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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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初めての2人依頼

異世界へ戻った朝。


《収納 Lv1》と《学習 Lv1》を確認し、とうとうスキルが10個になったソーマは、その足で冒険者ギルドへ向かった。


冒険者の間で言うところの《スキルホルダー》。


せっかくならレオンに報告して少しくらい驚かせてやろうと思っていたのだが、ギルドへ入ったところで先に見つけられた。


「お、来たな」


いつものテーブルにいたレオンが、妙に楽しそうな顔で手招きしている。


「何その顔」


「いいから来いって」


近づくと、レオンは1枚の依頼書をテーブルの上へ滑らせた。


ソーマが受け取って内容を見る。


【鉱山洞窟・作業員救助】


推奨ランク:E

受注人数:2名以上


依頼内容は、街から半日もかからない場所にある古い鉱山で、落盤によって作業員が取り残されたというものだった。


幸い大規模な崩落ではなく、救助側から瓦礫を撤去すれば通路を確保できる可能性が高いらしい。討伐依頼ではなく、主な仕事は石や木材の除去と運搬だった。


「これ、俺向きじゃん」


《運搬》と《重量軽減》がある。


さらに今日からは《収納》まで増えた。


戦うより、むしろこういう仕事の方が自分の得意分野かもしれない。


「だろ?」


レオンが笑う。


「ただし2人以上」


「それなんだよな」


ソーマは依頼書の条件を見る。


レオンとリナを誘えば話は早い。


そう思ったのだが。


顔を上げると、レオンがこちらを見ながらニヤニヤしている。


嫌な予感がした。


「……何?」


「別に」


「絶対なんかあるだろ」


「いやあ、誰誘うのかなと思って」


「普通にレオンとリナじゃないの?」


するとレオンは、わざとらしく肩をすくめた。


「今日は俺、まだ傷の経過見てもらわないといけないんだよな」


ダークウルフにつけられた傷。


エステルの治癒魔法でかなり塞がったとはいえ、完全に治ったわけではなかった。


「リナは?」


「別の依頼」


「じゃあこれ渡す意味ないじゃん」


依頼書を返そうとすると、レオンが受け取らずに笑った。


「いるだろ。他に」


「誰が?」


「誘えよ」


「誰を」


「わかってるくせに」


数秒。


ソーマは黙った。


「……エステル?」


レオンの笑みがさらに深くなった。


「ほら、わかってんじゃん」


「いやいやいや」


ソーマは依頼書をテーブルへ戻す。


「確かFランクだっただろ?」


森の入口ですれ違った時、レオンはそう言っていた。


最近登録したFランク。


騎士志望。


だからEランク依頼には参加できないはずだ。


「もうEだぞ」


「え?」


「この前の昇級査定、通ったらしい」


「何で知ってんの?」


「受付から聞いた」


ソーマは思わず受付を見る。


そこではエレナが、いつも通り何事もなかったように書類を整理していた。


もう一度レオンを見る。


「……この世界、個人情報どうなってんだよ」


「こじんじょうほう?」


「いや、何でもない」


少なくともこのギルドでは、誰が何ランクになったかくらいは普通に共有されるらしい。


冒険者同士で組む以上、必要な情報なのかもしれないが、日本の感覚だと若干落ち着かない。


「ほら、ちょうどいるぞ」


レオンが顎で示す。


視線の先。


依頼板の前にエステルが立っていた。


淡い金色の長い髪。


以前と同じ、華奢な見た目には少し不釣り合いな重装備。


腰には剣。


左腕には盾。


相変わらず、見た目だけなら新人冒険者というより騎士そのものだった。


「行ってこい」


「いや、別に1人で受けられる依頼探しても――」


「2人以上だから駄目だな」


「別の依頼を」


「行ってこい」


レオンが楽しんでいる。


完全に。


ソーマはしばらく抵抗したが、依頼書を手に立ち上がった。


「……あとで覚えてろよ」


「頑張れー」


背中から、まるで他人事のような声が飛んできた。


◇


「エステル」


声をかけると、依頼板を見ていた彼女が振り返った。


「あ……ソーマさん」


「さん、いらないよ。同じくらいだろ?」


「では、ソーマ」


少しだけ間があったものの、素直に直してくれた。


近くで見ると、やはり装備がしっかりしている。


革鎧が中心だったレオンと違い、エステルは金属部分が多い。肩当ても籠手もかなり頑丈そうで、これを着て歩くだけでも結構な重さがあるはずだった。


「あのさ」


「はい」


