第五話 颯爽登場エドワードJ・テイラー ~或いは浅野十嗣の事件簿~ part4
――この一連の騒動は、これで幕を閉じた。
だからそれ以降は蛇足でしかないのだが、服部エリがいかに迷惑な人間かを知らしめるため敢えて付け加えさせてもらう。ただその前に、浅野十嗣の周りをひとしきり紹介しておこうと思う。
まずは、浅野十嗣と日下晶と佐藤についてだ。
三人を一纏めにしてもいいのかと思うかもしれないが、何せ一言で済んでしまうのだから仕方ない。
彼らは、相変わらずだ。
次に笹島みえこだ。
彼女は結局コンビニエンスストアを一週間で首になった。新しく店頭に置かれることとなったフライドポテトを一本一本丁寧に並び替えていたところを店長に目撃され、辞めることとなった。どうやらフライドポテトは彼女に近づけてはいけないらしい。
今度は新しくメイド喫茶などという喫茶店で働くらしい。私は不思議でならないのだが、女中が茶を運ぶのは当然ではないのだろうか。そこら辺のところを、やはり私は理解出来ない。
一番長くなるのが、服部エリだろう。
今回の事件の謝礼として、彼女は十嗣にあるプレゼントを渡した。合皮の少し値の貼るブックカバーは、私から醤油とケチャップの魔の手から保護してくれる中々力強い物だからだ。今度話しかけてみようと思うがどうだろうか。
まだある。
彼女はパチンコ店の良心的な最良のもと行われるイベントの時にしかパチンコへ出掛けなくなった。その代わりアルバイトを始めるらしい。
笹島みえこと同じ所で、裾の短い女中の衣装を着るそうだ。エミルと同じ格好など見たくはないので私は十嗣にそこには絶対に行かないよう懇願したいのだが、如何せん私のページを捲っても『メイド喫茶には絶対に行くな』などと書いていないので仕方がない。
最後は、やはりこれだろう。
「……母さんまた?」
服部エリが浅野家を後にしてから一週間、夕食には四人分の食事が出されていた。どうやら母がエリの分まで間違えて用意しているらしい。
私はわざとだと推測するが。
「まあ十嗣が食べればいいじゃないか、成長期だし」
無責任な事を言う父だったが、多分彼もこの件に一枚噛んでいる。
そういう目をしている。
「そういう問題じゃ……」
家族の団欒を止めたのは、突然の来訪者を告げる電子音だった。無言の圧力に促され、十嗣は玄関へと向かった。
扉を開けるとそこには、一人の女が日本の伝統芸能土下座をかましていた。
言うまでもなく、彼女である。
「あのね、電気代と水道代は何とかなったんだけど、こんどはガスが止まって……これ以上佐藤先生に頼むのも悪いかなーって思って、バイト代も当分出ないだろうし……ね?」
本来なら罵詈雑言を浴びせられても仕方が無いのだが、十嗣は代わりにため息をついた。
「トンカツだってさ」
「何が?」
「今日の晩飯……お前の分もあるから」
照れくさそうに家に戻る十嗣と笑顔で家へと上がりこむエリ。何日泊まるかは知らないが、大きなドラムバッグには荷物が山ほど詰め込まれていた。
「やっぱり!? いやー流石私、愛されキャラって言うのかな……」
「冷めるぞ」
「はーい」
そんな訳で、彼女はまた浅野家の一員になったのだ。
おっと、忘れるところだった。
服部エリが持ち込んだ荷物の中に、古いワープロがあった。
何でもかつて父が愛用していたもので、その意志をついで彼女は探偵小説でも書くらしい。まだ出来上がっていないので、その良し悪しを語ることは出来ないが、少なくとも私は読まなくても良さそうだ。
なにせその小説の主人公は、名探偵浅野十嗣なのだから。




