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可笑しな男と絆された俺  作者: 雨夜律
第六部 今更そんなこと言うのか
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1.世界一幸せな結婚式











 俺はレーネとジュリアンの結婚式に来ていた。教会で式を挙げた後、ガーデンパーティーとやらをやるらしい。

 少し早めに到着した俺は、同じくもう到着していたエリックとジュリアンに会いにいくことにした。



 控え室の扉を叩き、ゆっくりと開ける。そこには、白いタキシードを着たジュリアンがいた。

 ジュリアンはいつもとは違い、アッシュグリーンの髪をかっこよく撫で付けている。

 その姿は生気に満ちてキラキラしているはずなのに、落ち着きなくソワソワしている所為で台無しだった。

 そんなジュリアンは俺とエリックを見て、呆然と尋ねる。


「これって夢か?」


その言葉に思わずエリックと顔を見合わせる。そんなわけがないのに何を言っているのだろうか。

 ジュリアンは一人不安そうに目を揺らしている。これがマリッジブルーというやつだろうか。覚えたての言葉を教えたくてたまらないリュシーが得意げに語っていた。


「現実だよ!ボンクラに戻っちゃったの?」


エリックが言葉を選ばずに返事をする。

 これほど遠慮なく話せるようになっている二人に感慨深いものを感じた。


「だって考えてもみろ!あんなに美しく聡明なレーネ様が俺のようなボンクラと結婚してくださるんだぞ!?夢と言われる方が納得出来るだろ!」


「今更!?」


エリックの言葉に頷く。

 教育の名の下に、卒業してから一緒に暮らしている癖に何を言っているのだろう。それに、レーネからジュリアンはいい婿だという話も聞いている。どうしても比較対象が馬鹿王子になってしまうから、ハードルが低すぎるかもしれないけれど、レーネは満足しているのだからそれでいいだろう。


「ボンクラは返上したんじゃなかったのか?」


「それは……まあ。そうだけど。でも、やっぱり俺はレーネ様にふさわしくないんじゃないか!?」


「レーネがお前を選んだんだから諦めろ」


そうだ。そもそものところ、ジュリアンに拒否権などなくて、レーネが他でもないジュリアンがいいと言ったのだ。だから、ジュリアンがグダグダ言おうが言うまいが、結果は変わらない。


「そうだよ。セレネ様が、ジュリアンを指名したんでしょ?だから、心配しなくて大丈夫だよ」


エリックはジュリアンを安心させるように笑って頷いた。エリックはいい奴だと頷いていると、扉が開いて誰かが入ってきた。


「ジュリー!兄様が来てやったぞ!」


その声を聞いたジュリアンはとても嫌そうな顔をした。そういえば、ジュリアンから兄弟の話を聞いたことはほとんどない。


「ニコラス兄様……、ミシェル兄様も来てくれたんですね!」


「弟の晴れ舞台だからもちろん来るよ」


聞き覚えのある声が聞こえた気がして、近づいてくる二人の兄を振り返る。片方はミーシャ先生だった。


「……ミーシャ先生?」


エリックが困惑したようにミーシャ先生を見ている。ミーシャ先生はエリックに笑いかけた。


「エリック君も来てたんだね。弟のためにありがとう」


ミーシャ先生はエリックに近づいて、親しげに腰を抱いた。それを見て全員がポカンとしている。もちろんエリックも。


「ミーシャ先生はエリックの兄弟なのか?」


「あれ?言ってなかったっけ。僕はジュリの2番目の兄だよ」


「……え!?」


エリックは今にも倒れそうなほど顔を青く染めている。知らずのうちに、友達の兄と恋仲になんて、驚きどころの話ではない。


「あのプレゼントのミーシャ先生って……」


「あのボールペンってもしかしてジュリと選んだのか。だから、僕の知り合いの店の商品だったんだね」


少しずつ言葉を発するも、ミーシャ先生の言葉に空気は固まったままだ。

 そんな中、一番早く立ち直ったミーシャ先生の兄から呑気な声が聞こえた。


「ミーシャが言ってた伴侶にしたい相手ってコイツか!こういうのがタイプなんだな。あまりにもその手の話を聞かないから、てっきり人妻が好きとかそういう特殊な性癖持ってんのかと思ってたわー。なるほど、歳下なあ」


ミーシャ先生の兄は愉快そうに頷いている。その姿はまるでおもちゃを見つけた子供のようだった。


「ニコ、ダメだよ。エリック君に絡むの禁止!そんなことしたら、僕一生家に帰らないから」


「はあ!?なんでだよ!ミーシャの伴侶ってことは俺の義弟ってことだろ!」


「違うよ!エリック君は僕のだから、誰のものでもないの!」


ミーシャ先生は兄の前だからだろうか、少し子供っぽいように見える。そんなミーシャ先生をエリックは少し頬を赤らめてポカンと見ていた。一方ジュリアンはまだ目を白黒させていた。けれど、どうにか口を開いた。


「ミシェル兄様とエリックの話は後で詳しく聞くとして、とりあえず、ニコラス兄様は初めて会った相手がいるのに下世話な話をしすぎです!エリックはミシェル兄様の恋人以前に僕の友達です!変な話をしないでください!」