「Eランクになったって聞いたんだけど」


エステルの眉が少し動く。


「……誰から?」


「レオン」


「なぜレオンさんが知っているんですか?」


「受付から聞いたって」


今度は2人揃って受付を見る。


少し離れたところにいるエレナが、偶然なのかこちらを見ていた。


目が合う。


エレナはにこりと笑った。


ソーマは視線を戻した。


「やっぱこの世界、個人情報ゆるいな……」


「何ですか、それ」


「気にしないで」


それより。


ソーマは持っていた依頼書を差し出した。


「これ、一緒に行かない?」


エステルが受け取る。


内容を読み。


受注条件を見る。


「鉱夫の救助……」


「2人以上必要らしくて。レオンは治療、リナは別の依頼だって」


少しだけ。


言い訳っぽくなった気がする。


別にエステルと行きたくないわけではない。


ただ。


意識すると妙に誘いづらい。


「俺、荷物運びとか瓦礫退かすの得意だから、多分そんなに難しくないと思う」


エステルはもう一度依頼書を確認した。


そして。


「わかりました」


思っていたよりあっさり頷いた。


「いいの?」


「はい。私も今日はまだ依頼を決めていなかったので」


「じゃあ行こう」


その瞬間。


少し離れたところから。


レオンが親指を立てているのが見えた。


ソーマは見なかったことにした。


◇


目的地の鉱山までは、街から歩いて1時間半ほどだった。


古くから掘られている鉱山らしく、山肌にはいくつもの坑道口が開いている。


到着すると、入口付近では数人の鉱夫たちが落ち着かない様子で待っていた。


話を聞けば、奥で作業していた2人が落盤によって取り残されているらしい。


ただし。


声は聞こえる。


負傷もしていない。


塞がれているのも、通路の一部だけ。


「じゃあ石を退かせば出られる?」


「そういうことだ」


年配の鉱夫が頷く。


「大岩ってほどじゃねえ。木の支柱と石が崩れて道を塞いでる。人数がいりゃすぐなんだが、また崩れる可能性もあるから素人だけで入るのは怖くてな」


だからギルドへ依頼したらしい。


ソーマとエステルは案内役の鉱夫と一緒に坑道へ入った。


中は思っていた以上に暗い。


壁に一定間隔でランプが置かれているが、光が届く範囲は狭く、少し先へ行くだけで闇が広がっている。


「結構狭いな」


場所によっては、大人2人が並んで歩くのも難しい。


長い剣を抜けば、壁や天井にぶつかりそうな場所もある。


ソーマは腰にある短剣へ触れたあと、その反対側にあるガルドのナイフを確認した。


こういう場所なら。


むしろ短い方が使いやすいのかもしれない。


しばらく進むと、崩落地点が見えてきた。


岩。


折れた木材。


土砂。


完全に埋まっているわけではなく、向こう側から声も聞こえる。


「おーい!」


案内役が呼びかける。


『いるぞー!』


返事があった。


思っていたより状況は良さそうだった。


「じゃあ始めようか」


ソーマが瓦礫を見る。


まず。


《仕分け》。


どれを先に退かせるか。


崩落した木材と石を見比べ、動かしても問題なさそうなものを選んでいく。


次に。


《運搬》。


《重量軽減》。


大きな石を持ち上げる。


「よっ……」


重い。


それでも。


以前より遥かに扱いやすい。


「それ、1人で持てるんですか?」


エステルが少し驚いた顔をする。


「こういうの得意なんだよ」


「冒険者なのに?」


「俺も最近そう思う」


さらに。


小さな瓦礫や道具は、持ってきた袋へ《収納》を使って詰めていく。


形の違う物でも。


隙間が自然とわかる。


どの順番で入れれば効率がいいのかも。


初めて使うスキルだったが、予想以上に便利だった。


「……これ当たりだな」


「何がですか?」


「いや、こっちの話」


エステルも力仕事を手伝った。


重装備を着ているだけあって、見た目よりかなり力がある。


2人で作業を続けること。


それほど時間はかからなかった。


最後の木材をソーマが動かすと。


人が通れるだけの隙間ができた。


「出られるぞ!」


閉じ込められていた鉱夫2人が、順番にこちらへ這い出してくる。


少し汚れてはいるが。


怪我らしい怪我もない。


「助かった!」


「ありがとう!」


「思ってたより簡単だったな」


ソーマが言うと。


案内役の鉱夫も笑った。


「運が良かった。これくらいならすぐだ」


エステルも少し安心したように息を吐く。


ダークウルフの後。


次も命懸けの依頼だったらどうしようかと思っていたが。


今回は。


本当に普通のEランク依頼だった。


◇


坑道の入口まで戻り。


救助した鉱夫たちを外へ送り出す。


