スキルホルダー
街へ戻った4人は、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
普段なら依頼を終えた安心感で、帰り道にも多少は会話が増える。だが今日は、誰もそれほど口数が多くなかった。
レオンの傷はエステルの治癒魔法で出血こそ止まっているものの、肩から脇腹にかけて裂けた革鎧には、戦闘の激しさがそのまま残っている。
何より、今回の依頼は最初から最後まで想定外だった。
受けたのは、街道周辺に現れる小型魔物の調査。
それなのに遭遇したのは、複数のCランク冒険者で討伐するようなダークウルフだった。
「……これ、絶対なんか言われるよな」
ギルドの建物が見えてきたところで、ソーマがぼそりと呟いた。
隣を歩いていたレオンが苦笑する。
「今回は俺たち悪くないだろ。依頼書通りに調査してたら向こうから出てきたんだから」
「でもエレナさんって、そういうの関係なく一回心配してから怒るじゃん」
「それ、ソーマに対してだけじゃない?」
リナが言う。
「なんで俺限定なんだよ」
「実績」
またそれか。
ソーマが不満そうな顔をすると、リナが小さく笑った。
そんなやり取りをしているうちにギルドへ着く。
扉を開けると、昼の依頼を終えて戻ってきた冒険者たちの声が飛び込んできた。
いつも通りの光景。
だが、ソーマたちが中へ入った途端、何人かの視線がこちらへ向いた。
いや。
正確には、レオンを見ている。
Cランクへ昇級したばかりとはいえ、普段のレオンを知っている冒険者なら、ここまで装備を傷つけて戻ってくるのが珍しいとわかるのだろう。
受付にいたエレナも、すぐに気づいた。
「レオンさん、その傷……!」
椅子から立ち上がり、今にもカウンターの外へ出てきそうな勢いだった。
「大丈夫です。もう止血はしてもらってるんで」
レオンが片手を上げる。
「止血って……何があったんですか?」
「ダークウルフ」
エレナの表情が止まった。
「……すみません。もう一度お願いします」
「ダークウルフです」
今度はリナが答える。
エレナは数秒黙ったあと、手元にある依頼書を確認した。
【街道周辺・小型魔物調査】
推奨ランク、E。
どう見ても。
ダークウルフという文字はどこにもない。
「小型魔物の調査ですよね?」
「俺たちもそのつもりで行きました」
ソーマが答える。
「途中までは、普通に痕跡を探してただけです」
エレナの表情から、完全に笑顔が消えた。
「詳しくお願いします」
◇
報告は、いつもよりずっと長くなった。
まず、小型魔物と思われる痕跡を追っていたこと。
その過程でソーマの《仕分け》から《追跡 Lv1》が派生したこと。
痕跡を追って森へ入ったところ、《警戒》がこれまでにないほど強く反応したこと。
その直後。
ダークウルフが現れた。
「場所は?」
「街道からそれほど離れてません」
レオンが答える。
「森の奥じゃないです。Eランクの調査依頼で普通に入る範囲です」
エレナの眉が寄る。
「……そこにダークウルフが?」
「はい」
戦闘についても説明する。
レオンが前衛として足止め。
リナが大魔法の詠唱。
その間にソーマが敵の進行を阻止。
途中でレオンが深い傷を負ったこと。
ソーマの《警戒》と《仕分け》が組み合わさり、《危機察知 Lv1》へ派生したこと。
そして最後は、リナの《大火球》を直撃させたあと、レオンが闘気を乗せた剣で仕留めた。
そこまで聞いたところで、エレナが大きく息を吐いた。
「確認しますが……ダークウルフは、通常もっと森の奥に生息しています」
「やっぱり?」
ソーマが聞く。
「やっぱり、ではありません」
ぴしゃりと言われる。
「Cランク中位相当です。Eランクの調査区域に現れていい魔物ではありません」
その答えを聞いて、ソーマは妙な安心感を覚えた。
Eランクになった初日からこれが普通だと言われたら、さすがに今後を考えたくなっていたところだ。
「今回の依頼、いったん停止してください」
エレナが近くの職員を呼ぶ。