どうやらミーシャ先生に加勢することにしたらしい。

 確かに、ミーシャ先生の兄は空気が読めないというか、無遠慮そうな印象を受けた。シアやシャルルとはまた違った意味で人の話を聞かなさそうな感じに。


「お前ら酷くないか?俺別に変なこと言ってないだろ?なあ、エリック」


初対面の人間にいきなりそれも呼び捨てで声をかけられてエリックの肩が跳ねる。それに気づいたミーシャ先生は笑顔で自分の兄を睨んでいる。


「あー、もう!今後一切ニコにエリック君は会わせない。絶対ジュリの代わりにおもちゃにするでしょ!」


「はあ?そんなことしねえよ!ただちょーっと可愛がるだけで!」


「今、初めてニコのこと嫌だと思った」


ミーシャ先生は初めて聞くくらい感情の抜けた声で呟いた。

 俺はそれに本能的な恐怖を覚えた。それは俺だけではなかったようで、ジュリアンが困った顔で間に割って入った。


「ミシェル兄様もニコラス兄様も笑ってください。僕の結婚式なんですから!」


その言葉にミーシャ先生とその兄は顔を見合わせて数秒睨み合い笑った。部屋には温かな雰囲気が戻ってきていた。

 マリッジブルーだったジュリアンもそれどころではなかったからか、キリッとした顔になっている。

 俺はそれを確認してからレーネの方を覗きに行くことにした。






 レーネの控え室は静かで澄んでいた。身が引き締まるようなこの空気は、レーネから出ているようだった。


「レーネ」


「あら、フェイス。隣がやけにうるさかったですけれど、何かあったのですか?」


レーネは柔らかく笑って首を傾げる。

 その姿には不安は感じられず、ジュリアンへの信頼や愛、未来への期待なんかが詰め込まれた様子がみてとれて、幸せな花嫁という言葉がピッタリ当てはまっていた。


「エリックの恋人がジュリアンの兄だった」


「あら、そうですの。じゃあ、エリック様も親戚ということになるのかしら」


レーネの反応はあっさりしたものだった。多少は驚いてもよさそうなものだけれど、そんな様子もない。けれど、どうでもいいと思っているようにも見えなかった。


「後、ジュリアンがマリッジブルー?になってた」


「ジュリが。ふふ、そういうところは変わりませんわね。最近は頼もしくなってきたと思ったのですけれど」


言葉とは裏腹にレーネはどこか嬉しそうに笑っている。


「頼もしいジュリアンはジュリアンなのか?」


「ふふ。わたくしの為に努力してくれているのです。けれど、根が可愛いのは変わりませんわね」


可愛い、だろうか。

 その感覚は俺にはさっぱりだけれど、レーネが幸せそうだからきっとそれでいいのだろう。

 それに、二人の仲睦まじい姿を見られるのは嬉しい。きっと互いに笑っていられる形が二人の正しい在り方だ。大切な人の笑顔を望むのは誰だって同じだから。


「そういえば、お兄様は大人しくしていますか?」


レーネが思い出したように尋ねる。従兄妹の結婚式だというのにシアは家で留守番している。王弟が参加するには何かと面倒が多いらしい。

 表に出てこない王弟が公爵家の結婚式に参加したら騒ぎが起こるからと、話し合ってシアは参加しないことになったのだった。


「ああ。不服そうだったけどな」


俺の答えにレーネは苦笑している。そこで思い出した俺はレーネに手紙を渡した。


「これは……?」


「シアから預かった。出られない代わりだとさ。帰ってから読めよ」


レーネは受け取った手紙を凝視している。

 そうだろうなと思う。俺も渡された時は二度見した。シアが結婚を直接的に祝おうと動くなんて、天変地異の前触れではないかと言いたくなるくらい珍しい。

 正直、次に会った時に軽くおめでとうと言うか、祝いの品を送りつけるくらいだろうと思っていた。けれど、想像とは違い、ここには手紙というシアの心が詰まったものが存在している。



 レーネは中を読んだわけでもないのに、目を潤ませていた。


「酷いと思いませんか」


「そうだな」


レーネの言葉に大きく頷く。

 間接的にではあるが、レーネのことを大切に思っていると示すものは本人が来るより心に響くのだろう。

 レーネは何度も瞬きをして、涙を飛ばそうとしている。それを気の毒に思いながら、俺は無情にも言葉を続ける。


「レーネ、幸せになれよ」


きっと泣かせるのだろうと思った。シアの手紙の後に、らしくない俺の言葉なんて間が悪いと思う。

 けれど、レーネはギュッと目に力を入れて、涙を溢さず、凛と笑った。


「ええ、きっと」


短い返事だ。けれど、それは震えていて、きっとそれ以上の言葉は紡げなかったのだろう。



 俺はらしくなく笑っていた。美しい花嫁をこれほど感激させられるなんて、とても愉快だ。そんな俺をみてレーネは目を丸くしていたけれど、それを無視して俺は控え室を後にした。

 とても大きな満足感を抱きながら外に出て、空を見上げる。

 そこには雲一つない青空が広がっていた。青空すらレーネを祝福している。とてもいい日だった。











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