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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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27/52

初めての格上

受付で依頼を受けた3人は、昼過ぎには東街道へ出ていた。


今回の仕事は、街道周辺で目撃されている小型魔物の調査。


種類と数を確認し、街道へ危険が及びそうなら必要に応じて討伐する。


Eランクになったソーマにとっては、正式に自分のランクで受ける最初の依頼だった。


「なんか変な感じだな」


街道を歩きながら、ソーマが依頼書を見る。


「何が?」


「Fって書いてない」


リナが呆れたように笑う。


「そこ?」


「結構大事だろ」


昨日までは、依頼板を見る時も自然とFランクの欄を探していた。


今日は違う。


Eランク。


たった1文字変わっただけなのに、少しだけ冒険者になった気がする。


もっとも。


前を歩いているのはCランクのレオン。


その後ろにはDランクのリナ。


まだまだ2人との差は大きい。


「今日は朝に教えたこと意識しろよ」


レオンが振り返らずに言った。


「横と後ろ?」


「それも。何か見つけたら、まず声出せ。勝手に突っ込むな」


「わかってる」


「ほんとに?」


「なんで全員俺の信用低いんだよ」


リナが笑った。


「実績」


一言で終わった。


◇


街道を離れ、目撃情報があった森の縁へ入る。


依頼書では、小型の魔物が何度か荷車の近くまで姿を見せているらしい。


ただ、何の魔物なのかまではわかっていない。


ソーマは地面や草むらへ目を向けながら歩いた。


以前なら。


ただの土。


ただの草。


ただの折れた枝。


それだけだった。


今は少し違う。


ホーンラビット狩りで、レオンから痕跡の見方を教わった。


足跡。


食べ跡。


糞。


草の倒れ方。


一度基準を知れば、《仕分け》で似たものを選び出せる。


「これ、ホーンラビットじゃないな」


ソーマがしゃがみ込む。


地面には小さな足跡が残っていた。


レオンも確認する。


「違うな。もっと小さい」


「こっちは?」


少し先に、別の跡。


「それは古い」


形が崩れている。


乾いた土。


新しいものと古いもの。


関係ありそうなものと、関係なさそうなもの。


ソーマはそれらを1つずつ頭の中で分けていった。


《仕分け》。


必要。


不要。


新しい。


古い。


同じ種類。


違う種類。


そうやって何度も繰り返しているうちに。


不意に。


感覚が変わった。


「……ん?」


ソーマが足を止める。


視界の端にあった足跡が、妙に気になった。


見たことのない形。


それ自体は珍しくない。


だが。


少し先にも似た跡。


さらに先。


草が同じ方向へ倒れている。


今までなら、それぞれ別々に仕分けていた。


今回は。


繋がって見える。


「……これ、続いてる?」


レオンが戻ってくる。


「何が?」


「足跡」


ソーマは地面を指差した。


「ここ。次があそこ。その先にもある」


レオンが少し驚いた顔をした。


「合ってる」


「やっぱり?」


その瞬間。


頭の中に新しい感覚が浮かんだ。


《追跡 Lv1》


ソーマは目を見開く。


「……増えた」


「何が?」


リナが聞く。


「スキル。《追跡 Lv1》」


「また?」


「俺もびっくりしてる」


《仕分け》で痕跡を何度も見分けた結果。


その中から、同じものの連続を拾う。


それが別のスキルになったらしい。


試しに地面を見る。


何もない場所から足跡が浮かぶわけではない。


だが。


一度見つけた痕跡の続きが、以前より目につきやすい。


「あっち」


ソーマが森の奥を指差す。


「たぶん続いてる」


レオンが確認して、小さく笑った。


「便利になってきたな」


「荷物持ちから斥候寄りになってない?」


リナが言う。


「俺も思った」


少し前に会ったBランクのガレス。


索敵。


罠。


地形。


追跡。


まだ比べるのも失礼なレベルだ。


それでも。


自分のスキルが少しずつ、そちらへ伸び始めている気がした。


◇


痕跡を追って森の中へ進む。


最初は小さかった足跡が、途中から少しわかりにくくなった。


土の硬い場所。


落ち葉。


石。


《追跡》があっても、痕跡がなければ何もわからない。


万能ではない。


それでも、方向を見失いにくくなった。


