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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十三話(第一部最終回) 「不幸万歳! あとに残るは希望だけ : vs. Cordelia」
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chapter 6


   6


 ハムレットは舌打ちし、声を荒げる。

「ええい、いいかげん眠っていればよいものを――。灰炎のジュリエット」

「そう、我が名はジュリエット。七つの世界を敵に回し、それでも愛する人のために戦うけなげな乙女。灰炎のジュリエットだ」

 ジュリエットが強く、一歩踏み出す。

 空気を吸い込み、声を張る。

 舞踏会の誰もが自分に注目されているのを確認してから、彼女はこの舞台のヒロインであることを自覚する。澄み切った声は、舞台の端まで優雅に届いた。

「コーディリア。裏切られたからなんだ。世界に憎まれたからなんだ。自分の心までは裏切れない。君は父に裏切られようとも、自分を裏切らなかったんじゃあないのか。それすらも手放してしまったら、本当に君の手にはなにも残らないぞ」

「でも、わたしにはもう……、戦う力もない……」

「ぼくが与えてみせる」ジュリエットは一人一人に目を合わす。「七つの剣よりも、飛翔する雷撃よりも、変幻自在の自動人形よりも――、なによりも勝る力を君に与えてみせる」

「裏切り続けてきた女がなにを言うか――」ハムレットが嘲笑う。

「そうだね。言葉だけじゃあものたりない、というのなら、この場を一つ、混乱に陥れてやろう。ぼくの得意技さ」ジュリエットは人差し指で胸を刺すと、その指を体内に沈み込ませた。

「それは、我が世界の身体代替化――」ハムレットが喉を鳴らす。「なんだ……、なにを隠している」

「これだよ」ジュリエットは妖艶に微笑むと、体内から赤い宝石を取りだした。「見せてあげよう、世界の真実の一部を――」

 宝石が光ると、中に閉じ込めた真実が浮かび上がった。

 空間投影された、銀河の星々の輝きのようなキューヴ状の一枚の絵。

 回転しているように見えるが、それは四次元を三次元的に表現しているからだった。

 擬似的にしか図示することはできない。

 なぜなら、三次元生物には四次元を認識することはできないから。

「馬鹿な……、それは」

「世界地図さ」悪巧みいっぱいにジュリエットは笑う。

「そんな、世界地図はロメオが持っているのでは」

「何度我々の脚本を修正させれば気が済むのだ、灰炎のジュリエット」

 フィディーリもプロスペロも、焦燥を隠しきれない。

「あーりゃりゃ」パックはいつもの調子で戯けているようで、しかし顔は笑っていなかった。

「どうだい、コーディリア。やっぱりぼくの言葉は信用ならないだろう。だったら、ぼくを利用しろ。この手を取れ。もう一度、裏切られる覚悟をもて」

 コーディリアの指がぴくりと動く。

「ちょうどいいじゃあないか。運命の女神に見放され、この世の底辺に落ちたなら、あとは上がり調子のみ。不幸万歳だ」

「不屈の精神には感服する。なら這い上がってみろ。できるものなら」ハムレットは右手を刀剣化させ、一歩、前に踏み出る。

「言われなくとも」ジュリエットがヒールを叩きつけ、九十度捻る。そこに火花が散って彼女の長い赤毛に引火する。「レディブースト」

「不足分の熱量を補うつもりか――」

 オフィーリアの行動が誰よりも速かった。

「赤の魔女さん。せっかくきれいな髪を」オフィーリアが素早く接近すると、鉄線のような鋭利な斬鉄桔梗の髪の毛で、燃えようとするジュリエットの毛先を切り落とそうとするが――、

「ごめん、オフィーリア。いまは君に構っている暇はないんだよ」

 ぱちん、と指先を弾く。

 それだけで、フロギストンがすさまじい爆発を起こす。

 瞬間的に膨張した空気に、オフィーリアを飛ばす。

 一時的しのぎではあるが、逃げるだけなら代表CEOの四人を敵に回しても耐えられる。

「いいや、耐えてみせる――」ジュリエットは拳を胸に強く打つ。「凍てつけ、氷結の焔」

 すると奪われるエナジィに、拳に冷気が蓄えられる。

 右手を平行に一線。

 空間を切り裂いた隙間から、焔の冷気が噴射する。

「〈トロメリア〉」

 瞬く間に白い冷気の焔がハムレット、フィディーリ、プロスペロ、そしてエドマンドを呑み込もうと、意思のある津波のように襲った。

「またか、氷結の焔――」ハムレットは危険を察知し、未知のスピルに触れる手前で後退する。ほか三人もコーディリアを放り、同様に回避の一手を選択する。この判断は正しかった。