「東街道側も、森へ入るEランク以下の依頼は一度保留でお願いします。追加調査を出します」
「ランクは?」
「最低でもCランクを含むパーティで」
職員が頷き、すぐに奥へ向かった。
ギルド内の空気が少し変わる。
単なる依頼報告ではなく。
異常発生として扱われ始めた。
「奥から追い出された可能性もありますか?」
リナが聞いた。
「あります」
エレナは頷く。
「ただ、現時点では何とも言えません。偶然1体だけ移動してきたのか。それとも、森の奥で何か変化が起きているのか」
レオンも少し表情を引き締める。
「俺たちも気になってました。あいつ、本来いる場所じゃないですよね」
「ええ。なので、そこはギルドで調べます」
そう言ってから。
エレナの視線が、再びレオンの傷へ向いた。
「それより」
「はい」
「治療院へ行ってください」
「エステルにかなり治してもらったんで――」
「行ってください」
笑顔だった。
だが。
断れる雰囲気ではない。
「……はい」
レオンが素直に頷く。
ソーマは少しだけ安心した。
怒られるのは自分だけではないらしい。
◇
報告が終わると、次は素材の査定に移った。
持ち帰ったのは、ダークウルフの牙と爪。それから、火が回っていない部分から切り取った毛皮の一部。
本体そのものは大きすぎて持ち帰れなかった。
査定担当の男が牙を手に取り、光へかざす。
「大きいな。欠けもほとんどない」
次に爪。
毛皮。
1つずつ状態を確かめていく。
「火傷してないところ、よく選んだな」
「それ、ソーマです」
レオンが言った。
「俺?」
「《仕分け》使ってただろ」
「ああ」
査定担当の男が、少し興味深そうにソーマを見る。
「仕分け持ちか」
「はい」
「便利だな」
また言われた。
強い。
ではなく。
便利。
最近。
この評価が自分に定着しつつある気がする。
悪い気はしない。
たぶん。
しばらくして査定が終わると、エレナが計算した書類を持って戻ってきた。
「今回は通常の依頼とは別扱いになります」
「というと?」
ソーマが聞く。
その声が少しだけ早かったのを、リナが聞き逃さなかった。
「お金の話になると元気ね」
「命かかってたんだから大事だろ」
「まあ、それはそうだけど」
エレナが苦笑する。
「本来の調査依頼報酬。それに危険度超過の報告加算、ダークウルフの討伐報酬、持ち帰った素材の買い取りを含めて……合計、銀貨36枚です」
「36枚?」
思わず聞き返した。
銀貨36枚。
ソーマの感覚なら。
金貨3枚と銀貨6枚。
これまで受けてきた仕事とは、明らかに金額が違う。
「Cランク帯って、そんなにもらえるんだ……」
「その代わり」
エレナがレオンを見る。
「こうなります」
「……確かに」
急に割が良く見えなくなった。
3人で分けるなら銀貨12枚ずつ。
そう考えたところで。
ソーマはエステルを見る。
「エステルも分けない?」
「え?」
「レオン治してくれたし」
エステルは少し驚いたあと、首を横に振った。
「私は討伐に参加していません」
「でも、レオンかなり危なかったし」
「治療したのは、私が勝手にしたことです」
きっぱりしている。
レオンも横から言う。
「せめて治療代くらい払わせてくれ」
「いりません」
「いや、でも――」
「いりません」
今度は少し強かった。
レオンが諦める。
「……じゃあ今度、飯でも奢る」
少し間を置いて。
「それなら」
エステルが答えた。
そこはいいらしい。
ソーマは思わず笑った。
◇
正式な報告処理が終わったあと、4人はギルド奥の空いているテーブルへ移動した。
レオンはこのあと治療院へ直行することになっている。
エステルの治癒魔法でかなり塞がってはいるが、完全に治ったわけではない。
そのレオンが椅子へ腰掛けるなり、ソーマを見た。
「そういえば」
「何?」
「お前、今日もまたスキル増えたって言ってたよな」
「《追跡》と《危機察知》?」
「2個も増えてるじゃねえか」
改めて言われると。
確かに。
リナも呆れたように頷いた。
「最近、会うたびに増えてない?」