「こっちで合ってると思う」


ソーマが言った、その時だった。


ぞわっ――。


全身の毛が逆立った。


これまでとは違う。


《警戒 Lv2》。


今まで何度も反応してきた。


ゴブリン。


オーク。


ホーンラビットの反撃。


レオンの木剣。


だが。


今回は比べものにならない。


背中へ氷を流し込まれたような感覚。


心臓が強く跳ねる。


「止まって!」


ソーマの声が裏返った。


レオンとリナが即座に止まる。


「どこだ?」


「前……たぶん前。今までで一番強い」


その一言で、レオンの表情が変わった。


剣を抜く。


リナも杖を構える。


森が静かだった。


鳥の声がしない。


風で揺れる葉の音だけ。


数秒。


低い唸り声。


「グルルルル……」


木々の奥から。


大きな影が出てきた。


狼。


最初はそう見えた。


だが。


大きすぎる。


四足で立っているのに、背中の位置がソーマの胸近くまである。


灰黒色の毛。


前脚は太く。


口から覗く牙は、ナイフより長い。


そして。


その目だけが赤い。


「……何、あれ」


ソーマが声を落として聞く。


レオンは目を逸らさなかった。


「ダークウルフ」


「強い?」


「かなり」


リナの顔にも、今までにない緊張があった。


「普通ならCランク中位くらい」


「……C?」


「1人で相手する魔物じゃない」


レオンが言う。


「何人かのCランク冒険者が組んで狩る相手だ」


ソーマは一瞬、言葉を失った。


こちらは。


Cランクになったばかりのレオン。


Dランクのリナ。


Eランクになったばかりの自分。


明らかに。


予定外だ。


「逃げる?」


ソーマが聞いた。


レオンが周囲を見る。


ダークウルフはまだ動かない。


だが。


赤い目は3人を捉えている。


「走って逃げたら追いつかれる」


最悪の回答だった。


「じゃあ?」


レオンが剣を構える。


「やるしかない」


◇


ダークウルフが動いた。


速い。


ホーンラビットとは違う。


小さくて速いのではない。


巨大な身体そのものが、一気に距離を潰してくる。


「来る!」


《警戒》が反応する。


正面。


レオンへ。


「レオン!」


「わかってる!」


レオンが剣を出す。


牙と剣がぶつかる。


金属音。


レオンの身体が後ろへ滑った。


「っ……重い!」


ダークウルフが前脚を振る。


レオンが避ける。


地面が抉れた。


「リナ!」


「まだ!」


リナはすでに詠唱を始めていた。


短い火球ではない。


朝、訓練場で見せてもらった。


長い詠唱。


大きな魔法。


「ソーマ!」


レオンが叫ぶ。


「朝のやつ!」


一瞬。


意味がわからなかった。


すぐに気づく。


連携。


レオンが前。


リナが詠唱。


そして。


抜けた敵を。


自分が止める。


「いや、あれ止めるの!?」


「1秒でいい!」


無茶だ。


普通に無茶だ。


ダークウルフがレオンへ噛みつく。


レオンが剣で受け流す。


闘気。


剣の周囲に薄い揺らぎ。


斬る。


ダークウルフの肩へ傷が入る。


だが浅い。


「硬っ……!」


その一撃でも、致命傷にはほど遠い。


ダークウルフが低く唸り、身体を沈める。


次。


リナ。


そう思った瞬間。


レオンが横へ踏み込んだ。


「行かせるか!」


剣で進路を塞ぐ。


ダークウルフが前脚を振り上げた。


普通なら。


避ける。


だが。


レオンの後ろには詠唱中のリナがいる。


ここで下がれば。


抜かれる。


「レオン、避けろ!」


ソーマが叫ぶ。


レオンは半歩しか下がらなかった。


巨大な爪。


剣で受ける。


だが。


完全には流せない。


爪が肩から脇腹へ走った。


「っ――!」


血が飛んだ。


レオンの身体が地面へ転がる。


「レオン!」


ソーマの頭が真っ白になりかける。


革鎧が大きく裂けている。


その下。


肩から脇腹。


深い傷。


血が止まらない。


「大丈夫だ!」


レオンが無理やり身体を起こそうとする。


「全然大丈夫じゃない!」


リナの声。


詠唱を止めそうになる。


「続けろ!」


レオンが怒鳴る。


「止めたら全部無駄になる!」


リナが歯を食いしばった。


詠唱を続ける。


ダークウルフの赤い目が。


リナへ向く。


「……まずい」


レオンはすぐには立てない。


今。


前にいるのは。


自分だけ。


ダークウルフが地面を蹴った。


ぞわり。


《警戒》が反応する。


――いや。


違う。


