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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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武器なしでゴブリン3匹は聞いてない

「……まさか、バイトした数だけスキルが増えるのか?」


口に出した直後、そんなことを考えている場合ではないとソーマはすぐに気づいた。


目の前にはゴブリンが3匹。


正面には錆びた短剣を持った1匹。


左には棍棒を握った1匹。


右には刃こぼれしたナイフを持った1匹。


どれも人間の子供ほどの背丈しかないが、武器を構えてこちらを見ている以上、油断できる相手ではなかった。


対するソーマは丸腰。


腰にあるのは薬草を入れた袋だけだ。


「グギィ……」


正面の短剣持ちが低く唸る。


その瞬間、背筋に嫌な感覚が走った。


正面。


そう思った直後、短剣持ちが地面を蹴る。


「うわっ!」


ソーマは反射的に後ろへ下がった。


錆びた短剣が、さっきまで腹のあった場所を横切る。


心臓が一気に跳ね上がった。


《警戒 Lv1》


頭の中に文字が浮かぶ。


攻撃が見えたわけではない。


ただ、来る直前に「危ない」と感じる方向がわかった。


「これ……便利だけど、避けるだけじゃどうにもならないだろ!」


叫んだところで状況は変わらない。


短剣持ちが下がった直後、左にいた棍棒持ちが前へ出た。


再び嫌な感覚。


左。


ソーマは身体をひねる。


棍棒が肩のすぐ横を通り抜け、風を切る音が耳元で鳴った。


当たっていたら骨が折れていたかもしれない。


まして頭に食らえば、笑い事では済まない。


その現実が急に生々しく感じられた。


ここはゲームではない。


体力ゲージもなければ、セーブもない。


「逃げるしかない……」


戦うという選択肢は最初からなかった。


ソーマは3匹の位置を確認しながら、少しずつ森の外へ向かって下がる。


だがゴブリンたちは離れてくれない。


むしろ獲物が逃げようとしていると理解したのか、短剣持ちは正面、棍棒持ちは左、ナイフ持ちは右へ広がり始めた。


「囲む気かよ……」


背後には木。


右には低い茂み。


左側には少しだけ開けた場所がある。


逃げるなら左。


そう判断した瞬間、正面の短剣持ちが再び踏み込んできた。


《警戒》が反応する。


正面。


ソーマは咄嗟に、持っていた薬草の袋を前へ突き出した。


短剣が袋を裂く。


「うわっ!」


大量の薬草が空中へ舞った。


短剣持ちも予想外だったのか、一瞬だけ動きを止める。


ソーマはその隙に左へ走った。


「せっかく集めたのに……!」


そんなことを気にしている場合ではない。


それでも銅貨40枚が頭をよぎるあたり、自分でも嫌になる。


慣れない森を必死に走る。


後ろから足音がする。


振り返ると、短剣持ちが真後ろから追ってきていた。


さらに少し遅れて、棍棒持ちとナイフ持ちも続いている。


その途中で、足元に落ちていた太い枝が目に入った。


武器がないよりはマシだ。


ソーマは走りながら枝を掴む。


長さは1mほど。


棍棒代わりにはなりそうだった。


背後に嫌な感覚。


今度は真後ろ。


短剣持ちが追いついてくる。


ソーマは反射的に身体を横へずらした。


直後、短剣が服の脇をかすめる。


「っ……!」


布が裂けた。


皮膚までは届いていない。


それでも、あと数cmずれていたら腹を切られていた。


ソーマは枝を両手で握り、振り返りざまに短剣持ちへ振った。


「来るな!」


鈍い音。


狙ったわけではない。


枝の先が偶然ゴブリンの腕に当たり、短剣が地面へ落ちた。


「グギャッ!」


短剣持ちが怒ったような声を上げる。


倒れてはいない。


むしろ余計に怒らせたらしい。


ソーマは枝を構えたまま後退する。


手が震えている。


