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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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11/52

東街道の廃村

ギルドで正式に依頼を受けた3人は、その日のうちに東門へ向かった。


目的地の廃村までは徒歩で2時間ほど。


街道沿いを進むだけなら、それほど危険な場所ではないらしい。


ソーマの背中には、水や簡単な食料、縄、布、素材を入れるための袋などが入った荷物がある。


普段なら3人で分けて持つ量だったが、今回はソーマが多めに持っていた。


「……やっぱり軽いな」


歩きながら、小さく呟く。


《重量軽減 Lv1》。


引越しのバイトを2回やったあとに現れた、新しいスキル。


効果自体は大したものではない。


荷物が半分の重さになるわけでも、巨大な岩を片手で持てるわけでもない。


ただ、これくらいの荷物になると違いがはっきりわかる。


本来なら肩にずっしり食い込んでくるはずの重さが、少しだけ軽い。


そこに《運搬》まで加わる。


背負い方。


重心。


歩き方。


身体への負担が少なくなる位置を、自然と選べる。


結果として、かなり楽だった。


「本当に大丈夫?」


前を歩いていたリナが振り返る。


「大丈夫」


「疲れたら言いなさいよ」


「まだ全然」


レオンが横から笑った。


「昨日より荷物増えてるのに、歩く速度変わってないもんな」


「だから荷物運びしすぎって言ったでしょ」


「好きでやってるわけじゃないんだけどな……」


日本で聞かれたら、引越しバイトの副作用です、と答えるところだ。


もちろん2人には言えない。


ソーマは肩紐を少し直しながら、前を見る。


道の左右には畑が広がっていた。


街から離れるにつれて家は減り、やがて畑も途切れる。


代わりに草原と森が目立つようになった。


「そういえば」


ソーマが前を歩く2人を見る。


「今日はリナが中心なんだよね?」


「ああ」


答えたのはレオンだった。


「今回の規定依頼はリナの分だからな」


「じゃあレオンは?」


「基本、口出さない」


「え?」


ソーマは思わず聞き返した。


レオンは平然としている。


「もちろん危ない時は動くぞ。でも全部俺が判断して全部俺が倒したら、リナの規定依頼にならないだろ」


「なるほど」


言われてみれば当然だった。


今回の目的は、ただ依頼を成功させることではない。


リナがDランク帯の依頼でも問題なく動けることを示す必要がある。


「だから今日は、リナがリーダーみたいな感じ?」


「そういうこと」


「一応ね」


リナが前を向いたまま答えた。


声はいつもと変わらない。


だが、よく見ると時々周囲へ視線を向けている。


街道。


森。


足元。


空。


昨日までとは少し違う。


レオンが先頭に立っていた時より、明らかに周囲を気にしている。


「なんか緊張してる?」


ソーマが聞くと、リナが振り返った。


「してない」


「ちょっとしてるだろ」


レオンが言った。


「してない!」


声が少し大きくなった。


「してるじゃん」


「うるさい」


ソーマは笑った。


それでも。


リナが普段以上に周囲を警戒している理由はわかる。


この依頼が終われば、Dランクへの昇級査定を受けられる。


本人にとっては、かなり大事な仕事なのだろう。


◇


街を出て1時間ほど。


周囲から人の気配がほとんどなくなった頃、リナが足を止めた。


「ここから少し警戒を強める」


ソーマも止まる。


「もう?」


「依頼書にあったでしょ。廃村の手前から魔物の目撃が増えてるって」


確かに書かれていた。


今回の依頼内容は、廃村周辺に現れる魔物の種類と数を確認すること。


さらに街道へ危険が及んでいないかを調べる。


討伐は必須ではない。


むしろ、不必要な戦闘は避けるように書かれていた。


「ソーマ」


「はい」


「《警戒》で何か感じたら、小さいことでも言って」


「わかった」


「レオンは前方。私は中央。ソーマは後ろをお願い」


「了解」


レオンも短く答える。


自然に隊列が変わった。


昨日と似ている。


だが、今日はリナが指示を出している。


少し歩くと、ソーマの中で何かが引っかかった。


危険。


というほど強い感覚ではない。


けれど。


右側。


森の奥。


何かいる。


「リナ」


すぐに声をかける。


リナが足を止めた。


「どこ?」


「右。森の中」


ソーマが指差す。


レオンが剣の柄へ手をかけた。


3人とも動かない。


数秒後。


草が揺れた。


小さな影が飛び出す。


角の生えた兎。


昨日も見た魔物だった。


「ホーンラビットね」


リナが杖を構えながら言う。


だが、魔物はこちらを見ると、そのまま森の反対側へ逃げていった。


ソーマは拍子抜けする。


「倒さないの?」


「必要ないわ」


リナは杖を下ろした。


「今回の目的は討伐じゃないもの。襲ってこないなら放っておく」


「ああ、そういう判断も見るのか」


「たぶんね」


レオンが後ろで少し笑っている。


ソーマが見ると、すぐに目を逸らした。


