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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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23/52

痕跡とスキル

歩くこと10分。20分。


森の中を歩いても、ホーンラビットらしい姿はない。


時々鳥が飛び立つ音がする程度で、茶色い小さな身体はどこにも見えない。


「……さっきまで結構いたのにな」


ソーマが呟く。


「狩りってそんなものよ」


リナが答える。


「獲物が毎回ちょうどいい場所にいるわけじゃないし」


「見つける方が時間かかるんだな」


「むしろ普通はそっちの方が長いぞ」


レオンが言った。


「狩りが上手い奴は、獲物そのものを探す前に痕跡を見る」


「痕跡?」


「足跡とか、食べ跡とか」


そう言って、レオンが歩みを止めた。


少し先へ進み、地面へしゃがみ込む。


「ほら」


ソーマも隣へ行く。


地面には、いくつもの小さなくぼみがあった。


「足跡?」


「そう」


「これがホーンラビット?」


「これは違う」


「違うの?」


完全にそうだと思った。


レオンが別の跡を指差す。


「こっち」


似ている。


少なくともソーマには、ほとんど同じに見えた。


「違いわかんないんだけど」


「最初はそんなもんだ」


レオンが指で形をなぞる。


「こっちの方が後ろ脚の跡が大きいだろ。ホーンラビットは跳ねる時に後ろ脚を強く使うから、こういう残り方をする」


「なるほど」


次に、少し離れたところにある草を指す。


葉の先が齧られていた。


「これも?」


「ホーンラビットがよく食う草」


さらに。


折れた茎。


小さな糞。


地面についた細かな跡。


「狩る奴はこういうの見ながら探すんだよ」


ソーマは周囲を見た。


さっきまで。


全部ただの森にしか見えていなかった。


土。


草。


木。


枯れ葉。


でも、レオンの説明を聞いたあとでは少し違って見える。


一度。


基準を知った。


その瞬間。


《仕分け》が反応した。


「……あれ?」


ソーマは目を細める。


レオンが教えてくれた足跡。


その横にある別の足跡。


さらに数歩先。


似たような跡がある。


「これもホーンラビット?」


ソーマが指差す。


レオンが確認する。


「ああ」


「じゃあ、こっちは?」


少し形の違うもの。


「違う。たぶんネズミ系だな」


また別の跡。


「これは?」


「ホーンラビット」


ソーマは黙った。


「どうしたの?」


リナが聞く。


「《仕分け》が反応してる」


「足跡に?」


「うん」


今まで《仕分け》は、薬草や素材を分けるためのものだと思っていた。


良品。


傷んでいるもの。


種類の違い。


教わった基準に沿って、それらを見分ける。


でも。


考えてみれば。


足跡だって同じだ。


ホーンラビットの痕跡。


それ以外。


基準さえ知っていれば。


分けられる。


ソーマは周囲を見る。


さっきまでただの乱雑な跡だったものが、少しずつ意味を持ち始める。


「これ、新しい」


「わかるのか?」


レオンが聞く。


「正確にはわからない。でも」


ソーマは2つの足跡を見比べる。


片方は輪郭が崩れている。


もう片方はまだはっきりしていた。


「こっちの方が形が残ってる」


レオンが頷く。


「合ってる。こっちの方が新しい」


「じゃあ」


ソーマはその先を見る。


さらに同じ形の足跡。


少し離れた場所に、齧られた草。


また足跡。


「……こっち?」


「行ってみるか」


レオンが笑う。


ソーマたちは痕跡を追い始めた。


◇


今までの狩りとは、少し感覚が違った。


獲物を直接探すのではない。


残されたものを見る。


足跡。


食べた跡。


草の倒れ方。


時々。


「これは違う」


《仕分け》が反応する。


別の小動物。


古い痕跡。


ホーンラビットではないもの。


その中から。


教わった基準に合うものだけを拾っていく。


「……これ、仕分けっていうより追跡じゃない?」


ソーマが呟く。


「まだそこまではいってないだろ」


レオンが言う。


「お前、自分で痕跡見つけてるわけじゃないし」


「確かに」


《仕分け》は、何もないところから答えを教えてくれるわけではない。


痕跡そのものは、自分で見つけなければならない。


しかも。


それが何を意味するか、一度は教わる必要がある。


それでも。


見つけた後に、正しいものを選ぶのはかなり楽だった。


「でも面白いな」


「何が?」


リナが聞く。


「《仕分け》って箱とか薬草だけだと思ってた」


ソーマは地面の痕跡を見る。


「こういう情報みたいなものにも使えるんだなって」


リナも少し考える。


「確かに、分けること自体は同じね」


「使い方次第ってことか」