ソーマは一瞬、息を呑んだ。


今までなら。


危険。


右。


左。


正面。


それだけだった。


だが。


今回は。


目の前の攻撃が。


妙に違って感じる。


前脚。


強い。


受ければ怪我をする。


牙。


もっと強い。


深手。


正面から首元を狙う噛みつき。


全身が凍るような警告。


――これは絶対に受けるな。


「……何だ、これ」


《仕分け》。


その感覚に似ていた。


薬草を分ける。


素材を分ける。


痕跡を分ける。


今は。


《警戒》が拾った危険を、強さごとに仕分けている。


その瞬間。


頭の中に。


新しい感覚が浮かんだ。


《危機察知 Lv1》


「今!?」


叫びたくなる。


そんな場合ではない。


ダークウルフの前脚が来る。


危険。


だが。


致命的ではない。


その後ろ。


牙。


危険度がまるで違う。


「……わかる」


ソーマは《軽歩》を使った。


牙の軌道だけは完全に外す。


だが。


前脚からは。


完全には逃げない。


「ソーマ!」


リナの声。


爪がソーマの腕をかすめた。


服が裂ける。


血が滲む。


「っ……!」


痛い。


だが。


立っている。


「これなら……耐えられる」


今までなら。


攻撃は全部避けるものだと思っていた。


でも。


今は。


絶対に避けなければならない攻撃。


多少傷を負っても、位置を守れる攻撃。


違いがわかる。


ダークウルフが再びリナへ進もうとする。


ソーマは前へ入る。


短剣を構える。


「こっちだ!」


倒す必要はない。


壁になれればいい。


数秒。


リナの詠唱が終わるまで。


爪。


危険度は中。


半歩ずらし、浅く受ける。


「っ!」


肩に痛み。


でも。


まだ動ける。


次。


牙。


全身へ強烈な警告。


絶対に駄目。


《軽歩》。


横へ。


牙が空を噛む。


「……これ、使える」


ただ。


万能ではない。


どの攻撃が危険かわかっても。


身体が追いつかなければ意味はない。


そして。


多少なら受けられる。


そう判断しても。


痛いものは痛い。


それでも。


ソーマは下がらなかった。


仲間のために。


初めて。


少しだけ壁役になれている。


「ソーマ!」


後ろからレオンの声。


振り返る余裕はない。


「右へ下がれ!」


言われた瞬間。


ソーマは《軽歩》で横へ跳んだ。


その場所へ。


レオンが入る。


血を流している。


それでも。


立っている。


「無茶すんな!」


「まだ動ける!」


レオンが闘気を剣へ乗せる。


薄い。


朝見た時より揺らいでいる。


傷のせいだ。


それでも。


斬る。


ダークウルフの横腹。


今度は少し深い。


「グァァッ!」


巨体が暴れる。


レオンの身体が再び吹き飛ばされた。


「レオン!」


「大丈夫!」


どう見ても大丈夫ではない。


だが。


あと少し。


リナの詠唱が続いている。


ダークウルフがまた彼女を見る。


「またかよ……!」


ソーマが前へ出る。


今度は。


《危機察知》。


相手を見る。


肩。


前脚。


重心。


レオンに教わった通り。


スキルだけに頼らない。


ダークウルフが沈む。


来る。


その直後。


危機察知。


致命的。


噛みつき。


ソーマは先に《軽歩》を使う。


巨体が横を通る。


避ける。


大きな身体。


一度抜ければ、すぐには方向を変えられない。


「レオン!」


「わかってる!」


レオンが反対側から剣を入れる。


ダークウルフがそちらへ向く。


その瞬間。


ソーマは地面の石を掴んだ。


投げる。


「こっち!」


石が耳の横へ当たる。


ダークウルフが再びソーマを見る。


一瞬。


それだけでいい。


「ソーマ、伏せて!」


リナ。


詠唱が終わった。


ソーマは反射的に地面へ身体を投げた。


背後。


熱。


振り返る。


リナの前。


人の身体ほどもある巨大な火球。


「《大火球》!」


炎が飛ぶ。


ダークウルフが避けようとする。


だが。


レオンが立った。


「もう無茶すんな!」


ソーマの声も聞かず。


血まみれの身体で、魔物の進路へ入る。


「こっちだ!」


剣。


浅い。


でも。


ダークウルフが一瞬、そちらへ意識を向けた。


その一瞬で十分だった。


巨大な火球が直撃する。


轟音。


爆風。


炎。


「うわっ!」


ソーマは腕で顔を覆った。


地面まで揺れたように感じる。


しばらく。


