また4人で
Dランクへの昇級手続きを終えたあと、
ソーマとエステルはギルドに残っていた。
向かったのは、
ギルドに併設されている食堂。
昨日、エレナから聞いていたのだ。
レオンとリナが、
今日には街へ戻る予定だと。
「まだかな」
ソーマが入口へ視線を向けると、
向かいのエステルが少し笑った。
「さっきから何回見てるの?」
「いや、久しぶりだし」
「そんなに離れてたかしら?」
「日数で言えば、
そこまででもないんだけどな」
ただ、その間に色々ありすぎた。
エステルと2人で依頼を受け始め、
商品輸送、護衛、捜索、旧鉱山。
Aランクのディーンとも出会い、
最後には47人の村人を避難させた。
そして今日。
2人揃ってDランクになった。
レオンに言われて、
エステルと組み始めた頃とは、
状況もかなり変わっている。
その時。
ギルドの扉が開いた。
ソーマがそちらを見る。
すぐに顔が緩んだ。
「来た」
見慣れた2人が入ってきた。
金色に近い茶髪の剣士と、
赤みがかった茶髪の魔法使い。
「レオン! リナ!」
2人もすぐにこちらへ気づいた。
「お、ソーマ!」
レオンが笑いながら近づいてくる。
「久しぶりだな」
「やっと帰ってきたか」
「ソーマも元気そうじゃん」
「まあな」
リナも席まで来ると、
ソーマとエステルを見比べた。
「2人とも元気そうね」
「リナも」
「エステルも久しぶり」
「久しぶり」
4人で顔を合わせると、
思っていた以上に懐かしく感じた。
「とりあえず座れば?」
ソーマが空いている椅子を指す。
レオンとリナが席についたところで、
レオンの視線がソーマの胸元へ向いた。
「……あれ?」
「何?」
「冒険者証」
ソーマは少し笑い、
今日受け取ったばかりの証を見せた。
「Dになった」
「マジか!」
レオンが声を上げる。
「今日?」
「今日」
「私もよ」
エステルも冒険者証を出した。
リナがそれを見て笑う。
「じゃあ、私と同じDね」
「やっとリナには追いついたな」
ソーマが言う。
「レオンまでは、
まだ1つあるけど」
「待ってるぞ」
レオンが笑う。
「その言い方、
なんかちょっと腹立つな」
「なんでだよ」
レオンは前からCランク。
リナはDランク。
その2人に頼ってばかりでは、
自分がどこまでできるのか分からない。
そう言われて、
エステルと組み始めた。
その結果として、
ようやくソーマもここまで来た。
「まあ、おめでとう」
レオンが改めて言う。
「結構早かったな」
「色々あったからな」
「その色々を聞きたい」
リナが言った。
「私も気になる」
レオンも頷く。
「じゃあ飯食いながら話すか」
結局、久しぶりの4人で
昼食を取ることになった。
◇
「指名依頼?」
最初に反応したのはリナだった。
「ああ」
「ソーマに?」
「なんでそこ引っかかるの?」
「何で指名されたの?」
「荷物の扱い」
一瞬だけ沈黙した。
レオンが笑い出す。
「やっぱソーマだな」
「どういう意味?」
「いや、普通指名って聞いたら、
討伐とか護衛だと思うだろ」
「俺もそう思った」
実際に指名された理由は、
荷物の扱いが丁寧。
積み込みが早い。
整理もできる。
さらに護衛までできる。
そういう評価だった。
「それで倉庫の人たちから、
便利屋みたいに呼ばれてる」
「似合ってるじゃない」
リナがあっさり言う。
「リナまで言うの?」
「褒めてるのよ」
「それ最近よく聞くな……」
エステルが隣で笑っていた。
そのあと、
ソーマは旧鉱山の話をした。
複数種類の魔物が、
なぜか同じ鉱山へ集まっていたこと。
中へ入った痕跡はあるのに、
外へ出た跡がほとんどなかったこと。
そして。
Cランク魔物の
ケイブワームに遭遇したこと。
「そこは逃げた」
ソーマが言う。
「そりゃ逃げるだろ」
レオンが即答した。
「だよな」
「Eランク2人でCランク相手に
残る意味ないし」
「よかった。
Cランクに言われると安心する」
さらにソーマは、
その後の大規模調査について話した。
Aランク冒険者、
ディーン・アルバレス。
名前を聞いた瞬間、
レオンの表情が少し変わった。
「ディーン・アルバレス?」
「レオン知ってる?」
「知ってるに決まってるだろ。
Aランクだぞ」
「やっぱ有名なんだな」
「有名どころじゃないだろ」
ソーマは、
ケイブワームとの戦闘を思い出す。
「俺とエステルが
必死で逃げたやつさ」
「うん」
「ディーンさん、
槍2回くらい突いて終わった」
「まあ、Aランクだからな」
「それ説明になってなくない?」
「俺に言われても知らねえよ」
そこから崩落事故。
《設営》を使って坑道を補強し、
