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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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24/52

Fランク卒業試験

森から戻った3人は、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


ソーマの背中には、今日仕留めた4匹のホーンラビット。


《運搬》と《重量軽減》のおかげで何とか持てているものの、さすがにそれなりの重量だった。


「ようやく着いた……」


ギルドへ入るなり、ソーマは背負っていた荷物をゆっくり下ろす。


受付にいたエレナが、4匹のホーンラビットを見て少し目を丸くした。


「4匹ですか?」


「依頼は3匹だったんですけど、最後にもう1匹だけ」


「もう1匹だけ、ね」


横でリナが笑う。


「何?」


「何でもない」


絶対何かある顔だった。


エレナは依頼書を確認すると、解体担当の職員を呼んだ。


「では、状態を確認しますね。依頼条件は3匹以上なので、すでに達成です。4匹目も状態に問題がなければ買い取り対象になります」


「お願いします」


4匹を奥へ運んでもらう。


待っている間、ソーマは少し落ち着かなかった。


今回は、ただレオンたちについて行ったわけではない。


最初の1匹こそ逃げられたものの、その後は自分で追い、仕留めた。


4匹目に至っては、《仕分け》で痕跡を選びながら追い、見つけるところから自分でやった。


だからこそ。


いくらになるのか、少し楽しみだった。


しばらくして、担当の職員が戻ってくる。


「4匹とも状態は良好です。角の欠けも少なく、毛皮にも大きな損傷はありません」


「おお」


思わず声が出た。


「特にこちらの2匹は、肉への傷も少ないですね」


ソーマは少し嬉しくなる。


《仕分け》で状態を確認した感覚は間違っていなかったらしい。


エレナが査定表へ目を落とした。


「ホーンラビットは1匹につき銅貨50枚です」


「50枚?」


ソーマが聞き返す。


「はい。今回は4匹ですので、合計で銅貨200枚になります」


「200枚……」


思っていたより高い。


もちろん、捕まえるのは大変だった。


最初の1匹には普通に逃げられたし、追い詰めれば角で反撃もしてくる。


それでも、ゴブリンのように最初から殺しに来る魔物ではない。


狩り方さえ覚えれば、危険度の割にはかなり悪くない報酬に思えた。


その時、ソーマはふと思い出した。


「あ、肉って少しもらえます?」


「持ち帰りですか?」


「はい。せっかく自分で狩ったんで、食べてみたくて」


エレナが小さく笑う。


「もちろん構いません。1匹分の肉を持ち帰る場合は、その分を買い取り額から差し引きます」


「いくらですか?」


「銅貨35枚分ですね」


エレナが計算する。


「ですので、最終的な受取額は銅貨165枚になります」


「165枚……」


レオンが革袋を受け取り、中身を確認する。


「3人で割れば55枚ずつだな」


「今回はちゃんと分けるの?」


ソーマが聞く。


「今日は普通にパーティで狩りしてるだろ」


レオンが答える。


「追い込みもしてるし、痕跡も教えたしな」


リナも頷く。


「私も一応周囲見てたしね」


「じゃあ55枚ずつか」


ソーマは自分の取り分を受け取る。


銅貨55枚。


宿代は30枚。


払っても25枚残る。


「……これ、結構割よくない?」


「何が?」


リナが聞く。


「ホーンラビット。危険少ない割にちゃんと稼げるじゃん」


レオンが笑う。


「捕まえるのが難しいからEランクなんだよ」


「でも俺、《軽歩》と《仕分け》あるし」


ソーマは少し真剣に考える。


痕跡を《仕分け》で見分ける。


《軽歩》で追う。


《警戒》で反撃を避ける。


仕留めたあとは《運搬》と《重量軽減》で持ち帰る。


今の自分のスキルと、妙に噛み合っている。


「……冒険者やめて狩人やろうかな」


一瞬。


レオンが吹き出した。


「早すぎるだろ!」


リナも笑う。


「冒険者のまま狩猟依頼を受ければいいでしょ」


「……確かに」


「今気づいたの?」


ソーマは銅貨55枚を革袋へしまった。


「やっぱ狩り、ありだな」


「単純ね」


「生活かかってるんで」


◇


肉を受け取り、ギルドを出ようとしたところで。


レオンがふと立ち止まった。


「そういやソーマ」


「何?」


「お前、何か忘れてないか?」


「何を?」


「俺たちのこと」


ソーマはレオンを見る。


その隣にはリナ。


2人とも、なぜかこちらを見ている。


「……何?」


「俺、Cランク」


レオンが自分を指差す。


続いてリナも言った。


「私はDランク」


「ああ」


ソーマは頷く。


「知ってる」


「反応薄くない?」


「前におめでとうって言ったじゃん」


