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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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Fランクのくせに

森を抜けた頃には、昼をかなり過ぎていた。


ソーマの背中には、大きく膨らんだ革袋。


中にはフォレストウルフの牙や爪、鳥型魔物の羽、それからアイアンボアの牙や皮の一部まで詰め込まれている。


《重量軽減 Lv1》のおかげで多少は楽になっているとはいえ、軽いわけではない。


むしろ普通に重い。


肩へ食い込む革紐を何度か直しながら歩いていると、前を歩くリナが振り返った。


「本当に大丈夫?」


「まだいける」


「さっきから何回目よ、それ」


「5回目くらい?」


「じゃあもう大丈夫じゃないでしょ」


ソーマは苦笑した。


腕も肩も疲れている。


それでも、もし《運搬》も《重量軽減》もなかったら、途中でかなりの素材を捨てることになっていただろう。


レオンが歩みを緩め、ソーマの横へ並ぶ。


「一部持つぞ」


「大丈夫です」


「意地張るなって」


「いや、本当にまだいけます」


レオンは少しだけ眉を上げた。


「……それ、結構な量入ってるぞ」


「わかってます」


「俺でも普通に重いと思うけどな」


「持ち方にコツがあるんで」


ソーマがそう答えると、前方からリナの声が飛んできた。


「またそれ?」


「本当なんだから仕方ないだろ」


もちろん、それだけではない。


《重量軽減》のことを説明するつもりはまだなかった。


隠したいわけではない。


ただ、自分自身まだよくわかっていない能力を、他人へ説明するのが面倒だった。


それに、異世界へ来るたびに現実の仕事経験がスキルになるなんて話をすれば、余計な説明が必要になる。


少なくとも今は。


自分の能力については、自分である程度理解してから話したかった。


◇


街へ戻る頃には、ソーマもさすがに疲れ切っていた。


城門を抜けた瞬間、少しだけ緊張が解ける。


森の中では常に《警戒》を意識していた。


何も起きていない時間でも、どこかで魔物が出るのではないかと考えてしまう。


街へ戻ると、その感覚からようやく解放される。


「森から帰ってくると安心するな……」


思わず呟く。


レオンが笑った。


「初日はその街から出てすぐ死にかけてたもんな」


「思い出させないでください」


「あれから数日しか経ってないのよ?」


リナに言われ、ソーマは少し驚いた。


確かにそうだった。


異世界へ来た回数はまだ2回。


冒険者として過ごした日数も、それほど長くない。


それなのに、ずいぶん長くこの世界へいる気がする。


「濃すぎるんだよな……」


「何が?」


「こっちの生活」


「?」


リナには意味がわからなかったらしい。


それ以上は説明しなかった。


◇


冒険者ギルドへ入ると、昼過ぎということもあってかなり賑わっていた。


依頼を終えて戻ってきた冒険者たちが受付へ並んでいる。


レオンがカウンターへ向かい、依頼書と完了報告を出した。


「森の外縁部、調査と素材回収終了」


受付嬢が書類を確認する。


「お疲れ様でした。何か異常はありましたか?」


「死骸が4体。それと、生きたアイアンボアが1体」


受付嬢の表情が少し変わる。


「アイアンボアですか?」


「ああ。外縁に出てくるには少し珍しい」


「討伐されたんですか?」


「一応な」


リナが横から口を挟む。


「結構硬かったけど」


「怪我は?」


受付嬢が3人を見る。


「俺たちは大丈夫」


レオンが答える。


受付嬢の視線がソーマへ向く。


「ソーマ様は?」


「今回は何も食らってないです」


「今回は、ですか」


「初日より成長しました」


受付嬢は何とも言えない表情をした。


たぶん褒められてはいない。


素材の確認は、ギルド奥にある査定所で行うことになった。


3人でそこへ向かう。


◇


査定台の上へ素材を並べる。


フォレストウルフの牙。


爪。


鳥型魔物の羽。


小型の猪型魔物の角。


そしてアイアンボアの素材。


担当者は50代くらいの男だった。


眼鏡をかけ、1つずつ素材を確認していく。


「フォレストウルフの牙……3本良品、1本欠けあり」


ソーマは少しだけ驚いた。


自分が《仕分け》で分けたものと同じだった。


続いて爪。


こちらもほとんど評価が一致する。


「こっちは根元に亀裂。買い取り不可だな」


その素材も、ソーマが使えない方へ分けていた。


「……結構合ってるな」


小さく呟く。


リナが横を見る。


「何が?」


「俺が使えると思った素材と、ほとんど同じ評価だった」


「ほんと?」


「うん」


査定担当の男が顔を上げた。


「お前が選別したのか?」


「基準を教えてもらった後ですけど」


「冒険者歴は?」


「まだFです」


「それは見ればわかる」


腰の登録証を見られていたらしい。


男はもう1度素材を見る。


「Fにしてはよく分けてあるな。新人が持ってくる素材なんて、半分くらい駄目なこともあるぞ」


「そんなに?」


「回収することばっかり考えて、傷んでるものまで全部持ってくるからな」


なるほど。


森から大量に持ち帰ればいいわけではない。


不要な素材まで背負えば、ただ荷物が増えるだけだ。


《仕分け》は思った以上に探索と相性がいいのかもしれない。


「今後も選別できるなら、その場で捨てた方がいい物は捨ててこい。荷物も減る」


「わかりました」


仕事の効率を考える。


それは現実世界のバイトでも同じだった。


◇


最後にアイアンボアの素材が査定された。


「牙2本。状態良好。皮は少し焼けてるな」


リナが目を逸らす。


「私の魔法です」


「まあ、この程度なら買い取りできる」


値段が計算されていく。


依頼そのものの報酬。


素材買い取り。