取り残された冒険者を救助したこと。
最後には47人の村人を
街まで避難させたことまで話した。
レオンが少し呆れたように言う。
「ソーマたち、
結構なことやってんな」
「俺もそう思う」
「それだけやれば、
Dにも上がるわね」
リナが言う。
「まあ、その結果がこれ」
ソーマは冒険者証を軽く持ち上げた。
「無駄ではなかったかな」
◇
「じゃあレオンは?」
今度はソーマが聞いた。
「ガレスさんと
ダンジョン行ってたんだろ?」
「ああ」
レオンが頷く。
「かなり勉強になった」
「やっぱ戦闘?」
「それもあるけど、
思ってたのと違ったな」
ソーマが首を傾げる。
「違った?」
「ガレスさんって、
敵より先に床とか壁を見るんだよ」
罠がないか。
別の通路はないか。
逃げ道は残っているか。
戦闘になった場合、
どこまで下がれるのか。
レオンはそういうところを、
かなり見せられたらしい。
「俺は敵見つけたら、
どう倒すかばっか考えるからさ」
「レオンっぽい」
「悪かったな」
「悪いとは言ってない」
ソーマは旧鉱山を思い出した。
ディーンもそうだった。
Aランクだからといって、
危険な場所へ無理に進まない。
戦えるかどうかだけで、
判断しているわけではなかった。
「俺も最近、
似たようなの見たな」
「ディーンさん?」
「うん」
レオンも少し考える。
「上の人ほど、
その辺ちゃんとしてるのかもな」
以前からレオンはCランクだった。
だがガレスとのダンジョンを経験して、
戦うこと以外の部分も
以前より意識するようになったらしい。
「リナは?」
ソーマが聞く。
「家庭教師してたんだよな?」
「ええ」
「急に平和だな」
「何よ、その言い方」
「だってレオンはダンジョンで、
こっちは旧鉱山だったから」
「家庭教師だって大変なのよ」
リナが少し不満そうに言う。
「自分では分かってることでも、
人に説明しようとすると
難しかったりするんだから」
「そんなもん?」
「そんなもの」
相手がどこで分からなくなったのか。
どう言えば理解できるのか。
同じ説明でも、
相手によって変えなければならない。
「でも、面白かったわ」
リナは少し笑った。
「教えてると、
自分が曖昧に覚えてたところも
分かるようになるから」
「なるほど」
「レオンには無理そうだけど」
「なんで俺なんだよ」
「教えるの下手そう」
「剣なら教えられるぞ」
「どうせ、
ここでこうやって振る、とかでしょ」
「……悪いか?」
「ほら」
ソーマとエステルが笑った。
久しぶりなのに、
4人揃うとすぐ以前の空気に戻る。
それが少し嬉しかった。
◇
一通り近況報告が終わる頃には、
料理もかなり減っていた。
レオンが椅子にもたれながら、
3人の顔を見る。
「それで、これからどうする?」
「これから?」
ソーマが聞き返す。
「ソーマとエステルも
Dになっただろ」
「うん」
「リナもD。
俺はC」
それ自体は、
別行動を始めた頃から変わっていない。
違うのは、
ソーマとエステルが成長したこと。
「前より一緒に行ける依頼、
増えただろ?」
レオンが言う。
ソーマは少し笑った。
もともと、
パーティーを解散したわけではない。
自分たちだけで動いてみるために、
一時的に別行動していただけだ。
「俺はまた行きたいけど」
ソーマが言う。
エステルも頷く。
「私も構わないわ」
「私もいいわよ」
リナも答えた。
レオンが笑う。
「じゃあ決まりだな」
「でも毎回4人ってわけじゃ
なくてもいいだろ?」
ソーマが言う。
「もちろん」
レオンも頷いた。
それぞれの仕事もある。
別々に動く時もあるだろう。
でも。
一緒に行きたい依頼があれば、
また4人で組む。
そのくらいが、
今の自分たちには合っている。
そこでリナが、
少し考えるように口を開いた。
「4人で行くなら、
前より役割はちゃんと
決めた方がいいんじゃない?」
「役割?」
エステルが聞く。
「前みたいに、
なんとなく一緒に戦うんじゃなくて」
誰が前に出るのか。
誰が後ろを見るのか。
何かあった時に、
誰が何をするのか。
最近の依頼を経験したソーマにも、
その大切さは分かった。
「じゃあレオンは?」
ソーマが聞いた。
「どんな感じがいい?」
「俺?」
レオンは少し考え、
腰の剣へ目を落とした。
「俺は前だな」
そこは迷わないらしい。
「俺が前で止めてれば、
後ろは動きやすいだろ」
リナが魔法を使うなら、
詠唱する時間を作る。
ソーマが何かを探すなら、
敵を近づけさせない。
エステルが誰かを守るなら、
さらにその前へ出る。
「そういうのがいいかな」
レオンが言う。