「何?」


「いや、何でもない」


明らかに何か言いたそうだった。


だが本当に口出しするつもりはないらしい。


リナもそれに気づいているようだったが、何も言わず歩き始めた。


◇


さらに30分ほど進むと、道端に古い荷車が見えた。


片方の車輪が外れ、斜めに倒れている。


木材は黒ずみ、草が絡みついていた。


「これ、最近のものじゃないよね?」


ソーマが聞く。


リナは近づかず、少し離れたところから確認した。


「たぶん違う。廃村が使われてた頃のものじゃない?」


「触らないの?」


「必要ないものには触らない」


即答だった。


なるほど。


ソーマは少し感心する。


こういうところも冒険者としての判断なのかもしれない。


さらに進む。


しばらくして、森が開けた。


その先。


崩れかけた木の柵が見えた。


「あれ?」


ソーマが目を細める。


柵の向こうに、いくつもの屋根が見える。


半分崩れたもの。


壁がなくなっているもの。


完全に草に飲み込まれているもの。


「廃村?」


「そうみたい」


リナが答えた。


村の入口には、かつて門だったらしい木材が残っている。


人の気配はない。


静かだった。


かなり静かだ。


ソーマは無意識に周囲を見る。


風が草を揺らしている。


それ以外、ほとんど音がない。


「……なんか静かじゃない?」


ソーマが呟く。


リナが振り返る。


「廃村なんだから静かでしょ」


「いや、そうなんだけど」


うまく説明できない。


人がいない。


それは当然だ。


だが。


鳥の声も少ない。


虫の音もほとんどしない。


昨日の森では、もっといろいろな音がしていた。


枝が擦れる音。


鳥。


小さな魔物。


それらが今日は妙に少ない。


《警戒》は反応していない。


だから目の前に危険が迫っているわけではない。


それでも、何かがおかしい。


「ソーマ?」


リナが少し真剣な顔になる。


「《警戒》?」


「いや。反応はない」


「じゃあ何?」


「音が少ない気がする」


リナが周囲へ耳を澄ます。


レオンも少しだけ表情を変えた。


数秒。


「確かに」


レオンが呟いた。


リナも頷く。


「……村に入る前に周囲を確認しましょう」


「了解」


今度はレオンも茶化さなかった。


◇


村の外周をゆっくり回る。


足元には草が生い茂っている。


使われなくなって、かなり時間が経っているようだった。


途中。


ソーマが立ち止まった。


「これ」


地面を指差す。


草が一部だけ倒れている。


リナが近づく。


「足跡?」


「たぶん」


レオンもしゃがみ込んだ。


人間のものではない。


丸く、大きい。


爪のような跡が3本。


「何の魔物?」


ソーマが聞く。


レオンは答えず、リナを見る。


完全に任せるつもりらしい。


リナは足跡をしばらく見たあと、口を開いた。


「大きさだけなら、グレイウルフより大きい」


「狼?」


「それにしては爪跡が深い」


リナの表情が少し険しくなる。


「最近ついたもの?」


ソーマが聞く。


「たぶん」


「たぶん?」


「足跡を専門に追うスキルがあるわけじゃないから断定できない。でも雨で崩れてないし、草もまだ起きてきてない」


なるほど。


ソーマは足跡の横を見る。


そこには、何かを引きずったような跡があった。


村の中へ続いている。


「これも?」


リナが黙った。


レオンも今度は笑っていない。


簡単なDランク依頼。


そう聞いていた。


討伐が主目的でもない。


ただ魔物の数を確認して、街道が安全か調べるだけ。


そのはずだった。


「……一旦、村の入口まで戻る」


リナが言った。


「入らないの?」


「情報が足りない」


迷いのない声だった。


「何がいるかわからない状態で奥まで入るのは危ない。外周をもう少し見て、それから判断する」


レオンが小さく頷いた。


それを見て、ソーマは気づく。


たぶん。


今の判断は正しい。


「ソーマ」


「ん?」


「荷物、大丈夫?」


「まだ余裕」


「じゃあ、いつでも走れるようにしておいて」


「……そんな感じ?」


「念のためよ」


その時だった。


《警戒》が反応した。


ぞわり。


背中を撫でられたような感覚。


ソーマは即座に振り返る。


「来る!」


「どっち!」


「村の中!」


3人が同時に構えた。


だが。


何も出てこない。


崩れた家。


草。


割れた柵。


その奥から、微かな音だけが聞こえた。


――ずる。


何かを引きずるような音。


――ずる。


――ずる。


リナが杖を握り直す。


レオンが剣を抜いた。


「簡単な依頼じゃなかったの?」


ソーマが小声で聞く。


レオンが前を見たまま答えた。


「まだ決めつけるな」


「その割に剣抜いてるけど」


「念のためだ」


さっきリナも同じことを言っていた。


村の奥。


崩れた家屋の影から。


ゆっくりと。


大きな何かが姿を現した。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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