「そんなことないだろ」
「あるわよ」
「じゃあ今、何個持ってるんだ?」
レオンに聞かれ。
ソーマは頭の中で数え始めた。
《運搬 Lv1》。
《仕分け Lv1》。
《警戒 Lv2》。
《重量軽減 Lv1》。
《浄化 Lv1》。
《軽歩 Lv1》。
そして今日増えた。
《追跡 Lv1》。
《危機察知 Lv1》。
「……8個」
「8?」
レオンが思ったより大きな声を出した。
周囲にいた冒険者が少しこちらを見る。
「声でかいって」
「あ、悪い」
レオンは声を落とした。
「でも8個?」
「たぶん」
「たぶんって何だよ」
「今数えたら8だった」
リナも指を折りながら確認する。
「運搬、仕分け、警戒、重量軽減、浄化、軽歩、追跡、危機察知……本当に8個ね」
「多いの?」
ソーマが聞くと。
レオンとリナが顔を見合わせた。
「多い」
レオンが即答する。
「普通、何個くらい?」
「人によるけどな。新人なら1個か2個。ある程度冒険者を続けても、3個から5個くらいの奴が多い」
「じゃあ8は?」
「かなり多い」
少し嬉しくなる。
それが顔に出たのか。
レオンが笑った。
「あと2個だな」
「何が?」
「10個」
「10個になると何かあるの?」
レオンは少しだけ身を乗り出した。
「正式な称号じゃないけど、冒険者の間じゃスキルを10個以上持ってる奴を《スキルホルダー》って呼ぶことがある」
「スキルホルダー?」
初めて聞く言葉だった。
響きだけなら、なんだか強そうだ。
「10個持ってたら、めちゃくちゃ強いってこと?」
「そうとは限らないわ」
リナが答えた。
「生活系ばかり持ってる人もいるし、スキルの数と戦闘力は別よ」
レオンも頷く。
「ただ、10個以上持ってる奴が珍しいのは確かだ。長く冒険者やってるとか、いろんな経験を積んでるとか、適性の幅が広いとか」
「なるほど……」
ソーマはもう一度、自分のスキルを思い浮かべる。
8個。
あと2個。
「俺、冒険者になってそんなに経ってないんだけど」
「だから変なんだよ」
「変って言うなよ」
「でも普通じゃないでしょ」
リナまで笑う。
理由は。
たぶん。
ソーマにはわかっていた。
日本でやっている単発バイト。
引越し。
清掃。
警備。
倉庫。
そうした経験が、この世界ではスキルになっている。
さらに。
《運搬》と《重量軽減》を組み合わせた結果、《軽歩》が生まれた。
《仕分け》を痕跡へ応用し続けて、《追跡》。
そして今日。
《警戒》と《仕分け》が組み合わさり、《危機察知》へ変化した。
仕事で得た力が。
異世界で使うことで。
また別の力へ繋がっている。
「……あと2個か」
思わず呟いた。
レオンがニヤッとする。
「何だよ。狙う気?」
「いや」
一度否定する。
少し考える。
「……まあ、ちょっとだけ」
「狙うんじゃん」
リナが吹き出した。
「また仕事増やす気でしょ」
「何でわかるんだよ」
「顔」
今度はレオンが答える。
「どんな顔だよ」
「金かスキルのために働く時の顔」
「そんな顔ある?」
エステルが初めて口を挟んだ。
レオンとリナが同時に頷く。
「ある」
「あるわね」
「やめろよ」
3人の声が重なり。
エステルも少しだけ笑った。
そのあと。
彼女はソーマを見た。
「……8個」
「何?」
「いえ。少し驚いただけです」
「そんな珍しい?」
「少なくとも、私よりずっと多いです」
そう言うエステルの視線は、先ほどまでとは少し違っていた。
治癒魔法を使えることを隠したがっている女騎士。
まだ。
何も知らない。
でも。
ソーマもまた、彼女のことが少し気になり始めていた。
ただ。
本人が話したがらないことを無理に聞くつもりはない。
だから。
その場では、それ以上何も言わなかった。
◇
しばらくして。
レオンはエレナに急かされるようにして治療院へ向かった。
「本当にもう大丈夫だって」
「それを決めるのは治療師です」
「エステルにも同じこと言われたな……」
「ちゃんと人の話聞いてください」
エステルにまで言われ。
さすがのレオンも反論できなくなった。