「ガレスさんとのダンジョンで、
ちょっと変わった?」
ソーマが聞く。
「何が?」
「前より、
周り見るようになった気がする」
「前から見てるわ」
「本当に?」
「ソーマよりは」
「それはどうかな」
「そこ張り合うところ?」
リナが呆れ、
エステルが笑う。
「じゃあリナは?」
今度はエステルが聞いた。
「私は……」
リナは少し考えた。
「必要な時に、
ちゃんと強い魔法を使える
パーティーがいいかな」
強力な魔法ほど、
詠唱時間が長くなる。
威力は高くても、
途中で敵に詰められれば使えない。
「私1人だけ強くなっても、
結局撃てなかったら意味ないから」
「そのために俺が前にいる」
レオンが言う。
「それは知ってる」
「もうちょっと感謝しても
よくない?」
「ちゃんと感謝してるわよ」
「全然そう聞こえない」
2人のやり取りを見ながら、
ソーマは少し笑った。
レオンとリナには、
すでに2人なりの形がある。
前で敵を止めるレオン。
後ろから魔法を撃つリナ。
そこへ自分とエステルが、
どう加わるのか。
「エステルは?」
リナが聞いた。
エステルは少し考えてから、
口を開いた。
「私は、守れるようになりたいかな」
「守る?」
「敵と戦うだけじゃなくて」
怪我をした仲間がいれば治療する。
前に出る必要があれば、
剣を持って前へ出る。
誰かを守る必要があるなら、
その人の前に立つ。
治癒魔法のことは、
この場にいる全員が知っている。
ただし、
外へ広めるつもりはない。
そのことも全員分かっていた。
「それと」
エステルが少し笑う。
「色んな場所へ行きたい」
森。
遺跡。
知らない街。
ダンジョン。
自分の知らない場所を、
自分の目で見たい。
「いいんじゃない?」
ソーマが言う。
「エステルらしいし」
「そう?」
「たぶん」
「たぶんって何よ」
「いや、今のなし」
エステルが睨み、
ソーマが笑った。
そして。
3人の視線が、
今度はソーマへ集まる。
「最後はソーマね」
リナが言った。
「俺?」
「ソーマは、
どんなパーティーがいいの?」
突然聞かれると、
意外と難しい。
強くなりたくないわけではない。
報酬だって、
高い方がもちろんいい。
ダンジョンにも、
そのうち行ってみたい。
でも。
旧鉱山。
負傷した冒険者。
避難させた47人。
そして、
ディーンに言われた言葉。
色々なものが頭をよぎる。
「まあ……」
ソーマは少し考えてから言った。
「全員で帰れれば、
それが1番いいかな」
レオンがこちらを見る。
「それだけ?」
「それ結構大事じゃない?」
ソーマは笑う。
「勝ったのに誰か帰ってこないとか、
普通に嫌だし」
無理なら逃げる。
怪我をしたなら連れて帰る。
道が危なければ、
別の道を探す。
倒す必要のない魔物なら、
無理して戦わなくてもいい。
「俺、レオンみたいに
前でずっと戦えるわけじゃないし」
「まあな」
「そこは即答するんだ」
「ソーマが自分で言ったんだろ」
「そうだけどさ」
ソーマは苦笑した。
「だから、その時できること
やればいいかなって」
探す必要があるなら探す。
運ぶ必要があるなら運ぶ。
危なそうなら止める。
誰かが足りないところに、
自分が入れればいい。
エステルが少し笑う。
「やっぱり便利屋ね」
「またそれ?」
「でも合ってるでしょう?」
「最近、
否定しづらくなってきたな……」
4人で笑った。
◇
食事が終わる頃には、
なんとなく形が見えてきていた。
前衛の中心はレオン。
エステルも前へ出ながら、
護衛や治療を担当する。
リナは後方から魔法。
ソーマは周囲を確認しながら、
必要な場所へ入る。
もちろん。
実際の依頼で、
全部予定通りにいくわけではない。
それでも。
「結構いいんじゃない?」
リナが言った。
「俺もそう思う」
レオンも頷く。
エステルも異論はなさそうだった。
ソーマは3人を見る。
異世界へ来たばかりの頃は、
1人で生き残るだけで精一杯だった。
それが今では。
仲間と飯を食いながら、
これからどんなパーティーにするかを
話している。
少し不思議な感じがした。
「じゃあ次、
4人で何か行こうぜ」
レオンが言う。
「いいな」
ソーマも頷いた。
「Dランクの依頼も増えたし」
「俺はCだけどな」
「知ってるよ」
「その反応軽くない?」
「レオンだし」
「どういう意味だよ」
また笑い声が上がる。
どこへ行くかは、
まだ決まっていない。
それぞれ目指すものも、
全部同じではない。
それでも。
全員で帰ってくる。
まずは、
それくらいでいい。
ソーマはそう思いながら、
残っていた飲み物を口にした。