剣道も格闘技もやったことはない。


枝を持ったところで、どう振ればいいのかもわからない。


《運搬 Lv1》のおかげなのか、重い枝を持つこと自体はそこまで苦ではなかった。


だが、持てることと戦えることはまったく別だった。


短剣持ちが落とした武器を拾おうとする。


その間に右からナイフ持ちが回り込んできた。


《警戒》が反応する。


右。


ソーマは枝を振った。


しかし距離が合わず、空振りする。


その勢いで身体が流れた。


まずい。


次の瞬間、左から強い衝撃が脇腹に入った。


「ぐっ……!」


棍棒持ちだった。


右のナイフ持ちに気を取られた隙に、左から回り込まれていた。


ソーマはそのまま地面へ転がる。


肺がうまく動かない。


息が吸えない。


痛みに耐えながら顔を上げると、3匹が再びこちらを囲み始めていた。


短剣持ちは武器を拾い直している。


棍棒持ちは正面。


ナイフ持ちは右。


「これ……普通に死ぬやつじゃん……」


声が震えた。


《運搬》


《仕分け》


《警戒》


どれも戦闘スキルではない。


少なくとも、目の前の3匹を倒してくれる力ではなかった。


ゴブリンたちが少しずつ距離を詰める。


ソーマは枝を杖代わりにして立ち上がろうとした。


そのとき、別の気配を感じた。


今まで《警戒》が拾っていたゴブリンの動きとは違う。


もっと遠く。


森の奥。


何かが近づいてくる。


速い。


枝の折れる音。


続いて、誰かが走る足音が聞こえた。


ゴブリンたちも気づいたのか、短剣持ちが森の奥へ顔を向ける。


「誰かいるのか……?」


ソーマがそう呟いた直後、森の奥から声が飛んできた。


「そっちだ!」


男の声。


続いて、少し離れた場所から女の声も聞こえる。


「見えた!」


助けだ。


そう思った瞬間、棍棒持ちがソーマへ向かって踏み込んだ。


《警戒》が強く反応する。


正面。


ソーマは枝を構える。


避けるには遅い。


棍棒が振り下ろされる。


その直前。


横から銀色の刃が割り込んだ。


甲高い音が響く。


棍棒が弾かれた。


「離れろ!」


金色に近い茶髪の青年が、ソーマとゴブリンの間へ滑り込んでいた。


革鎧。


右手には剣。


青年は棍棒持ちの武器を弾いた勢いのまま、一歩踏み込み、横薙ぎに剣を振る。


「ギャッ!」


棍棒持ちが地面へ倒れた。


突然現れた敵に、残る2匹が青年へ向き直る。


短剣持ちが正面から。


ナイフ持ちが右から回り込む。


だが2匹が動いた瞬間、少し離れた場所から赤い光が走った。


「レオン、右!」


少女の声。


火球が飛び、右から回り込もうとしていたナイフ持ちの足元で弾ける。


「ギャァッ!」


炎に驚いたナイフ持ちが体勢を崩す。


青年――レオンはその隙を逃さなかった。


正面から来た短剣持ちの攻撃を剣で受け流し、そのまま肩口へ斬り込む。


短剣持ちが崩れ落ちる。


残るのは、火球を受けて動きの鈍ったナイフ持ちだけ。


少し離れた場所で、杖を構えた少女が次の魔法を準備していた。


赤みがかった茶色の髪。


年齢はソーマと大きく変わらないように見える。


「逃がさない」


杖の先にもう1つ火球が生まれる。


ナイフ持ちが逃げようと背を向けた。


火球が飛ぶ。


背中に直撃し、ゴブリンが前のめりに倒れた。


森に静けさが戻った。


ほんの数十秒。


ソーマがあれだけ必死に逃げ回った3匹が、あっという間に動かなくなっている。


「……強すぎるだろ」


思わず声が漏れた。


レオンは倒れたゴブリンを確認してから剣についた血を振り落とし、ソーマへ振り返った。


「大丈夫か?」


「あ……はい。たぶん」


ソーマは脇腹を押さえながら答えた。


レオンはソーマの服装と、手に持った太い枝を見て眉を上げる。


「それでゴブリン3匹相手にしてたのか?」


「相手にしてたっていうか……逃げてました」


「だろうな」


そこへ、杖を持った少女が歩いてくる。


