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平日は単発バイト、週末は異世界冒険者 ~働いた経験が全部スキルになる苦学生の成り上がり~  作者: ばけつプリン


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14/52

異世界帰りでも、月曜は1限から

扉を抜けた瞬間、石造りの路地も酒場の喧騒も消えた。


代わりに目の前に現れたのは、見慣れたワンルームの部屋だった。


「……帰ってきた」


ソーマ――相馬悠真は、その場で大きく息を吐いた。


振り返ると、今通ってきたはずの扉がまだ壁際に立っている。だが、その輪郭は少しずつ薄くなり、数秒もすると何事もなかったかのように消えていった。


「やっぱ消えるんだよな……」


確認するように腰へ手を伸ばす。


ガルドからもらったナイフはない。革袋もない。銀貨2枚と銅貨45枚も、さっきまで確かに持っていたはずなのに消えている。


その代わり、机の上には財布があり、ベッドの横には大学用の鞄が置かれている。ポケットを探ればスマホも戻っていた。


世界が切り替わった。


今では、それも少しずつ当たり前になりつつある。


スマホの画面をつける。


日曜日、23時41分。


「……またこの時間か」


前回も、こちらへ戻った時は日曜の夜だった。


異世界では朝5時から宿で働き、そのあと商会の荷物を運び、午後はレオンに格闘を教わり、最後には酒まで飲んだ。それだけ動いたはずなのに、日本ではまだ日曜日が終わっていない。


