↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/65

Dランク冒険者

翌朝。


ソーマが冒険者ギルドへ向かうと、

入口の前にはすでにエステルがいた。


「早いな」


「今日は遅れるわけに

いかないでしょう?」


「まあ、それはそうだけど」


昨日、受付嬢から言われた。


――明日の朝、

少し時間をください。


ギルドから正式に話がある。


何の話なのかは、

2人とも何となく分かっていた。


それでも正式に聞くまでは、

まだ確定ではない。


ソーマは少しだけ緊張しながら、

エステルと一緒に扉を開けた。


朝のギルドは、

いつもと変わらず賑わっている。


依頼板の前に集まる冒険者。


受付へ並んでいる人たち。


酒場の方から聞こえてくる、

朝から元気な冒険者たちの声。


その中で受付嬢だけが、

2人を見るなり手を上げた。


「おはようございます。

お待ちしていました」


「おはようございます」


ソーマが受付へ向かう。


受付嬢はいつもの窓口ではなく、

奥へ続く扉を指した。


「こちらへお願いします」


ソーマはエステルを見る。


「なんか急に正式っぽいな」


「今さら緊張してるの?」


「ちょっとだけ」


「昨日47人連れて歩いた人が?」


「それとこれは別だろ」


エステルが少し笑う。


2人は受付嬢のあとを追い、

ギルドの奥へ入っていった。


◇


案内されたのは、

小さな応接室だった。


中央には机と椅子。


壁にはこの街と、

周辺地域の地図が貼られている。


2人が座ると、

受付嬢も向かい側へ腰を下ろした。


机の上には、

何枚もの書類が置かれている。


ソーマはその束を見る。


「これ、全部俺たちの?」


「最近受けていただいた

依頼の記録ですね」


受付嬢が1枚ずつ確認していく。


商人の商品輸送。


野営を伴う護衛。


Eランク魔物との戦闘。


薬草採取者の捜索と救助。


旧鉱山の異変調査。


Aランク冒険者を含む、

大規模調査隊への同行。


そして昨日の、

アルノ村住民47人の避難。


改めて並べられると、

結構な数だった。


「こんなにやってたのか」


ソーマが呟く。


「短期間ではかなり多いですよ」


「やっぱり働きすぎじゃない?」


エステルが横から言った。


「お前もほとんど

一緒にやってるだろ」


「私は目的があるもの」


「俺にもあるよ」


「お金?」


「……それもある」


受付嬢が小さく笑った。


それから最後の書類を、

机の中央へ置く。


「お2人のこれまでの実績を、

ギルド内で審査しました」


さっきまでの軽い空気が、

少しだけ変わる。


ソーマも姿勢を直した。


「昇級は依頼の達成数だけでなく、

その内容も評価されます」


受付嬢が続ける。


「護衛対象を守ったこと。


負傷者を救助したこと。


格上の魔物を確認した際に、

無理に戦わず撤退したこと。


旧鉱山では、

調査隊の救助にも貢献しました」


さらに1枚。


「そして昨日。


魔物の討伐よりも、

住民の避難を優先し、

47人全員を無事に街へ戻したこと」


ソーマは黙って聞いていた。


戦った回数だけなら、

もっと多い冒険者はいるだろう。


倒した魔物の数だって、

大したことはない。


それでも。


ここまでやってきた仕事の全てが、

ちゃんと記録されていた。


受付嬢が2人を見る。


「ギルドとして、

お2人はDランク相当の実績と、

判断力を備えたと判断しました」


一瞬。


部屋が静かになった。


そして。


「ソーマさん。

エステルさん」


受付嬢が微笑む。


「Dランクへの昇級を

正式に承認します」


ソーマは数秒、

何も言わなかった。


予想はしていた。


たぶんそうだろうとも思っていた。


それでも実際に言われると、

少し感覚が違う。


「……やっとか」


口から出たのは、

そんな言葉だった。


「もう少し喜んだら?」


エステルが呆れたように言う。


「いや、嬉しいよ」


ソーマは笑った。


「普通に嬉しい」


隣を見る。


エステルも笑っていた。


いつもより、

少しだけ嬉しそうに見える。


彼女にとっては、

ただ1つランクが上がるだけではない。


自由に生きるため。


冒険者として名前を作るため。


その最初の大きな1歩でもある。


「おめでとう」


ソーマが言う。


エステルがこちらを見る。


「あなたもでしょう?」


「俺はついで」


「そんなわけないでしょ」


「じゃあ、お互いおめでとう」


「ええ」


2人は小さく笑った。


◇


受付嬢が机の下から、

2枚の新しい冒険者証を取り出した。


これまで使っていたものと、

形そのものはほとんど変わらない。


ただ。


記載されているランクだけが違う。


D。


ソーマは自分の冒険者証を受け取る。


「……Dか」


Fランクから始まった。


最初の依頼では、

ゴブリン3体に追いかけ回された。


まともな武器もなく、

逃げながら必死に生き残った。


報酬をもらっても、

治療費と食費と宿代で消えた。


冒険者というより、

日雇い労働者に近かった気もする。


それが今では。


荷物を運ぶ。


人を探す。


野営地を作る。


負傷者を背負う。


危険な場所を調べる。


そして47人を、

誰1人欠けることなく街まで戻した。


