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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第 3 章 黒き檻

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❨ Act. ⅩⅣ





 舞い上がった土煙。そこに朧げな人影。

 ホムラは熾劫火刀イグニファラムに指先を掛けた。


 眼光が鋭くなる。

 その場で立ち上がり、ウィルを背にし、一歩前に出た。


 土煙が風に流され、そこにいた影の姿が鮮明に見えるようになった。


「……ゼフィール、さん?」


 ウィルは咄嗟に声が零れた。


 柄に掛けたホムラの指先が緩む。


 茶褐色に侵されたゼフィールの純白の聖衣がパタパタと音を放った。


 何日ぶりに会う顔は俯いたままで見えない。



 ジィィィ──と耳障りな音が鼓膜に反響する。



 右手で地天煌斧ジオリュクスを地面に擦り付け、ふらふらと前に進む。



「もう、終わったんか?」


 ホムラの声が頭上から落ちた。

 声はゼフィールの耳に届いていないのか、未だに顔を上げようとはしない。


 足が止まった。


 ゼフィールは地天煌斧を天高く振り上げた。腕に血管が浮き上がり、そのまま振り落とす。


 何度も。

 何度も何度も─────



 微かな叫びが、空に散る。


 飛び舞う茶褐色の“何か”。


「あれ、ビーストや……」


 一点を見つめホムラは躊躇うように声を上げ、息を呑んだ。



「……なんで、


 ────嗤って、るんや?」



 無意識にホムラは半歩、後ろへ下がった。

 底知れぬ恐怖が足から這い上がる。



 ゼフィールの横顔が切り刻む度に、口角が鋭角になる。八重歯を剥き出し、眼は益々ギラついていく。



 ビーストの身体の破片は空に放たれ、端から煙のように消えて行った。



 呼吸も忘れ、ウィルはその光景を眺めていた。



 ガシィッ─────ンッ!!!




 ────音が、失われる。




 地面に突き刺さった地天煌斧の刃から湧き上がる白き靄。



 ゼフィールはまた俯き、動きを停めた。

 地天煌斧の柄を握り込む手から力は抜けない。





 ……ジリっ。


 ウィルは腰を上げ、ゼフィールのもとへ足先を向けた。


 不意に出た指先。


「ゼフィールさ、ん?」



 ピクッ。

 ゼフィールの肩が揺れた。


 更にウィルは腕を伸ばす。

 いつものあのゼフィールだと確かめたい一心で。



 地天煌斧がウィルへと向いた。


 緊張で張り詰めた糸が緩み、安堵の息を吐く。

 足取りが軽くなったように思えた。

 思わず、顔も和らぐ。


「ゼフィ───」


 背後で、地を蹴った音がした。



「────ッ、ウィル!しゃがめッ!!?」



 ウィルの身体は即座に反応できなかった。



 黄金の髪が宙にキラキラと煌めき、ウィルの耳の傍に風が掠める。


 ウィルの純白が眼前に広がった。



 ガッキ─────ンッ!!


 地天煌斧を熾劫火刀が受け止める。


 顔を上げるとホムラが立っていた。

 小刻みに震えるホムラの腕。



「な、なにしとるんや!?ゼフィールッ!!」



 ホムラの語気が荒らげた。

 息苦しいような呼吸がウィルの耳に入る。


「ガァルルアアッ」


 首を傾げ、人の目とは思えない瞳がホムラを睨めつけ、言葉ではない叫声を吐く。


「なんや、ねんッ!このバカ力がぁ!!」


 腕を伸ばし、地天煌斧を弾き返す。

 体勢を崩したゼフィールの足が数歩後ろへと下がる。


 ホムラは熾劫火刀の切先を地へと向け、肩を回す。


「なんちゅう力やねん……巫山戯るのも大概にせいや」


 細めた瞳がゼフィールを射抜く。伏せていた顔が勢い良く上がった。


「アぎァァァアハァ」


 白目を向き、口から涎を垂らしながら野太い嗤い声を発した。


「───おい、どうしたっちゅうねん?!」


 前傾姿勢を取り、ゼフィールがホムラ目掛けて突っ込んで来た。

 咄嗟の行動に、ホムラの動きが遅れた。


「熾劫───くッ」


 熾劫火刀の背に手を添え、力任せに振り落とされた地天煌斧の刃を受け止めた。


 平の骨から肘へと重い振動がホムラを襲う。


 目元が歪む。

 眉根に力が籠る。



「なんも加護のない奴ならもう、とっくに死んどるでぇ」


 軽口を叩くホムラだが、呼吸が荒い。


「ニヒァ……」

「何、笑おとるんや?ゼフィール、──うっ」


 ホムラの腹にゼフィールの足が食い込み、そのまま壁へと吹き飛ばされた。



 ガゴ────ンッ!



 埃が立ち上がった。壁に身体を打ち付け、滑るように腰が地へと落ちた。


「ゴホッ、ゴホッ……、油断したわ」


 壁から背を離すると、噎せたと同時に口端に血が流れた。無理矢理、その血を拭う。


「───ホント、冗談……キツイわ」


 傍らにある熾劫火刀の柄を握る。その手は微かに震えた。前へと顔を上げた。


 ゼフィールが一歩、一歩距離を詰めてくる。


「暴走とか……聞いておらんて」


 向かってくるゼフィールと再び対峙すべく、ホムラは膝に手を付き立ち上がる。


 聖衣に付いた埃を叩く。


「ホンマに、オレ。反省したって。だから……」


 切先をゼフィールへと向ける。


「正気に戻れや。ゼフィール」


 研ぎ澄まされた瞳から剣が削がれる。だが、その声はゼフィールの耳には届かない。


 駆け出した。ホムラへと一直線に。


「まるで獣やないか」


 息を細く吐き、空を吸う。


「神名か─────」


 言葉を唱えようとしたその瞬刻。


「ゼフィールさんッ!!」


 ウィルがゼフィールを止めようと身を乗り出した。その声にゼフィールは反応し、軽やかに行く先は変えウィルへと向かう。

 地天煌斧が片腕一本で平行に持つと、ゼフィールはウィルへと狙いを定めた。


「あのバカっ」


 ホムラはウィルを止めようと足を蹴った。


 距離的に間に合わない。ホムラはそう判断し、落ちていた瓦礫を手に取った。


「お前の相手はオレだろうが!」


 ゼフィール目掛け、振りかぶる。瓦礫は空を貫きながら進んでいった。


 獣の勘なのか、ゼフィールは歩みを止め、ホムラが投げた瓦礫から身を守ろうとその場から飛び退いた。


 その隙に、ウィルとゼフィールの間にホムラは立った。


「ウィル!なんて無茶するんや!危ないやろ!」


 肩越しにそう言葉を投げ捨てる。ホムラの目が真っ直ぐウィルを見た。その瞳が語る威圧感に自分の行動がどれ程、無鉄砲だったか思い知らされる。


「ご、ごめんなさい……」


 ウィルは目を背けた。

 それ以上、ホムラも語らず前にいるゼフィールへと目を向けた。


 余裕そうに首を鳴らし、地天煌斧を肩に掛けた。


「兄サン。エラい、余裕やないの?」


 フッと吐息が漏れた。


「ウィル、オレが合図したら走れ」


 静かに有無を言わせぬ声音。


「え、」

「分かった、な?」


 ウィルは頷いた。ホムラはそれが見えていたかのように口にした。


「良い子や」


 ジリ、と足を開き、ホムラは構えた。

声を上げる。


「神名解放、


 ────熾劫火刀イグニファラムッ!」



























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