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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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旧鉱山の異変

翌朝。


ソーマが冒険者ギルドへ入ると、エステルはすでに依頼板の前に立っていた。


「早いな」


「あなたが遅いのよ」


「まだ朝だろ」


「私はもっと前からいるわ」


昨日あれだけ動いたというのに元気なものだ。


ソーマも隣へ並び、依頼板を見る。


受付嬢が言っていた通り、Dランク昇級候補向けの依頼が何件か追加されていた。


街道警備。


商隊護衛。


魔物討伐。


どれも今までに似た仕事を経験している。


そんな中。


エステルの手が1枚の依頼書で止まった。


「これ」


ソーマも内容を見る。


《旧鉱山周辺の異変調査》


数年前に閉鎖された鉱山周辺で、魔物の目撃数が増加している。


周辺状況を確認。


異変の原因を調査すること。


危険が確認された場合は現場で対応を判断。


討伐必須ではない。


Dランク昇級評価対象。


「調査か」


「昨日言われてた条件にちょうどいいでしょう?」


「まあな」


問題は、何がいるか分からないこと。


ソーマは依頼書をもう1度読む。


「これにする?」


「私はいいわよ」


エステルは迷わなかった。


2人は依頼書を持って受付へ向かった。


◇


受付嬢は依頼書を見ると、いつもより真剣な表情になった。


「こちらですね」


「危険ですか?」


ソーマが聞く。


「現時点では分かりません」


それが今回の依頼だった。


魔物が増えている。


しかし、なぜ増えているのかは分からない。


旧鉱山そのものに何かがあるのか。


周辺環境の変化なのか。


あるいは別の理由なのか。


「今回評価されるのは、魔物を何体倒したかではありません」


「じゃあ、何を?」


「何が起きているのか確認して、正しく判断することです」


受付嬢は2人を見る。


「危険だと思ったら、戻ってきてください」


エステルが聞く。


「それでも依頼失敗にはならない?」


「なりません。十分な根拠があれば、撤退も立派な判断です」


ソーマは頷いた。


戦うための依頼ではない。


調べるための依頼だ。


「分かりました」


依頼を受ける。


必要最低限の準備を済ませ、2人は街を出た。


◇


旧鉱山までは数時間。


最初のうちは整備された道を歩き、途中から山側へ入っていく。


「今日は荷物運びじゃないな」


ソーマが言う。


「残念ね」


「何が?」


「あなたの得意分野でしょう?」


「俺の本職は冒険者だから」


「昨日まで便利屋だったのに?」


「引っ張るなあ……」


エステルが楽しそうに笑う。


「でも、鉱山なら何か運ぶことになるかもしれないわね」


「やめろ」


「どうして?」


「俺の場合、本当にそうなるから」


最近の自分の仕事を振り返ると否定できない。


ソーマはため息をつきながら歩いた。


それでも足取りは軽かった。


◇


昼前。


2人は旧鉱山へ到着した。


山肌にぽっかりと開いた入口。


その周囲には草が伸び、古い木製の支柱も一部が腐り始めている。


人が使わなくなってから、かなり時間が経っているようだった。


「誰もいないな」


ソーマが周囲を見る。


人の気配はない。


だが。


地面には何かある。


ソーマは入口へ近づき、しゃがみ込んだ。


「エステル」


「何か見つけた?」


「足跡」


土の上に、いくつもの跡が残っている。


人間ではない。


小さなもの。


それより少し大きなもの。


さらに、かなり幅のある足跡まで混ざっている。


「種類が違う」


エステルもしゃがむ。


「全部魔物?」


「たぶん」


ソーマは周囲も確認した。


最初の痕跡を見つけた。


ここからなら使える。


《追跡 Lv1》


意識を向ける。


足跡のつながりが、少しずつ読みやすくなる。


どこから来たのか。


どちらへ進んだのか。


全てが分かるわけではない。


それでも、複数の魔物が同じ方向へ移動したことは分かった。


「……中だ」


「鉱山?」


「ああ」


森や山側から来た魔物たちが、旧鉱山へ入っている。


しかも1種類だけではない。


「普通なのか?」


エステルが首を横に振る。


「違う種類の魔物が同じ場所へ集まるのは、あまり普通じゃないわ」


「だよな」


入口の奥を見る。


当然、中は暗い。


ソーマは《警戒》を広げた。


少なくとも入口付近には、すぐ襲ってくる何かはいない。


次に《危機察知》へ意識を向ける。


今ここにいるだけなら、強い危機は感じなかった。


「どうする?」


エステルが聞く。


昨日の受付嬢の言葉を思い出す。


危険なら戻る。


無理に戦う必要はない。


ただ。


入口まで来ただけでは、魔物が集まっている原因は分からない。


「少しだけ入ろう」


ソーマは答えた。


「でも、危ないと思ったらすぐ戻る」


「分かった」


エステルが剣へ手を添える。


2人は灯りを用意し、旧鉱山の中へ入った。


◇


外の光は、少し進むだけで急速に弱くなった。


岩壁。


古い支柱。


ところどころに崩れた石。


湿った空気が漂っている。


ソーマは足元を確認しながら進んだ。


足跡は続いている。


むしろ入口より多い。


「かなり入ってるな」


「どれくらい?」


「分からない。でも、数匹じゃない」


《追跡》で痕跡を追う。


奥へ。


さらに奥へ。


途中でソーマは足を止めた。


「……待って」


エステルも止まる。


「どうしたの?」


ソーマは地面を見ていた。


何かがおかしい。


入口から鉱山へ向かう足跡。


これは大量にある。


だが。


反対方向。


鉱山から入口へ戻っている跡が――。


「少ない」


「え?」


エステルが足元を見る。


ソーマはゆっくり顔を上げた。


「魔物は何匹もここに入ってる」


灯りの先。


暗闇が続いている。


「なのに、出てきた跡がほとんどない」


エステルの表情が変わった。


その時だった。


ズ……。


奥から音がした。


2人とも動きを止める。


ズズ……。


何か。


重いものを、地面の上で引きずるような音。


そして。


《危機察知》。


ソーマの全身に、一気に嫌な感覚が走った。


今までとは違う。


フォレストウルフでもない。


フォレストボアでもない。


「エステル」


ソーマは暗闇を見たまま口を開く。


「これ……かなりまずい」


エステルの手が剣の柄を握った。


奥の暗闇で。


何かが、ゆっくりと動いた。

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