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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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冒険者としての素質

調査隊は、さらに奥へ進んだ。


昨日までソーマとエステルが足を踏み入れていなかった区域。


坑道は少しずつ狭くなっていた。


最初は2人並んで歩けた道も、今では場所によって1人ずつ進むしかない。


壁際には古い支柱が何本も立っている。


長い年月が経っているのか、表面が黒ずみ、一部には大きな亀裂も入っていた。


「間隔を空けろ」


先頭を進むディーンが言う。


「ここから先は、まとまって動くな」


後ろへ指示が伝わっていく。


総勢10人を超える調査隊だ。


広い場所なら心強い。


だが、この狭さでは人数の多さがそのまま動きにくさにもなる。


ソーマは《索敵 Lv1》を広げながら歩いていた。


正面。


何かが通った痕跡。


右側の壁の向こうにも、ごく薄い反応。


さらに奥には複数。


「結構いるな……」


「近い?」


隣を歩くエステルが聞く。


「今すぐ襲ってくる距離じゃないと思う。でも、奥には何かいる」


「強さは?」


「それは分からない」


《索敵》は便利だ。


だが、相手が何なのかまでは教えてくれない。


そこは《危機察知》と組み合わせるしかなかった。


今のところ、ケイブワームと遭遇した時のような強い警告はない。


「このまま行けそうか?」


前を歩いていたディーンが振り返る。


ソーマは少しだけ意識を集中した。


「今のところは」


「分かった」


ディーンはそれ以上聞かず、再び前へ進む。


自分の判断が、Aランク冒険者の判断材料になっている。


まだ少し慣れなかった。



◇



しばらく進むと、坑道が大きく2つに分かれていた。


右はさらに細い。


左は少し広いが、天井が低い。


調査隊の斥候が地面を確認する。


「どっちにも痕跡があります」


ソーマもしゃがみ込んだ。


《索敵》。


右。


複数の古い痕跡。


左。


こちらは新しい。


さらに、魔力を調べていたCランクの魔法使いが左側へ視線を向ける。


「魔力が強いのは左ですね」


ディーンは少し考えた。


「左へ行く」


隊列が動く。


ソーマも立ち上がろうとした。


その瞬間。


《危機察知》。


胸の奥に、小さな違和感が走った。


「待って」


前を歩き始めていたエステルが止まる。


「どうしたの?」


ソーマは周囲を見る。


さっきまでなかった感覚。


ケイブワームほど強くはない。


だが、確かに何かがおかしい。


「分からない。でも、ちょっと嫌な感じがする」


その言葉を聞いたディーンが足を止めた。


「どこだ?」


「……近いです」


右。


左。


正面。


原因が分からない。


ソーマは壁を見る。


支柱。


天井。


足元。


そして。


ミシッ。


小さな音がした。


ソーマが顔を上げる。


古い支柱の1本に、亀裂が走っていた。


「上だ!」


叫んだ直後。


バキッ!