何も見えない。


やがて炎が弱まる。


黒く焼けた地面。


その中心。


ダークウルフは。


まだ立っていた。


「……嘘だろ」


全身が焼けている。


片脚もまともに動いていない。


それでも。


生きている。


「グ……ルル……」


最後の力。


ダークウルフがレオンへ飛び込む。


《危機察知》。


今までで一番強い警告。


だが。


同時に。


さっきまでとは違う。


動きが遅い。


リナの魔法が効いている。


「右!」


ソーマが叫ぶ。


レオンが身体をずらす。


巨体が前へ流れる。


焼けて毛のなくなった首筋。


そこだけ。


守りが薄い。


「そこ!」


レオンが踏み込んだ。


最後の闘気。


薄い揺らぎ。


一閃。


剣が首へ深く入る。


ダークウルフの身体が大きく揺れた。


そして。


地面へ崩れ落ちた。


重い音。


静寂。


◇


「……勝った?」


ソーマが呟く。


返事はない。


振り返る。


レオンが膝をついていた。


「レオン!」


ソーマとリナが駆け寄る。


肩から脇腹まで。


革鎧が赤く染まっている。


傷口からまだ血が流れていた。


「これ……まずいだろ」


「大丈夫だって」


「どこがよ!」


リナが怒鳴った。


いつもの鋭い声とは違う。


完全に焦っている。


ソーマもどうすればいいかわからなかった。


治療院まで戻る。


だが街までは距離がある。


応急処置。


布。


圧迫。


そのくらいしか思いつかない。


「とりあえず傷押さえて――」


その時だった。


遠くから。


枝を踏む音。


誰かが走ってくる。


ソーマが反射的に短剣へ手を伸ばす。


《危機察知》。


反応はない。


少なくとも。


危険ではない。


数秒後。


木々の間から人影が飛び出した。


「何、この音……!」


女性。


銀色の重装備。


淡い金色の長い髪。


森の入口で一度すれ違った。


エステルだった。


「……あ」


エステルは倒れたダークウルフを見る。


そして。


血を流しているレオン。


表情が変わった。


「その傷!」


すぐに駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか?」


「まあ……死にはしないと思う」


レオンが苦笑する。


「喋らないで」


エステルは即座に膝をついた。


手早くレオンの革鎧を少しずらす。


傷を見る。


一瞬だけ眉を寄せた。


そして。


両手を傷口へかざした。


「え?」


淡い光。


白い。


リナの炎とはまるで違う。


柔らかい光が、エステルの手から広がっていく。


「……魔法?」


ソーマが呟く。


レオンの傷口を光が包む。


流れていた血が。


少しずつ止まる。


裂けた皮膚も。


完全ではないが、目に見えて閉じていく。


ソーマは目を見開いた。


レオンも同じだった。


「……お前、治癒魔法使えるのか?」


エステルの手が一瞬止まった。


「……少しだけです」


「少しってレベルじゃないだろ」


リナも驚いていた。


魔術師であるリナが驚く。


それだけで。


この魔法が普通ではないことがわかる。


エステルは少し気まずそうに視線を逸らした。


「本当に、少しだけです」


「かなり傷閉じてるぞ」


「応急処置です」


エステルが少し強い口調で言う。


「完全には治してません。街へ戻ったら必ず治療院へ行ってください」


どうやら。


この話を広げてほしくないらしい。


ソーマは朝に見た彼女の姿を思い出す。


重い鎧。


剣。


盾。


どう見ても。


前衛の騎士。


なのに。


使ったのは治癒魔法。


「……騎士じゃないの?」


思わず聞いてしまった。


エステルがソーマを見る。


朝。


一瞬だけ目が合った相手だと気づいたらしい。


「騎士です」


即答。


そのあと、少しだけ言い直す。


「……まだ騎士ではありません。でも、騎士になるつもりです」


「でも治癒魔法――」


「使えるだけです」


被せるように言われた。


少しだけ強い声。


それ以上聞かない方がよさそうだった。


リナも察したらしい。


「助かったわ。ありがとう」


エステルの表情が少し緩む。


「……いえ」


もう一度レオンの傷を見る。


「これなら歩けると思います。でも無理はしないでください」


「十分助かった」


レオンが笑った。


「ありがとう。俺、レオン」


「……エステルです」


ソーマの中で。


以前レオンから聞いた名前と繋がった。


「やっぱりエステルか」


「やっぱり?」