「それは結果見た時でしょ」


リナが言う。


レオンは持っていた肉の包みを見る。


それから少し笑った。


「ちょうどいい。これ焼くか」


「今?」


「昇級祝い」


「また祝うの?」


「昇級なんて毎週するもんじゃないだろ」


「まあ、それはそうか」


結局。


その日の夕方。


3人は街外れにある、冒険者たちが簡単な野外調理に使っている場所へ向かった。


石で囲まれた火床に薪を入れ、火を起こす。


その上に鉄網を置き、薄く切ったホーンラビットの肉を並べる。


じゅう、と脂が落ちる音。


香草と塩を振ると、香ばしい匂いが広がった。


「……これ、普通にうまそうだな」


ソーマが肉を裏返す。


「自分で狩った補正入ってない?」


リナが言う。


「入っててもいいだろ」


「私は食べられれば何でもいいけど」


「それ、焼いてる側が一番傷つくやつだぞ」


レオンが笑いながら酒を注いだ。


「ほら。今日はちゃんと祝い直すぞ」


ソーマも杯を受け取る。


「じゃあ改めて」


少しだけ笑う。


「レオン、Cランク。リナ、Dランク。昇級おめでとう」


「おう」


「ありがと」


3人の杯が軽くぶつかった。


少し前なら。


自分はFランク。


レオンはD。


リナはE。


それが今は。


レオンがC。


リナがD。


少しずつ、2人が先へ進んでいる。


「なんか、どんどん離されてるな」


ソーマが言うと、レオンがニヤッと笑った。


「そうでもないぞ」


「何が?」


「お前にも来てるから」


「何が?」


今度はリナまで笑い始めた。


嫌な予感がする。


「何、その顔」


「いやあ」


レオンが肉を一口食べる。


「いつ言おうかなと思って」


「だから何を?」


「昇級査定」


ソーマの手が止まった。


「……誰の?」


「お前の」


数秒。


ソーマは黙った。


「俺?」


「他に誰がいるのよ」


リナが笑う。


「早くない?」


思わず聞き返す。


冒険者になってから。


まだそんなに時間は経っていない。


自分では、まだ完全に新人のつもりだった。


「俺、Fランクになったばっかだろ」


「普通のFランクならな」


レオンが答える。


「でも、お前短期間で依頼こなしすぎ」


「そんなに?」


「そんなに」


リナが指を折って数える。


「薬草、街の荷運び、倉庫、引越し、森のパーティ依頼、廃村調査、ゴブリン、それに今日のホーンラビット」


「……並べられると結構やってるな」


「こんな短期間でそこまで依頼こなすFランク、ほとんどいないわよ」


「働きすぎってこと?」


「それは前から言ってる」


レオンが笑う。


日本でも働いて。


異世界でも働いて。


その結果。


昇級査定が来た。


なんとも自分らしい。


「じゃあ、受かったらEランク?」


「ああ」


「査定って何すんの?」


何気なく聞いた。


その瞬間。


レオンとリナが顔を見合わせた。


そして。


2人とも笑った。


「……何?」


「いや」


レオンが口元を押さえる。


「ちょうどいいなと思って」


「何が?」


リナが楽しそうに言う。


「ソーマ、最初にこの森で何と会ったっけ?」


嫌な記憶が浮かぶ。


「……ゴブリン」


「何匹?」


「3匹」


レオンが笑顔になる。


「それ」


「は?」


「FからEの査定。森でゴブリン3匹討伐」


ソーマの顔が固まった。


「……3匹?」


「3匹」


初日の記憶が一気に戻る。


棍棒。


脇腹。


息ができなくなった痛み。


「パーティで?」


2人がさらに笑う。


ソーマの背中に冷たいものが流れた。


「……なんで笑ってんの?」


レオンが答える。


「1人だから」


「は?」


「単独討伐」


しばらく何も言えなかった。


「いやいやいや」


「何よ」


「俺、ゴブリンまだ1匹も最後まで1人で倒してないんだけど」


「ホーンラビットは4匹やったじゃない」


「逃げるウサギと武器持って殴りに来るゴブリン一緒にすんなよ!」


レオンが笑う。


「大丈夫だって。前とは違うだろ」


「簡単に言うな」


「短剣ある」


「ある」


「《警戒 Lv2》ある」


「ある」


「《軽歩》ある」


「あるけど!」


「じゃあいける」


「理屈雑すぎるだろ!」


リナまで笑い始めた。


ただ。


最初の時とは違う。


それはソーマ自身もわかっている。


武器もある。


レオンに教わった。


ゴブリンの攻撃を避けたこともある。


《警戒》も《軽歩》もある。


それでも。


怖いものは怖い。


「しかも1人か……」


ソーマは目の前の杯を見る。


レオンが少し笑いながら言った。


「怖い?」


「普通に怖い」


「それでいい」


少し前にも聞いた言葉だった。


「怖くなくなった方が危ない」


「そういう良い話でまとめようとしてるけど、俺1人でゴブリン3匹だからな」


「まだ明日って決まったわけじゃないでしょ」


リナが言う。


