾劫火刀を鞘に納めた。

 ホムラは腰を落とし、構えた。


 こちらへと猛進するゼフィールとの間合いを見極める。


「これで、倒れてくれ、な。……頼むで」


 ホムラが深く前屈みの体勢を取る。

 足先に力が入った。


「熾炎の裁きを受けよ、


 ──────熾天断セラディセクト



 鞘から勢い良く熾劫火刀が抜刀され、一閃を放った。

 残像を辿るように炎が走る。




 だが、


 ──────手応えが、浅い。




 ゼフィールはホムラの抜刀の攻撃を、間一髪のところを地天煌斧で受け、力でねじ伏せた。



「な、なんや…て?」



 あまりの出来事にホムラの反応が遅れた。

 チャンスだというように、ホムラの身体を吹き飛ばすように地天煌斧を横から力任せに薙ぎ落とした。



 形勢が、変わった。


 必然的に熾劫火刀で庇うが、ホムラはその瓦礫の山へと勢い良く投げ出された。


 ドォオオ───ン。


「……ガハッ」


 噎せ返る。

 口に広がる血の味。

 軋む身体。

 身がよじれる痛み。


「……な、んて、日や…。肋骨、持ってかれた……わ」


 苦痛で片眉が歪む。

 横腹を押さえ足へと力を入れる。

 身体に貫く稲妻。


 視界が狭くなり、意識が、遠のく。



「……くっ、寝る…わけに、いかん……やろ」


 手元を離れた愛刀。


 ホムラへと向かう足が止まった。



 衣が翻る。



 ゼフィールの足先にいるのは、




 ───────ウィルだった。


















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