↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/59

俺だけ働いてない?

ギルドを出たあと、3人はそのまま近くの食堂へ向かった。


今日はソーマにも少し余裕がある。


薬草採取とゴブリン討伐の報酬を受け取り、宿代を払っても食事代は十分残る。


いつものように硬いパンと薄いスープだけで済ませる必要はない。


「今日は肉にする」


店へ入るなりソーマが言うと、リナが笑った。


「ずいぶん嬉しそうね」


「そりゃそうだろ。やっと普通に食えるんだから」


「この前も肉食べてなかった?」


「奢りだっただろ」


「ああ」


レオンが思い出したように笑う。


「飲み代のために朝5時から働いたのに、結局俺が払ったやつな」


「それ言うなよ」


今思い出しても少し虚しい。


朝5時から宿の配膳を手伝い、そのあと商会で荷物を運び、必死に銅貨を稼いだ。


全部その夜の飲み代のためだった。


結局、1枚も使わなかった。


3人は空いているテーブルへ座った。


ソーマは肉の煮込みとパンを注文する。


レオンはそれに加えて酒。


リナは肉料理と果実水。


料理が届くまでの間、3人は今日の戦闘の話をしていた。


「でも、初めてにしては悪くなかったぞ」


レオンが言う。


「それ褒めてる?」


「褒めてる」


「最後はレオンが倒したけどな」


「最初から全部やれとは言ってないだろ」


リナも頷く。


「むしろ最初から普通に殺せたら、ちょっと怖いわよ」


「それ前も言ってたな」


「だって本当にそう思うもの」


ソーマはテーブルに置かれた水を一口飲んだ。


手にはまだ、ゴブリンを短剣で刺した時の感触が少し残っている気がする。


慣れたいかと言われると、微妙だ。


でも。


この世界で冒険者を続けるなら、いつかは慣れなければならないのだろう。


そんなことを考えていると、料理が運ばれてきた。


湯気の立つ肉の煮込み。


思っていたより大きな肉が入っている。


ソーマは少し嬉しくなった。


「いただきます」


ひと口食べる。


柔らかい。


味も濃い。


「うま……」


「そんなに?」


リナが聞く。


「最近、パンとスープばっかだったから」


「食生活ひどいな」


レオンが笑う。


「金がないんだよ」


「ずっと働いてるのに?」


「働いた分、宿と飯と武器で消える」


自分で言っていて悲しくなってくる。


少しして。


レオンが何気ない調子で言った。


「そういやソーマ」


「ん?」


「お前、依頼か仕事の話ばっかしてるけど」


肉を食べながら顔を上げる。


「うん」


「女の子と遊んだりしないの?」


一瞬。


ソーマの手が止まった。


「……何で急に?」


「いや、ふと思って」


「依頼の話から急に飛びすぎだろ」


レオンは酒を一口飲む。


「同年代だろ? デートとかしないのかなって」


「デート……」


言葉にすると妙に遠いものに感じる。


日本では大学へ行って。


空いた時間に単発バイト。


週末は異世界。


異世界へ来ても依頼。


最近の予定を思い返してみる。


大学。


清掃。


警備。


引越し。


宿の配膳。


荷物運び。


薬草。


ゴブリン。


「……してないな」


「即答ね」


リナが言う。


「する時間ないし」


「時間は作るものだぞ」


レオンが得意げに言う。


ソーマはじっとレオンを見る。


明るい。


背も高い。


剣も強い。


まだ20歳くらいなのにCランク。


訓練場では、他の冒険者から憧れられていた。


普通に考えて。


かなりモテそうだ。


「レオンはするの?」


「何を?」


「デート」


「まあ、誘われることはある」


さらっと答えた。


「やっぱり」


「何だよ、その反応」


「いや、モテそうだなと思って」


実際、ギルドでもレオンを見ている女性冒険者は何人かいた気がする。


本人が気にしていないだけだろう。


ソーマは次にリナを見る。


「何よ」


「いや」


口は悪い。


結構すぐ怒る。


でも。


改めて見ると、普通に顔立ちは整っている。


赤みのある栗色の髪。


淡い緑色の瞳。


小柄だが、冒険者らしく姿勢もいい。


しかも希少な魔術師。


「リナも普通にモテそうだな」


「は?」


「痛っ!」


リナがテーブルの下からソーマの足を蹴った。


「何すんだよ!」


「急に何言ってるのよ」


「褒めただけだろ!」


「言い方が気持ち悪い」


「今日キモいって何回言われるんだ俺」


レオンが笑っている。


「でも、リナも誘われてるだろ」


「レオン!」


「事実じゃん」


「余計なこと言わなくていいの!」


リナが少しだけ顔を赤くする。


ソーマは2人を見比べた。


レオンは明るくて強くて、周囲から一目置かれている。


リナも口は悪いけど見た目はいいし、実戦で魔法まで使える。


一方。


自分は。


「……俺だけ働いてない?」


「は?」


リナが聞き返す。


ソーマは指を折る。


「大学行って、バイトして、こっち来て依頼やって、また帰ってバイトして……」


一度止まる。


「俺、ずっと働いてるな」


レオンが吹き出した。


「今さら気づいたのかよ」


「いや、薄々気づいてたけど」


改めて考えるとひどい。


日本では学費と生活費のために働く。


異世界では宿代と飯代のために働く。


やっと金が貯まったと思えば短剣を買って、また金が減る。


「俺もデートとかした方がいいのかな……」


「したいならすれば?」


リナが言う。


「そんな求人みたいに言うなよ」