ソーマは少し嬉しくなった。


戦闘スキルではない。


でも。


使い方を変えれば、森の中でも役に立つ。


《運搬》が《重量軽減》と組み合わさって、《軽歩》になったように。


《仕分け》も。


使い続ければ、何か別のものにつながるのかもしれない。


そんなことを考えていた、その時だった。


ソーマが足を止める。


「いた」


少し先。


茂みの向こう。


茶色い身体が見えた。


4匹目。


ホーンラビットだ。


「本当に見つけたな」


レオンが小声で言う。


「痕跡合ってたってこと?」


「そういうことだな」


ほんの少し。


嬉しい。


今度はレオンに見つけてもらったわけではない。


教わった痕跡を《仕分け》で選びながら追って、自分で見つけた。


「じゃあ」


ソーマは腰の短剣へ手をかけた。


「ここからも自分でやる」


レオンとリナが少し後ろへ下がる。


「無理そうなら言えよ」


「わかってる」


ソーマは周囲を確認する。


正面にはホーンラビット。


右は木が密集している。


左側は少し開けている。


後方には低い茂み。


逃げるなら。


左か。


ソーマは右側から回り込む。


できるだけゆっくり。


距離を詰める。


ホーンラビットはまだ気づかない。


あと10メートル。


8メートル。


耳が動いた。


「来る」


次の瞬間。


ホーンラビットが走り出す。


予想通り。


左。


ソーマも地面を蹴った。


《軽歩》。


すっと身体が前へ出る。


1匹目を追った時とは違う。


最初から進路を読んでいる。


距離が縮まる。


ホーンラビットが木を避けて方向を変える。


ソーマもすぐに切り返す。


《軽歩》。


一歩。


また一歩。


3メートル。


2メートル。


ホーンラビットがこちらを振り返る。


その瞬間。


ぞわり。


《警戒》。


反撃。


ソーマは迷わなかった。


横へ。


角が身体の横を通り抜ける。


すでに一度経験している。


驚かない。


着地したホーンラビットが逃げようとする。


そこへ踏み込む。


短剣を抜く。


大振りしない。


狙う。


突く。


「……っ!」


手に感触が返る。


ホーンラビットが地面へ倒れた。


ソーマはすぐに短剣を引き、少し距離を取った。


数秒。


動かない。


「……よし」


大きく息を吐く。


レオンとリナが近づいてくる。


「今のは綺麗だったな」


レオンが言った。


「最初よりだいぶマシ?」


「かなり」


「逃げる方向も読めてたわね」


リナも頷く。


ソーマは倒れたホーンラビットを見る。


今回。


見つけるところから。


追う。


避ける。


仕留める。


全部自分でできた。


少しだけ。


狩りがわかってきた気がする。


◇


4匹目の血抜きを済ませ、状態を確認する。


角に欠けはない。


毛皮にも大きな傷はない。


短剣を入れた位置も、肉を大きく駄目にする場所ではなかった。


《仕分け》が反応する。


「これ、結構いい状態」


レオンが確認する。


「ああ。売るなら悪くない」


「やっぱわかるんだ」


さっきまで。


《仕分け》といえば採取物や素材。


今は。


痕跡も。


獲物の状態も。


少しずつ使える範囲が広がっている。


「これ、かなり便利かもしれない」


「今さら?」


リナが言う。


「最初は地味だと思ってたんだよ」


「今でも地味ではあるけど」


「一言多いな」


3人で笑う。


4匹分の荷物をまとめる。


《運搬》。


《重量軽減》。


かなりの重量になったが、まだ歩ける。


ソーマは荷物を背負った。


「帰るか」


レオンが言う。


今度はソーマも素直に頷いた。


「帰ろう」


「もう1匹は?」


リナがわざと聞く。


ソーマは少し考えるふりをする。


追加報酬。


練習。


肉。


悪くない。


だが。


「今日はもういい」


「珍しい」


「依頼達成してるし、これ以上欲張って怪我した方が損だろ」


レオンが少し笑った。


「ちゃんと学んでるな」


「そりゃ何回も死にかけたくないからな」


最初に森へ入った頃とは違う。


金が欲しい。


経験も欲しい。


スキルも試したい。


それでも。


帰る判断も必要だ。


3人は森を出る方向へ歩き始めた。


ソーマは背負った獲物の重みを感じながら、ふと地面を見る。


足跡。


折れた草。


食べ跡。


さっきまでなら気にも留めなかったもの。


今では。


少しだけ意味がわかる。


「《仕分け》か……」


小さく呟く。


もしかすると。


このスキルは、自分が思っているよりずっと色々なものを分けられるのかもしれない。


その答えは。


まだわからない。


でも。


もう少し試してみたいと思った。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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