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可笑しな男と絆された俺  作者: 雨夜律
第五部 まともな人間は存在するのだろうか
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1.変な上官











 今日から騎士団に入ることになった。



 俺は今上官だとかいう人間のありがたいお言葉とやらを聞き流していた。その所為かどうかはわからないがやたらと名指しされる。

 なんでも俺は最下位入団だそうだ。筆記が壊滅的だったとかで。

 俺自身も自覚はある。むしろよく受かったなと思う。俺は解答欄を一つずつずらして書いてしまっていた。受かると思う方がどうかしている。選択式だったからどうにか助かったけれど。いや、もしかしたらシアの手が入っているのかもしれない。それが出来るなら学校に通う意味なんてなかったのではないだろうか。

 まあ、騎士団に入れたからなんでもいいのだけれど。



 そんな俺だからか、やたらと当てこすられる。

 正直腹立たしいことこの上ないけれど、俺がいちゃもんをつけられるたびに、学校で一緒だった奴らが怯えることの方が面白くて、気を紛らわせることが出来ていた。

 別に誰彼構わず殴ったりはしないのに、馬鹿王子を殴ったことに尾鰭がついてとんでもない噂になっていたようで、同じクラスになったことのない奴は俺をヤバい奴だと思っているようだった。事実無根もいいところだ。


「おい!聞いているのか!」


近くで叫ばれて、眉を寄せて顔を上げた。

 上官が隣に立っている。


「はい」


とりあえず、適当に返事をすると上官はプルプルと震え出した。倒れそうなくらい顔も赤い。


「貴っ様〜〜〜っ!」


上官は手を振り上げた。学校の同級生を中心に悲鳴が上がる。



 さて、受けるべきか、避けるべきか。



 考えて、面倒だから受けることに決めた。受けるところさえ気をつければ大して血も出ないし、誰にも怒られないだろう。俺は学校での三年間で怪我をしてはいけないと学んだ。

 受ける気満々で角度を測っていると、上官の上官が現れて真っ青な顔で上官を止めている。

 化け物を暴走させるなとか、新兵だからって甘く見るなとか、お前なんか瞬殺だとか、物騒なことばかり漏れ聞こえて溜息を吐く。

 一度殴られたくらいで暴れたり、人を殺したりするほど野蛮じゃない。シアと出会った頃ならいざ知らず、今は手加減も出来るようになった。

 内心で眉を寄せていると、上官は上官の上官とどこかに行ってしまった。部屋がざわめきに包まれる。



 俺は早く帰りたいなと思いながら、虚空を見つめる。晩御飯はなんだろうか。シアの作るご飯は学校にいた時より美味しい。

 ガッツリしたものが食べたいと思っていると、さっきとは違う人間が入ってきた。さっきの上官は筋肉という感じだったけれど、目の前の人間は細身だった。

 それを見た周りの奴らは馬鹿にするような目で話しているけれど、あれはどう考えても強い人間だ。シアに近いようなものを感じるので、魔術師なのかもしれない。


「はーい。さっきの人が何かやらかしたらしくて私にお鉢が回ってきましたー」


新兵たちがぶつくさ言っているのに頓着せずに男は話し始めた。その姿は全くやる気がなさそうだった。


「正直、こんなことやりたくないんですけどー、頼まれたのでー、はあ。今から上官です」


立ち姿すらだらしなく見える上官は、けれど、隙がない。勝てる勝てないは置いておいてあまり戦いたくないタイプだ。


「何か言いたいことはありますかー」


上官の問にざわめきが大きくなる。そして、一番前の奴が手を挙げた。


「あなたみたいな弱そうな人が上官なんて納得出来ません!」


「あーそうですか。じゃあ、帰っていいですよー」


「は……?」


上官は親切に後ろの扉を指しながら、おかえりはあちらですと勧める。


「いや、ちょっと待ってください!可笑しいでしょ!?」


「どこがですかー?だって、従う気がないのでしょう?別に兵士が足りていないというわけじゃないですしー、やめてもらって結構ですよー」


どうぞ、と上官がもう一度扉を指差す。新兵たちは顔を見合わせている。

 どうやら俺の上官になる人間は頭が可笑しいらしい。腕が立つ人間は可笑しい奴しかいないのだろうか。

 ぼんやりとしていると誰かが、やってられるかと叫んで出ていく。その後ろに続く人間が数名。それを見た上官は溜息を吐いて口を開いた。


「他の人は残る感じですかー?正直、フェイス君だけ残ってくれれば、あとはどうでもいいんですけどー。元々私はフェイス君だけを見る約束でしたしね」


そんなぶっちゃけていいものなのだろうか。案の定俺のことを知らない残った人間は俺を見て訝しげにしている。ちなみに、同じ学校だった奴は全員残っている。肝が据わっているらしい。