「エレナに確認してからよ」


「……そうだった」


ほんの少しだけ安心する。


ソーマは杯を持ち上げた。


「とりあえず飲む」


「急に?」


「考えたら緊張してきた」


そのまま。


一気に飲み干す。


「ちょっと!」


リナが驚く。


レオンまで笑いながら止める。


「そんな飲み方するなって」


「大丈夫」


「全然大丈夫に見えないけど」


喉が熱い。


でも。


少しだけ緊張が和らいだ。


気がする。


「ゴブリン3匹……」


もう一度呟く。


今度は。


初日の恐怖だけではなく。


自分が短剣を構えた感覚も一緒に浮かんだ。


以前とは違う。


たぶん。


その言葉を信じるしかない。


◇


食事を終えたあと。


3人は街へ戻った。


途中でレオンとリナと別れ、ソーマは1人で銀鹿亭へ向かう。


酒が少し回っている。


それでも。


頭の中には、ずっと同じ言葉があった。


ゴブリン3匹。


単独。


「……初日に戻ったみたいだな」


違うのは。


今度は逃げるために森へ入るのではないこと。


自分から。


3匹を倒しに行く。


ソーマは腰の短剣へ触れた。


ガルドにもらったナイフもある。


《警戒 Lv2》。


《軽歩 Lv1》。


レオンに教わった構え。


間合い。


以前とは違う。


そう考えるたびに少し安心して。


その直後に、棍棒で殴られた記憶が戻ってくる。


「……寝よう」


今日はもう考えない。


銀鹿亭へ戻ると、マルタに宿代を払い、そのまま部屋へ向かった。


明日。


受付で聞く。


査定を受けられるなら。


受ける。


そう決めて。


ソーマはベッドへ倒れ込んだ。


◇


翌朝。


いつもより少し早く目が覚めた。


昨日の酒は残っていない。


だが。


緊張はしっかり残っていた。


銀鹿亭で簡単な朝食を済ませ、装備を確認する。


短剣。


ガルドからもらったナイフ。


革袋。


水。


簡単な食料。


いつもより何度も確認してしまう。


「……行くか」


冒険者ギルドへ向かった。


朝のギルドは、すでに多くの冒険者で賑わっていた。


今日は依頼板へ行かない。


そのまま受付へ向かう。


エレナがこちらに気づいた。


「おはようございます、ソーマさん」


「おはようございます」


少し声が硬い。


エレナが首を傾げる。


「どうしました?」


「その……」


ソーマは一度息を吸う。


「俺、昇級査定の対象になってるって聞いたんですけど」


「ああ。その件ですね」


やっぱり。


本当にある。


エレナは書類を取り出す。


「はい。依頼達成数、同行実績、ギルドからの評価。すべて規定を満たしています」


「やっぱり早くないですか?」


「早いですよ」


即答だった。


「ですよね?」


「ですが、短期間でこれだけ依頼をこなすFランクも珍しいので」


昨日と同じことを言われた。


どうやら本当に働きすぎらしい。


エレナが1枚の依頼書をこちらへ向ける。


「FランクからEランクへの昇級査定はこちらです」


ソーマは恐る恐る紙を見る。


【F→Eランク昇級査定】


討伐対象:ゴブリン3体


場所:北側森林区域


条件:単独討伐


同行支援:不可


「……ほんとに3匹」


「はい」


「1人で」


「はい」


「遠くからレオンに見てもらうとか」


「不可です」


「リナも?」


「不可です」


「エレナさんは?」


「私は受付です」


ごもっともだった。


エレナが少し表情を和らげる。


「もちろん、今日受ける必要はありませんよ」


「え?」


「準備不足だと思うなら延期できます。昇級査定は急ぐものではありません」


その言葉に。


少しだけ心が揺れた。


延期。


できる。


もっと練習してからでもいい。


でも。


いつかはやる。


そして。


前の自分ではないことを、自分でも確かめてみたい。


ソーマは依頼書を見たまま少し考える。


「……今日やります」


エレナの表情が真面目になる。


「本当に?」


「はい」


少し声は震えた。


でも。


答えは変えなかった。


「わかりました」


エレナが正式に査定を受理する。


「無理だと思ったら撤退してください。査定失敗より、生きて戻る方が大切です」


「はい」


その言葉は少しありがたかった。


ソーマは依頼書を受け取る。


ギルドを出る。


朝の空気が、いつもより冷たく感じた。


向かう先は。


最初にゴブリン3匹と遭遇した森。


ソーマは腰の短剣へ触れる。


《警戒 Lv2》。


《軽歩 Lv1》。


短剣。


ナイフ。


レオンから教わった構えと間合い。


前とは違う。


そう何度も自分に言い聞かせる。


「……行くか」


そして。


1人で森へ向かって歩き出した。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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