彼女は倒れたゴブリンを一度確認してから、ソーマを見た。


そして腰元へ視線を落とす。


「ちょっと待って。武器は?」


「ないです」


「ない?」


「薬草採取だったんで……」


少女が数秒黙った。


それから、盛大にため息を吐く。


「薬草採取でも森は森でしょ。魔物が絶対に出ないなんて誰も言ってないわよ」


「……そうみたいですね」


レオンが横で笑いを堪えている。


「リナ、そのくらいにしてやれよ。見た感じ初日だろ」


「初日だから言ってるの。死んだら終わりなのよ?」


死んだら終わり。


その言葉に、ソーマの表情が固まった。


「……死んだら?」


リナと呼ばれた少女が怪訝そうに見る。


「何?」


「いや、この世界って……死んだら普通に死ぬんですよね?」


「当たり前でしょ」


あまりにも当然のように返され、ソーマは何も言えなくなった。


考えてみれば当然だった。


ゴブリンの短剣も、棍棒も、全部本物。


さっき脇腹に受けた痛みだって、本物だ。


もしあの短剣が腹に刺さっていたら。


もし棍棒が頭に当たっていたら。


もしレオンとリナが来なかったら。


ソーマはようやく、自分がどれだけ危険な場所に立っていたのか理解した。


レオンが手を差し出す。


「俺はレオン。Dランク冒険者だ」


ソーマはその手を掴んで立ち上がった。


「ソーマです。今日登録したばっかりのFランクです」


「やっぱりな」


「私はリナ。Eランク」


リナはそう名乗ってから、地面に散らばった薬草を見る。


「薬草採取?」


「20束集める依頼です」


「ずいぶん多くない?」


地面には、袋からこぼれた薬草が広がっている。


拾い集めれば、まだかなり残っていそうだった。


「35束くらい集めたんですけど……袋を切られました」


「初日で35束?」


リナの表情が少し変わる。


「薬草採取、経験あるの?」


「ないです」


「じゃあ何でそんなに集められるのよ」


聞かれて、ソーマは一瞬迷った。


《仕分け》のことを説明するべきか。


だが自分自身、まだよくわかっていない。


「……見分けるのが得意みたいで」


曖昧に答えると、リナは納得していない様子だった。


レオンは気にした様子もなく、ソーマが持っていた枝へ視線を向ける。


「まあ、何にしても次からは最低限の武器くらい持っとけ」


「武器ですか」


「短剣でもいい。使わずに済むならそれが1番だけど、何もないよりマシだ」


ソーマは地面に転がるゴブリンを見る。


自分なら1匹すら倒せなかった。


いや、倒すどころか逃げ切ることさえ難しかった。


「短剣って、いくらくらいです?」


「安い中古なら銀貨数枚じゃないか?」


ソーマは思わず財布を確認しそうになり、途中でやめた。


日本円しかない。


異世界の所持金は、まだ0。


レオンが笑う。


「まず依頼終わらせて報酬もらえ。話はそれからだ」


「……そうですね」


現実世界では生活費。


異世界では装備代。


世界が変わっても、結局必要になるものは同じらしい。


金だ。


ソーマは散らばった薬草を拾い始める。


リナもため息をつきながら、近くの薬草を拾ってくれた。


「次からは1人で森に来ない方がいいわよ、ソーマ」


「考えときます」


「考えるじゃなくて、そうしなさい」


その言い方に、ソーマは少しだけ笑った。


どうにか使える薬草を集め直す。


全部は残っていなかったが、依頼分の20束は確保できそうだった。


ソーマは袋を抱え直し、街の方向を見る。


脇腹はまだ痛い。


服も破れている。


それでも、生きている。


今日はそれだけで十分だった。


レオンの言葉を思い出す。


冒険者をやるなら、最低でも短剣くらい買っておけ。


ソーマは薬草の袋を見下ろした。


「まず金か……結局こっちでも金がいるんだな」

最後までお付き合いいただき感謝します。


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