「では、改めてー。たった今から上官になるシャルルです。適当によろしくお願いしますー」


シャルルはジロジロと残った人間のことを見ている。そして、首を傾げた。


「あなたたちちょっと体力なさすぎません?」


立ち姿だけで何がわかるのだろう。周りを見てみたけれど、全くわからない。


「ちょっと立っていただけで重心がブレるのはどうかと思いますよー。じゃあ、あなたたちちょっと外周走ってきなさい。そうですねー。まだ、昼間ですし10周くらいは走れますかね?」


外周って大体5㎞ぐらいだと、エリックがいっていなかっただろうか。それくらい広いところだけど、会えたらよろしくねと無事に文官に受かったエリックは言っていた。

 それを10周は中々厳しいのではないだろうか。周りに目をやると大体がそんなに走れなさそうな細さをしている。


「走り終わらなかったら、明日に持ち越しですー。ズルをしたらペナルティがありますから、頑張ってくださいねー」


門まで見送ってあげます、とシャルルは歩き出した。戸惑っていた周りもそれに続く。そして、いってらっしゃーいという力の抜ける声で走り始めた。


「あ、ちょっと。フェイス君だけ少し待ってください」


呼ばれて振り返る。手招きをされて目の前で歩くとシャルルが口を開いた。


「さて。改めて、あなたの相手をすることになったシャルルです。一般の兵士に任せるといくら命があっても足りないとのことで私が召喚されたました。まったく迷惑な話です。ソフィアの願いでさえなければ突っぱねられたのに……はあ」


「シャルルはシアと知り合いなのか」


シアのことをソフィアと呼ぶ人間に初めて会って困惑してしまう。


「上官を呼び捨てとは……肝が据わっていますねー」


丁寧に話すべきなのだろうか。考えていると、シャルルが首を振った。


「いえ、そのままでいいですよ。ソフィアにもセレネ嬢にも言葉遣いは直さない方針だと聞いていますし。私もここにきてまで丁寧な言葉で話されるなんてごめんですからー」


シャルルはもっと怠惰な人間かと思っていたけれど、そうではないらしい。口数が多くて驚いている。


「もう最近は最悪なんですよー。どこか遠くで長閑に暮らす予定が、どこかの馬鹿の所為で出来なくなったしー、やりたくないことを一生やらなければいけないことが確定して……。一応、あなたの相手は息抜き兼ねてるので、面倒は起こさないでくださいねー。ああ、早く隠居したい」


シャルルは項垂れてしまった。これはどうしたらいいのだろう。走りに行っていいのだろうか。


「あなた、存外大人しいですね。……これは愚痴を聞いてもらえという天啓では!」


ガバッと顔を上げたシャルルは目を輝かせている。なのに、まるで吸い込まれそうな程黒い瞳は死んでいた。

 そんなに仕事が嫌なのだろうか。


「私はあなたの上官ですけど、そんなものあってないようなものです。あなたは今から私の友達です。よろしくお願いしますねー、フェイス君!」


俺はほとんど何も話していないのに、勝手に話が進んでいく。シャルルは初めて会った時のシアより酷い。


「よく考えればソフィアの秘蔵っ子って、何も秘密にする必要がないってことですもんねー。いやあ、いい出会いですねー。ソフィアもたまにはいいことします」


シャルルは俺の反応を見ずに話し続け、頷いている。


「走りに行っていいか」


「そうでしたねー。どうぞ!近日中にご飯でも食べに行きましょう?」


その言葉に返事をせずに踵を返した。

 そもそもご飯はシアが作るので、シアの許可がいる。俺ではなくシアに言ってほしい。

 げんなりしながら俺は走り始めた。






 結局走り終えられたのは俺だけだったようだ。

 シャルル曰く、元々俺のメニューだったものだから仕方がないらしい。

 出来ないとわかっているのに組み替えてやらないことにシャルルの非情さを感じた。新兵たちが少し可哀想に思えたのだった。











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