ソーマは冒険者証を見つめた。


「最初はゴブリンから

逃げ回ってたのにな」


「今でも格上なら

逃げるでしょう?」


エステルが言う。


「それは逃げる」


ソーマは即答した。


「そこは成長してないのね」


「むしろ成長したから

逃げるんだろ」


旧鉱山で見たディーンですら、

進むべきではない場所では戻った。


強くなることと、

無茶をすることは違う。


それくらいは、

少し分かるようになっていた。


「エステルは?」


「何が?」


「Dランク」


ソーマが彼女の冒険者証を見る。


「嬉しい?」


エステルは自分の証を、

しばらく眺めていた。


「ええ」


それから静かに頷く。


「まだDだけどね」


「もう次見てるのかよ」


「有名な冒険者になるなら、

ここで満足できないでしょう?」


「そうだったな」


家へ戻されないため。


自分の人生を、

自分で決めるため。


エステルにとっては、

ここからが始まりなのかもしれない。


「じゃあ次はCか」


ソーマが言う。


エステルが少し笑う。


「気が早いわよ」


「お前が言うな」


◇


昇級すると、

受けられる依頼も増える。


受付嬢は新しい冒険者証を渡したあと、

Dランクについて説明を始めた。


「Dランクからは、

依頼の行動範囲が広がります」


近隣の街への長距離護衛。


複数日にわたる依頼。


小規模なダンジョン探索。


危険地域での採取。


村や街からの調査依頼。


Eランクまでとは違い、

現場判断を求められる仕事も増える。


「もちろん、

報酬も上がる傾向があります」


ソーマの反応が変わった。


「どれくらい?」


「そこに1番食いつくのね」


エステルが呆れる。


「大事だろ」


受付嬢が笑いながら答える。


「依頼にもよりますが、

銀貨数十枚単位の仕事は、

これまでより増えますよ」


「おお……」


異世界へ来たばかりの頃とは、

まったく違う金額だった。


宿代を払うだけでも、

毎日必死だった頃が懐かしい。


「ただし」


受付嬢の声が、

少しだけ真面目になる。


「当然、危険度も上がります」


「ですよね」


「特にダンジョン関連は、

Dランクから増えてきます」


ダンジョン。


ソーマは昨日まで入っていた、

旧鉱山を思い出した。


「あそこはどうなるんです?」


「旧鉱山ですか?」


「はい」


受付嬢は少し表情を変えた。


「当面は立入制限です。


今後、改めて調査することに

なると思いますが、

今すぐではありません」


「やっぱり」


「内部が広すぎます。


それに狭い通路も多く、

普通の調査隊では、

人数を活かせない場所もありました」


ソーマは頷いた。


あの場所は、

まだ自分たちが無理に関わる場所ではない。


いつか。


もっと経験を積めば、

再び入ることもあるかもしれない。


今はそのくらいでいい。


◇


説明を終え、

2人は応接室を出た。


再びいつものギルドへ戻る。


依頼板の前には、

今日も大量の依頼書が並んでいた。


ただし。


昨日までとは違う場所を見ることができる。


Dランク向けの依頼。


ソーマとエステルは、

その前へ並んだ。


護衛。


調査。


討伐。


採取。


そして。


「ダンジョン探索……」


ソーマが1枚を見る。


小規模ダンジョンの、

内部調査と素材回収。


昨日までなら、

選択肢にも入らなかった依頼だ。


「本当に変わったな」


「受ける?」


エステルが聞く。


ソーマは少し考えた。


面白そうではある。


報酬も高い。


だが。


「今日はやめとく」


エステルが目を丸くする。


「……あなたが?」


「なんだよ、その反応」


「絶対そのまま

何か受けると思ってた」


「俺を何だと思ってるんだ」


「働きたがり」


「違う」


即答した。


ここ数日。


護衛。


捜索。


旧鉱山。


村人の避難。


さすがに働きすぎた。


それに、現代へ戻る時間もある。


「今日は休む」


「珍しいわね」


「Dにもなったし、

ちょっとくらいいいだろ」


エステルは少し考え、

それから頷いた。


「じゃあ何するの?」


「飯でも食おう」


「また?」


「冒険者って、

だいたい飯食ってるだろ」


「それ、偏見じゃない?」


2人は笑いながら、

依頼板から離れた。


◇


ギルドを出る前。


ソーマはもう1度、

新しい冒険者証を見た。


Dランク。


まだ上には、


C。


B。


A。


そしてSがある。


今の自分からすれば、

まだずっと先だ。


昨日見たディーンの強さを思えば、

Aランクなんて想像もつかない。


それでも。


最初のFランクだった頃より、

確実に前へ進んでいる。


ソーマは冒険者証をしまった。


「次はCか」


エステルが振り返る。


「だから気が早いって」


「言ってみただけ」


「まずはDランクの仕事に

慣れてからにしなさい」


「はいはい」


そう答えながら、

ソーマはギルドの扉を開けた。


FからEへ。


そしてEからDへ。


週末だけの冒険者生活は、

また1つ先へ進んだ。


次にこの依頼板の前へ立つ時は、

Dランク冒険者として。


新しい仕事を選ぶことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。