討伐分の追加報酬。


合計金額を聞いて、ソーマは少し驚いた。


「結構いくんだな……」


もちろん3人で分ける。


それでも、街中の荷運び依頼よりかなり高い。


命の危険がある分、報酬も高いということだろう。


「だから冒険者は討伐や探索に行くんだ」


レオンが言う。


「当たれば街仕事より稼げる」


「外したら?」


「怪我するか、死ぬ」


「やっぱり街仕事でいい気がしてきた」


リナが吹き出した。


「そこまで言う?」


「だって割に合わなくない?」


ソーマは本気だった。


仮に日本円の感覚へ置き換えるなら、今回の報酬は確かに悪くない。


でも命を賭けている。


時給だけ見れば高いからといって、積極的に選びたい仕事ではない。


「ソーマって冒険者向いてないんじゃない?」


「自分でもそう思う」


「でも役には立つんだよな」


レオンが笑う。


それを言われると弱い。


◇


査定を終えて受付へ戻る。


素材の品質も良く、報告内容にも問題なし。


依頼は正式に完了した。


受付嬢がギルドカードを確認しながら言う。


「ソーマ様、今回で依頼達成数も増えましたね」


「ランク上がります?」


少し期待して聞いた。


「まだです」


「ですよね」


即答だった。


受付嬢が笑う。


「FランクからEランクへ上がるには、依頼数だけではなく、依頼中の行動や安全管理も評価されます」


「安全管理……」


初日に丸腰で森へ行ったことが頭をよぎる。


受付嬢も同じことを思い出したのかもしれない。


微妙な間があった。


「……今はちゃんとしてます」


「はい。最近は」


最近を強調された。


リナが横で笑っている。


「ただ、今回の依頼についてはレオンさんからも評価をいただいています」


「俺?」


ソーマがレオンを見る。


レオンは普通に頷いた。


「後方警戒もできてたし、荷物もかなり持ってくれた。素材の選別までできるなら十分役に立ってる」


「本当に?」


「わざわざ嘘ついてどうする」


受付嬢も続ける。


「Fランクの方が、Dランク・Eランクを含むパーティで問題なく依頼を終えられたことは評価対象になります」


少しだけ嬉しい。


戦闘ではほとんど何もしていない。


倒したのはレオンとリナ。


それでも、自分がいた意味はあった。


「このまま実績を積めば、Eランクへの昇格も遠くないと思いますよ」


「おお……」


Fランクを卒業できる。


冒険者になった時には大して気にしていなかったが、実際に言われると少し楽しみになる。


「Eになると何が変わるんです?」


「受けられる依頼が増えます。報酬も上がりますし、街の外での採取や護衛なども選択肢が増えます」


「危険な仕事も増える?」


「もちろん」


「Fのままでもいいかな……」


「ソーマ」


リナが呆れた声を出す。


「冗談だよ」


半分くらい本気だった。


◇


その時だった。


近くにいた冒険者の1人が、こちらの会話を聞いていたらしい。


20代半ばくらい。


大きな斧を背負った男が、ソーマのギルドカードを見る。


「お前、Fなのか?」


「そうですけど」


男は少し驚いた顔をした。


「さっき大量の素材背負ってた奴だろ?」


「たぶん」


「DとEのパーティに混ざって?」


「荷物持ちです」


男は少し笑う。


「Fランクのくせに随分使えるじゃねえか」


言い方は少し引っかかった。


だが馬鹿にしているわけではなさそうだった。


レオンが口を挟む。


「こいつ、荷物持たせると便利なんだよ」


「それ褒めてます?」


「めちゃくちゃ褒めてる」


「ならいいけど」


男は笑いながら去っていった。


ソーマはその背中を見る。


Fランクのくせに。


数日前なら、少し腹が立ったかもしれない。


でも今は、それほど悪い響きには感じなかった。


Fランクなのは事実。


戦えないのも事実。


ただ。


それでも役に立てる。


なら今は、それで十分だった。


◇


報酬を3人で分けた後、ソーマは市場へ向かった。


今回の取り分は、街中の依頼よりずっと多い。


その気になれば少しくらい贅沢もできる。


市場を歩いていると、肉を焼く香ばしい匂いがした。


大きめの肉串。


銅貨8枚。


ソーマは少し迷ってから買った。


「今日はいいだろ」


一口食べる。


うまい。


初日に硬い黒パンを豆スープへ浸して食べていたのが、ずいぶん前のことのように感じる。


それでも財布の中身はちゃんと確認する。


宿代。


明日の食費。


予備。


全部を使うつもりはない。


異世界へ来て最初に覚えたことの1つが、


金はすぐなくなる。


だった。


冒険者としての教訓より、そっちの方が先に身についている気がする。


「ソーマ!」


後ろからリナに呼ばれた。


振り返る。


レオンとリナがこちらへ来る。


「まだ何か?」


「明日も暇?」


「暇かどうかは依頼次第だけど」


レオンが笑う。


「じゃあ、また3人で何か受けるか?」


ソーマは少しだけ考えた。


初めてのパーティ依頼。


怖かった。


アイアンボアが突っ込んできた瞬間は、正直もう森に入りたくないと思った。


それでも。


悪くなかった。


自分のスキルが、誰かの役に立つ。


1人ではわからなかったことも、少しずつ見えてきた。


「危なくないやつなら」


「冒険者でそれ言う?」


「大事だろ」


リナが笑う。


「じゃあ、明日依頼板見て決めましょ」


「了解」


ソーマは頷いた。


冒険者になったばかりの頃。


Fランクという言葉には何の実感もなかった。


今は少し違う。


次はEランク。


その先に何があるのかは、まだ知らない。


ただ、少なくとも。


「Fランクのくせに」


そう言われても、少しだけ胸を張れるようにはなっていた。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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