仲間たちが駆け寄り。


肩を叩き。


無事を喜んでいた。


ソーマも少し離れたところから、その様子を見る。


「よかったな」


「はい」


隣にいたエステルが頷く。


これで。


あとはギルドへ帰って報告するだけ。


今回は。


本当に平和に終わる。


そう思った。


その時だった。


ゴゴゴゴゴ……。


足元が。


揺れた。


「……え?」


最初は。


大型の荷車でも通ったのかと思った。


だが。


違う。


地面そのものが。


揺れている。


「地震!?」


ソーマは咄嗟に周囲を見る。


日本では知っている。


地震。


だが。


異世界で。


初めてだった。


「また……?」


エステルが呟いた。


「また?」


聞き返す。


だが。


次の瞬間。


坑道の奥から。


嫌な音がした。


ミシッ。


石が擦れる。


木材が軋む。


そして。


「危ない!」


誰かの声。


ソーマは反射的にエステルを引いた。


直後。


轟音。


後ろ。


さっき通ってきた坑道から大量の岩と土砂が落ちてきた。


「っ!」


地面へ伏せる。


砂埃。


石が転がる音。


しばらく。


何も見えない。


やがて。


揺れが収まった。


ソーマはゆっくり顔を上げる。


「……エステル、大丈夫?」


「はい。ソーマは?」


「俺も」


立ち上がる。


そして。


来た道を見る。


塞がっていた。


完全に。


先ほどの落盤とは規模が違う。


巨大な岩。


土砂。


折れた支柱。


「……嘘だろ」


外。


ほんの少し前まで。


そこにいた。


鉱夫たちは。


すでに外へ出ている。


助けることはできた。


だが。


代わりに。


自分たちが閉じ込められた。


「さっきのより酷いな」


ソーマが瓦礫へ近づこうとすると。


エステルが止めた。


「触らない方がいいと思います」


「だよな……」


まだ不安定だ。


下手に動かせば。


さらに崩れる可能性がある。


その時。


ソーマは気づく。


「さっき、“また”って言った?」


エステルが頷いた。


「最近、この辺りで地面が揺れることが増えているんです」


「最近?」


「知らなかったんですか?」


知らない。


当然だった。


ソーマがこちらにいるのは。


基本的に週末だけ。


平日の間に起きていることは。


何も知らない。


「何回くらい?」


「私は3回くらい。でも、もっと前から何度かあったって聞きました」


「そんなに?」


思っていたより多い。


今回の落盤も。


最初から地震が原因だったのかもしれない。


そう考えると。


少し嫌な感じがした。


ダークウルフが本来いる場所から移動してきたこと。


最近増えている地震。


関係があるのか。


まだ。


何もわからない。


「とりあえず、どうします?」


エステルの声で。


ソーマは現実へ戻る。


そうだ。


今は。


ここから出なければならない。


来た道は塞がった。


瓦礫を退かすには危険すぎる。


「別の出口ってないのかな」


ソーマが周囲を見る。


この鉱山。


入口は1つではなかった。


山の外から見ても。


いくつもの坑道口があった。


しかも。


長年。


色んな場所から掘り進められている。


案内してくれた鉱夫も。


別の坑道同士が奥で繋がっている場所があると言っていた。


「たぶんあります」


エステルが答える。


「ここはかなり古い鉱山です。違う場所から掘られた坑道が何本も繋がっているはずなので」


「じゃあ、別ルートから出られる?」


「出口まで辿り着ければ」


希望が見えた。


ソーマは少し安心する。


ただ。


エステルは周囲の暗い坑道を見回した。


そして。


小さく付け加える。


「……道がわかれば、ですけど」


ソーマも。


同じように奥を見る。


右。


左。


さらにその先。


暗闇の中へ。


いくつもの坑道が続いている。


案内役は。


もう外だ。


地図もない。


2人だけ。


ソーマは腰にある短剣と。


ガルドからもらった古いナイフへ触れた。


そして。


新しく覚えた《追跡》と《危機察知》を思い出す。


簡単な救助依頼。


そのはずだった。


どうやら。


ここからが本番らしい。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


今回でちょうど第30話になりました。


最初は、悠真が異世界で何もわからないまま薬草を集めたり、ゴブリンに追いかけられたりするところから始まりましたが、少しずつ仲間も増えて、できることも増えてきました。


