3.シアへの再認識
次の日、俺はエリックに先導してもらって騎士団にやってきていた。
さっそく、門番に話しかける。
「シアに会いたい」
「シアなんていう女の子はここにはいない。帰った帰った」
「女じゃなくて男だ。やたら顔が綺麗で頭が可笑しい魔術師」
「綺麗な魔術師というと一人しかいないけど……」
門番は困った顔をしている。何を困ることがあるというのだろうか。
「フェイが来たといえばわかる」
門番はそのセリフを聞いて頬を引き攣らせて、中に入っていった。
ここで待っていればいいのだろうか。
「フェイス君、大丈夫なの……?門番の人すごい顔してたけど」
「さあ?大丈夫だろ」
後ろで小さくなって震えているエリックにそう返す。実際、何があってもエリックをつれて逃げるくらいわけない。皆殺しも簡単に出来るだろう。
そんなことを考えていると、戻ってきた門番が中に入れてくれた。けれど、入れてくれただけで、案内してくれるわけではないようだった。
とりあえず真っ直ぐ歩いてみることにする。
変な場所を歩いていたとしてもそのうちシアが見つけそうな気がするし。
「フェイス君。そのシアさん?ってどんな人なの?」
適当に歩く俺についてくるエリックが困ったように尋ねてきた。どんな奴か。
「頭の可笑しいドMの変態」
「へ、へー、そう、なんだ……」
エリックの反応が可笑しくて振り返ると、エリックは挙動不審に目を逸らした。
変なことを言っただろうか。わからないけれど、なにか良くない勘違いをされているような気がする。
「俺はシアと手合わせをしにきたんだ」
「手合わせ……」
「イライラするからな」
そこまで言ってまた歩き出す。
段々と剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。いい加減誰かに場所を聞こうかと思っていたら、前から走ってきたシアが俺に抱きついてきた。
意味がわからない。
「フェイ遅いですよ!もっと早く来てくれると思って待っていたのに」
「知らねえよ」
シアを突き飛ばして舌打ちをする。
久々に会ったからだろうか、スキンシップが酷くなっているような気がする。
「それでこちらの方は?」
シアの目がエリックの方に向く。
そういえばいたんだった。
「エリック。友達」
「エリックです。フェイス君にはいつもお世話になっていて……」
「はあ?世話してんのはお前だろ」
適当なことを話しているエリックに正しい答えに訂正すると、エリックはヒッと小さく悲鳴をあげた。
そんな俺たちを見たシアはニッコリ笑った。目が笑ってない方の笑みだった。
「僕のフェイによくしてくれているようで、ありがとうございます。これからも仲良くしてくださいね」
エリックはシアにじっと見られて息を呑んでいる。そんなシアをいつものように殴った。
エリックは悲鳴を上げ、シアは嬉しそうに笑っている。
「早く行くぞ」
溜息を吐いてそういうと、シアは大きく頷いた。
「大人気なくてすいません。フェイの友達なんて初めて見たものですから」
シアはエリックに軽く謝ると前を歩き始めた。
ついていくと、広い場所に出た。そこには訓練中の兵士がたくさんいて、シアを見るたびに全員体をこわばらせている。そこで、そういえばシアはぼっちの化け物だったと思い出す。
シアも俺のように怖がられているらしい。実感すると面白くてこっそり笑った。
「ここでやりましょうか」
シアは周りに人がいる場所で立ち止まった。もっと人が少ないところは他にあったと思うのだけれど、どうやらシアは見せ物になりたいらしい。
面倒な事は好きではないと言っていた癖にとは思うものの、大人しく付き合うことにした。
シアは親切そうにエリックを端の方に誘導した。心配していますという顔をしているけれど、そう思うなら、外に放り出す方が余程安全なのにと思いながら、俺は二人を見ていた。
ちなみにエリックは半泣きでこちらを見ていた。そんなに見られても、何が言いたいのかさっぱりわからない。首を傾げると絶望をしたような顔で項垂れてしまった。
絶望するようなことはこの場に存在しないのに不思議な奴だ。
「いいですか?フェイ」
「ああ」
シアと目が合った瞬間地面を蹴った。
血が沸き立つのを感じる。そうこれだ。
苛立ちの解消だけでなく、シアとこうしてやりあうのは楽しい。俺はシアとこうしているのが好きなのだ。だから、頭の可笑しな理由で学校に放り込まれても、そこでやれるだけやっている。
シアとの細い縁が切れないように、シアのことを殴り続けられるように、俺は苛立ちを抑えてぶち壊さないように我慢しているのだ。
だから、今俺の心は踊っている。いつまでだってこうやって手合わせをしていたい。口角が上がるのを止められない。
ああ、シアも笑っている。そうだろう。楽しいだろうと内心頷いていると、シアが動きを止めた。それに倣って動きを止めると、シアは悲しそうな顔をした。
「今日はここまでです」
周りを見ると日が沈み始めていた。
後、何故だか、俺たちを囲むように人だかりが出来ている。そこには異様な熱気があって、英雄と名高いあの方と渡り合える人がいるなんてとか、もう一人英雄がいるって噂まさか……とか、騒いでいる。それって今関係あるのだろうか、と思いながらシアを見ると、よく見る胡散臭い笑みを浮かべていた。
「この後はどうするのですか?帰ってきますよね?」
「いや、外泊届だしてねえし。なあ?」
隅で震えているエリックに尋ねると、無言で何度も頷くだけで口を開かない。
そんなにシアが怖いのか。そういえば、俺も出会った時は頭の可笑しさに戦慄していたので、仕方がないことなのかもしれない。
「それくらいどうにでもなりますよ?エリック君も一緒にどうですか?」
「いや、寮に戻る。課題が終わってねえ」
帰ろうと背を向けたらシアから声がかかる。
「もっと頻繁にきてください。家に帰って来るのでもいいですよ。物より僕の方がいいでしょう?」
それは確かにそうだ。無機物を殴るよりもシアの方がいいに決まっている。けれど、頻繁に来るのは難しいだろう。
「家の住所知らねえし、勉強ムズイから無理」
子供のように口を尖らせたシアは背中から覆い被さるように体重をかけて来る。
キモい。そして、暑い。
「やめろ」
振り払おうとしたけれど、珍しくシアは離れない。
訝しげに背後を窺うと、子供のような顔をしたシアが耳元で囁く。
「僕はフェイがいないと寂しいのです。だから、たまには帰ってきてください。荷物のどこかに入っている便箋に住所書いてありますから。……そうです!手紙書いてください。内容なんてなんでもいいです。僕のことを想像して書いてくれるなら」
なんだかシアはワクワクとしている。俺はそのテンションについていけない。
わざとらしく溜息を吐いて、今度こそシアを振り払った。そして、シアを無視してエリックに声をかける。
「帰るぞ」
エリックは恐る恐るシアを見てから慌てて俺の後ろをついて来る。
チラリと振り返ると、シアは笑いながら手を振っていた。
俺は未だにシアのことがわからない。わかるのは頭の可笑しいドMの変態だということだけだ。
とりあえず、帰ったらエリックに課題を助けてもらって、その後に──。
次の日の朝、迷ってから閉じた封筒を引き出しの中にしまった。こんなものを出すより、とりあえず勉強だろう。騎士団に入れるくらいの成績になることが優先なのだから。




