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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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10/52

俺が組んでいたのは、結構すごい2人だった

翌朝。


ソーマが冒険者ギルドへ入ると、レオンとリナはすでに奥のテーブルに座っていた。


テーブルの上には何枚かの依頼書が広げられている。


「おはよう」


ソーマが声をかけると、レオンが片手を上げた。


「おう。ちょうど良かった」


「今日は遅刻じゃないわね」


リナが言う。


「だから今まで1回も遅刻してないって」


「集合時間より早く来るのが普通なの」


「それ、リナ基準だろ」


いつものやり取りをしながら、ソーマも空いている椅子へ腰を下ろした。


昨日は初めて3人で森へ入り、アイアンボアまで討伐した。


実際に倒したのはレオンとリナだが、《警戒》で危険を知らせ、《仕分け》で素材を選び、大量の素材を運んだ。


戦闘そのものはできなくても、自分なりに役には立てたと思う。


「今日は何するんです?」


ソーマが依頼書を覗き込む。


「その前に1回、ちゃんと確認しようと思ってな」


レオンが言った。


「何を?」


「スキル」


ソーマは少しだけ身体を固くした。


「スキル?」


「昨日みたいにパーティで動くなら、誰が何をできるのか知っといた方がいいだろ」


確かにその通りだった。


昨日は何となく役割を決めて森へ入った。


レオンが前衛。


リナが魔法。


ソーマが荷物持ちと後方警戒。


それでも大きな問題は起きなかったが、今後もっと危険な依頼を受けるなら、互いの能力を把握しておく方が安全だ。


「別に全部言わなくてもいいわよ」


リナが付け加える。


「冒険者にとってスキルは手の内でもあるから。隠したいものまで話す必要はないわ」


「そういうものなんだ」


「当然だろ」


レオンが笑う。


「対人戦になった時、能力全部知られてたら困るからな」


そんな事態まであるのか。


少し怖い。


「じゃあ俺からな」


レオンが自分を指差した。


「メインは《剣術 Lv3》。《身体強化 Lv2》《危険察知 Lv1》あたり」


「剣術3……」


ソーマには、それがどの程度なのかわからない。


だが初日に見た動きを思い出せば、弱いはずがない。


「レベルってどこまであるんです?」


「スキルによるけど、一般的なのは5段階と言われてる」


「じゃあ3って結構高い?」


「まあ、そこそこ」


レオンは軽く言う。


横でリナが呆れた顔をした。


「そこそこじゃないわよ。20歳で《剣術 Lv3》なら十分高い方だから」


「そうなの?」


「こいつ、自分の基準がおかしいのよ」


レオンは気にした様子もなく笑っている。


次はリナ。


「私は《火魔法 Lv2》《魔力操作 Lv2》《魔力感知 Lv1》」


ソーマは聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「魔力操作って?」


「魔法を使う時に、出す魔力を調整するスキル。火球を大きくしたり小さくしたり、無駄に魔力を使わないようにしたりね」


「あの火球もそれ?」


「そう」


初日にゴブリンへ撃った魔法。


アイアンボアへ放った火球。


あれを見ていたソーマには、十分すごいように思える。


「じゃあ次、ソーマ」


2人の視線が向いた。


「俺?」


「今3人しかいないでしょ」


ソーマは頭の中で現在のスキルを確認する。


《運搬 Lv1》


《仕分け Lv1》


《警戒 Lv1》


そして今回増えた、


《重量軽減 Lv1》


別に隠すほどのものでもない。


「《運搬 Lv1》《仕分け Lv1》《警戒 Lv1》と……あと最近《重量軽減 Lv1》が増えた」


数秒。


沈黙。


最初に吹き出したのはレオンだった。


「お前、どんだけ荷物運んでるんだよ」


「笑うところ?」


「《運搬》に《重量軽減》って、完全に荷物持ちじゃない」


リナまで笑っている。


「こっちは生活かかってんだよ」


「いや、悪い意味じゃない」


レオンは笑いながら手を振った。


「昨日あれだけ素材持てた理由がわかった」


「俺も最初は《運搬》のおかげだと思ってたんだけど、重量軽減は本当に少しだけ物が軽くなるみたい」