ここまで続けて読んでくださっている方がいること、本当に嬉しく思っています。


まだまだ物語はこれからです。


異世界側では、今回の地震やダークウルフの件など、少しずつ違和感も増えてきました。


悠真自身も、ただの荷物持ちだったところから、少しずつ冒険者として成長していく予定です。


今後も楽しんでいただけたら嬉しいです。


ここで第30話ということで、現在の主な登場人物を簡単にまとめておきます。


登場人物


相馬(そうま) 悠真(ゆうま)/ソーマ

本作の主人公。


日本では大学2年生。


生活費を稼ぐため、授業の合間に単発バイトを大量に入れている苦学生。


金曜の夜になると、自宅に現れる謎の扉を通って異世界へ移動する。


異世界では「ソーマ」と名乗り、冒険者として活動中。


現在はEランク冒険者。


戦士タイプではなく、運搬、索敵、追跡、回避、補助などを得意とする支援型。


日本で経験した仕事が、異世界ではスキルとして反映されている。


現在所持しているスキルは10個。


《運搬 Lv1》

荷物を持つ際の姿勢、重心、持ち方などを最適化する。


《仕分け Lv1》

基準を知っている物であれば、種類や状態の違いを見分けやすくなる。


《警戒 Lv2》

周囲から迫る危険を感知する。


《重量軽減 Lv1》

持っている物や自身の身体にかかる負担を、わずかに軽減する。


《浄化 Lv1》

泥や汚れなどを落とすことができる。


《軽歩 Lv1》

《運搬》と《重量軽減》から派生。

短距離の初動や方向転換が速くなる。


《追跡 Lv1》

《仕分け》を痕跡の判別に使い続けたことで派生。

足跡や通った跡など、見つけた痕跡を辿りやすくなる。


《危機察知 Lv1》

《警戒》と《仕分け》から派生。

危険の方向だけでなく、攻撃の危険度もある程度判断できる。


《収納 Lv1》

物の形や空間を把握し、袋や箱などへ効率よく収納できる。


《学習 Lv1》

知識や技術を学ぶ際の理解・定着をわずかに補助する。

現時点では、本人からは少し地味なスキルだと思われている。


⸻


レオン


ソーマが異世界で最初に出会った冒険者の1人。


明るく面倒見のいい青年剣士。


現在はCランク冒険者。


剣術と身体能力に優れ、前衛としてソーマとリナを守る役割を担う。


ソーマに短剣や剣の扱い方、戦闘時の立ち回りなどを教えている。


闘気を剣に乗せることもでき、木剣でも物を切れるほどの威力を出せる。


現在確認されている主なスキルは、


《剣術 Lv3》

《身体強化 Lv2》

《危険察知 Lv1》


⸻


リナ


レオンと行動することが多い女性魔術師。


少し口は悪いが、仲間思い。


現在はDランク冒険者。


炎魔法を得意としており、短い詠唱で火球を撃つほか、長時間詠唱することで炎の竜巻や、人の身体ほどもある巨大な火球を放つことができる。


現在確認されている主なスキルは、


《火魔法 Lv2》

《魔力操作 Lv2》

《魔力感知 Lv1》


⸻


エステル


最近冒険者登録をした少女。


淡い金色の長い髪と、華奢な見た目に似合わない重装備が特徴。


騎士を目指しており、剣と盾を使う。


現在はEランク冒険者。


実は珍しい治癒魔法を使うことができるが、本人はあまりそのことを広めたくない様子。


ソーマとは最近知り合ったばかり。


⸻


ガルド


武器屋を営む元Cランク冒険者。


大柄で怖そうな見た目をしているが、面倒見はかなりいい。


ソーマがまだ武器を買えなかった頃、自分が冒険者時代に使っていた古いナイフを譲った。


そのナイフは、ガルド自身が長年使い続け、何度も命を救われた思い入れのある武器。


現在、ソーマは自分で購入した短剣と、このナイフの2本を持っている。


⸻


エレナ・フォード


冒険者ギルドの受付嬢。


新人冒険者の無茶にはかなり厳しい。


特にソーマが1人で森へ行こうとすると、毎回のように注意している。


ただし、きちんと成長していることは評価している。


⸻


マルタ


ソーマが利用している安宿「銀鹿亭」の女将。


口調は豪快で、細かいことはあまり気にしない。


宿は安いが、壁は薄く、ベッドも固い。


ソーマが早朝の仕事を頼んだ時には、朝食の手伝いをさせたこともある。


⸻


ガレス


Bランク冒険者。


斥候、罠、探索、追跡、地形把握などを得意とするベテラン。


ダンジョンや迷宮探索では特に評価が高く、彼がいるだけでパーティの生存率が大きく上がると言われている。


戦闘能力も非常に高く、レオンからも一目置かれている。


ソーマが進みつつある「探索・支援型」の完成形に近い人物の1人。

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