支柱が折れた。


「下がれ!」


ディーンの声が響く。


天井から石が落ちる。


1つ。


2つ。


次の瞬間。


轟音。


「うわっ!」


ソーマはエステルの腕を掴み、後ろへ飛んだ。


大量の土と岩が坑道へ崩れ落ちる。


灯りが揺れる。


土煙。


悲鳴。


岩がぶつかる音。


一瞬で視界が消えた。



◇



「ソーマ!」


「いる!」


エステルの声に返事をする。


ソーマは咳き込みながら身体を起こした。


身体は動く。


大きな怪我もない。


周囲を見る。


ディーン。


Bランクパーティ。


Cランクパーティの何人か。


こちら側には残っている。


だが。


人数が足りない。


「全員確認しろ!」


ディーンが叫ぶ。


すぐに点呼が始まる。


結果。


Cランクパーティの4人がいない。


崩落した岩の向こう側。


「分断されたか」


誰かが呟く。


目の前には、坑道を完全に塞ぐほどの岩。


ディーンが近づく。


「向こう!」


大声で呼ぶ。


少し間があった。


それから。


「こっちは生きてる!」


岩の向こうから返事があった。


全員が少しだけ息を吐く。


だが続けて、


「1人、足をやられた!」


空気が再び張り詰めた。


「動けるか!」


「無理だ!」


ディーンが塞がれた岩を見る。


拳ほどの石ならともかく、大きな岩が何個も積み重なっている。


「壊します?」


Bランクの剣士が聞いた。


「待て」


ディーンはすぐには動かなかった。


その視線がソーマへ向く。


「ソーマ」


「はい」


「どうだ?」


「え?」


「昨日、お前の判断で撤退したんだろ」


ディーンは崩落した場所を示す。


「ここを崩していいか見ろ」


Aランクにそんなことを聞かれるとは思っていなかった。


それでもソーマはすぐに《危機察知》へ意識を向けた。


ディーンが岩を破壊する。


その場面を想像する。


強い違和感。


さらに。


致命的な危機。


「ダメです」


ソーマは即答した。


「これを無理に壊したら、また崩れると思います」


Bランクの男が天井を見る。


「でも、このままじゃ向こうに行けないぞ」


「分かってます」


ソーマも崩落箇所を見た。


岩。


土。


折れた支柱。


古い坑道。


どうすれば安全にどかせる?