「珍しいスキルね」


リナが興味深そうに言った。


「珍しい?」


「少なくとも私は聞いたことない。似たスキルなら《筋力強化》とか《収納》はあるけど」


「収納?」


「持ち物を別空間に入れるスキル。ただしかなり希少」


それは欲しい。


《運搬》より遥かに便利そうだ。


そう思っていると、レオンがソーマを見る。


「重量軽減って、いつ覚えた?」


「こっちに来る前」


言いかけて、少し言葉を選ぶ。


「……最近」


「何してた?」


「重い家具とか運んでた」


「それで生えたのかもな」


ソーマは眉を上げた。


「スキルって、やったことから増えるものなの?」


「基本はそうよ」


リナが答える。


思わず身を乗り出した。


「基本?」


「剣を何度も振っていたら《剣術》を覚えたり、森で長く採取をしていたら《採取》が出たりすることはあるわ」


「じゃあ、何回やれば出るとか決まってる?」


「そこまではわからない」


期待した答えとは少し違った。


レオンが続ける。


「同じことやってても、すぐ覚える奴と何年やっても覚えない奴がいる。才能とか経験量とか、本人の適性とか、いろんな説がある」


「明確な条件は?」


「聞いたことないな」


ソーマは考え込んだ。


清掃は5時間。


飲食も5時間。


イベント設営も5時間。


引越しだけは2回やった。


この世界の常識では、経験を積むことでスキルが生まれること自体は珍しくない。


なら引越しだけ《重量軽減》が出た理由も、単純に他より多く経験したからなのかもしれない。


ただ、まだ断定はできない。


倉庫や警備は以前にも何度か経験している。


累計の仕事量なんて正確には覚えていない。


「どうした?」


レオンが聞く。


「いや……もしかしたら、経験した量が関係してるのかなって」


「あり得るんじゃない?」


リナが答えた。


「でも、それだけならベテランはスキルだらけになるはずでしょ? 実際はそうでもないから、他にも条件はあると思うわ」


なるほど。


答えに近づいたようで、まだ遠い。


ソーマは一旦その疑問を頭の隅へ置いた。


◇


「そういえば」


ソーマはレオンのギルドカードへ目を向けた。


「前から気になってたんですけど、Dランクってどのくらいなんです?」


レオンが少し首を傾げる。


「どのくらいって?」


「俺、Fから始まったばっかりだから、上のランクがどれくらいすごいのかよくわかってなくて」


リナが呆れたようにこちらを見る。


「それ、今まで知らずに私たちと組んでたの?」


「F、E、D、C、B、A、Sって上がるのは知ってる」


「それだけ?」


「それだけ」


リナが額へ手を当てた。


レオンは面白そうに笑っている。


「じゃあ簡単に説明するか」


レオンが指を1本立てる。


「Fは新人。基本は街中の雑用とか、危険の少ない採取」


「俺だ」


「そう」


2本目。


「Eになると簡単な討伐や街道護衛、森の浅い場所の依頼なんかが増える」


リナが現在そこだ。


「Dは?」


「中堅だな。討伐や護衛、探索を安定して任せてもらえる。街でも冒険者として一人前扱いされるのは、この辺からじゃないか」


「じゃあレオン結構すごいじゃん」


「まあな」


「調子乗らない」


リナが横から止める。


さらに上。


Cランクは上級冒険者。


危険な討伐やダンジョン探索を任され、地方の街なら名前を知られる者も増える。


Bランクになると複数の街や領地で知られるほどの実力者。


Aランクは王国全体でも数が少ない。


そしてSランク。


「Sは?」


「俺も会ったことない」


レオンが答えた。


「大陸全体でもほとんどいないって話だ。災害級の魔物とか、国だけじゃ対処できない事件とかに呼ばれるらしい」


「そこまで行くと別世界だな……」


Fランクの自分からすると想像すらできない。


「ただ、同じランクでもかなり差があるわよ」


リナが言った。


「差?」


「例えばEランクになったばかりの人と、次のDランクへ上がる直前の人が同じ実力なわけないでしょ?」


「確かに」


正式な階級ではないらしいが、ギルドや冒険者同士では同じランク内でも、


下位。


中位。


上位。


そして昇級候補。


そのくらいに分けて見られているという。


ギルドカードに書かれるわけではない。


あくまで実績や周囲からの評価だ。


