4.彗星も必要だ
リュシーに説教をされてから幾日か経った。俺はどうしていいのかさっぱりわからなかった。ただ、ずっと考えてはいる。シアがどうすれば喜んでくれるのかと。
けれど、皆目見当がつかなかった。だって、きっとシアはなんだって喜んでくれる。だからこそ、一番喜んでもらえる事をと考えると思いつかない。
リュシーの言葉を反芻しながら考えた末に、宝飾店に行ってみることにした。
店に一歩足を踏み入れる。場違い感が半端ない。俺は顔を引き攣らせながら、ショーケースに近づいた。
中を覗くと全てがキラキラしていて目が痛い。眩しさに目を細めながら眺めていると、店員に声をかけられた。
「どんな物をお探しですか?」
「あーー……プロポーズに渡す物……?」
思わず疑問系になってしまったのは、照れがあったのと、未だに自分が何かを渡そうとしていることに現実感がなかったからだ。
俺の言葉を聞いた店員は目を輝かせて指輪のコーナーに案内しようとする。慌ててそれを止めた。
「指輪じゃない物がいい」
きっと指輪はシアが選ぶだろう。かなり前の時点でそう宣言していたわけだから、きっと何かしらの目星をつけているはずだ。
「でしたら、ピアスなんていかがですか?ピアスホールがなければイヤリングにも出来ますし。指輪と同じようにずっとつけていられますから」
店員に言われてピアスコーナーを覗いてみる。キラキラしていて全て同じように見える。眉を寄せて難しい顔をしていると、店員が助け舟を出してくれた。
「相手の方はどんな人ですか?その人を思った時に何が思い浮かびますか?」
言われてシアの姿を頭に描く。浮かんだのはいつかリュシーに聞いたシアの話だった。
「……太陽」
そう他人に伝えるのは恥ずかしい気がしたけれど、それでも俺にとってシアは太陽のようだと刷り込まれてしまっていた。
「でしたら、この辺はいかがですか?太陽をモチーフにしたものですから。もし、もっとこだわりたいと思われるのでしたらオーダーメイドも受け付けております」
「あの、太陽と月の両方がモチーフになってるやつはあるか?」
反射的にそう尋ねていた。どうせ贈るなら俺とシア、両方をイメージしたものがいいと思ったのだ。揃いにするならその方がシアも喜ぶ。
店員は少し考えて、オーダーメイドの方がいいだろうと言った。両方をイメージしたものはあるにはあるけれど、プロポーズに向くデザインとは言えないのだと。実際、これは違うと思った。
オーダーメイドにすると店員に言うと、店の奥に通された。中にはデザイナーと思しき人が忙しなく動き回っていた。
「オーダーメイド希望の方がいらっしゃったのでお願いします」
デザイナーは声をかけられてようやく俺の存在に気づいたらしい。慌ててスケッチブックを持って近寄ってきた。
座ってくださいと近くのソファを指差され言われた通りに腰掛ける。デザイナーは近くの椅子を引っ張ってきて、俺の前に座った。
「さて、どんな物をご所望ですか?」
「太陽と月をモチーフにしたピアスを作りたい。……一応プロポーズ用の予定だ」
最後にいくにつれて声が小さくなる。身内以外にこういうことを伝えるのは慣れなくて、羞恥でどうにかなりそうだった。
「月と太陽ですか。ふむふむ。プロポーズということはずっとつけられる物がいいですね。ならフープか一粒か。いや、フープだな」
デザイナーはぶつぶつと何かを言っている。フープや一粒とはどういう意味だろうか。いや、説明を聞いてもわかる気はしないので聞かないけれど。
「お兄さん、プロポーズってことは二組作りますよね?左右でデザインを変えるか、同じにするか、どっちがいいですか?変えていいなら片方は太陽、もう片方は月、とかにも出来ますけど」
「同じにしてほしい」
ずっと一緒にいるのだからその意味も込めて、太陽と月が混ざったデザインがいいと思う。
デザイナーはわかりましたと頷いてから、サラサラとスケッチブックに何かを描いていく。終わるのを待っているとラフですけどどうですかとそれを見せてくれた。
見せてもらったデザインを見て思う。何かが足りないような気がする。俺は、考えて迷った結果口に出した。
「これに彗星を入れることは出来るか?……娘が自分は彗星だと言うんだ」
「彗星……彗星かあ」
デザイナーは少し考えてから、もう一度描き始めた。サラサラと先ほどよりも早く描き終えて見せてくれる。
「こんな感じですか?」
思わず息を呑んだ。
それはなんだか心が温かくなるようなデザインだった。シアと俺とリュシーがいる、そんなデザイン。これがいいと思った。
デザイナーは俺の顔を見てこれでいいと思ったのだろう、後はここに石を入れたら綺麗だと思うんですけどと細かいところを決め始めた。
石──。問われて考える。所謂宝石を選べばいいのだろうか。しかし、宝石なんか全くわからない。
困っているとデザイナーが本を持ってきてくれる。どうやら石の図鑑のようだ。ゆっくりどうぞと言ったデザイナーはスケッチブックに何かを書きつけている。清書をしているのだろうか。
俺は言われた通りにその図鑑をめくった。ペラリペラリと進んでいくと、あるページで手が止まった。それに気がついたデザイナーは、俺の手元を覗き込む。
「サンストーンとムーンストーンですか。なるほど、ピッタリですね」
うんうんと頷いたデザイナーはスケッチブックに戻って行った。
その姿を俺はぼんやりと眺める。どんなものが出来上がるだろうか。らしくなく胸を高鳴らせていた。