 通常の焔が連鎖爆発で爆炎と硝煙を発生するのに対し、氷結の焔は周囲のエナジィを奪い取って氷の花を生み出した。

 一歩でも判断を誤れば、彼らは氷結に焼かれていたところだった。

 床に伏せるコーディリアが氷結の焔に焼かれていないのは狙いどおりである。

「ピンヒールブースト、イグニッション」ジュリエットのヒールから、いつもより太いアフタバーナが燃え上がる。強烈な推進力に押されないように、彼女は膝を折り、手をついて堪え忍ぶ。さらに――、

「フルパワーだ」アフタバーナはさらにエナジィを注がれる。強力な火炎放射のような火柱に、耐火限界を超える熱量にヒールは融解。ジュリエット自身も、その熱に顔を顰めた。

 最大出力以上の推力で、ジュリエットは手を放す。

 とたん、放たれた弓矢のように発射。

 空中の姿勢制御も難しいほどの速力。

 目指すのは、コーディリア。

 ジュリエットは手を伸ばした。

「コーディリア――」

 コーディリアは悩んでいる。

 手を取るべきか、すべてを諦めるべきか。

 この一刹那で選択を迫られるのは酷な現実だ。

 だが、はっきりと未来を別つ二つの道に、彼女は涙で歪みながらも、望む未来へ手を伸ばす。

「ジュリエット――」

 二人の手ははじめて、そしてきつく握られた。

 握り合う手のひらが打つ音が、あたらしい舞台のはじまりを告げたようである。

 ピンヒールの推力に振り回されながらも速力はおとさず、ジュリエットはコーディリアを抱き上げて邁進する。フィギュアスケータのペアも羨むほど、二人は互いに離れぬよう抱き合って、銀河の舞踏会を舞い踊る。

 ジュリエットが乙女も恥じらうほど顔を寄せると、思わずコーディリアは頬を赤らめて目を逸らす。そんな些細なやり取りで、ジュリエットは彼女に幼なじみのような絆を思う。

「オープンザゲイッ」ジュリエットは進路先に〈ヒダカミドウ〉へのゲートを開く。

 それをすんなり通れるわけがない。

 最後まで立ちふさがるのはハムレット。

「行かせるものかっ」

「そこをどけ。ハムレット」

 ハムレットは右腕を身体代替化によって、彼だけの見えない刃を作り出す。

「ハムレットソード」

 ジュリエットも右手に焔の剣を握る。

「ジュリエットレーピア」

 二人が同時に自身を鼓舞するため叫び、刃は交わされる。

 コーディリアは、いまは幼子のようにジュリエットに抱かれ、彼女が無力さに流した涙が地に落ちるまえに、決着はついたのだった――。


   ※


 パックは次元の狭間――銀河舞踏会ですらないこの次元を3.5.5次元とでも呼ぼうか――で、観客をまえに頭を深々と下げた。


 我々は彼らにとって影法師。

 見えず、聞こえず、触れられず。

 そこにあってない存在。

 お気に召さねば夢と思ってよい存在。

 できの悪い芝居なれど、

 もしも皆様方が多めに目を瞑っていただけるのならば、

 この戯曲は先も続けられると存じます。

 パックは天性の正直者。

 いかなる結末に向かうかは暗闇のなか、手探りで雲を掴むようなものと告白いたしましょう。

 ゆえにお楽しみいただけるかと存じます。

 続きの舞台は、満月が三つ回ってからにいたします。

 それでは、おやすみなさいませ。

 皆様、おやすみなさいませ。

 最後にお手を頂戴。

 パックがお礼申します。

 なに、お時間は取らせませぬ。

 このパックにかかれば、地球一回りも一足飛び――。

銀河舞踏会 γジュリエット 後半戦

第1話(第14話) 「二人で一人 ダブルキャスト・システム! : vs. Humlet」へ続く

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