chapter 2
2
ジュリエットがコーディリアと鍔迫り合いをしているとき、観月智一にも選択の時は迫っていた。
抱きしめる天宮羽衣からどんどん体温が失われていくのがはっきりとわかる。彼女の躰から白銀の龍はいぜんとして生み出され続けていて、生命力を奪い去ってしまっているのかもしれない。
ジュリエットといえば、コーディリアの第一フェーズにすら手こずっている。素人感覚だが、エドマンドの第二フェーズよりも押されているのではないだろうか。なのに、悪夢の王女にはあと二つ、鬼石の段階的開放を残している。
「でもいつだって、ジュリエットは窮地に立たされたとき、チャーミングに小馬鹿にした笑顔でピンチを切り抜けてきたんだ。いまだって……」
「だめ、トモ……」
「羽衣――」
「トモ、ジュリエットはこれで手一杯。もともと、処理速度で勝負するインボーグ方式の〈スーパシー〉製フレイムワークは、いわば短期決戦型。超通信時はもちろん、銀河舞踏会の滞在時にも沈殿するトラッシュは、超通信しない第二世界の戦士とは比較にもならないスピードで増えていくのよ……」
「お前、いったいなにを言って……」
「あの子の記憶領域に占める寡占領域は、確実に埋まりつつあるわ。わたしほどじゃあないけれど」羽衣が笑う。だが引きつった笑顔だった。
とつぜん、知らないはずの単語をぺらぺらと喋り出す羽衣に、観月はリアクションを忘れ固まった。
「このままじゃあ超通信が使えなくなるわ。いわゆる回線障害に陥る。ゲートも開けない。そうなるまえに、手を打つしかない」
「ならどうする」
「わたしの意識領域と処理能力をジュリエットに預ける。クラスタを発生させるわ。一時的に大容量の情報処理が可能になるから、〈エレガントキメラ〉に大規模スピルをぶつけてやるのよ」
「それでお前は大丈夫なのか」
「この手しかないじゃない。〈エレガントキメラ〉がR1のいまだけが勝機よ。すくなくとも、R3にはさせちゃだめ。勝ち目どころか、逃げることも出来なくなる」
「……俺はどうすればいい」
「超通信の四工程のうち、クエリとフェッチだけに専念してもらうわ。できないなんて言わせないわ」
「でも……、俺は……」
「覚悟を決めなさい、トモ。いつだってあたしを助けてくれたあんたが、いまさらここにきて放り出すの。若作りまでして同級生に紛れ込んだあんたが」
「……どうやら、いまのお前には隠し事はできないらしいな」観月は苦笑う。「いいだろう。覚悟を決めてやる。ジュリエット。いったんこっちに引いてく、れ――」
観月は見上げたまま、言葉を続けられなかった。
そして自分の決断の遅さに後悔する。四メートルを超えるドレス甲冑姿の巨人――コーディリアR2を目の前に、はたして自分の力は虎に噛みつく蟻のようなものでないか、と思ったからだ。




