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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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19/52

帰り道でスキルが生えた

薬草を20束集め終える頃には、ソーマの緊張もようやく少し落ち着いていた。


ゴブリン5匹との戦闘。


そのうち、自分が相手をしたのはたった1匹。


しかも最後はレオンに倒してもらった。


それでも、前回とは違う。


逃げるだけではなかった。


《警戒》で攻撃の方向を感じて。


短剣で傷をつけて。


そして何より。


あの時、一瞬だけ身体が軽く動いた。


「……こうだったよな」


森を出て街へ戻る途中。


ソーマは歩きながら、さっきの動きを思い返していた。


まず右足へ重心を乗せる。


次に、左へ身体を移す。


その瞬間、《重量軽減》を意識する。


自分の身体を少しだけ軽くする。


そして《運搬》で、荷物を動かす時と同じように、自分自身の重心を運ぶ。


すっ。


身体が横へずれた。


「……おお」


ソーマは小さく声を上げる。


数歩前を歩いていたレオンが振り返った。


「何やってんだ?」


「さっきのやつ」


「さっきの?」


「ゴブリン避けた時の動き」


そう答えると、レオンは納得したように頷いた。


「もう練習してんのか」


「忘れそうだから」


もう一度。


普通に歩く。


右へ重心。


《重量軽減》。


《運搬》。


すっ。


今度は少しだけ前へ出す。


一歩目が軽い。


「やっぱりできる」


「ちょっと」


後ろからリナの声がした。


振り返る。


「何?」


「さっきから何してるの?」


「練習」


「歩きながら急に横にスッて動くのやめてくれない?」


「なんで?」


「キモい」


即答だった。


「言い方!」


レオンが吹き出す。


「確かに、知らない奴が見たらちょっと怖いな」


「お前まで言うなよ」


ソーマは不満そうにしながらも、また前を向いた。


別に格好よく見せたいわけではない。


使えるなら、使えるようになりたい。


それだけだ。


◇


街道へ出てからも、ソーマは隙を見つけては同じ動きを繰り返した。


右。


左。


少し前。


斜め後ろ。


最初は、意識しなければ《重量軽減》と《運搬》を同時に使えなかった。


《重量軽減》を意識すると重心移動がおろそかになり、《運搬》へ集中すると身体を軽くする感覚が消える。


「難しいな……」


「何が?」


レオンが聞く。


「2つ同時に使うの」


「スキル?」


「うん」


ソーマは歩きながら説明する。


「《重量軽減》だけなら、身体が少し軽くなる。でもそれだけだと、ちょっと動きやすいくらい」


「で?」


「《運搬》を使うと、どこに重心置けば動きやすいかなんとなくわかる」


ソーマは足元を見る。


「それを一緒にやると、最初の一歩だけすごく出やすくなる」


レオンは少し考えた。


「じゃあ、戦うためっていうより回避向きだな」


「多分」


「お前らしいじゃない」


リナが言う。


「褒めてる?」


「一応」


「一応って何だよ」


また横へ動く。


今度は少し遅い。


「違うな」


戻る。


もう一度。


「……これも違う」


「ずっとやるの?」


リナが聞く。


「できるまで」


「キモ」


「2回目!」


レオンが笑いながら言う。


「いいじゃん。やらせとけよ」


「私の視界でずっと左右に動かれると気になるのよ」


「じゃあ前歩けば?」


「嫌よ。後ろから急に近づいてきそうで」


「俺を何だと思ってるんだ」


ソーマは文句を言いながらも、練習を止めなかった。


◇


しばらく続けていると、少しずつ感覚が変わってきた。


最初は、


《重量軽減》。


次に《運搬》。


そうやって順番に意識していた。


だが何度も繰り返しているうちに、2つを別々に考えなくても身体が動く瞬間が出てきた。


一歩目を出そうとする。


すると自然に身体が軽くなり、同時に重心が移る。


すっ。


「……今の」


ソーマが足を止める。


「どうした?」


レオンも止まった。


「今、考えなかった」


「何を?」


「《重量軽減》と《運搬》」


ソーマはもう一度やってみる。


進みたい方向を見る。


一歩。


すっ。


また。


今度は右。


すっ。


さっきより自然だ。


「できてるな」


レオンが言う。


「うん」


自分でもわかる。


それまで2つのスキルを無理やり同時に動かしていたのが、今は1つの動作になり始めている。


「なんか……繋がった感じ」


「繋がった?」


リナが首を傾げる。


「うまく言えないけど」


ソーマはもう一度動く。


軽く。


重心を運び。


一歩を出す。


それだけ。


でも明らかにさっきまでより滑らかだった。


「……できた」


思わず小さく呟く。


「何が?」


レオンが聞く。


「いや」


ソーマは少し笑った。


「たぶん、わかった」


そのまま歩き始める。


ギルドまでもう少しだった。


◇


街へ戻り、冒険者ギルドの建物が見えてきた頃。


ソーマは何気なく自分のスキルを確認した。


《運搬 Lv1》


《仕分け Lv1》


《警戒 Lv2》


《重量軽減 Lv1》


《浄化 Lv1》


そして。


その下。


見覚えのない文字が増えていた。


《軽歩 Lv1》


ソーマの足が止まった。


「……え?」


後ろを歩いていたリナがぶつかりそうになる。


「ちょっと、急に止まらないでよ」


「増えてる」


「何が?」


レオンも振り返る。


ソーマはもう一度確認する。


間違いない。


《軽歩 Lv1》


「新しいスキル」


「また?」


リナが近づいてくる。


「何?」


「《軽歩 Lv1》」


レオンが眉を上げた。


「さっきのやつか?」


「多分」


ソーマは試すように一歩横へ動く。


すっ。


さっきまでより、さらに自然だった。


わざわざ《運搬》と《重量軽減》を別々に意識しなくてもいい。


ただ。


動きたい方向へ身体を運ぶ。


それだけで、最初の一歩が少し軽くなる。


「……融合した?」


ソーマが呟く。


「融合?」


リナが聞き返す。


「《運搬》と《重量軽減》を一緒に使ってたら、別のスキルになったみたい」


レオンが面白そうに笑う。


「そんなことあるんだな」


「俺も初めて」


「じゃあ今度からそれ使えばいいじゃない」


リナが言う。


「たぶんそうなる」


ソーマはもう一度《軽歩》を使う。


右。


左。


少し前。


滑らかに動く。


「おお……」


思ったより気持ちいい。


もう一度。


すっ。


「キモ」


リナが言った。


「また言った!」


「だってギルドの前で急に左右に動き始めるんだもん」


「確認してるだけだろ!」


レオンが声を上げて笑う。


周囲を歩いていた冒険者が、何事かとこちらを見ていた。


ソーマは咳払いして動きを止める。


「……あとでやろ」


「最初からそうしなさいよ」


3人はそのままギルドへ入った。


薬草20束。


ゴブリン5匹。


今日の依頼報告もある。


そして。


また1つ。


新しいスキルが増えた。


《軽歩 Lv1》。


単発バイトで手に入れた2つのスキルを、異世界で組み合わせた結果、生まれた新しい力。


自分のスキルは。


ただ増えるだけではないらしい。


ソーマはそんなことを考えながら、受付へ向かった。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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