リナも一緒に行くことになり、ギルドの前でいったん別れる。
「ソーマは?」
レオンに聞かれ。
「俺は銀鹿亭戻る」
「今日はもう仕事すんなよ」
「しないよ」
「本当に?」
「俺を何だと思ってるんだよ」
リナが笑う。
「働く人」
否定しづらい。
エステルも小さく笑っていた。
「今日はありがとう」
ソーマが彼女へ言う。
「レオン、本当に助かったと思う」
エステルは一瞬だけ驚いたあと、少し視線を逸らした。
「私はできることをしただけです」
「それでも」
少し間があり。
エステルが頷く。
「……はい」
「またギルドで会ったらよろしく」
「こちらこそ」
昨日。
森の入口で軽く会釈しただけだった相手。
今日になって。
名前を知った。
話した。
治癒魔法を使えることまで知った。
ほんの少しだけ。
距離が縮まった気がした。
◇
銀鹿亭へ戻った頃には、空がかなり赤く染まっていた。
マルタの出してくれた夕食を食べながら、ソーマは今日1日のことを思い返していた。
朝。
レオンから剣を教わった。
闘気を見た。
リナの本気に近い魔法も見た。
午後。
Eランクとして初めて依頼を受け。
《追跡》と《危機察知》を覚えた。
そして。
Cランク中位のダークウルフと戦った。
「……濃すぎるだろ」
思わず声に出る。
「何ぶつぶつ言ってんだい」
料理を運んでいたマルタが言う。
「いや。今日いろいろあったなって」
「冒険者なんてそんなもんだろ」
「そんなもんなのかな……」
少なくとも。
Eランク初日としては、あまり普通ではなかったはずだ。
食事を終える頃には。
外はすっかり暗くなっていた。
そこで。
ソーマは思い出す。
いや。
正確には。
朝からずっと頭の片隅にあったことを、改めて意識した。
扉。
昨夜。
3日目の夜になっても現れなかった。
そして今日は。
10月12日。
月曜日。
スポーツの日。
日本では祝日。
「……そろそろ行くか」
ソーマは立ち上がった。
「どこ行くんだい?」
マルタが聞く。
「ちょっと用事」
「仕事かい?」
「違うって」
今日。
何度目だろう。
自分はそんなに働いているように見えるのか。
否定できないところが少し悲しい。
◇
夜の街を歩く。
酒場から漏れる明かり。
行き交う人の声。
石畳を踏む自分の足音。
もう何度も通った道。
それなのに。
今日はいつもより長く感じた。
向かっているのは。
あの路地。
昨日。
何もなかった場所。
歩きながら。
今朝考えたことを、もう一度整理する。
これまで。
金曜日の夜に異世界へ来た。
そして。
日曜日の夜に帰った。
2回とも同じだった。
だから。
3日目の夜になれば扉が出る。
そう思っていた。
でも。
違った。
昨夜。
日曜日の夜。
扉は出なかった。
そして。
今日。
10月12日はスポーツの日。
日本では月曜日だが、祝日。
大学も休み。
もし。
扉が異世界側で何日過ごしたかではなく。
日本側の休日に合わせているのだとしたら。
今日の夜。
扉が現れるはずだった。
「……頼むぞ」
誰に言うでもなく呟く。
角を曲がった。
薄暗い路地。
石壁。
昨日。
何度も触った場所。
ソーマは数歩進み。
そこで。
足を止めた。
「あった……」
石壁の一角。
そこに。
見慣れた扉があった。
古びた木製。
同じ取っ手。
間違いない。
日本へ繋がる扉。
ソーマはその場で大きく息を吐いた。
「……よかった」
思っていた以上に。
安心した。
昨日。
扉がなかった時。
もしかしたら。
もう戻れないのではないか。
ほんの少しだけ。
本気でそう考えた。
でも。
出た。
月曜日。
祝日の夜に。
「やっぱり……休みと関係あるのか?」
これで。
仮説は少し強くなった。
前回までは日曜夜。
今回は月曜夜。
異世界側で過ごした日数は違う。
でも。
共通していることがある。
その翌日。
大学がある。
つまり。
こちらへ来てから3日経ったから帰るのではなく、日本側で次に授業が始まる前に扉が現れている可能性がある。
もし。
本当にそうなら。
祝日。
連休。