「誰も募集してないでしょ」


「余計悲しくなるからやめろ」


レオンが完全に笑っている。


ソーマは肉を食べながら、少しだけ落ち込んだ。


せっかく異世界に来たのに。


やっていることは、日本にいる時とそれほど変わらない。


働く。


食べる。


寝る。


また働く。


「……異世界ってもっとこう、華やかなものじゃなかったっけ」


「何言ってるかわからないけど、冒険者なんてこんなもんだぞ」


レオンが言う。


夢がない。


ソーマは残った肉を口へ運んだ。


せめて今日の飯がうまいことだけが救いだった。


◇


食事を終える頃には、外も少しずつ暗くなり始めていた。


店を出ると、レオンが大きく伸びをする。


「明日はどうする?」


ソーマが聞いた。


「俺?」


「今日の依頼は終わったし。次何かやるなら」


レオンとリナが顔を見合わせた。


「じゃあ、狩り行く?」


リナが言う。


「狩り?」


ソーマは首を傾げる。


「魔物?」


「魔物もいるけど、食用になる獣とかね」


レオンが続ける。


「ちょうどいいEランク依頼があったはずだ」


「俺Fだけど」


「またそれ言うのか」


「ランク大事だろ」


「今回も俺たちと一緒なら問題ない」


特例同行。


前にも使った制度だ。


ただ。


「なんで急に狩り?」


ソーマが聞く。


レオンが少し笑う。


「お前の新しい動き、試せそうだから」


「《軽歩》?」


「ああ」


レオンが言う。


「ゴブリンみたいに向こうから襲ってくる相手なら、待ってりゃ近づいてくるだろ?」


「まあ」


「でも狩りは逆だ」


「逆?」


「獲物が逃げる」


なるほど。


レオンは続ける。


「森にいるホーンラビット覚えてるか?」


ソーマはすぐに思い出した。


以前。


《警戒》で存在に気づいたものの、こちらを見るなり逃げていった角の生えた兎型の魔物。


「あの逃げるやつ?」


「そう」


「戦ったことないな」


「普通はあっちから戦いに来ないからな」


リナが言う。


「でも食用としては人気あるのよ。肉も取れるし、角も素材になる」


「じゃあ簡単そうじゃない?」


襲ってこない。


小さい。


見た目は兎。


ゴブリンよりずっと楽に思える。


しかし。


レオンが首を横に振った。


「だからEランクなんだよ」


「え?」


「ゴブリンより速い」


「……あ」


「しかも小さい。森の中で本気で逃げる獲物を追いかけて、仕留めるのは結構難しいぞ」


言われてみればそうだ。


ゴブリンなら、基本的にこちらへ向かってくる。


攻撃を避けて、間合いへ入ればいい。


でも。


逃げる相手は、自分から追わなければならない。


しかもホーンラビットは小さい。


「弓とか使わないの?」


「使える奴は使う」


レオンが答える。


「でもお前は弓使えないだろ?」


「使えない」


「だから短剣で近づく」


「結構難しくない?」


「だから練習になるんだよ」


嫌な予感がしてきた。


レオンは楽しそうに続ける。


「《警戒》で位置を掴める。《軽歩》で距離を詰める。《仕分け》があれば素材の状態も見分けられる」


「全部試せるじゃん」


「そういうこと」


ソーマは少し考える。


確かに。


今の自分のスキル構成には合っている。


しかも。


「肉も食える?」


一番気になるところを聞く。


リナが呆れたような顔をした。


「結局そこ?」


「大事だろ」


「討伐した分を全部食べられるわけじゃないけど、買い取りに出さず自分たちで引き取れば食べられるわよ」


ソーマの気持ちが少し傾いた。


肉。


しかも自分で狩った肉。


「……やるか」


「決まりだな」


レオンが笑う。


「明日はホーンラビット狩り」


「Eランク依頼なんだよな?」


「そう」


「俺、Fなんだけど」


「それ何回目?」


リナが呆れる。


「確認は大事なんだよ」


そう言いながらも。


少し楽しみだった。


今日は向かってくるゴブリン。


明日は逃げる獲物。


《軽歩》がどこまで使えるのか。


自分にもまだわからない。


「集合は朝?」


「ギルドに朝」


「寝坊しないでよ」


「したことないだろ」


そんなやり取りをしながら、3人は分かれた。


ソーマは1人、銀鹿亭へ向かう。


途中。


通りを歩く男女が目に入った。


仲良さそうに並んで歩いている。


さっきの話を思い出す。


レオンはモテる。


リナもたぶんモテる。


自分は。


朝から晩まで働いている。


「……俺もなんか考えた方がいいのかな」


誰に聞かせるでもなく呟く。


だが。


明日の予定は、すでに狩り。


その次はおそらくまた仕事。


結局。


「……まあ、今はいいか」


そう言いながら銀鹿亭へ向かう背中には、どこか少しだけ哀愁が漂っていた。

【現在のソーマのスキル】


《運搬 Lv1》

荷物の持ち方や重心を最適化し、効率よく運べる。


《仕分け Lv1》

教わった基準をもとに、物の状態や違いを見分けやすくなる。


《警戒 Lv2》

迫る危険の方向やタイミングを、以前より具体的に察知できる。


《重量軽減 Lv1》

物や自分自身にかかる重さの負担を少し軽くする。


《浄化 Lv1》

服についた泥や埃、軽い染みなどを落とせる。


《軽歩 Lv1》

《運搬》と《重量軽減》の融合スキル。最初の一歩や方向転換が少し速くなる。


最後までお付き合いいただき感謝します。


もし「続きが読みたい」と思われた方は、ページ下部よりブックマークと評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。