相変わらず、2つの世界の時間の進み方はよくわからなかった。


悠真はベッドへ腰を下ろす。


身体が重い。


これは《重量軽減》ではどうにもならない。そもそも日本ではスキルそのものが使えない。


「……向こうでも普通に働きすぎだろ」


自分で言って、少し笑った。


異世界へ行けば冒険が待っている。


最初はそんなものを想像していたはずなのに、実際にやっていることといえば荷物運びや雑用ばかりだ。


それでも、不思議と嫌ではなかった。


レオン。


リナ。


エレナ。


マルタ。


ガルド。


そして今日出会った、Bランク冒険者のガレス。


最初に向こうへ行った時には、誰1人として知り合いはいなかった。今では、次に行った時に会いたいと思う相手までいる。


特に気になるのは、レオンとリナの昇級査定だった。


「3日後と4日後、か」


こちらから結果を確認する方法はない。


次の扉が現れるまで待つしかなかった。


悠真はスマホを充電器につなぎ、もう一度時刻を見る。


23時45分。


その数字を見た瞬間、別の現実が頭に浮かんだ。


「明日1限じゃん」


一気に日本へ引き戻された。


◇


翌朝。


目覚ましを止めた瞬間、背中から腕にかけて強い張りが走った。


「……痛っ」


昨日の格闘訓練のせいだ。


レオンに何度も転ばされ、受け身や立ち上がりを繰り返した。大した時間ではなかったはずなのに、普段使っていない筋肉まできっちり痛んでいる。


『まず殴られた時に固まらないところから』


昨日のレオンの言葉が頭に浮かぶ。


「その前に筋肉痛で動けないんだけど」


もちろん返事はない。


シャワーを浴び、適当に朝食を済ませて大学へ向かった。


月曜日は1限から3限まで。9時から授業だ。


教室へ入ると、いつもの友人が先に座っていた。


「おはよ」


「おう。……なんか疲れてない?」


「ちょっと筋肉痛」


「何したの?」


一瞬、悠真の頭にいろいろ浮かんだ。


オーク。


廃村。


格闘訓練。


Bランク冒険者。


迷宮。


だが、どれも説明できる話ではない。


「荷物運び」


結局、一番無難なところだけ答えた。


「またバイト?」


「まあ」


「お前マジでずっと働いてんな」


否定できなかった。


異世界まで含めれば、本当にずっと働いている。


「今度飲み行こうぜ」


友人が言う。


悠真は少しだけ考えた。


昨日も飲んだ。


異世界で。


「金あったら」


「毎回それじゃん」


「大事なんだよ」


昨日、飲み代を心配して朝5時から働いたことは黙っておいた。


◇


3限が終わったのは14時30分。


大学を出た悠真は、そのままスマホで単発バイトのアプリを開いた。


今週も生活費を稼がなければならない。


ただ最近は、求人を見る時の基準が少し変わっていた。


以前なら、時給や場所、勤務時間だけで選んでいた。


今は違う。


この仕事をしたら、向こうで何になるのか。


どんなスキルが生えるのか。


それを考えるようになっている。


先週は、清掃、飲食店、引越し、イベント設営、それからもう一度引越し。


結果として、異世界で新しく増えたのは《重量軽減 Lv1》だけだった。


「なんで引越しだけなんだろうな……」


悠真は歩きながら求人一覧を眺める。


何か条件がある。


そんな気がしていた。


仕事の種類なのか。


作業内容なのか。


経験した回数なのか。


それとも単純に適性なのか。


レオンとリナの話では、向こうの世界でも同じ行動を繰り返すことでスキルを覚えることはあるらしい。


ただし、誰も明確な条件は知らない。


「経験量……か」


先週を思い返す。


清掃は1回。


飲食も1回。


イベント設営も1回。


引越しだけ2回。


偶然かもしれない。


それでも、試してみる価値はある。


「もう1回、同じの入れてみるか」


求人一覧を下へスクロールすると、ちょうどいい募集が見つかった。


【オフィスビル清掃スタッフ】


17時~22時。


日給7,000円。


先週やったものと、ほとんど同じ内容だった。


月曜日は3限までなので時間にも余裕がある。


「これでいいか」


悠真はそのまま応募ボタンを押した。


◇


17時。


悠真はオフィスビルの清掃現場にいた。


仕事は特別難しいものではない。


ゴミ箱を回収し、机や共用部分を拭き、掃除機をかける。給湯室やトイレの確認もある。


日本では何の変哲もない仕事だった。


当然、《運搬》も《仕分け》も《警戒》も《重量軽減》も使えない。


それでも、以前とは少しだけ仕事の見え方が違っていた。


どの順番なら効率がいいか。


どこに汚れが残りやすいか。


何を先に片付ければ二度手間にならないか。


以前なら、ただ早く終わらせて帰りたいと思っていたはずだ。


今は、これが向こうで何かになるかもしれないと思うと、細かいところまで意識してしまう。


「……なんか仕事研究してるみたいだな」


自分でもおかしくなった。


それでも、床の端に残った埃を集め、濡れた場所を拭き取り、ゴミを種類ごとにまとめていく。


決められた時間まで作業を続け、22時。


「お疲れさまでした」


仕事を終えた悠真は、スマホを見る。


5時間。


先週の月曜日にも、同じ清掃の仕事を5時間やっている。


合計すれば10時間。


だが、悠真はまだその数字に特別な意味があるとは思っていなかった。


「次行ったら、何か増えてるかな」


わかるのは金曜日。


それまでは確認する方法がない。


帰りの電車に乗り、求人アプリを眺めていると、ふと別のスキルが頭に浮かんだ。


《警戒 Lv1》。


ゴブリンに囲まれた時も、森で魔物が近づいてきた時も、廃村でオークの気配を感じた時も、何度も助けられている。


そして思い返してみれば、その元になった可能性が一番高いのは、以前やった警備系の仕事だった。


「……警備か」


悠真は検索欄に文字を入れる。


もし同じ系統の仕事を続けたら。


《警戒 Lv1》がLv2になるのか。


別のスキルが増えるのか。


それとも何も起きないのか。


「残り、全部これにしてみるか」


自分で試せることなら、試した方が早い。


悠真は火曜日の警備求人へ応募した。


◇