「じゃあ2人は?」


ソーマが何気なく聞く。


レオンとリナが一瞬顔を見合わせた。


レオンが答える。


「俺はDの上の方」


「上位?」


「まあ、そんな感じ。次の規定依頼が通れば、Cランクの昇級査定を受けられる」


ソーマは一瞬黙った。


「……C?」


「うん」


今度はリナを見る。


「リナは?」


「私も次の規定依頼が終われば、Dへの昇級査定を受けられる予定」


また黙る。


つまり。


レオンはDランクのほぼトップ。


リナもEランクのほぼトップ。


ソーマは2人を交互に見た。


「俺、結構すごい人たちに初日に助けてもらってたんだな……」


「今さら?」


リナが本気で呆れた顔をした。


「いや、だって普通にゴブリン倒してたから」


「普通にって」


「一瞬だったし」


レオンが笑う。


「あの程度ならな」


その言い方が、今なら少し理解できる。


D上位。


しかも次はCランク候補。


ゴブリン3匹程度で苦戦するはずがない。


「通りで強いわけだ……」


納得しかなかった。


◇


そこでソーマは、もう1つ気になった。


「ていうかリナって、魔法普通に使ってるけど……あれも結構すごい?」


リナが眉を寄せる。


「何その聞き方」


「俺、こっちの常識知らないから」


レオンが笑う。


「魔法使える奴は普通に珍しいぞ」


「そうなの?」


街へ来た初日。


道端で火を出す人間を見た。


リナも普通に火球を撃っている。


だからもっと一般的なものだと思っていた。


「魔力を持ってる人自体は、それなりにいるわ」


リナが説明する。


「でも、魔法として安定して外へ出せる人はずっと少ない」


「どれくらい?」


「地域によるけど、実戦で使える魔術師なんて全体から見ればかなり少ないと思う」


「冒険者には多いけどな」


レオンが補足する。


危険な仕事へ集まる人間には、当然戦闘向きの能力を持つ者が多い。


それでも剣士や槍使いと比べれば、魔術師は少ないらしい。


「じゃあリナって結構貴重?」


「まあ……魔術師ってだけならね」


少し照れたのか、リナが視線を逸らした。


「しかも火属性で戦闘向きだから、パーティ組みたいって言う奴は多いぞ」


レオンが余計なことを付け加える。


「レオン」


「何?」


「黙って」


「はい」


ソーマは少し笑った。


どうやら自分は、思っていた以上に恵まれたパーティへ混ぜてもらっているらしい。


◇


「それで本題」


レオンが依頼書を1枚、テーブル中央へ出した。


先ほどから2人が見ていたものだ。


【東街道・廃村周辺調査】


推奨ランク:D。


複数人推奨。


内容は、廃村周辺で増えている魔物の調査と、街道の安全確認。


「D?」


ソーマは依頼書とレオンの顔を交互に見た。


「俺、Fなんだけど」


「知ってる」


「いや、さっきDは中堅って説明されたばっかりなんだけど。この依頼、一緒に行けるの?」


レオンが何でもないことのように頷く。


「行ける。今回は特例同行で申請する」


「特例同行?」


聞き慣れない言葉に、ソーマが首を傾げる。


リナが依頼書を自分の方へ引き寄せた。


「簡単に言えば、上のランクの冒険者が責任を持つなら、下のランクの人を補助として連れていける制度よ」


「じゃあ俺もDランクの依頼を受けられるってこと?」


「受けられる、とはちょっと違うな」


レオンが訂正する。


「依頼を受けるのは俺たち。ソーマは補助として同行する」


「でもD推奨なんだろ?」


「Dランク依頼の中ではかなり簡単な部類だよ」


レオンが依頼書を指で叩く。


「廃村周辺の調査と街道確認が中心。討伐が主目的じゃないし、危険度もD帯の入口くらいだ」


リナも頷いた。


「今回の依頼は、どちらかというと私向けなの」


「リナ向け?」


「私は今Eランクの上位でしょ。次の規定依頼を終えればDへの昇級査定を受けられる。だから、E上位がDランク帯の仕事でもちゃんと動けるかを見るのにちょうどいいのよ」


「じゃあレオンには簡単?」


ソーマが聞くと、レオンが肩をすくめた。


「まあ、俺にとってはそこまで難しくない」


「言い方むかつく」


リナが睨む。


「でも事実だろ?」


「事実でも言わなくていいの」


2人のやり取りに、ソーマは少し笑った。


つまり今回の依頼は、レオンの実力に合わせたものではない。


