初めての武器選び
「それと」
ガルドがソーマを指差す。
「前にも言ったが、金貯まったら今度は自分の武器を買え」
「覚えてます」
「忘れてる顔してたぞ」
「忘れてないですって」
レオンが横から笑う。
「じゃあ次はソーマの武器選びだな」
「まだそんな金ないって」
「今いくら持ってる?」
そう聞かれて、ソーマは革袋を開いた。
銀貨2枚。
銅貨45枚。
合わせれば、銀貨6枚と銅貨5枚分。
「……これくらい」
ガルドが袋の中を見る。
「買えなくはねえな」
「え?」
思わず聞き返した。
ソーマの中では、この金は生活費だった。
宿。
食事。
次にいつ稼げるかわからないことを考えると、全部使うつもりなんてなかった。
「いや、これほぼ有り金なんだけど」
「武器なしで死んだら、有り金も何もねえだろ」
正論だった。
「でも、ナイフあるじゃん」
ソーマは腰の古いナイフを指差す。
ガルドは鼻を鳴らした。
「それは予備だ」
「予備?」
「最初にお前が来た時は、何も使えなかっただろ」
「まあ」
「剣も槍も扱えねえ。だったら、とにかく持って逃げられるナイフでいいって話だった」
確かに。
初めてこの店に来た時、自分には武器の知識も戦闘経験もなかった。
森でゴブリンに襲われた直後だ。
まともに構えることすらできなかった。
「あの時のお前に長い武器持たせても邪魔になるだけだったからな」
「そこまで?」
「そこまでだ」
ひどい言われようだが、否定できない。
そこでレオンが口を挟む。
「今なら短剣くらいならいけるんじゃないですか?」
ガルドがレオンを見る。
「お前が教えるのか?」
「そのつもりです」
ソーマが振り返る。
「俺、聞いてないけど」
「今言った」
「勝手に決めるなよ」
「どうせ教えないと危ないだろ」
またそれだ。
リナが横で笑っている。
ガルドは少し考えるように腕を組んだ。
「短剣か……」
それからソーマを見る。
「悪くねえな」
「ほんとに?」
「ああ。ナイフより間合いが取れる。剣ほど重くもねえ。荷物持ちながらでも扱いやすい」
「荷物持ち前提なんだ」
「お前の場合はそうだろ」
言い返せなかった。
「ただし」
ガルドが続ける。
「武器持ったからって前に出るなよ」
「わかってます」
「お前の仕事は荷物と警戒だ。短剣は、敵が近づいてきた時に自分で逃げるためのもんだ」
その言葉は、レオンに教わったこととほとんど同じだった。
敵を倒すためではない。
逃げるための1秒を作る。
ソーマには、そのくらいがちょうどいい。
「じゃあ見せてください」
ガルドが頷いた。
「こっちだ」
店の奥へ案内される。
壁には何本もの武器が並んでいた。
長剣。
槍。
斧。
短剣。
中には、見ただけで高そうな装飾の入った武器もある。
ソーマは少しだけテンションが上がった。
「なんか……冒険者っぽいな」
「今さら?」
リナが呆れる。
「自分の武器選ぶの初めてなんだよ」
今まで使っていたのは、ガルドからもらったものだった。
自分で金を出して買う。
そう考えると、少しだけ特別に感じる。
ガルドが短剣を3本、カウンターへ並べた。
「今のお前なら、この辺だ」
1本目。
細身で軽い。
刃も短め。
「銀貨4枚」
「思ったより安い」
「初心者向けだ」
2本目。
少し刃が厚い。
持ってみると、1本目より重い。
「銀貨5枚と銅貨5枚」
3本目。
他の2本より少し長く、柄もしっかりしている。
「銀貨7枚」
「無理」
即答した。
ガルドが眉をひそめる。
「まだ値段しか見てねえだろ」
「買えないもの見てもしょうがないじゃん」
「夢がねえな」
「生活かかってるんで」
横でレオンが笑っている。
ソーマは1本目と2本目を順番に持ってみた。
正直、違いはよくわからない。
「どっちがいい?」
レオンに聞く。
「俺なら2本目」
「理由は?」
「少し重いけど、その分丈夫。お前、別に短剣で連続攻撃するわけじゃないだろ」
「しないな」
「だったら、多少雑に扱っても壊れにくい方がいい」
ガルドも頷く。
「俺もそっちを勧める」
2対1。
ほぼ決まりだった。
ソーマはもう一度、2本目の短剣を握る。
今までのナイフより少し長い。
それでも剣ほど大げさではない。
腰に差しても、荷物を背負う邪魔にはならなそうだ。
「……これにします」
「銀貨5枚と銅貨5枚だ」
ソーマは革袋を見る。
銀貨2枚。
銅貨45枚。
足りない。
「あれ?」
計算してから固まる。
「足りなくない?」
ガルドが怪訝な顔をする。
ソーマはもう一度数える。
銀貨2枚。
銅貨45枚。
合計で銅貨65枚。
短剣は銀貨5枚と銅貨5枚。
つまり銅貨55枚。
「……あ、足りるわ」
「大丈夫かお前」
リナが呆れた。
「最近銅貨と銀貨ごちゃごちゃするんだよ」
支払う。
銀貨2枚。
銅貨35枚。
これで銅貨55枚。
残ったのは銅貨10枚。
ソーマは革袋の中を見る。
さっきまでそれなりに入っていたはずなのに。
一気に軽くなった。
「……残り銅貨10枚」
呟く。
レオンが吹き出した。
「また貧乏になったな」
「笑うなよ」
「自分の武器買えたんだからいいだろ」
それはそうだ。
ガルドは短剣を簡単に手入れすると、鞘と一緒にソーマへ渡した。
「使ったら必ず拭け。濡れたまま放置するな。刃がおかしいと思ったら自分でいじらず持ってこい」
「はい」
「あと、そのナイフは捨てるなよ」
ガルドからもらった古いナイフ。
「もちろん」
「そいつは予備にしろ。短剣を落とした時、抜けなくなった時、壊れた時。最後に頼れるのは腰に残ってる小さい武器だったりする」
その言葉には重みがあった。
ガルド自身が、それで何度も助かったと言っていたからだ。
ソーマは新しい短剣を腰へ。
古いナイフを反対側へ収める。
少し重くなった。
でも。
悪くない。
「似合ってるじゃん」
リナが言う。
「そう?」
「少なくとも、丸腰で森に行った頃よりはね」
「それと比べるなよ」
レオンが笑う。
「じゃあ次は使い方だな」
「今日?」
「今日」
「また?」
「買っただけで満足するな」
ソーマはため息をつく。
ただ。
嫌ではなかった。
自分で働いて。
自分で稼いで。
自分で選んで買った。
初めての武器。
腰の短剣へ手を触れる。
少しだけ。
本当に冒険者になった気がした。
最後までお付き合いいただき感謝します。
もし「続きが読みたい」と思われた方は、ページ下部よりブックマークと評価をお願いします。