火曜日。


2限から4限まで授業を受けた悠真は、そのまま駅へ向かった。


この日の仕事は、商業施設の夜間警備補助。


18時から23時。


仕事内容は、閉館後の巡回や関係者入口の確認、搬入口周辺の見回りだった。


特別な資格が必要な仕事ではない。


先輩スタッフの指示に従いながら、決められた場所を確認していく。


その日は、普段以上に周囲を見るようにした。


人の流れ。


開いている扉。


普段と違う音。


置きっぱなしの荷物。


誰かが入ってはいけない場所へ入っていないか。


日本では《警戒》は発動しない。


それでも、仕事そのものは覚えられる。


23時。


5時間の勤務を終える。


更衣室を出たところでスマホを見る。


5時間。


昨日の清掃も5時間。


今日の警備も5時間。


今のところ、もちろん何もわからない。


確認できるのは、次に異世界へ行った時だけだ。


「……もう少しやってみるか」


その場で翌日の求人を開いた。


◇


水曜日。


大学は1限と2限だけだった。


昼過ぎに授業を終えた悠真は、駅近くのオフィスビルへ向かった。


今日も警備。


14時から19時。


また5時間。


決められたフロアを回り、非常口や共用部を確認していく。


不審物がないか。


扉がきちんと施錠されているか。


異常な音がしないか。


ただ歩いているだけに見えて、意外と見るところは多かった。


「警備って、思ったより覚えることあるな」


以前なら、時間が過ぎるのを待つだけだったかもしれない。


今は違う。


もしこの経験が向こうで《警戒》につながっているのなら、少しでも丁寧にやっておきたいと思っている。


そんなことを考えている自分が、少しおかしかった。


19時。


勤務終了。


火曜日と水曜日だけで、警備10時間。


悠真はスマホのメモを開く。


火曜 警備5時間。


水曜 警備5時間。


「……10時間」


その数字を見た瞬間、引越しのことを思い出した。


先週。


引越しを2回。


5時間ずつ。


合計10時間。


そのあと異世界へ戻ったら、《重量軽減 Lv1》が増えていた。


「……いや、まさかな」


まだ偶然かもしれない。


そもそも警備の仕事は以前にもやったことがある。


正確な累計なんて覚えていない。


それでも、妙に10時間という数字が引っかかった。


「もうちょい試すか」


そう決めて、木曜日も警備の仕事を入れた。


◇


木曜日。


1限から3限まで授業を受けたあと、悠真は17時からイベント会場の警備補助へ入った。


以前やったイベント設営とは違う。


今回は完全に警備側だった。


搬入口の確認。


関係者証のチェック。


立入禁止区域の監視。


終了後の場内巡回。


22時までの5時間。


これで今週だけで警備15時間になる。


仕事を続けるうちに、悠真は今まで以上に細かい変化を見るようになっていた。


人が少なくなった通路。


さっきまで閉まっていた扉。


スタッフの動線。


普段と違う荷物の位置。


異世界で《警戒》が発動する時の感覚とは全く違う。


日本では、ただ自分で見て考えるしかない。


それでも、その積み重ねがスキルになるのなら、無駄ではない気がした。


「案外、こういうのも意味あるのかもな」


22時。


仕事を終える。


明日は金曜日。


扉が出る可能性が高い日だ。


本当なら、少しくらい身体を休めてもいい。


だが悠真は、帰りの電車で再び求人アプリを開いた。


警備。


金曜日。


短時間。


条件を絞ると、1件だけちょうどいいものが出てきた。


【物流倉庫・入退場警備補助】


14時~19時。


金曜日は1限と2限だけ。


十分間に合う。


「……これで最後」


悠真は応募した。


◇


金曜日。


2限が終わると、悠真は大学を出てそのまま警備の現場へ向かった。


14時から19時。


物流倉庫の出入口に立ち、車両や作業員の入退場を確認する。


途中で巡回も入る。


大型トラック。


フォークリフト。


作業員。


絶えず人と物が動いている。


ただ立っているだけでは足りない。


周囲を見て、危ない動きがないか確認し、誰かが立入禁止区域へ入っていないかを見る。


気づけば、以前より自然に周囲へ目を配るようになっていた。


あのトラックが動く。


その横を作業員が通る。


後ろから別の車両が入ってくる。


日本では何の能力も発動していない。


それでも、少しだけ先を読むようになっている気がした。


19時。


勤務終了。


今週の警備は、火曜から金曜まで毎日5時間。


合計20時間。


月曜日の清掃まで合わせれば、今週もかなり働いた。


「……またやりすぎたな」


スマホのメモを見る。


清掃 5時間。


警備 20時間。


そして、それぞれ先週以前の分もある。


今までなら、勤務時間なんて給与計算のためにしか気にしたことがなかった。


今は違う。


何時間働いたか。


どの仕事をやったか。


それが異世界で何になるのか。


特に気になるのは警備だ。


すでに《警戒 Lv1》がある。


そこへ今週だけで20時間。


「これで何も変わらなかったら、ほんとにわからないな」


そう呟きながら帰宅する。


アパートへ着いたのは20時過ぎ。


靴を脱ぎ、鞄を置き、部屋へ入る。


そして、壁際を見る。


あった。


見慣れないはずなのに、もう見慣れ始めている扉。


「……来た」


心臓が少しだけ速くなる。


今回の目的は決まっていた。


レオンとリナの昇級結果。


そして、自分のスキル。


月曜日の清掃。


火曜日から金曜日まで続けた警備。


もし経験量が関係しているなら、何か変わっているはずだ。


悠真は扉の前へ立つ。


以前は、この扉を開けるのが怖かった。


今は違う。


向こうに何が待っているのか。


少し楽しみになっている。


悠真はドアノブへ手をかけ、そのまま扉を開いた。


向こうから、異世界の朝の光が差し込んできた。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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