そこで別のスキルを意識した。


《設営 Lv2》。


イベント会場とはまるで違う。


だが、何かを安定させるという意味では同じだった。


どこを支えるか。


どこを動かすと崩れるか。


今ある材料で、どう補強するか。


ソーマはゆっくり周囲を見回す。


「……あれ使えませんか?」


壁際に積まれている古い木材。


鉱山で使われていた支柱の予備らしい。


腐っている物もある。


だが、まだ使えそうな物も残っている。


「何するの?」


エステルが聞く。


「先に天井を支える」


ソーマは崩落地点の少し手前を指した。


「ここ。この辺りを補強してから、小さい岩からどける」


ディーンが天井を見る。


「分かるのか?」


「絶対じゃないです。でも、何もしないで壊すよりはいいと思います」


ディーンは数秒考えた。


「やる」


判断は早かった。


「使える木材を集めろ」


冒険者たちが動き始める。



◇



木材を運ぶ。


長さを揃える。


支える場所を決める。


ソーマが指示を出し、力のある冒険者たちが動く。


《設営 Lv2》へ意識を向けると、どこへ支柱を入れれば安定しやすいのかが感覚的に分かった。


「そこじゃなくて、もう少し右です」


「ここか?」


「はい。その岩の下」


Bランク冒険者が支柱を押し込む。


別の場所にも木材を当てる。


横へ渡す。


固定する。


簡単な補強。


もちろん、本格的な鉱山の修復などできない。


ただ。


今から岩を動かす間だけ持てばいい。


「これで……たぶん」


ソーマが少し後ろへ下がる。


《危機察知》。


さっきより反応が弱い。


「大丈夫そうです」


「よし」


ディーンが前へ出た。


「小さい物からだ。俺が動かす。危険を感じたらすぐ止めろ」


「分かりました」


作業が始まった。


小さな岩をどける。


土を掻き出す。


少し大きな岩。


ディーンが槍を置き、両手で持ち上げる。


「……それ持てるのかよ」


ソーマが思わず呟く。


人間2人分くらいありそうな岩を、普通に横へ動かしている。


「Aランクって力もおかしいのか?」


「今さら?」


エステルが横で言う。


「昨日、槍しか見てなかったから」


少しずつ穴ができる。


その時。


向こうから声がした。


「こっち見えたぞ!」


小さな隙間。


「全員いるか!」


ディーンが聞く。


「4人いる! でも怪我した奴が動けない!」


ソーマは《索敵》を使う。


岩の向こう。


複数の反応。


その中の1つが、他より弱く感じる。


「急いだ方がいいかもしれません」


「分かった」


作業速度が上がる。



◇



ようやく、人1人が通れる程度の隙間ができた。


「俺が行く」


ソーマが言った。


「お前が?」


エステルが見る。


「怪我人運ぶなら、たぶん俺がやりやすい」


《運搬》。


こういう時こそ使える。


ディーンが穴を見る。


「行け」


「はい」


ソーマは身体を横にして、岩の隙間へ入った。


服が擦れる。


土が落ちてくる。


それでも向こう側へ抜けた。


「大丈夫か!」


Cランクパーティの3人がいる。


そして壁際。


男が1人座り込んでいた。


左脚が腫れている。


上から落ちた岩が当たったらしい。


「歩けます?」


「無理だ」


「分かりました」


ソーマはしゃがむ。


「背負います」


「お前が?」


「運ぶの得意なんで」


「Eランクだろ?」


「ランク関係あります?」


「いや……」


ソーマは男の腕を肩へ回した。


《運搬》。


重心を近づける。


腰を落とす。


脚で持ち上げる。


「よいしょ」


男の身体が持ち上がった。


「軽っ」


男が驚く。


「いや、普通に重いです」


「そうじゃなくて、お前が普通に持ったから」


「引っ越しで慣れてるんで」


「またそれか」


後ろからエステルの声が聞こえた。


いつの間にか隙間から覗いている。


「便利屋ね」


「今それ言う?」


怪我人を背負い、慎重に隙間まで移動する。


反対側ではディーンたちが待っていた。


少しずつ。


ゆっくり。


負傷した脚を岩にぶつけないように。


無事に反対側へ抜ける。


「よし」


ディーンが怪我人を受け取る。


残りの3人も順番に戻ってきた。


全員救出。


誰も死んでいない。


ソーマはその場に座り込み、息を吐いた。


「……疲れた」


戦闘より別の意味で疲れる。



◇



負傷者の応急処置が終わるまで、調査隊はその場で休憩することになった。


ソーマは壁に背を預けていた。


そこへディーンが来る。


「ソーマ」


「はい」


「お前、戦闘は得意じゃないだろ」


「いきなりですね」


否定しづらい。


少なくとも、この調査隊の中では間違いなく弱い側だ。


ディーンは崩落地点を見る。


「だが、こういう場所にはお前みたいな奴がいる方がいい」


ソーマは少しだけ目を瞬く。


「それ、褒めてます?」


「褒めてる」


「そう聞こえないんですけど」


ディーンは気にした様子もなく続ける。


「強い奴だけ集めても、遠征は成功しない」


「……」


「戦える奴。道を見つける奴。怪我人を運ぶ奴。物資を管理する奴。それぞれ必要だ」


ディーンは腰の槍へ手を置いた。


「魔物を倒すだけなら、代わりはいる」


そしてソーマを見る。


「だが、全員を生きて帰せる奴は少ない」


ソーマは返事をしなかった。


ただ、その言葉だけは妙に残った。


ディーンはそれ以上何も言わず、調査隊の方へ戻っていく。


エステルが入れ替わるように近づいてきた。


「Aランクに褒められたわね」


「やっぱりあれ褒められてた?」


「たぶん」


「お前まで自信ないのかよ」


エステルが笑う。



◇



しばらくして。


負傷者は後方の数人が付き添い、入口方向へ戻ることになった。


残った調査隊は、もう1度隊列を組み直す。


人数は減った。


そして、この先はさらに狭い。


ディーンは奥の坑道を見た。


「ここから先は、今まで以上に慎重に行く」


誰も反対しない。


ソーマも立ち上がる。


《索敵》を広げる。


奥。


複数の痕跡。


さらに分岐。


もっと先にも、生き物の反応。


旧鉱山は、思っていたよりずっと広い。


そして。


まだ終わりが見えない。


ソーマは暗い坑道を見つめた。


今回の調査で分かったことは増えている。


だが同時に。


分からないことも、増えていた。

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