Dランク上位のレオンが前を支えながら、Eランク上位のリナが次のランクでも通用するかを見るための依頼。


そこへソーマが補助として同行する。


そう考えると、少しだけ状況がわかりやすくなった。


ただ、そこで1つ引っかかった。


「でも、レオンはいいの?」


「何が?」


「さっき、レオンも次の規定依頼が終わればCランクの昇級査定って言ってたよね?」


「ああ」


「じゃあこれ達成したら、2人とも昇級査定に進めるってこと?」


レオンは首を横に振った。


「いや。俺の分はもう終わってる」


「終わってる?」


「この前、単独で規定依頼を1本済ませた」


ソーマは目を瞬いた。


「単独?」


「そう」


横からリナが呆れたように言う。


「D上位だからって普通は簡単に単独で受けないわよ。こいつが勝手にやっただけ」


「勝手にって、人聞き悪いな」


「危険度C寄りの討伐を1人で終わらせて帰ってきた人が何言ってるのよ」


ソーマはゆっくりレオンを見る。


「……それ、結構すごいやつ?」


「まあ、普通」


「普通じゃない」


リナが即座に否定した。


ソーマはため息をつく。


「やっぱり基準おかしいんだな」


レオンは笑っている。


つまり今回の依頼は、完全にリナのための規定依頼。


レオンはすでに自分の条件を満たしていて、その補助として同行するらしい。


「俺はリナの付き添いみたいなもんだ」


「付き添いって言わないで」


「じゃあ護衛」


「もっと嫌」


ソーマは思わず笑った。


「じゃあ俺の役割は?」


「荷物」


即答だった。


「またそれかよ」


「あと警戒」


リナが笑いながら付け足す。


「素材が出れば仕分けもお願いする。戦闘は私とレオン」


「完全に裏方だな」


「その裏方が昨日かなり役に立ったんでしょ?」


そう言われると何も返せない。


「ただし」


レオンの声が少し真面目になる。


「特例同行だから、何かあれば俺たちの評価にも響く。勝手に動くな。危ないと思ったらすぐ言え」


「結構責任重くない?」


「だから誰でも連れていけるわけじゃない」


レオンは依頼書へ視線を落とした。


「昨日一緒に動いて、お前なら補助として連れていけると思ったから声かけてる」


ソーマは少しだけ黙った。


ただの人数合わせではないらしい。


少なくとも2人は、自分なら連れていっても大丈夫だと判断してくれている。


それは少し嬉しかった。


「無理強いはしないけどな」


レオンが続ける。


「昨日より危険度は高い。嫌なら断っていい」


ソーマはもう1度、依頼書を見る。


Dランク推奨。


東街道。


廃村。


魔物の調査。


普通に怖い。


ただ。


今回はリナにとって次のランクへ進むための大事な依頼だ。


そして、自分にもできる役割がある。


荷物。


警戒。


仕分け。


戦えなくても、やれることはある。


ソーマは少し考えたあと、顔を上げた。


「報酬は?」


一瞬の沈黙。


リナが吹き出した。


「そこで報酬聞く?」


「大事だろ」


「ほんと変わらないわね」


レオンも笑った。


「ちゃんと出る。昨日よりいい」


「じゃあ行きます」


「決断早っ」


3人で笑う。


怖さが消えたわけではない。


それでも、ソーマは少しだけ楽しみでもあった。


Fランクの自分。


Dランク上位のレオン。


Eランク上位のリナ。


どう考えても場違いだ。


それでも。


今度の依頼でも、自分にできることはあるはずだ。


ソーマは依頼書をもう1度見た。


次の目的地は、東街道の先にある廃村。


そしてこの依頼が終われば。


リナはDランクへの昇級査定へ進む。


レオンはすでに自分の条件を満たしている。


「邪魔だけはしないようにしないとな……」


「聞こえてるわよ」


リナが言う。


「邪魔しないじゃなくて、ちゃんと役に立って」


「要求上がってない?」


「昨日役に立ったんだから当然でしょ」


その言葉に、ソーマは少しだけ笑った。


Fランクになったばかりの頃。


自分は、ただ薬草を集めるだけの新人だった。


今は。


少なくとも、誰かから「役に立て」と言ってもらえるくらいにはなっている。


それだけでも、少し前へ進んだ気がした。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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