1.理解し難いパーティやらパートナーやら
学校に入って、もう三年目だ。俺は相変わらず、上から二つ目のクラスで、エリックとジュリアン、そして、レーネは一番上のクラスだった。
レーネの学力は元々一番上のクラスになるべきものだったけれど、馬鹿王子をたてるために遠慮していたらしい。ようやく何も考えずにテストを受けられると喜んでいた。
俺のクラスはレーネ以外入れ替わらなかった。だから、みんな俺に慣れきっている。
特に女たちは淑女講習で四苦八苦していた俺を見ていたからか、気軽に声をかけてくる。レーネがいなくなってからはそれが顕著だった。
これがレーネのいう虫なのかもしれない。けれど、これからの一年を思うと振り払うことも出来ない。仏頂面で返事をする日々だ。
そんなある日、クラスの小さい女から声をかけられた。
「フェイス様はパーティのパートナーはお決まりですか?」
「パーティ?」
同じクラスなのはわかるけれど、名前のわからないその女は俺の問に嬉々と説明し始めた。
なんでも、最終学年は集大成としてパーティを開くのだとか。意味がわからない。
適当に聞き流していると、またパートナーがどうのと言われた。
「レーネだろ」
ペアとかそういうのは基本的にレーネと組んでいた。
それが面倒がなくていいというのはシアとレーネ、どちらもの見解だった。
「あら、フェイス様はご存知ないのですか?セレネ様には婚約者が出来たんですよ」
「へえ」
それがどうかしたのだろうか。貴族のことはイマイチよくわからない。
「ですから、セレネ様以外にパートナーを選ばなければいけないんです!」
そんなことを俺に力いっぱい言われても困る。
俺に決定権はない。
「わかった。レーネに聞いとく」
「フェイス様!」
叱るように言われて、ムッとする。これは舐められているのだろうか。
俺は苛立ちを逃すように息を吐き出した。ああ、殴りたい。
そんな俺にビビったのか、その女は、私がパートナーになってもいいですからねと言い置いて足早に去っていった。わけがわからない。
そもそも、気持ち悪い様付けを我慢しているのだから、苛立つことを言わないでほしい。レーネから呼び捨てを許すとシアが拗ねると言われて渋々受け入れているけれど、様なんて呼ばれるたびに鳥肌が立ちそうなのだ。ああ、煩わしい。
苛立ちを解消出来ぬまま、俺は温室へ向かった。
◆◆◆
三年になってから、エリックとジュリアンとレーネと俺の四人で昼食を取るようになっていた。曰く、俺を野放しに出来ないかららしい。酷い話だ。
流石に三年目なのだから一人でも問題はない。けれど、多分きっと優しさからの言葉だろうから大人しく受け入れている。
そんな昼食中、俺はさっき絡まれた話をすることにした。
「パーティがあるのか?」
「あら、よく知っていましたわね」
レーネは驚いたように瞬いている。
「さっきクラスの女に言われた。パートナーがどうのって」
どうやらエリックは初耳だったらしく、困ったようにジュリアンを見ていた。
「忘れていましたわ。フェイスのパートナーを用意しなければいけませんでしたわ」
「レーネじゃないのか?」
首を傾げると、レーネはドヤ顔で笑った。
「わたくし、ジュリと婚約しましたから、あなたのパートナーは出来ませんの」
一瞬意味が理解出来なかった。ジュリって誰だ。
チラリとジュリアンを見ると、真っ赤になって目を泳がせている。なるほど、ジュリアンの恋は実ったらしい。
エリックもそれを知らなかったのか、目を丸くして二人を見ていた。
「よかったな……?」
疑問系なのは仕方がないと思う。
ジュリアンがどうのとか、レーネがどうのとかの前に、まず、恋が実ることがあるということが信じられない。
「ふふ。ありがとうございます。ジュリと出会えたのはフェイスのおかげですわ」
笑っているレーネに首を傾げざるを得ない。何故こんなにも嬉しそうなのだろうか。これは既定路線じゃなかったのか。
「セレネ様、それよりフェイスのパートナーの話を」
「あら、そうでしたわね。どうしましょうか」
ジュリアンがやんわりと軌道修正をはかった。
ジュリアンがそんなにスマートにレーネに声をかけられるのも、レーネがすんなり従うのも驚きしかない。
思わず、ポカンとしてしまう。
「フェイス、聞いていますか」
レーネの鋭い声で、現実に戻ってきた俺は慌てて口を開いた。
「声をかけてきた女じゃダメなのか?」
パーティがどんなものかは知らないがわざわざ選ぶのも面倒な気がした。
「いいわけないでしょう」
バッサリと言われて苦い顔になる。時間がかかりそうな気配がして嫌気がさした。
「それって長い黒髪を赤いリボンで結んでいる方でしょう?」
言われて思い出そうと考える。
けれど、興味がなくてちゃんと見ていないのでぼんやりとしか思い出せない。
「……なんか、こう、背の低いやつ」
そんな俺にレーネは溜息を吐く。ジュリアンとエリックも呆れた顔をしていた。
覚えていないのはそんなに問題あるだろうか。
「その方はあまりいい噂を聞きませんわ。なにより変な人をパートナーにしたらあのお方が何をするかわかりませんし」
レーネは困ったように頬に手を当てている。
「シアじゃダメなのか?」
シアが文句を言うならシアにやらせればいい。よくわからないけれど。
「はあ!?いいわけないだろ!お前馬鹿なのか!」
ジュリアンはいつものように怒っている。レーネが隣にいるのにいいのだろうか。
そんなことを思いながらエリックを見ると、エリックに苦笑を返された。
「そうです!あのお方にさせたらいいですわ!」
レーネがいきなり立ち上がってそう叫んだ。淑女はどこにいったのだろう。
昼食の時のレーネは気を許しすぎのように思う。いや、エリック以外は身内になるから問題ないのか。
「フェイス、家に帰りなさい。あのお方には私から連絡を入れておきますから、エスコートとダンスが出来るようになるまで学校には来なくていいですわ。遅れた分の勉強は私たちで見て差し上げますから」
レーネの圧に、俺は理解する前に頷いていた。
とりあえず、家に帰ればシアがいいようにしてくれるだろう。
現実逃避気味にそんなことを思っていると今度はエリックに標的が移っていた。
「後は、エリック様のパートナーですわね。どなたか誘えそうな方はいますか?」
問われたエリックは大きく首を振っている。誘う人がいないのは俺より酷いのではないだろうか。
「相手がいないようでしたら、私が紹介することも出来ますけれど」
「平民の僕とパートナーだなんてセレネ様のお知り合いに失礼なのでは……?」
エリックはおずおずとそんなことを言う。それは、そんなに問題があるのだろうか。貴族の考え方は理解し難い。そんなことを考えているといつの間にか話は終わっていた。
俺はこの後家に帰れるのだと少しワクワクしながら、午後の授業を受けきった。




