5.褒美は未来だ
さて、大会当日。接戦に見えるように戦えるようになった俺は、ぼんやりと自分の番を待っていた。戦うだけだからと気を抜いていたのだけれど、ふと気がついた。褒美に何をもらうか決めていないことに。
いらないと言いたいところではあるのだけれど、第一回で辞退すると、来年からが困るということは流石にわかるので何か考えなければいけない。けれど、欲しいものなんて微塵もない。
考えながら剣を振るう。他所ごとを考えているので多少雑になっているけれど、そっちの方がきっと弱そうに見えるはずだ、多分。
だから、試合時間がどんどん短くなっているとか、剣が折れているとか俺は知らない。相手が弱いのが悪いのだ。
大体出来レースだというなら、褒美までもシャルルが決めればいいと思うのだ。何故こっちに投げっぱなしにするのだろうか。
全員を倒し終えて、溜息を吐く。まだ、何も思いつかない。けれど、時間は待ってくれない。
いつかのように顔を伏せ、王の前で跪く。そして、ゆっくり顔を上げるとシャルルと目が合った。シャルルは愉快そうに笑っている。それと同時に、初めて会った時の隠居したいとぼやいているシャルルを思い出した。
これはとてもいい仕返しのチャンスなのではないだろうか。俺は、ニヤリとシャルルに笑い返した。
「さあ、褒美をやろう」
「その前に一つ質問いいか?」
王にタメ口をきいたので、周りがざわつく。近衛兵は色めき立って、剣に手をかけていた。騎士団の人間はそれを見て真っ青になっている。
それはどちらの意味なのだろう。近衛兵を怒らせたら不味いという意味なのか、俺を怒らせたらヤバいという意味なのか。
「なんだ」
「王太子ってシャルルなんだよな?」
「……まだ決まっておらぬ」
王は重々しくそう言った。
その答えに文官ぽい奴らが目を尖らせていて、王は居心地が悪そうだった。
「じゃあ、シャルルを王太子にしてくれ」
俺の言葉にシャルルは目を見張っている。そして、王は嫌そうに眉を寄せた。
「褒美ってなんでもいいんだよな?」
王は返事をしない。シャルルはヘラリとした笑顔を貼り付けていて、ここからでは何を思っているのかわからなかった。
誰も話さなくなった場はまるで空気が凍っているかのようだった。王城の人間から王への圧力を感じるから余計かもしれない。
俺は仕方なく、口を引き結んで動かない王の返事をじっと待った。
「……わかった。では褒美として第一王子シャルル・アルバニアを王太子とする」
これでシャルルは忙しくて隠居したいなんて言えなくなるだろう。俺は一人ニヤニヤと笑ったのだった。
次の日、シャルルが騎士団に突撃してきた。
「ちょっと、フェイス君どういうことですか!」
「どういうって、嫌がらせ」
俺の言葉にシャルルはなんとも言えない顔をしている。もっと憤慨するのかと思ったのだけれど、そうではなくて残念だ。
「……嫌がらせにはならないですよ。フェイス君のお陰でようやく大手を振って色々と介入することが出来ますから。ありがとうございます」
感謝されてしまった。今度は俺が微妙な顔になる。
いや、まあ、怒った姿を想像しながら、喜ぶのかもしれないとは若干思っていた。けれど、ここまで真っ直ぐに感謝されてしまうと苦い気持ちになる。
「あ、そうだ。もし、何か私に出来ることがあったら言ってください。実質褒美はなかったようなものですから」
言われて俺は軽く頷いた。頼むことなんてよっぽどのことがない限りないと思うけれど。
これで、シャルルの用事は終わりだろう。これからはこんなに気軽に会うことは出来なくなるのだろうと思うと少し寂しい気がする。
そんな馬鹿げたことを考えて、ふと思い出した。
「……一個聞きたいんだけどいいか」
「なんですか?」
「相手を安心させる方法って何がある」
あれからシアとは今まで通りに過ごしている。けれど、多分シアは納得していないだろう。それはなんだか悲しかった。
「んーそうですね。ソフィアは結婚出来たら喜ぶんじゃないですかねー」
シアの話だとは微塵も言っていないのに、そう返されて若干恥ずかしい。俺にはシア以外いないと知られているということだから。
「出来ないよな?」
「出来ないですねー。けど、結婚式ごっことかならー……まさか結婚出来るようにしろとかいいます?」
「……いいな、それ」
俺の言葉に、シャルルは墓穴を掘ったとガックリと肩を落としている。どうやら頑張ってくれるらしい。
「それが褒美代わりってことですねー。他でもないフェイス君とソフィアのためですし、同性婚が認められたらミーシャ先生も喜びそうですし。うん。需要ありそうなので頑張ります」
時間がかかるのは許してくださいねと言ってシャルルは帰っていく。話している時間が勿体無いと張り切っていた。頼もしい限りだ。
そんなことを思っていると、後ろからリュシーの声が聞こえた。気配を消すのが上手くなったものだ。全く気づかなかった。強くなっているようで何よりだ。
「師匠!パパと結婚するんすか!」
リュシーは満面の笑みを浮かべながら、目の前で跳ねている。
「まだ、先の話だ」
「でも、いつかはするってことっすよね!ということは師匠はママっすね!」
嬉しくてたまらないという風なリュシーにむず痒く感じる。後、ママってなんだ。
「その呼び方はやめろ」
「なんでっすか?師匠がお嫁さんっすよね?」
何をもって俺をお嫁さんだと思ったのかわからないし、だからといってママと呼ぶ理由もわからない。頭が痛くなりそうだ。
「ちげえ」
「えー!」
不満そうに口を尖らせながら、リュシーは足にまとわりついてくる。鬱陶しいので髪を掻き回して、首根っこを掴んで放り投げた。シュタッと綺麗に着地してドヤ顔をしているのは誰に似たのだろうか。
「はあ。シアには言うなよ」
「もちろんっす!パパが喜ぶの楽しみー!あ、いい花屋さん知ってるんで、プロポーズの時は教えてほしいっす!案内しまっす!パパが好きな花もリサーチいりますよね!任せてください!このリュシー上手く聞き出してくるっす!」
「やめろ。いらねえことすんな」
「えー、振りっすか?」
「ちげえわ!」
これからうるさいリュシーに頭を悩ませることになるのだった。