「前にレオンから名前聞いた」


「私の?」


「森の入口ですれ違った時に」


「ああ……」


思い出したらしい。


「あなたがソーマ?」


今度はソーマが驚く。


「なんで俺の名前知ってるの?」


エステルが少し迷う。


「……レオンさんから少し」


ソーマがレオンを見る。


レオンは傷を押さえながら笑っていた。


「有名人だな」


「絶対変なこと言っただろ」


「丸腰で森入った話くらい」


「最悪じゃん」


エステルが。


ほんの少しだけ笑った。


重装備の硬い印象が。


一瞬だけ柔らかくなった。


◇


少し休んだあと。


4人で街へ戻ることになった。


レオンは歩ける。


ただし。


完全に治ったわけではない。


傷は浅く残っている。


「治癒魔法ってすごいな」


帰り道。


ソーマが小さく呟く。


リナが答える。


「使える人、かなり少ないわよ」


「火魔法より?」


「治癒系は別格で珍しい」


ソーマは少し前を歩くエステルを見る。


重い鎧。


剣。


盾。


そして。


治癒魔法。


「……なんで隠してるんだろ」


小さく呟く。


リナがソーマを見る。


「聞かない方がいいんじゃない?」


「やっぱそう思う?」


「本人が言いたくなさそうだったでしょ」


それもそうだ。


エステルは少し前。


レオンの隣を歩いている。


傷の状態を気にしているらしい。


「無茶しないでください」


「もうしないって」


「さっきも無茶してました」


「見てたの?」


「最後だけです。大きな音がしたので」


どうやら。


リナの巨大火球の轟音を聞き、何事かと走ってきたらしい。


その結果。


レオンが助かった。


「……運いいな、俺たち」


ソーマが呟く。


レオンが振り返る。


「何が?」


「いや。何でもない」


もしエステルが来なかったら。


レオンはもっと危なかったかもしれない。


勝った。


確かに。


でも。


かなりギリギリだった。


ソーマは自分の腕を見る。


爪で裂けた服。


浅い傷。


そして。


新しく生まれたスキル。


《危機察知 Lv1》


《警戒》で危険を感じ。


《仕分け》で、その危険の強さを分ける。


致命傷になる攻撃。


深手。


多少なら耐えられる攻撃。


それが少しだけわかる。


あの瞬間。


自分は。


リナの前で。


完全な壁にはなれなかった。


それでも。


数秒。


立っていられた。


「……俺、ちょっと壁役できてたよな」


小さく呟く。


レオンが聞きつけた。


「できてたぞ」


「ほんと?」


「ああ」


少しだけ笑う。


「かなり助かった」


リナも振り返る。


「私も。あの数秒なかったら詠唱間に合ってなかった」


その言葉が。


妙に嬉しかった。


荷物を持ったからではない。


素材を仕分けたからでもない。


戦闘の中で。


役に立った。


「でも」


レオンが続ける。


「もう今日は帰るぞ」


「異議なし」


ソーマは即答した。


さすがに。


もう1件仕事をしようとは思わなかった。


◇


帰る前。


レオンがダークウルフの死体を確認する。


「これ全部持って帰るのは無理だな」


「さすがに?」


ソーマが聞く。


「さすがに」


《重量軽減》があっても。


巨大な狼型魔物。


ホーンラビットとは比べものにならない。


討伐証明になる牙。


価値のありそうな爪。


それから一部の毛皮。


持てる範囲だけ回収する。


その時。


ソーマは地面を見る。


巨大な足跡。


血。


折れた草。


ダークウルフが通ってきた痕跡。


《追跡》がわずかに反応した。


この魔物も。


どこかからここへ来た。


本来。


街道周辺にいるような魔物ではない。


「レオン」


「ん?」


「こいつ、なんでこんなところにいたんだ?」


レオンの顔が少し曇った。


「それは俺も気になってる」


リナも森の奥を見る。


「Cランク帯の魔物が、こんな街道の近くまで来るのは普通じゃないわ」


今回の依頼は。


小型魔物の調査。


だったはずだ。


それなのに。


現れたのは。


Cランク中位。


複数のCランク冒険者で討伐するような魔物。


「ギルドに報告だな」


レオンが言った。


さっきまで。


勝ったことへの安心しかなかった。


今は。


別の違和感が残る。


なぜ。


ダークウルフが。


こんな場所まで来ていたのか。


4人は少しだけ森の奥を警戒しながら。


街へ戻ることにした。

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