冬休み。
春休み。
大学の休みが長ければ。
その分だけ異世界に滞在できるのかもしれない。
「……親切設計すぎるだろ」
誰が。
何のために。
そんなことをしているのか。
それはまったくわからない。
そもそも今回1回だけで断定するのは早い。
次の連休。
あるいは長期休暇。
そこで同じことが起きるか。
確かめる必要がある。
ソーマは取っ手へ手を伸ばした。
そこで一度。
街の方を振り返る。
今回も。
いろいろあった。
Eランクへ昇級した。
自分の短剣を買った。
レオンに剣を習った。
リナの本気を見た。
Cランク中位の魔物とも戦った。
エステルとも話した。
そして。
スキルは8個になった。
「……あと2個か」
冒険者の間で。
10個以上のスキルを持つ者は、《スキルホルダー》と呼ばれる。
別に。
その呼び名が欲しいわけではない。
でも。
少しだけ。
気になる。
ソーマは扉を開いた。
向こう側には。
見慣れたワンルームがあった。
フローリング。
机。
ベッド。
壁に掛かった時計。
石造りの街とは。
あまりにも違う。
その境目を越える。
扉を閉めた瞬間。
空気が変わった。
身体を見る。
短剣。
革袋。
異世界で身につけていたものは、すべて見えなくなっている。
代わりに。
ポケットには。
スマホ。
財布。
鍵。
日本側の持ち物が戻っていた。
「……帰ってきた」
スマホを取り出す。
画面を点ける。
10月12日。
月曜日。
祝日。
時刻。
23時41分。
「やっぱり今日だ」
ソーマはようやく完全に力を抜き、そのままベッドへ腰を下ろした。
明日は10月13日、火曜日。
大学は2限から4限まで。
2限開始は10時40分だから、多少は朝に余裕がある。
それでも。
もう日付が変わる直前だ。
風呂へ入って寝れば、すぐにまたいつもの大学生活が始まる。
数時間前まで。
異世界の森で巨大な狼と命懸けで戦っていたとは思えない。
「切り替わり激しすぎるだろ……」
ソーマはスマホを充電器へ挿し、ベッドへ仰向けになった。
天井を見る。
今日。
新しく覚えた。
《追跡 Lv1》。
《危機察知 Lv1》。
これで。
全部で8個。
レオンの話では、あと2個増えれば《スキルホルダー》。
日本では。
そのスキルを確認することはできない。
画面が浮かぶわけでもない。
それでも。
異世界で身につけた感覚も。
戦った記憶も。
きちんと自分の中に残っている。
そして。
今回もう1つ。
重要なことがわかった。
扉は。
単純に3日目の夜に現れるわけではない。
少なくとも。
その可能性はかなり低くなった。
祝日だった今日まで。
自分は異世界にいた。
「大学の休みに合わせてる……?」
まだ。
答えではない。
でも。
もしそうなら。
これからの日常は。
少し変わる。
日本のカレンダー。
大学の予定。
祝日。
長期休暇。
今までは。
単に授業やバイトを入れるためだけに見ていた。
これからは。
異世界でどれだけ過ごせるのかを考えるためにも。
確認する必要がある。
ソーマはスマホのカレンダーを開いた。
次の祝日。
その次。
さらに先。
少しだけ眺めたところで。
大きなあくびが出る。
「……明日でいいか」
朝から剣を振って。
午後にはダークウルフと戦った。
いくら身体が異世界から日本へ戻ったとはいえ。
頭の疲れまでは消えてくれない。
スマホを枕元へ置く。
目を閉じる。
明日になれば。
また大学。
そのあと。
たぶん。
バイト。
いつもの日常。
でも。
以前とは少し違う。
次の金曜日が来れば。
またあの扉が現れるかもしれない。
その向こうには。
レオンとリナがいて。
エステルもいる。
ギルドがあって。
まだ知らない依頼がある。
そして。
自分のスキルが。
また増えるかもしれない。
そんなことを考えていたはずなのに。
次の瞬間には。
ソーマの意識は、深い眠りへ落ちていた。
最後までお付き合いいただき感謝します。
もし「続きが読みたい」と思われた方は、ページ下部よりブックマークと評価をお願いします。




